解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第5部 第11章 §5.11.1 ★★★ βFL を場 ϕ=βκm で書き直すと SE=∫[21(∇ϕ)2+21rϕ2+4!λϕ4]。次元を数えると d=4 が境目になる理由が見える
第3部第10章では、相転移の近くの自由エネルギーを秩序変数 m(r) の汎関数 FL[m] とみなし、その最小点だけを取る Landau 理論で臨界指数を出した。同じ章の最後で、Ginzburg の判定条件から、空間の次元が d<4 のとき臨界点のごく近くでこの近似は必ず破れることが分かった。正しい指数を得るには、e−βFL[m] を最小点だけでなく、すべての m(r) について積分しなければならない。一方、第5部第8章から第5部第10章では、ϕ4 理論のループ積分が発散すること、それを正則化して裸の結合と物理的な結合を分けると、結合定数がエネルギーの尺度 μ によって変わるように見えることを見た。
この章では、この2つが同じ問題であることを示す。選ぶものは ϕ4 理論の Euclid 作用で、これは FL を kBT で割ったものと文字どおり一致する。当てる道具は Wilson の粗視化で、短い波長の揺らぎだけを積分して消し、長さの尺度を戻す操作である。この操作を繰り返すと、作用の結合定数が流れを作る。出てくるものは3つある。1つ目は、d=4−ϵ 次元で現れる Wilson–Fisher 不動点と、そこでの相関長の指数 ν=21+12ϵ である。2つ目は、場の量子論の β 関数 β(λ)=−ϵλ+3λ2/(16π2) で、これが Wilson の流れと同じ係数を持つことを確かめる。3つ目は、臨界指数どうしの関係(スケーリング則)と普遍性で、平均場の指数・ϵ 展開・3次元 Ising の値を並べる。
この章では ℏ=c=1 とし、演算子の帽子を省く(演算子はほとんど出てこない)。統計力学の側では kBT は重みの中にくくり込み、Euclid 作用は無次元の量として書く。空間(Euclid 時空)の次元を d とし、ϵ:=4−d と書く(記法の正本で ϵ 展開に取ってある字である)。臨界指数 β は逆温度 β と β 関数 β(λ) に重なるので、第3部第7章と同じく βexp と書く。
この節では ℏ=c=1 とする。
2つの出発点
第3部第10章の Ginzburg–Landau 汎関数は、外場 h=0 で
FL[m]=∫ddx[2κ(∇m)2+2am2+4bm4],a=a0(T−Tc(0))(5.11.1)
であった。ここで Tc(0) は Landau 理論での転移温度で、揺らぎを入れると本当の転移温度 Tc はこれから少しずれる(5.11.3節)。分配関数は Z=∫Dme−βFL[m] で、∫Dm は各点の m(x) についての積分を表す。
他方、第5部第1章では、実時間の作用に t=−iτ を入れると iS→−IE となり、量子統計の分配関数が虚時間の経路積分 ∫Dqe−IE/ℏ になることを見た。同じ置き換えを1成分のスカラー場の Lagrangian 密度L=21∂μϕ∂μϕ−21m02ϕ2−4!λϕ4 に当てると、∂μϕ∂μϕ=(∂tϕ)2−(∇ϕ)2 の時間微分の符号が反転し、
SE[ϕ]=∫ddx[21(∇ϕ)2+2rϕ2+4!λϕ4],Z=∫Dϕe−SE[ϕ](5.11.2)
を得る。ここで ∇ は d 次元の Euclid 空間(時間を含む)の勾配、r=m02 である。Z は場の量子論では真空の生成汎関数(外から源を入れて微分すると相関関数が出るもの)の源を 0 にしたものである。この作用は、Minkowski 時空では L の運動項から質量 m0 の粒子の伝播を表し、Euclid 空間では各点の ϕ の値の重みを表す。
同じものであること
式 (5.11.1) の βFL で ϕ:=βκm と置くと、勾配の項は 2βκ(∇m)2=21(∇ϕ)2、2次の項は 2βam2=2κaϕ2、4次の項は 4βbm4=4βκ2bϕ4 になる。したがって
βFL[m]=SE[ϕ],r=κa,λ=κ26bkBT(5.11.3)
である。2つの理論は、場の規格化と係数の名前を除いて同じ作用を選んでいる。表 5.11.1 に対応をまとめる。
表 5.11.1 統計力学の言葉と場の量子論の言葉| 統計力学(第3部第10章) | 場の量子論(Euclid 化した第5部) |
| 秩序変数 m(x)、d 次元の空間 | 場 ϕ(x)、d 次元の Euclid 時空 |
| 重み e−βFL | 重み e−SE(ℏ が kBT の役) |
| a/κ=1/ξ2(T>Tc、相関長 ξ) | r=m02(質量の2乗。1/m0 は Compton 波長) |
| b(4次の係数) | 結合定数 λ |
| 格子間隔 alat、Λ∼π/alat | 正則化の切断 Λ(第5部第9章) |
| 相関関数 ⟨m(x)m(0)⟩ | 伝播関数 ⟨ϕ(x)ϕ(0)⟩ |
| 臨界点 T→Tc(ξ→∞) | 質量 0 の極限 |
統計力学の側の Λ は、格子があるために短い波長の揺らぎが存在しないことを表す物理的な量である。場の量子論の側の Λ は、第5部第9章で導入した正則化のために入れた仮の量で、最後に物理量から消えなければならない。この章で見るとおり、2つの読み方は「Λ に比べてずっと長い距離で何が見えるか」という同じ問いに行き着く。
次元を数える
SE は e−SE の肩に乗るので無次元である。長さの次元を −1、運動量(波数)の次元を +1 と数えると、ddx の次元は −d、∇ は +1 である。勾配の項 ∫ddx(∇ϕ)2 が無次元であることから [ϕ]=(d−2)/2、そこから
[r]=2,[λ]=4−d=ϵ,[gn]=d−n2d−2(ϕn の係数 gn)(5.11.4)
を得る。d=4 では λ は無次元で、d<4 では λ は正の次元を持つ。正の次元を持つ結合は、長さ ξ で測った無次元の組み合わせλξ4−d が ξ とともに大きくなる。臨界点に近づいて ξ→∞ になると、どれほど小さな λ も無次元の強さとしては大きくなる。これが、第3部第10章の Ginzburg の判定条件を次元だけで言い直したものである。ξ=κ/∣a∣∝∣t∣−1/2(t=(T−Tc)/Tc)なので
λξ4−d∝∣t∣−(4−d)/2(5.11.5)
で、d<4 では t→0 で発散し、d>4 では 0 に向かう。d=4 は境目で、そこでは次元の数え方だけでは決まらず、ループの補正が向きを決める(5.11.4節)。
例題 5.11.1 Ginzburg–Landau の係数を ϕ4 の言葉に直す ★★★
オリジナル
- (1) T>Tc で、式 (5.11.3) の r が相関長 ξ=κ/a を使って r=1/ξ2 と書けることを確かめよ。
- (2) d=3 で無次元の結合 λξ を a,b,κ,kBT で書け。a=a0Tc∣t∣ として、λξ=1 となる ∣t∣ を、第3部第10章の Ginzburg 数 Gi=(kBTcb)2/(a0Tcκ3) で表せ(T≈Tc とする)。
- (3) d=3 と d=4 で、ϕ2,ϕ4,ϕ6,ϕ8 の係数と (∇ϕ)2ϕ2 の係数の次元を求めよ。
解答
(1) 式 (5.11.3) から r=a/κ で、ξ2=κ/a なので r=1/ξ2。質量 m0 の場の伝播関数が e−m0∣x∣ で減衰することと、第3部第10章の Ornstein–Zernike の相関関数が e−∣x∣/ξ で減衰することが、m0=1/ξ で対応する。
(2) λξ=κ26bkBTaκ=κ3/2a1/26bkBT。これを 1 と置いて2乗すると 36b2(kBT)2=κ3a0Tc∣t∣、すなわち
∣t∣=a0Tcκ336(kBTcb)2=36Gi.
第3部第10章で揺らぎを無視できる条件として出した ∣t∣≫Gi は、数の因子を除いて「無次元の結合が 1 より小さい」という条件と同じである。
(3) 式 (5.11.4) の [gn]=d−n(d−2)/2 から、d=3 では ϕ2,ϕ4,ϕ6,ϕ8 の順に 2,1,0,−1、d=4 では 2,0,−2,−4。(∇ϕ)2ϕ2 は ϕ が4つと微分が2つなので、係数の次元は d−2−4(d−2)/2=2−d で、d=3 で −1、d=4 で −2 である。次の節で見るとおり、次元が正の係数は粗視化で大きくなり、負の係数は小さくなる。d=3 で ϕ6 がちょうど 0 になるのは、3次元の三重臨界点で ϕ6 の項が臨界の振る舞いを決めることに対応している。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com