tecktom.com

平均場の磁性:Curie–Weiss・Kac 極限・Peierls の議論・Mermin–Wagner

2026年10月15日11分で読めますAI生成教科書『虎の巻』第13章 固体編:多体と秩序(熱力学極限から BCS まで)
目次
  1. 到達距離が無限大なら平均場は厳密
  2. Kac 極限と極限の順序
  3. 短距離の相互作用:Peierls の議論と Mermin–Wagner の定理
  4. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

近似の数理 第13章 §13.3 ★★★ 平均場は到達距離無限大で厳密、短距離では次元によって正しくも誤りにもなる。B 型の近似が「どの極限か」で結論を変える例

到達距離が無限大なら平均場は厳密

Weiss の平均場(ハミルトニアンの選び方で固体を考える 第5部第3章)は、各スピンが周りのスピンの平均だけを感じるとする近似である。これが厳密になる模型がある。NN 個の Ising スピン σi=±1\sigma_i=\pm1 が、互いに等しい強さ J/NJ/N で全員と相互作用するCurie–Weiss 模型

HN(σ)=−J2N(∑i=1Nσi)2,J>0(13.4)H_N(\sigma)=-\frac{J}{2N}\Bigl(\sum_{i=1}^N\sigma_i\Bigr)^2,\qquad J>0\tag{13.4}

を考える。強さを 1/N1/N にしたのは、エネルギーを NN に比例させるためで、第6章の平均場スケーリング(相互作用 ×1/N\times1/N)と同じ形である。自由エネルギーを fN=−1βNln⁡∑σe−βHN(σ)f_N=-\frac{1}{\beta N}\ln\sum_\sigma\mathrm{e}^{-\beta H_N(\sigma)}、平均場の自由エネルギーを

fMF=min⁡m∈[−1,1]φ(m),φ(m)=J2m2−1βln⁡(2cosh⁡βJm)(13.5)f_{\mathrm{MF}}=\min_{m\in[-1,1]}\varphi(m),\qquad \varphi(m)=\frac{J}{2}m^2-\frac1\beta\ln\bigl(2\cosh\beta Jm\bigr)\tag{13.5}

とする。φ′(m)=0\varphi'(m)=0 は自己無撞着方程式 m=tanh⁡(βJm)m=\tanh(\beta Jm) で、kBT<Jk_{\mathrm B} T<J で m≠0m\ne0 の解を持つ。

定理 13.4(Curie–Weiss 模型では平均場が厳密 ★★★)

すべての NN と β>0\beta>0 で

−ln⁡(N+1)βN ≤ fN−fMF ≤ 0.(13.6)-\frac{\ln(N+1)}{\beta N}\ \le\ f_N-f_{\mathrm{MF}}\ \le\ 0 .\tag{13.6}

とくに N→∞N\to\infty で fN→fMFf_N\to f_{\mathrm{MF}}。

証明

M=∑iσiM=\sum_i\sigma_i とおく。

上からの押さえ:任意の実数 mm について (M/N−m)2≥0(M/N-m)^2\ge0 から M22N≥mM−Nm22\frac{M^2}{2N}\ge mM-\frac{N m^2}{2}。これを分配関数に入れると

ZN=∑σeβJM2/(2N) ≥ e−βJNm2/2∑σeβJmM=e−βJNm2/2(2cosh⁡βJm)N,Z_N=\sum_\sigma\mathrm{e}^{\beta JM^2/(2N)}\ \ge\ \mathrm{e}^{-\beta JNm^2/2}\sum_\sigma\mathrm{e}^{\beta JmM}=\mathrm{e}^{-\beta JNm^2/2}\bigl(2\cosh\beta Jm\bigr)^N,

すなわち fN≤φ(m)f_N\le\varphi(m)。mm について最小をとれば fN≤fMFf_N\le f_{\mathrm{MF}}。

下からの押さえ:MM の値は N+1N+1 通りで、M=NμM=N\mu となるスピン配置の数は二項係数で、s(μ)=−1+μ2ln⁡1+μ2−1−μ2ln⁡1−μ2s(\mu)=-\frac{1+\mu}2\ln\frac{1+\mu}2-\frac{1-\mu}2\ln\frac{1-\mu}2 を使って ≤eNs(μ)\le\mathrm{e}^{Ns(\mu)} と押さえられる。したがってZN≤(N+1)exp⁡(Nmax⁡μ[βJμ2/2+s(μ)])Z_N\le(N+1)\exp\bigl(N\max_\mu[\beta J\mu^2/2+s(\mu)]\bigr)、すなわちfN≥min⁡μ[−J2μ2−s(μ)β]−ln⁡(N+1)βNf_N\ge\min_\mu\bigl[-\frac J2\mu^2-\frac{s(\mu)}{\beta}\bigr]-\frac{\ln(N+1)}{\beta N}。最後に右辺の最小値が fMFf_{\mathrm{MF}} に等しいことを示す。1個のスピンの自由エネルギーの Legendre 変換の関係−1βln⁡(2cosh⁡βh)=min⁡μ[−hμ−s(μ)/β]-\frac1\beta\ln(2\cosh\beta h)=\min_\mu[-h\mu-s(\mu)/\beta] を h=Jmh=Jm で使うとmin⁡mφ(m)=min⁡μmin⁡m[J2m2−Jmμ]−s(μ)β=min⁡μ[−J2μ2−s(μ)β]\min_m\varphi(m)=\min_\mu\min_m\bigl[\frac J2m^2-Jm\mu\bigr]-\frac{s(\mu)}\beta=\min_\mu\bigl[-\frac J2\mu^2-\frac{s(\mu)}\beta\bigr](内側の最小は m=μm=\mu でとる)。

上からの押さえは「積状態を試行関数にとる変分原理」で、A 型(射影)の上界の構造をしている。下からの押さえは「状態の数は高々 N+1N+1 通りの MM の値に束ねられる」ことを使っていて、M2/NM^2/N という全員との相互作用の形が欠かせない。短距離の相互作用では MM だけでエネルギーが決まらないので、この証明は通らない。

図

図 13.2 Curie–Weiss 模型の磁化。実線は平均場(N→∞N\to\infty の極限)、点線は有限の NN での厳密な ⟨∣M∣⟩/N\langle \lvert M\rvert \rangle /N。有限の NN では TcT_{\mathrm c} の上でも ∣M∣/N∼N−1/2\lvert M\rvert /N\sim N^{-1/2} の揺らぎが残り、NN を増やすと実線に近づく。

Kac 極限と極限の順序

現実の磁性体の相互作用は短距離である。Curie–Weiss 模型と短距離の模型を1つの族でつなぐのが Kac の模型で、距離 rr の2つのスピンの相互作用をγdv(γr)\gamma^dv(\gamma r) とおく(dd は次元、vv は可積分な関数)。γ\gamma が小さいほど相互作用は遠くまで届き、1つあたりの強さは弱い。J. L. Lebowitz と O. Penrose は、まず熱力学極限をとってから γ→0\gamma\to0 とすると、自由エネルギーが平均場の自由エネルギーの凸包(Maxwell の作図をしたもの)に収束することを証明した(Lebowitz, Penrose (1966), J. Math. Phys. 7, 98)。極限の順序が大事で、γ→0\gamma\to0 を先にとれば Curie–Weiss 模型になり、凸包はとられない。平均場の小さいパラメータは「1つのスピンが感じる相手の数の逆数」1/z1/z であり、これを 00 に送る極限で平均場は正しい。

短距離の相互作用:Peierls の議論と Mermin–Wagner の定理

到達距離が有限のまま固定すると、平均場の結論は次元によって正しくも誤りにもなる。1次元の Ising 模型は転送行列で厳密に解けて、T>0T>0 で自発磁化を持たない。平均場は隣の数 z=2z=2 から kBTc=2Jk_{\mathrm B} T_{\mathrm c}=2J を予言するので、定性的に誤っている。

2次元の Ising 模型 H=−J∑⟨ij⟩σiσjH=-J\sum_{\langle ij\rangle}\sigma_i\sigma_j では、低温で自発磁化があることを R. Peierls が示した(Peierls (1936), Proc. Cambridge Philos. Soc. 32, 477。議論の不備は R. B. Griffiths と R. L. Dobrushin が独立に補った)。骨格は次のとおりである。境界のスピンを全部 +1+1 に固定し、原点のスピンが −1-1 になる確率を考える。そのとき原点は、++ と −- の境目の閉じた線(輪郭)に囲まれている。長さ ℓ\ell の輪郭を1つ消す(中のスピンを全部反転する)とエネルギーが 2Jℓ2J\ell 下がるので、ある決まった輪郭が現れる確率は e−2βJℓ\mathrm{e}^{-2\beta J\ell} 以下である。原点を囲む長さ ℓ\ell の輪郭の数は ℓ 3ℓ\ell\,3^{\ell} 以下と数えられるので

Pr⁡(σ0=−1) ≤ ∑ℓ=4,6,8,…ℓ 3ℓe−2βJℓ.(13.7)\Pr(\sigma_0=-1)\ \le\ \sum_{\ell=4,6,8,\dots}\ell\,3^{\ell}\mathrm{e}^{-2\beta J\ell}.\tag{13.7}

右辺が 1/21/2 より小さければ、原点は ++ に偏っており、境界を遠ざけてもこの偏りは消えない。これが自発磁化である。

定理 13.5(Mermin–Wagner ★★★)

1次元と2次元の格子の上で、スピンの回転のような連続的な対称性を持ち、相互作用が十分に短距離(∑rr2∣J(r)∣<∞\sum_{\bm{r}}r^2\lvert J(\bm{r})\rvert <\infty)の量子 Heisenberg 模型は、T>0T>0 で自発磁化(強磁性・反強磁性とも)を持たない(Mermin, Wagner (1966), Phys. Rev. Lett. 17, 1133)。

証明は Bogoliubov の不等式で磁化の大きさを上から押さえ、長波長のスピン波の寄与 ∫ddk/k2\int\mathrm{d}^dk/k^2 が d≤2d\le2 で発散することを使う。平均場は2次元の Heisenberg 模型にも Tc>0T_{\mathrm c}>0 を予言するので、この場合は定性的に誤る。連続な対称性では、向きをゆっくり変える励起(スピン波)のエネルギーがいくらでも小さく、低次元ではその揺らぎのために秩序が保たれない。Ising 模型のような離散的な対称性では、向きを変えるのに輪郭のエネルギー 2Jℓ2J\ell がかかるので、2次元でも秩序が残る。

3次元では、古典 Heisenberg 模型の長距離秩序が赤外評価の方法で証明されている(Fröhlich, Simon, Spencer (1976), Commun. Math. Phys. 50, 79)。量子の反強磁性体ではスピンの大きさなどに条件を付けて証明があり(Dyson, Lieb, Simon (1978), J. Stat. Phys. 18, 335)、3次元の量子 Heisenberg 強磁性体の自発磁化は、物理では疑われていないにもかかわらず証明されていない。一方、低温の自由エネルギーについては、3次元の量子 Heisenberg 強磁性体で、スピン波(Holstein–Primakoff 変換で得る自由なボソン)の近似が最初の非自明な寄与まで正しいことが、すべての S≥12S\ge\frac12 で誤差の上下からの評価つきで証明されている(Correggi, Giuliani, Seiringer (2015), Commun. Math. Phys. 339, 279)。これは自由エネルギーの低温の主要項を保証する結果で、自発磁化の存在は含まない。

例題 13.3 Peierls の議論で保証される温度 ★★

オリジナル正方格子の Ising 模型で、(13.7) の右辺を 1/21/2 にする温度 T∗T^* を求めたい。

  • (1) x=3e−2βJx=3\mathrm{e}^{-2\beta J} とおき、∑ℓ=4,6,…ℓxℓ=2x4(2−x2)(1−x2)2\sum_{\ell=4,6,\dots}\ell x^\ell=\dfrac{2x^4(2-x^2)}{(1-x^2)^2} を示せ。
  • (2) これが 1/21/2 になる xx は x=0.525x=0.525 である。kBT∗k_{\mathrm B} T^* を JJ の単位で求めよ。
  • (3) 厳密な転移温度(Onsager の解)kBTc=2J/ln⁡(1+2)k_{\mathrm B} T_{\mathrm c}=2J/\ln(1+\sqrt2) と平均場の kBTc=zJ=4Jk_{\mathrm B} T_{\mathrm c}=zJ=4J と比べ、3つの数の意味の違いを述べよ。
解答

(1) ℓ=2j\ell=2j(j≥2j\ge2)とおくと ∑j≥22j yj\sum_{j\ge2}2j\,y^j(y=x2y=x^2)。∑j≥1jyj=y/(1−y)2\sum_{j\ge1}jy^j=y/(1-y)^2 から j=1j=1 の項 yy を引いて2倍すると2[y(1−y)2−y]=2y2(2−y)(1−y)22\bigl[\frac{y}{(1-y)^2}-y\bigr]=\frac{2y^2(2-y)}{(1-y)^2}。y=x2y=x^2 を戻すと与式。

(2) 3e−2βJ=0.5253\mathrm{e}^{-2\beta J}=0.525 から 2βJ=ln⁡(3/0.525)=1.7432\beta J=\ln(3/0.525)=1.743、kBT∗=2J/1.743=1.15Jk_{\mathrm B} T^*=2J/1.743=1.15J。この温度より低ければ、自発磁化があることが証明される。

(3) Onsager の値は kBTc=2.269Jk_{\mathrm B} T_{\mathrm c}=2.269J。Peierls の議論の 1.15J1.15J は、輪郭の数を粗く数えた分だけ低いが、「Tc>0T_{\mathrm c}>0 である」という定性的な結論を厳密に与える下界である。平均場の 4J4J は Onsager の値の 1.761.76 倍で、相手の数 z=4z=4 が小さく揺らぎを無視できないために転移温度を高く見積もっている。3つの数は、それぞれ「証明された下界」「厳密な値」「1/z→01/z\to0 の極限の答えを z=4z=4 に当てはめた値」であり、平均場の値は定理の保証の外にある(検算スクリプト)。

近似の裏付け

型 B(極限) | 小さいもの 相手の数の逆数 1/z→01/z\to0(Kac の γ→0\gamma\to0、全員と結合する 1/N1/N) | 証明 条件付き(Curie–Weiss・Kac 極限では厳密〔Lebowitz–Penrose 1966〕。短距離では1次元で誤り、2次元の連続対称性で誤り〔Mermin–Wagner 1966〕、3次元の量子強磁性体の秩序は未解決) | 行き先 近似の数理 第6章

ほかの巻では

木下の勉強ステータス

木下はまだこの記事を勉強していません。

AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com

← AI生成教科書『虎の巻』の記事一覧へ