解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第3部 第7章 §3.7.4 ★★★ Tc の近くで m∝(Tc−T)1/2、χ∝∣T−Tc∣−1、比熱の跳び 23NkB。到達距離が無限大なら厳密で、1・2次元の厳密解とは合わない
Tc の近くでの展開
Tc の近くでは m が小さいので、FMF を m で展開することができる。二値エントロピーの展開hb((1+m)/2)=ln2−2m2−12m4−30m6−⋯ を式 (3.7.10) に入れると
NFMF(m)=−kBTln2+21kB(T−Tc)m2+12kBTm4−bm+O(m6)(3.7.14)
となる。m2 の係数が Tc で符号を変え、m4 の係数は正のまま残る。自由エネルギーを秩序変数 m のべきで展開して相転移を論じるこの形は、第3部第10章の Landau 理論の出発点で、ここではそれが積の分布の自由エネルギーから係数まで決まった形で出てくる。式 (3.7.14) から次の4つが読み取れる。
自発磁化:b=0 で ∂FMF/∂m=0 は kB(T−Tc)m+3kBTm3=0 で、T<Tc の解は
m∗2=T3(Tc−T)⟹m∗≈3(1−TcT)1/2.(3.7.15)
磁化率:χ:=∂m/∂b∣b=0(1格子点あたり)。T>Tc では m が b に比例し、1次の項だけで kB(T−Tc)m=b、
χ=kB(T−Tc)1(T>Tc).(3.7.16)
これが Curie–Weiss の法則である。相互作用の無いスピンの Curie の法則 χ=1/(kBT) の分母の T が T−Tc にずれる。T<Tc では m∗ のまわりで展開して χ=1/(2kB(Tc−T)) になり、どちらの側でも Tc で発散する。
臨界等温線:T=Tc では m2 の項が消え、b=3kBTcm3。
比熱:b=0 の内部エネルギーは積の分布で U=⟨H⟩ρ=−2NzJm∗2。T>Tc では m∗=0 で U=0、比熱も 0。T<Tc では式 (3.7.15) から U=−23NkBTc(Tc−T)/T で、Tc の直下で
C=dTdUT→Tc−0=23NkB.(3.7.17)
比熱は Tc で発散せず、有限の跳びを持つ。
これらのべき(m∝(Tc−T)1/2、χ∝∣T−Tc∣−1、b∝m3、比熱は跳び)をそれぞれ臨界指数βexp=1/2、γ=1、δ=3、α=0 と呼ぶ(βexp は逆温度の β と区別して添字を付けた)。平均場の近似の臨界指数は、格子の形や次元、z によらない。式 (3.7.14) の形が m→−m の対称性と展開できることだけで決まっているためである。
到達距離が無限大の模型では厳密になる
平均場の近似が捨てたのは隣どうしの相関である。相関を捨てても誤差が出ない状況を作るには、1つのスピンが非常に多くの相手と、1つ1つは弱く結合していればよい。その極端な場合として、全部のスピンが全部と等しい強さ J/N で結合した Curie–Weiss 模型
H=−2NJ(i=1∑Nsi)2−bi∑si(3.7.18)
を考える(i=j の項は定数 J/2 を足すだけである)。1つのスピンの相手は N 個、結合はそれぞれ J/N なので、式 (3.7.1) の zJ にあたるのは J である。
H は全磁化 M=∑isi だけの関数なので、Z は M の値ごとの配置の数で書ける。上向きが k 個の配置は (kN) 個あり、M=2k−N なので
Z=k=0∑N(kN)exp(2NβJ(2k−N)2+βb(2k−N)).
m=M/N とおき、Stirling の公式から出る ln(kN)=Nhb(k/N)+O(lnN) を使うと、和の各項は
exp[−βN(−2Jm2−bm−kBThb(21+m))+O(lnN)]=exp[−βFMF(m)+O(lnN)]
で、指数の中は式 (3.7.10)(zJ→J)そのものである。和は N+1 項しかないので、最大の項 e−βminmFMF(m) とその N+1 倍の間にはさまれ、
N→∞limNF=−1≤m≤1minNFMF(m)(3.7.19)
が厳密に成り立つ(O(lnN)/N と ln(N+1)/N が 0 に行くため)。この模型では、平均場の近似の自由エネルギーが N→∞ で厳密な値に一致し、3.7.3節と本節の結果(Tc・臨界指数・比熱の跳び)がすべて厳密になる。
数値で確かめる。βJ=1.5(T=Tc/1.5)、b=0 では m∗=0.859、βFMF(m∗)/N=−0.808 である。和を直接計算した厳密な βF/N との差はN=10, 100, 1000, 104 で −0.102, −0.0096, −0.00094, −0.000094 で、N を10倍にするたびに10分の1になる。差が負なのは、厳密な F が上界 FMF より低いというGibbs–Bogoliubov の不等式どおりで、1/N の係数は −[ln2−21ln(1−βJ(1−m∗2))]=−0.944 に近づく(ln2 は ±m∗ の2つの谷、対数の項は谷のまわりの Gauss 型の揺らぎの寄与)。
近似の裏付け
型 B(極限) | 小さいもの 1/N→0(1つのスピンが N 個の相手と強さ J/N で結合する) | 証明 証明済み(Stirling の公式と最大の項による評価。本節で示した) | 行き先 近似の数理 第6章
厳密解と比べる
短距離の相互作用では事情が違う。1次元の鎖(z=2)について、平均場の近似は kBTc=2J で相転移を予言するが、1次元の Ising 模型には T>0 で相転移が無い(Ising(1925)、Z. Phys. 31、253)。例題 3.7.4 で見るように、1次元の相関は距離とともに指数関数的に減り、長い距離で向きがそろうことは無い。
2次元の正方格子(z=4)では、Onsager が外場の無い場合の自由エネルギーを厳密に計算し(Onsager(1944)、Phys. Rev. 65、117)、相転移の温度は kBTc/J=2/ln(1+2)=2.269 である。平均場の近似の 4 はこれの 1.76 倍で、相転移の温度を高く見積もっている。自発磁化の厳密な形は m=[1−sinh−4(2J/kBT)]1/8(Yang(1952)、Phys. Rev. 85、808)で、Tc の近くの指数は 1/8 である(図 3.7.2)。平均場の近似の 1/2 より立ち上がりがずっと急になっている。

図 3.7.2 正方格子の Ising 模型の自発磁化。実線は平均場の近似(kBTc=4J)、点線は厳密解(kBTc=2.269J、Tc の近くで (Tc−T)1/8)。低温では両者はほぼ一致し、Tc の近くで大きくずれる
低温で両者が一致するのは、ほとんどのスピンがそろっていて揺らぎが小さく、相関を捨てた誤差も小さいからである。Tc の近くでは、向きのそろった領域が大きさを持って現れては消え、相関の距離が格子の間隔よりずっと長くなる。この長い距離の相関を捨てた近似が、臨界のふるまいを誤る。さらに、スピンが連続な向きをとる Heisenberg 模型では、短距離の相互作用なら2次元で T>0 の自発磁化が無いことが証明されている(Mermin, Wagner(1966)、Phys. Rev. Lett. 17、1133)。平均場の近似はこの場合も有限の Tc を予言するので、定性的に誤る。揺らぎが平均場の近似をどこまで崩すか(次元が4を超えると臨界指数が平均場の値になること)は、第3部第10章と第5部第11章のくりこみ群で扱う。
例題 3.7.4 1次元の鎖の相関 ★★
オリジナルN 個のスピンを1列に並べた開いた鎖 H=−J∑i=1N−1sisi+1(b=0)を考え、K=βJ とおく。
- ボンドの変数 τi=sisi+1(i=1,…,N−1)を使って、Z=2(2coshK)N−1 を示せ。
- 距離 r の相関 ⟨s1s1+r⟩=tanhrK を示せ。
- 相関の距離 ξ を ⟨s1s1+r⟩=e−r/ξ で定める。K=1 での ξ と ⟨s1s6⟩ を求めよ。平均場の近似(z=2)はこの K で何を予言するか。
解答
(1) s1 と τ1,…,τN−1 を決めると si+1=siτi で全部のスピンが決まり、逆も成り立つので、変数の取り替えは 2N 個の配置の1対1の対応である。H=−J∑iτi は τi ごとの和に分かれ、s1 を含まないので
Z=s1=±1∑i=1∏N−1τi=±1∑eKτi=2(2coshK)N−1.
開いた1次元の鎖では、ボンドの変数に移ると相互作用が無くなる。
(2) s1s1+r=s12τ1τ2⋯τr=τ1⋯τr。τi は互いに独立で、それぞれ ⟨τi⟩=tanhK なので ⟨s1s1+r⟩=tanhrK。
(3) ξ=−1/lntanhK。K=1 では tanh1=0.762 で ξ=3.67(格子間隔の単位)、⟨s1s6⟩=0.7625=0.256。相関は 0 でないが距離とともに指数関数的に減り、N→∞ で全体がそろうことは無い。どの K<∞ でも tanhK<1 なので、これは全温度で成り立つ。一方、平均場の近似の Tc は kBTc=2J、すなわち Kc=0.5 で、K=1(T=Tc/2)では自発磁化 m∗=0.958(例題 3.7.3)を予言する。1次元では、1か所でボンドを切って向きを反転した領域を作るエネルギーが 2J で有限なのに対し、切る場所の数は N に比例するので、エントロピーによる自由エネルギーの下がり kBTlnN が、N→∞ でエネルギーの損 2J を必ず上回る。平均場の近似は1つのスピンの周りだけを見るので、この「壁を置く場所の数」を数えることができない。
ほかの巻では
- 近似の数理 第13章:Curie–Weiss 模型と Kac 極限で平均場が厳密になる範囲と、Peierls の議論・Mermin–Wagner の定理を述べる
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com