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この章で選ぶ H と当てる道具:3次の項を残す

2026年10月15日12分で読めますAI生成教科書『虎の巻』第3部 第2章 比熱と熱伝導:調和近似の外へ
目次
  1. 選ぶ H
  2. 調和近似の結果と、そこで消える3つの量
  3. 3次の項を基準座標で書く
  4. 当てる道具
  5. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

ハミルトニアンの選び方で固体を考える 第3部 第2章 §3.2.1 ★★★ 原子間ポテンシャルを3次まで展開する。3次の項は基準座標で書くと結晶運動量を逆格子ベクトルの分だけずらして保存する

前の章(第3部第1章)では、原子をばねでつないだ格子のハミルトニアンを平衡位置のまわりで2次まで展開し、基準振動に分けて、実在の結晶の音響モードと光学モードを読んだ。量子化すれば基準振動はフォノンになり、その数え方から Debye の比熱が出ることは、解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第5部第3章で示されている。ここまでの理論はすべて調和近似の上に立っていて、調和近似の中では答えが出るが、実験と合わない量が3つある。第一に、高温の比熱は Dulong–Petit の値 3NkB3N k_{\mathrm B} で止まるはずだが、実測の定圧比熱はそれを少しずつ超えて増え続ける。第二に、2次の項だけのポテンシャルは原子の変位 u→−uu\to-u について対称なので、温度を上げても原子の平均位置は動かず、結晶は熱膨張しない。第三に、基準振動は互いに独立で、一度できたフォノンは永遠に散乱されないので、熱はいくらでも速く運ばれ、熱伝導率は無限大になる。

この章で選ぶハミルトニアンは、調和近似の2次の項に、原子間ポテンシャルの3次の項(と、必要なときだけ4次の項)を足したものである。当てる道具は3つで、古典のカノニカル分布の摂動展開(比熱と熱膨張)、振動数が体積に依存することだけを残す準調和近似(Grüneisen の関係)、そしてフォノンの Boltzmann 方程式と緩和時間近似(熱伝導)である。出てくるものは、比熱の温度に比例する補正、熱膨張率と Grüneisen の関係、3フォノン過程の Normal 過程と Umklapp 過程の区別と、それが決める熱伝導率の温度依存の形である。最後に、捨てたもの(4次より高い項・一定体積での振動数の温度依存・衝突の中身)を数えて札にし、実験で測る量と授業で習った形を並べる。

この章では金属の伝導電子が運ぶ熱と比熱は扱わない。それらは第4部第1章と第4部第3章の話であり、ここでは絶縁体(あるいは金属の格子の部分)を考える。

選ぶ H

話を最小にするため、質量 MM の原子が間隔 aa で1列に並び、隣どうしだけが対ポテンシャル ϕ(r)\phi(r) で引き合う1次元の鎖から始める。jj 番目の原子の平衡位置からの変位を uju_j、運動量を pjp_j とすると、ハミルトニアンは

H=∑jpj22M+∑jϕ(a+uj+1−uj)(3.2.1)H=\sum_j\frac{p_j^2}{2M}+\sum_j\phi(a+u_{j+1}-u_j)\tag{3.2.1}

である。隣との距離のずれ x=uj+1−ujx=u_{j+1}-u_j が aa に比べて小さいとして、ϕ\phi を x=0x=0 のまわりで展開する。

ϕ(a+x)=ϕ(a)+K2x2+K36x3+K424x4+⋯ ,K=ϕ′′(a),K3=ϕ′′′(a),K4=ϕ′′′′(a)(3.2.2)\phi(a+x)=\phi(a)+\frac{K}{2}x^2+\frac{K_3}{6}x^3+\frac{K_4}{24}x^4+\cdots,\qquad K=\phi''(a),\quad K_3=\phi'''(a),\quad K_4=\phi''''(a)\tag{3.2.2}

1次の項が無いのは、aa を対ポテンシャルの極小(張力 0 の平衡)に選んだからである。前の章までは2次の項で止めた。この章は3次の項 K3K_3 を残し、比熱の補正を出す所でだけ4次の項 K4K_4 も残す。実在の原子間ポテンシャルは、近づけると急に硬くなり、引き離すとゆるやかに 0 に近づくので、ふつう K3<0K_3<0 である。つまり、ポテンシャルは伸ばす向きに柔らかく、縮める向きに硬い。この章の結果は、すべてこの非対称の帰結である。

具体的な形が要るときは、Morse ポテンシャル

ϕ(r)=Eb[(1−e−b(r−a))2−1],K=2Ebb2,K3=−6Ebb3,K4=14Ebb4(3.2.3)\phi(r)=E_{\mathrm b}\Bigl[\bigl(1-\mathrm{e}^{-b(r-a)}\bigr)^2-1\Bigr],\qquad K=2E_{\mathrm b}b^2,\quad K_3=-6E_{\mathrm b}b^3,\quad K_4=14E_{\mathrm b}b^4\tag{3.2.3}

を使う。Eb>0E_{\mathrm b}>0 は結合を切るのに要るエネルギー(井戸の深さ)、1/b1/b は井戸の幅である。展開係数は、ϕ\phi を r=ar=a で3回・4回微分すれば得られる。

3次元の結晶では、変位 uR\bm{u}_{\bm{R}} の3次の項が ∑Φijk(3)uiujuk\sum\Phi^{(3)}_{ijk}u_iu_ju_k の形の和になり添字が増えるが、以下で使う性質(対称性・並進不変性・符号)は1次元の鎖と同じなので、式は1次元で書き、結果を3次元に読み替える。

調和近似の結果と、そこで消える3つの量

2次の項だけを残すと、基準座標

uj=1N∑kQk eikja,k=2πνNa(ν=0,1,…,N−1)(3.2.4)u_j=\frac{1}{\sqrt N}\sum_kQ_k\,\mathrm{e}^{\mathrm{i} kja},\qquad k=\frac{2\pi\nu}{Na}\quad(\nu=0,1,\dots,N-1)\tag{3.2.4}

(周期境界条件の NN 原子の輪)で HH は独立な振動子の和になり、角振動数は ωk=2K/M ∣sin⁡(ka/2)∣\omega_k=2\sqrt{K/M}\,\lvert \sin(ka/2)\rvert である(解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第2部第4章・第3部第1章)。量子化して Qk=ℏ/(2Mωk) (b^k+b^−k†)Q_k=\sqrt{\hbar/(2M\omega_k)}\,(\hat b_k+\hat b^\dagger_{-k}) と書けば、b^k†\hat b_k^\dagger が波数 kk のフォノンを1個作る。

調和近似の中では、比熱・熱膨張・熱伝導について次のことが言える。比熱は各モードの比熱の和で、高温では1モードあたり kBk_{\mathrm B} に収束して温度によらなくなる。平均の変位は HH が u→−uu\to-u で不変なので常に 0 で、熱膨張は起きない。各モードのエネルギーは保存量なので、フォノンの分布は散乱で緩和せず、熱伝導率は無限大になる。3つとも、3次の項を足すと有限の答えに変わる。

3次の項を基準座標で書く

3次の項 H3=(K3/6)∑j(uj+1−uj)3H_3=(K_3/6)\sum_j(u_{j+1}-u_j)^3 に式 (3.2.4) を入れる。uj+1−uj=N−1/2∑kQkeikja(eika−1)u_{j+1}-u_j=N^{-1/2}\sum_kQ_k\mathrm{e}^{\mathrm{i} kja}(\mathrm{e}^{\mathrm{i} ka}-1) なので、3乗して jj について和をとると

H3=K36N∑k1,k2,k3δˉ(k1+k2+k3)∏i=13(eikia−1) Qk1Qk2Qk3,δˉ(q)={1(qa∈2πZ)0(それ以外)(3.2.5)H_3=\frac{K_3}{6\sqrt N}\sum_{k_1,k_2,k_3}\bar\delta(k_1+k_2+k_3)\prod_{i=1}^3\bigl(\mathrm{e}^{\mathrm{i} k_ia}-1\bigr)\,Q_{k_1}Q_{k_2}Q_{k_3},\qquad \bar\delta(q)=\begin{cases}1&(qa\in2\pi\mathbb{Z})\\0&(\text{それ以外})\end{cases}\tag{3.2.5}

となる。δˉ\bar\delta は ∑j=0N−1eiqja=Nδˉ(q)\sum_{j=0}^{N-1}\mathrm{e}^{\mathrm{i} qja}=N\bar\delta(q) から出てきたもので、3つの波数の和が 0 そのものでなく、逆格子ベクトル G=2πm/aG=2\pi m/a の分だけずれていてもよいことを表す。これは、ハミルトニアンが原子1個分の並進 uj→uj+1u_j\to u_{j+1} でだけ不変で、任意の並進では不変でないことの反映である。離散的な並進対称性に Noether の定理を当てると、保存するのは運動量でなく、逆格子ベクトルの分だけの不定さを持った結晶運動量 ℏk\hbar k になる(解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第4部第10章)。

QkQ_k を生成消滅演算子で書くと、H3H_3 には b^k3†b^k2b^k1\hat b^\dagger_{k_3}\hat b_{k_2}\hat b_{k_1} の形の項(フォノン2個が消えて1個できる)とその逆、および生成3個・消滅3個の項が現れる。前の2つが、フォノン同士の3フォノン過程である。調和近似で独立だったモードは、H3H_3 によって互いにエネルギーをやりとりするようになる。

当てる道具

この章で当てる道具は3つあり、どれも前の巻・前の章で用意したものである。

第一は古典のカノニカル分布とその摂動展開である(解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第3部第3章)。高温(kBTk_{\mathrm B} T がフォノンのエネルギー ℏω\hbar\omega より大きい)では原子の運動は古典で扱ってよく、自由エネルギーは F=−kBTln⁡ZF=- k_{\mathrm B} T\ln Z、Z=∫e−βHdΓZ=\int\mathrm{e}^{-\beta H}\mathrm{d}\Gamma で決まる。H=H2+V′H=H_2+V' と調和の部分 H2H_2 と非調和の部分 V′V' に分け、H2H_2 の分布での平均を ⟨⋅⟩0\langle \cdot \rangle _0 と書くと、ln⁡⟨e−βV′⟩0\ln\langle \mathrm{e}^{-\beta V'} \rangle _0 を β\beta について展開した累積展開

F=F0+⟨V′⟩0−β2(⟨V′2⟩0−⟨V′⟩02)+⋯(3.2.6)F=F_0+\langle V' \rangle _0-\frac{\beta}{2}\Bigl(\langle V'^2 \rangle _0-\langle V' \rangle _0^2\Bigr)+\cdots\tag{3.2.6}

が使える。H2H_2 の分布は Gauss 分布なので、右辺の平均は Gauss 積分のモーメント ⟨x2n⟩0=(2n−1)!! (kBT/K)n\langle x^{2n} \rangle _0=(2n-1)!!\,( k_{\mathrm B} T/K)^n だけで計算することができる。

第二は準調和近似で、振動数が体積(1次元では長さ)に依存することだけを残し、各体積では調和振動子の自由エネルギーを使う(3.2.3 節)。自由エネルギーが Legendre 変換で圧力と体積の言葉に移ること(解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第3部第4章)をそのまま使う。

第三はBoltzmann 方程式と緩和時間近似である(解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第3部第8章)。向こうでは気体の分子の分布関数に当てたが、ここではフォノンの占有数 nk(r,t)n_{k}(\bm{r},t) に当てる。衝突の項の中身は、H3H_3 を摂動とした Fermi の黄金律の遷移確率(解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第4部第12章)で書ける。

例題 3.2.1 Morse ポテンシャルで3次の項の大きさを測る ★★

オリジナルMorse ポテンシャル (3.2.3) について、次に答えよ。

  1. (1) KK、K3K_3、K4K_4 を確かめよ。
  2. (2) 変位 xx のときの3次の項と2次の項の比 ∣K3x3/6∣/(Kx2/2)\lvert K_3x^3/6\rvert /(Kx^2/2) を bb と xx で書け。
  3. (3) 調和近似の古典の熱平衡での変位の2乗平均の平方根 xrms=kBT/Kx_{\mathrm{rms}}=\sqrt{ k_{\mathrm B} T/K} を (2) に入れ、比が kBT/(2Eb)\sqrt{ k_{\mathrm B} T/(2E_{\mathrm b})} になることを示せ。Eb=0.4 eVE_{\mathrm b}=0.4\,\mathrm{eV} のとき、300 K300\,\mathrm K での値と、比が 0.30.3 になる温度を求めよ。
解答

(1) s=b(r−a)s=b(r-a) と置くと ϕ=Eb(1−2e−s+e−2s−1)=Eb(e−2s−2e−s)\phi=E_{\mathrm b}(1-2\mathrm{e}^{-s}+\mathrm{e}^{-2s}-1)=E_{\mathrm b}(\mathrm{e}^{-2s}-2\mathrm{e}^{-s})。rr で nn 回微分すると bnb^n が出て、dnϕ/drn=Ebbn[(−2)ne−2s−2(−1)ne−s]\mathrm{d}^n\phi/\mathrm{d} r^n=E_{\mathrm b}b^n[(-2)^n\mathrm{e}^{-2s}-2(-1)^n\mathrm{e}^{-s}]。s=0s=0 では Ebbn[(−2)n−2(−1)n]E_{\mathrm b}b^n[(-2)^n-2(-1)^n] で、n=1n=1 で 0(極小)、n=2n=2 で 2Ebb22E_{\mathrm b}b^2、n=3n=3 で −6Ebb3-6E_{\mathrm b}b^3、n=4n=4 で 14Ebb414E_{\mathrm b}b^4 である。

(2) ∣K3x3/6∣/(Kx2/2)=∣K3∣∣x∣/(3K)=6Ebb3∣x∣/(6Ebb2)=b∣x∣\lvert K_3x^3/6\rvert /(Kx^2/2)=\lvert K_3\rvert \lvert x\rvert /(3K)=6E_{\mathrm b}b^3\lvert x\rvert /(6E_{\mathrm b}b^2)=b\lvert x\rvert。3次の項の相対的な大きさは、変位を井戸の幅 1/b1/b で測った値そのものである。

(3) b xrms=bkBT/(2Ebb2)=kBT/(2Eb)b\,x_{\mathrm{rms}}=b\sqrt{ k_{\mathrm B} T/(2E_{\mathrm b}b^2)}=\sqrt{ k_{\mathrm B} T/(2E_{\mathrm b})}。300 K300\,\mathrm K で kBT=0.02585 eVk_{\mathrm B} T=0.02585\,\mathrm{eV} なので、比は 0.02585/0.8=0.180\sqrt{0.02585/0.8}=0.180 である。比が 0.30.3 になるのは kBT=0.09×0.8 eV=0.072 eVk_{\mathrm B} T=0.09\times0.8\,\mathrm{eV}=0.072\,\mathrm{eV}、すなわち T=836 KT=836\,\mathrm K である。展開の小さいパラメータは kBT/Ebk_{\mathrm B} T/E_{\mathrm b}(熱エネルギーと結合エネルギーの比)であり、室温では数% の補正、融点に近づくと数十% の補正になることがわかる。

図

図 3.2.1 Morse ポテンシャル (3.2.3)(点線)と、その展開 (3.2.2) を2次・3次で止めたもの(実線)。3次の項は伸ばす向き(x>0x>0)を柔らかく、縮める向きを硬くし、2次の放物線の左右対称を破る。3次で止めた式は bx≈2/3bx\approx2/3 より先で下がり始め、遠くでは使うことができない。

木下の勉強ステータス

木下はまだこの記事を勉強していません。

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