ハミルトニアンの選び方で固体を考える 第3部 第2章 §3.2.2 ★★ 調和の比熱は高温で一定値に止まる。3次と4次の項が温度に比例する補正を足し、3次は比熱を増やし4次(硬くなる向き)は減らす
調和の比熱(借りてくる結果)
調和近似では、比熱は基準振動ごとの比熱の和である。角振動数 ω のモード1つの比熱は
c(ω,T)=kB(eβℏω−1)2(βℏω)2eβℏω(3.2.7)
で、kBT≫ℏω では kB に近づき、kBT≪ℏω では e−ℏω/kBT で小さくなる。モードの数え方を Debye のモデルで置き換えると、CV=9NkB(T/ΘD)3∫0ΘD/Tx4ex(ex−1)−2dx となり、低温で CV=(12π4/5)NkB(T/ΘD)3、高温で 3NkB になる。これらの導出は解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第5部第3章にあるので、ここでは結果だけを使う。
Debye のモデルは、低い振動数のモードの数え方(音速で決まる ω2 の形)と、モードの総数 3N の2つだけを正しく持たせた内挿である。実際の結晶のモードの密度 g(ω) は、分散関係の傾きが 0 になる所で特異点を持つ。1次元の鎖では g(ω)∝1/ωm2−ω2(ωm=2K/M)が上端で発散し、3次元では発散せずに傾きが不連続に変わる折れ目(van Hove 特異点)になる。電子の状態密度に現れる同じ特異点は第2部第6章で扱い、g(ω) を中性子の非弾性散乱で測る方法は第3部第3章で扱う。比熱は g(ω) を重み (3.2.7) で積分した量なので、特異点の細かい形には敏感でない。
高温の極限で CV→3NkB(1次元の鎖なら NkB)になることは、モードの振動数の値によらない。古典の調和振動子1つは、ばね定数がいくらでも平均エネルギーが kBT(運動エネルギーと位置エネルギーが kBT/2 ずつ)で、比熱は kB だからである。したがって、高温で比熱が温度とともに変わることは、調和近似の外の効果でしか説明することができない。
非調和項による補正
鎖の両端を固定せず、張力 0 のまま自由に伸び縮みさせると、隣り合う原子の間隔のずれ xj=uj+1−uj は互いに独立な変数になる(両端の拘束が無いので、N 本の結合はそれぞれ勝手に伸び縮みできる)。結合1本の位置エネルギーの部分の分配関数は z=∫e−βϕ(a+x)dx で、運動エネルギーの部分は原子1個あたり比熱に kB/2 を足すだけである。そこで V′=K3x3/6+K4x4/24 として累積展開 (3.2.6) を当てる。⟨V′⟩0 のうち x3 の平均は対称性で 0、⟨V′2⟩0 のうち K3K4x7 も 0、K42x8 は (kBT)4 の大きさで次の次数なので、(kBT)2 の次数までに残るのは
ΔF=24K4⟨x4⟩0−2β36K32⟨x6⟩0=(kBT)2[8K2K4−24K35K32](3.2.8)
である(⟨x4⟩0=3(kBT/K)2、⟨x6⟩0=15(kBT/K)3 を使った)。比熱は C=−T∂2F/∂T2 なので、結合1本あたりの補正は
ΔC=−2kB2T[8K2K4−24K35K32](3.2.9)
になる。補正は温度に比例し、調和の値からの相対的なずれは kBT と結合のエネルギーの比で決まる。
符号の読み方を書いておく。K32 の項は常に比熱を増やす。3次の項でポテンシャルが片側に柔らかくなると、同じ温度でも原子はより遠くまで出かけ、エネルギーの揺らぎ(比熱は ⟨(ΔH)2⟩/(kBT2) に等しい)が大きくなるからである。K4>0 の項は、ポテンシャルが大きな変位で放物線より硬くなることを表し、比熱を減らす。Morse ポテンシャル (3.2.3) の係数を入れると、括弧の中は 7/(16Eb)−15/(16Eb)=−1/(2Eb) で、3次の項が勝つ。運動エネルギーの分を足して原子1個あたりにすると
NkBCf=1+EbkBT+⋯(3.2.10)
を得る。添字 f は「張力(f=0)を一定に保った」比熱、つまり3次元の定圧比熱 CP に当たる量であることを示す。長さを固定した比熱 CL(3次元の定積比熱 CV に当たる)はこれと違い、3.2.5 節で準調和近似の誤差を見積もるときに使う。
図 3.2.2 は、Morse ポテンシャルの分配関数を数値積分した厳密な比熱と、式 (3.2.10) を比べたものである。kBT/Eb=0.02 で差は 0.002 程度、0.05 で 0.013 程度で、差は (kBT/Eb)2 の大きさで開いていく。

図 3.2.2 Morse ポテンシャルの鎖の古典の比熱。点線は分配関数の数値積分(厳密。b(r−a)≤8 で積分を打ち切った)、実線は kBT/Eb の1次までの式(Cf は式 (3.2.10)、CL は 3.2.5 節の式 (3.2.25))。灰色の水平線は調和近似(および準調和近似の CL)の値 1。
例題 3.2.2 4次の項だけの振動子と、Morse の結合の室温の比熱 ★★
オリジナル
- (1) K3=0 で K4>0 のとき、式 (3.2.9) の補正を書き、比熱が調和の値より小さくなる理由を、エネルギーの揺らぎの言葉で説明せよ。
- (2) K=1、K4=1、kBT=0.01(単位はそろえたもの)のとき、位置エネルギーの部分の比熱は kB の何倍か。
- (3) Eb=0.4eV の Morse の結合をもつ鎖の 300K の比熱 Cf は、Dulong–Petit の値(1次元では NkB)より何% 大きいか。古典の扱いでよいとする。
解答
(1) K3=0 を入れると ΔC=−kB2TK4/(4K2) で、負である。比熱は ⟨(ΔH)2⟩/(kBT2)、つまりエネルギーの揺らぎの大きさに比例する。K4>0 のポテンシャルは大きな変位で放物線より急に立ち上がるので、高いエネルギーの状態に入りにくく、エネルギーの分布の裾が調和の場合より短くなる。揺らぎが減るので比熱も減る。
(2) 位置エネルギーの部分は、調和の値 kB/2 に ΔC を足して kB[1/2−0.01/4]=0.4975kB である。V=x2/2+x4/24 の分配関数を数値積分すると 0.49755kB で、差 5×10−5 は (kBT)2 の大きさの次の補正である。
(3) 式 (3.2.10) から、ずれは kBT/Eb=0.02585/0.4=0.0646、すなわち 6.5% である。実際には 300K で古典の扱いがよいとは限らず、量子の効果(最も高いモードの比熱が kB より小さいこと)は逆向きにずれを生じさせるので、この数字は高温側の傾きの目安である。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com