解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第5部 第8章 §5.8.1 ★★★ ϕ4 理論の図は外線 E・内線 I・頂点 V・ループ ℓ の4つの数で特徴づけられ、4V=E+2I と ℓ=I−V+1 から V=ℓ+E/2−1。外線の数を決めればループの数と結合定数の次数は同じものになる
第5部第7章では、経路積分 ∫DϕeiS[ϕ] の相互作用の部分を展開し、展開の各項を Feynman 図と Feynman 則で書いた。図のうち、線が輪になって閉じていないもの(木)は運動量の保存則だけで内線の運動量が決まるが、輪(ループ)を含む図では内線の運動量が1つ決まらずに残り、それについて積分しなければならない。この章では、この積分が運動量の大きいところで発散することを確かめ、その発散の強さを、積分を実行する前に数える方法を作る。
この章で選ぶものは ϕ4 理論の Lagrangian 密度で、後半では比較のために QED と Yukawa 理論の Lagrangian 密度も使う。当てる道具は2つある。1つ目は、経路積分を作用の停留点のまわりで展開すると、ループの数がそのまま ℏ の次数になるという事実である。ループが1つもない図(木)は古典的な Euler–Lagrange 方程式の解を表し、ループは量子揺らぎの補正になる。2つ目は次元解析で、場と結合定数の質量次元を数えるだけで、どの図がどれだけ強く発散しうるかが決まる。出てくるものは、ループ積分の具体的な発散(Λ2 と lnΛ)、表面的発散次数 D=4−E による発散する振幅の分類、そして QED で対称性が発散を弱める仕組みである。最後に、零点エネルギーの和と点電荷の自己エネルギーという、授業で出会う2つの無限大と並べる。
発散をどう処理するか(正則化とくりこみ)はこの章では扱わない。積分を有限にするために運動量の上限 Λ(カットオフ)を一時的に置くが、これは発散の強さを測るための物差しにすぎない。正しい扱いは第5部第9章と第5部第10章に送る。
この章では ℏ=c=1 とする(5.8.2節だけは ℏ を戻して数え、5.8.6節の数値は SI に戻す)。この章では演算子の帽子を省く。計量は ημν=diag(+1,−1,−1,−1) である。
選ぶ Lagrangian 密度と Feynman 則
この章を通して使うのは、実数のスカラー場1つの Lagrangian 密度
L=21∂μϕ∂μϕ−21m2ϕ2−4!λϕ4(5.8.1)
である。λ>0 は結合定数で、ℏ=c=1 では無次元の数になる(5.8.4節で確かめる)。ϕ4 の前の 1/4! は、4本の同じ足を入れ替える数え方を打ち消すために付けた。第5部第7章の結果だけを引くと、この L の Feynman 則は次のとおりである。
- 運動量 k を運ぶ内線1本ごとに伝播関数 k2−m2+iϵi。
- 頂点1つごとに −iλ。各頂点で4元運動量が保存する。
- 保存則で決まらない運動量 k ごとに ∫(2π)4d4k。
- 図の対称因子 s で割る(図の線を入れ替えても同じ図になる入れ替えの数)。
外線に付く伝播関数を切り落としたもの(切断した振幅)を iM と書く。4点の振幅の最低次は iM=−iλ である。
4つの数とその間の関係
連結な Feynman 図を1つ取り、外線の数を E、内線の数を I、頂点の数を V とする。ϕ4 の頂点からは足がちょうど4本出ていて、足は外線になるか、2本ずつ組になって内線になるかのどちらかなので、
4V=E+2I(5.8.2)
が成り立つ。次に、内線の運動量のうち保存則で決まらないものの数を数える。内線1本ごとに運動量の変数が1つあり、頂点1つごとに保存則が1つある。ただし保存則のうち1つは図全体の運動量保存(外線の運動量の和が 0)になって内線を縛らないので、決まらずに残る運動量の数は
ℓ=I−V+1(5.8.3)
になる。この ℓ をループの数と呼ぶ。図を平面に描いたときに線で囲まれた輪の数と一致する(グラフ理論の Euler の公式)。(5.8.2) と (5.8.3) から I を消すと
V=ℓ+2E−1,I=2ℓ+2E−2(5.8.4)
を得る。外線の数 E を決めると、結合定数 λ の次数 V とループの数 ℓ は1ずつ一緒に増える。したがって ϕ4 理論では、「λ の何次まで計算するか」と「何ループまで計算するか」は同じことを言っている。
図 5.8.1 に、この章で使う3つの図を描いた。(a) は2点関数の1ループの図で、頂点1つから出た2本の足が輪になっている。形からタッドポール(おたまじゃくし)と呼ばれる。(b) は4点関数の1ループの図で、泡と呼ぶ。(c) は2点関数の2ループの図である。

図 5.8.1 ϕ4 理論の3つの図。(a) タッドポール(2点・1ループ)、(b) 泡(4点・1ループ。P は左の2本の外線の運動量の和)、(c) 2点・2ループの図。どの図でも 4V=E+2I と ℓ=I−V+1 が成り立つ。
1ループの2つの振幅
図 5.8.1(a) と (b) を Feynman 則で式にしておく。タッドポールの対称因子は s=2(輪の2本の足を入れ替えても同じ図)なので、2点関数への1ループの寄与(自己エネルギー)を −iΣ1 と書くと
−iΣ1=2−iλ∫(2π)4d4kk2−m2+iϵi(5.8.5)
である。外線の運動量 p は頂点を素通りするだけで積分の中に入らないので、Σ1 は p によらない定数になる。泡の対称因子も 2(2本の内線の入れ替え)で、外線の組み方が3通り(s・t・u の3つのチャネル)あるので、4点の振幅は1ループまでで
iM=−iλ+2(−iλ)2P=p1+p2,p1−p3,p1−p4∑∫(2π)4d4kk2−m2+iϵi(k+P)2−m2+iϵi(5.8.6)
になる(p1,p2 が入る運動量、p3,p4 が出る運動量)。
被積分関数が ∣k∣ の大きいところでどう振る舞うかを見ると、(5.8.5) は 1/k2、(5.8.6) は 1/k4 で減る。4次元の積分 ∫d4k は動径方向に k3dk を含むので、上限を Λ とすると前者は ∫Λkdk∼Λ2、後者は ∫Λdk/k∼lnΛ で、どちらも Λ→∞ で発散する。木の図には積分が無いので、この発散はループの図に固有のものである。発散の強さは「積分の次元 4ℓ から、伝播関数1本あたりの k−2 を差し引いたもの」で決まりそうに見える。この見込みを5.8.4節で一般の形にする。
例題 5.8.1 ループの数から頂点と内線の数を決める ★★
オリジナル
- (1) ϕ4 理論で、2点関数の2ループの図と、4点関数の3ループの図は、それぞれ頂点と内線を何個ずつ持つか。
- (2) 3点の頂点を持つ ϕ3 理論(L⊃−3!gϕ3)について、(5.8.2) に当たる式を書き、V と I を ℓ と E で表せ。3点関数の1ループの図は頂点と内線を何個持つか。
- (3) (2) の結果から、ϕ3 理論で1ループ増やすと結合定数 g は何次増えるか。
解答
(1) (5.8.4) に (ℓ,E)=(2,2) を入れると V=2, I=3 で、図 5.8.1(c) がこれに当たる。(ℓ,E)=(3,4) では V=3+2−1=4, I=6+2−2=6 である。
(2) 各頂点から3本の足が出るので 3V=E+2I。これと ℓ=I−V+1 から I を消すと ℓ=23V−E−V+1=2V−E+1、すなわち
V=2ℓ+E−2,I=3ℓ+E−3.
3点関数(E=3)の1ループでは V=3, I=3 で、3つの頂点を3本の内線で三角形につないだ図になる。
(3) E を固定して ℓ→ℓ+1 とすると V は 2 増える。ϕ3 理論では1ループごとに g2 が1つ掛かる。ϕ4 理論では1ループごとに λ が1つ掛かった。どちらも、外線の数を固定すればループの数と結合定数の次数は1対1に対応する。
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