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結晶はなぜ結晶か:調和近似と結晶化問題

2026年10月15日9分で読めますAI生成教科書『虎の巻』第13章 固体編:多体と秩序(熱力学極限から BCS まで)
目次
  1. 結晶化問題
  2. 調和近似は結晶のまわりの B 型の展開
  3. Thomas–Fermi と Hartree–Fock の固体
  4. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

近似の数理 第13章 §13.2 ★★ フォノンの理論は「原子が結晶に並んでいる」ことを仮定した展開で、その仮定自体は3次元で未証明

結晶化問題

固体物理の出発点は「原子が周期的に並ぶ」という仮定である。第7章の Born–Oppenheimer 近似で原子核を古典的な点として止めると、原子核の配置 R1,…,RK\bm{R}_1,\dots,\bm{R}_K の関数としてエネルギー E(R1,…,RK)E(\bm{R}_1,\dots,\bm{R}_K) が決まる。これを最小にする配置が、K→∞K\to\infty で周期的な格子に近づくか、というのが結晶化問題である。温度 00 の古典的な問題に限っても、答えは一般には知られていない。

証明されているのは主に2次元である。円板どうしが接すると一定のエネルギーだけ得をする模型で、最小の配置が三角格子の一部になることはC. Heitmann と C. Radin が示した(Heitmann, Radin (1980), J. Stat. Phys. 22, 281)。Lennard-Jones に似た形の短距離の対ポテンシャルの一族については、F. Theil が、熱力学極限で最小の配置が三角格子になることを証明した(Theil (2006), Commun. Math. Phys. 262, 209)。3次元では、一般の対ポテンシャルについて結晶化は証明されておらず、まして電子と原子核の量子力学から結晶が基底状態になることは未解決である。したがって、フォノンやバンドの理論は「結晶である」という未証明の仮定の上に建っている。この仮定のもとで何が言えるかを次に述べる。

調和近似は結晶のまわりの B 型の展開

周期的な配置 Rl0\bm{R}^0_{\bm{l}} を1つ与え、変位 ul=Rl−Rl0\bm{u}_{\bm{l}}=\bm{R}_{\bm{l}}-\bm{R}^0_{\bm{l}} でエネルギーを展開する。

E=E0+12∑l,l′ul⋅Φll′ul′+16∑Φ(3)uuu+⋯(13.3)E=E_0+\frac12\sum_{\bm{l},\bm{l}'}\bm{u}_{\bm{l}}\cdot\Phi_{\bm{l}\bm{l}'}\bm{u}_{\bm{l}'}+\frac16\sum\Phi^{(3)}uuu+\cdots\tag{13.3}

2次の項だけを残すのが調和近似で、行列 Φ\Phi を Fourier 変換して対角化するとフォノンの分散 ωs(k)\omega_s(\bm{k}) が出る。落とした3次以上の項が小さいための条件は、変位が格子定数 aa に比べて小さいことである。量子力学的な零点振動では⟨u2⟩∼ℏ/(Mω)\langle u^2 \rangle \sim\hbar/(M\omega) で、原子単位では ⟨u2⟩1/2/a∼(me/M)1/4\langle u^2 \rangle ^{1/2}/a\sim(m_{\mathrm e}/M)^{1/4} になる。これは第7章の Born–Oppenheimer 近似の小さいパラメータ κ\kappa と同じである。有限温度の古典的な振動では、ばね定数を K∼Eb/a2K\sim E_{\mathrm b}/a^2(EbE_{\mathrm b} は結合エネルギー)として ⟨u2⟩∼kBT/K\langle u^2 \rangle \sim k_{\mathrm B} T/K、すなわち ⟨u2⟩/a2∼kBT/Eb\langle u^2 \rangle /a^2\sim k_{\mathrm B} T/E_{\mathrm b} が小さいパラメータになる。

この展開は収束級数でなく、漸近展開としてしか意味を持たない。理由は単純で、圧力 00 では原子は無限に遠くへ離れることができ(解離)、厳密な分配関数はこの解離した配置の寄与で発散する。調和近似は「結晶のまわりに閉じ込められている間」の振る舞いを kBT/Ebk_{\mathrm B} T/E_{\mathrm b} の各次数で正しく与えるが、展開を無限次まで足しても解離を含む厳密な答えにはならない。ハミルトニアンの選び方で固体を考える 第3部第2章で非調和項から熱膨張と熱伝導を出した計算は、この展開の次の次数である。

例題 13.2 Lennard-Jones 鎖の熱膨張と漸近展開 ★★

オリジナル隣り合う原子だけが対ポテンシャル V(r)=4Eb[(r0/r)12−(r0/r)6]V(r)=4E_{\mathrm b}[(r_0/r)^{12}-(r_0/r)^6] で結合した1次元の古典的な鎖を、圧力 00 で考える。隣り合う間隔 rr はそれぞれ独立に Boltzmann 分布 ∝e−V(r)/kBT\propto\mathrm{e}^{-V(r)/ k_{\mathrm B} T} に従う。

  • (1) VV の最小点 rmr_{\mathrm m} と V′′(rm)V''(r_{\mathrm m})、V′′′(rm)V'''(r_{\mathrm m}) を求めよ。
  • (2) x=r−rmx=r-r_{\mathrm m} として V≈−Eb+12V′′x2+16V′′′x3V\approx-E_{\mathrm b}+\frac12V''x^2+\frac16V'''x^3 とし、3次の項を1次の摂動として扱って ⟨x⟩=−V′′′kBT2V′′2\langle x \rangle =-\dfrac{V''' k_{\mathrm B} T}{2V''^2} を示せ。調和近似(3次の項なし)では熱膨張が 00 であることにも触れよ。
  • (3) 線膨張 (⟨r⟩−rm)/rm(\langle r \rangle -r_{\mathrm m})/r_{\mathrm m} を kBT/Ebk_{\mathrm B} T/E_{\mathrm b} で表せ。
  • (4) rr を 00 から ∞\infty まで積分した分配関数が発散することを示し、(2) の展開がどういう意味で正しいのかを述べよ。
解答

(1) V′(r)=4Eb(−12r012r−13+6r06r−7)=0V'(r)=4E_{\mathrm b}(-12r_0^{12}r^{-13}+6r_0^6r^{-7})=0 から rm=21/6r0r_{\mathrm m}=2^{1/6}r_0、V(rm)=−EbV(r_{\mathrm m})=-E_{\mathrm b}。微分を続けて V′′(rm)=36⋅22/3Eb/r02=57.1 Eb/r02V''(r_{\mathrm m})=36\cdot2^{2/3}E_{\mathrm b}/r_0^2=57.1\,E_{\mathrm b}/r_0^2、V′′′(rm)=−7562 Eb/r03=−1069 Eb/r03V'''(r_{\mathrm m})=-756\sqrt2\,E_{\mathrm b}/r_0^3=-1069\,E_{\mathrm b}/r_0^3。3階微分が負なのは、縮める側の壁(r−12r^{-12})が伸ばす側(r−6r^{-6})より急なことの表れである。

(2) β=1/(kBT)\beta=1/( k_{\mathrm B} T) とし、e−βV′′′x3/6≈1−βV′′′x3/6\mathrm{e}^{-\beta V'''x^3/6}\approx1-\beta V'''x^3/6 とする。Gauss 分布 e−βV′′x2/2\mathrm{e}^{-\beta V''x^2/2} での平均を ⟨⋅⟩0\langle \cdot \rangle _0 と書くと、⟨x⟩0=⟨x3⟩0=0\langle x \rangle _0=\langle x^3 \rangle _0=0、⟨x4⟩0=3(kBT/V′′)2\langle x^4 \rangle _0=3( k_{\mathrm B} T/V'')^2 なので

⟨x⟩=⟨x(1−βV′′′x3/6)⟩0⟨1−βV′′′x3/6⟩0=−βV′′′6⋅3(kBTV′′)2=−V′′′kBT2V′′2.\langle x \rangle =\frac{\langle x(1-\beta V'''x^3/6) \rangle _0}{\langle 1-\beta V'''x^3/6 \rangle _0}=-\frac{\beta V'''}{6}\cdot3\Bigl(\frac{ k_{\mathrm B} T}{V''}\Bigr)^2=-\frac{V''' k_{\mathrm B} T}{2V''^2}.

調和近似では分布が x→−xx\to-x について対称なので ⟨x⟩=0\langle x \rangle =0 で、熱膨張は起きない。熱膨張は3次の項(非調和性)で初めて現れる。

(3) (1) の値を入れると ⟨x⟩=75622⋅1296⋅24/3kBTEbr0=0.164 r0kBTEb\langle x \rangle =\dfrac{756\sqrt2}{2\cdot1296\cdot2^{4/3}}\dfrac{ k_{\mathrm B} T}{E_{\mathrm b}}r_0=0.164\,r_0\dfrac{ k_{\mathrm B} T}{E_{\mathrm b}} で、rm=21/6r0r_{\mathrm m}=2^{1/6}r_0 で割ると

⟨r⟩−rmrm=748kBTEb=0.146 kBTEb.\frac{\langle r \rangle -r_{\mathrm m}}{r_{\mathrm m}}=\frac{7}{48}\frac{ k_{\mathrm B} T}{E_{\mathrm b}}=0.146\,\frac{ k_{\mathrm B} T}{E_{\mathrm b}}.

kBT=0.01Ebk_{\mathrm B} T=0.01E_{\mathrm b} で、井戸の中(0.9r0<r<1.6r00.9r_0<r<1.6r_0)に積分を限った数値積分の ⟨r⟩\langle r \rangle と 10−4r010^{-4}r_0 以内で一致する。

(4) r→∞r\to\infty で V→0V\to0 なので、被積分関数 e−V/kBT\mathrm{e}^{-V/ k_{\mathrm B} T} は 11 に近づき、∫∞dr\int^\infty\mathrm{d} r は発散する。井戸の底の重み eEb/kBT\mathrm{e}^{E_{\mathrm b}/ k_{\mathrm B} T} を基準に測ると、RR から 2R2R までの寄与の相対的な大きさは R e−Eb/kBTR\,\mathrm{e}^{-E_{\mathrm b}/ k_{\mathrm B} T} で、kBT=0.01Ebk_{\mathrm B} T=0.01E_{\mathrm b} では e−100\mathrm{e}^{-100} と小さいが、RR に比例していくらでも大きくなる。したがって厳密な平衡状態では、鎖は必ず解離している。(2) の展開が正しく与えるのは、井戸の中に閉じ込められた準安定な状態の性質であり、その意味で kBT/Ebk_{\mathrm B} T/E_{\mathrm b} の各次数まで正しい漸近展開である。解離の寄与は e−Eb/kBT\mathrm{e}^{-E_{\mathrm b}/ k_{\mathrm B} T} の形で、kBT/Ebk_{\mathrm B} T/E_{\mathrm b} のどの次数にも現れない(検算スクリプト)。

Thomas–Fermi と Hartree–Fock の固体

結晶を仮定して電子の側を近似する理論についても、熱力学極限は調べられている。Thomas–Fermi 理論(第6章)では、E. H. Lieb と B. Simon が結晶の Thomas–Fermi エネルギーの熱力学極限を示し、同時に「Thomas–Fermi 理論では分子が結合しない」という E. Teller の主張を定理として証明した(Lieb, Simon (1977), Adv. Math. 23, 22)。原子を集めても Thomas–Fermi のエネルギーは孤立した原子の和より下がらないので、Thomas–Fermi 理論は固体の凝集エネルギー(原子が集まって得をする分)を説明できない。凝集には、交換エネルギーや運動エネルギーの量子補正のように、Thomas–Fermi で落とした項が欠かせない。周期的な Hartree–Fock 模型については、I. Catto・C. Le Bris・P.-L. Lions が熱力学極限を調べている(2001)。Hartree–Fock は第5章の A 型(射影)の近似で、得られるエネルギーは真の値の上界である。

近似の裏付け

型 B(極限) | 小さいもの κ=(me/M)1/4→0\kappa=(m_{\mathrm e}/M)^{1/4}\to0 と kBT/Eb→0k_{\mathrm B} T/E_{\mathrm b}\to0(振幅/格子定数が小さい) | 証明 条件付き(結晶の配置を仮定すれば漸近展開。解離の寄与 e−Eb/kBT\mathrm{e}^{-E_{\mathrm b}/ k_{\mathrm B} T} は捨てる。結晶が基底状態であることは3次元で未解決、2次元は Theil 2006 などの模型で証明) | 行き先 近似の数理 第7章

木下の勉強ステータス

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