ハミルトニアンの選び方で固体を考える 第5部 第3章 §5.3.2 ★★★ ほかのスピンを平均で置き換えると、1個のスピンが分子場の中で Brillouin 関数に従う自己無撞着方程式になる。そこから Curie 温度 kBTc=z∣J∣S(S+1)/3 と Curie–Weiss の法則が出る
平均場の Hamiltonian
Si=⟨Si⟩+δSi と平均とそこからのずれに分けると、
Si⋅Sj=⟨Si⟩⋅Sj+Si⋅⟨Sj⟩−⟨Si⟩⋅⟨Sj⟩+δSi⋅δSj
と恒等的に書ける。最後の項(ずれどうしの積=隣どうしの相関)を捨てるのが平均場近似である。強磁性で z 方向に一様な磁化があると仮定し、⟨Siz⟩=−σ(σ≥0)と置く。磁場 B>0 のもとでは Zeeman の項がスピンを −z に向けるので、スピンは −z を向き、磁気モーメントは +z を向く。磁化は M=ngμBσ(n はスピンの数密度)である。格子点 i に注目すると、それに関わる項は
Hi=(gμBB+j∈i の隣∑J⟨Sjz⟩)Siz=(gμBB+z∣J∣σ)Siz≡heffSiz(5.3.4)
になる(J⟨Sjz⟩=(−∣J∣)(−σ))。隣のスピンは、外の磁場と同じ向きに z∣J∣σ/(gμB) の大きさの磁場を足したのと同じ働きをする。これが Weiss の分子場である。
1個のスピンと Brillouin 関数
Hi=heffSz の固有値は heffm(m=−S,…,S)なので、
⟨−Sz⟩=∑me−βheffm∑m(−m)e−βheffm=SBS(βSheff)
となる。ここで等比級数の和 ∑m=−SSexm/S=sinh(2S2S+1x)/sinh(2Sx) の対数を x で微分して、
BS(x)=2S2S+1coth(2S2S+1x)−2S1coth(2Sx)(5.3.5)
を Brillouin 関数と呼ぶ。S=1/2 では B1/2(x)=tanhx で、解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第3部第7章の Ising の式に戻る。S→∞ では BS(x)→cothx−1/x(Langevin 関数)で、長さの決まった古典のベクトルの式になる。小さい x では
BS(x)=3SS+1x−90S3(S+1)(S2+(S+1)2)x3+O(x5)(5.3.6)
である。1次の係数は、高温で 2S+1 個の準位が等しく占められたときの ⟨(Sz)2⟩=S(S+1)/3 を S2 で割ったものに等しく、1個のスピンの Curie の法則を与える。
自己無撞着の条件は、1体の問題で計算した ⟨−Sz⟩ が最初に仮定した σ に一致することである:
σ=SBS(βS(gμBB+z∣J∣σ)).(5.3.7)
Curie 温度と Curie–Weiss の法則
B=0 で σ>0 の解があるかを調べる。σ が小さいとき式 (5.3.6) の1次で σ=3kBTS(S+1)z∣J∣σ となり、σ=0 の解が現れる境目は
kBTc=3z∣J∣S(S+1)(5.3.8)
である。T<Tc では右辺の傾きが1を超えるので、σ=0 のほかに σ>0 の解ができ、自由エネルギーが低いのはこちらである(解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第3部第7章の Landau 展開と同じ議論)。
T>Tc で弱い磁場をかけると、1次の式は σ=3kBTS(S+1)(gμBB+z∣J∣σ) で、σ について解いてσ=3kB(T−Tc)S(S+1)gμBB となる。磁化 M=ngμBσ と χm=μ0M/B から
χm=T−TcC,C=3kBμ0ng2μB2S(S+1)(5.3.9)
を得る。これが Curie–Weiss の法則で、相互作用のないスピンの Curie の法則 C/T の温度の原点が Tc だけずれた形である。1/χm を温度に対して描くと傾き 1/C の直線になり、C から g2S(S+1)、横軸の切片から z∣J∣S(S+1) が読める(5.3.5節)。
磁化の温度変化
B=0 で約した磁化 y=σ/S と t=T/Tc を使うと、式 (5.3.8) から βSz∣J∣σ=3Sy/((S+1)t) なので、式 (5.3.7) は
y=BS(S+13Sty)(5.3.10)
になり、J も z も消えて S だけで決まる。Tc の近くでは式 (5.3.6) を3次まで使い、t→1 で
y2≈310S2+(S+1)2(S+1)2(1−TcT)(5.3.11)
を得る(S=1/2 で係数 3、S→∞ で 5/3)。磁化は (1−T/Tc)1/2 で立ち上がり、臨界指数 1/2 は S によらない。低温では heff≈z∣J∣S で、一番下の準位から1段上がる確率 e−βz∣J∣S だけ磁化が減るので、
S−σ≈e−z∣J∣S/(kBT)=e−3Tc/((S+1)T)(5.3.12)
となる。平均場の磁化は低温で指数関数的に平らになる。この形は、5.3.4節で見るとおり実際の強磁性体とは合わない。

図 5.3.1 平均場の約した磁化 y=σ/S を T/Tc の関数として描いたもの(式 (5.3.10) の数値解)。太い黒線が S=1/2、灰色の線が S=7/2、細い線が古典のスピン(S→∞)。どれも平均場の近似なので実線で描いた。S が大きいほど低温で平らな区間が短く、古典のスピンでは T→0 で傾きが有限に残る。
例題 5.3.2 平均場の磁化と交換の大きさの目安 ★★
オリジナル
- (1) 式 (5.3.10) を T=Tc/2 で数値的に解き、S=1/2、S=7/2、S→∞ の y を求めよ。
- (2) 式 (5.3.11) の係数を、S=1/2 と S→∞ について式 (5.3.6) から確かめよ。
- (3) 体心立方格子(z=8)で S=1 のスピンが Tc=1000K で強磁性になるとき、平均場で ∣J∣ を meV で見積もれ。
解答
(1) S=1/2 では y=tanh(2y) を解いて y=0.957、S=7/2 では y=B7/2(14y/9) を解いて y=0.870、S→∞ では y=coth(6y)−1/(6y) を解いて y=0.789 である。最後の値は解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第3部第7章の総合問題の古典の回転子と同じで、S→∞ の Brillouin 関数が古典のベクトルの式に戻ることの数値の確かめになっている。
(2) t→1 で x=3Sy/(S+1) とし、式 (5.3.6) を入れると y=y/t−c3(S+13S)3y3(c3 は3次の係数の大きさ)で、y2=(1/t−1)/(c3(3S/(S+1))3)。S=1/2 では c3=1/3、3S/(S+1)=1 なので y2=3(1−t)。S→∞ では c3=2S2/(90S3)⋅S=1/45(S2+(S+1)2≈2S2)、3S/(S+1)→3 なので y2=(1−t)/(27/45)=35(1−t)。どちらも式 (5.3.11) と一致する。
(3) 式 (5.3.8) から ∣J∣=3kBTc/(zS(S+1))=3×86.17meV/16=16.2meV。平均場は揺らぎを捨てて Tc を高めに出すので(5.3.5節)、同じ Tc を説明する本当の ∣J∣ はこれより大きい。
ほかの巻では
- 解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第3部第7章:Ising 模型の Weiss の式を自由エネルギーの最小から出した所が読める。記号の対応:向こうの H=−J∑sisj の J はこの巻の −J
- 近似の数理 第13章:Curie–Weiss 模型で平均場が誤差 ln(N+1)/(βN) で厳密になる証明と、Peierls の議論が読める
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com