解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第5部 第10章 §5.10.1 ★★★ 同じ L を「裸の係数」と「測る係数+カウンター項」の2通りに書く。見えない自由度を消すと係数が変わることは、流体の中の球ですでに起きている
第5部第8章では、Feynman 則で組んだループの積分が大きな運動量で発散することを見て、どの図がどれだけ発散するかを表面的発散次数で数えた。第5部第9章では、その発散に切断 Λ や次元正則化という足場を組み、積分をいったん有限の数にした。しかし足場の値(Λ や次元 d)は物理の量ではないので、それが答えに残るうちは理論は何も予言していない。この章は、足場を外しても答えが残る仕組みを作る。
選ぶものは、Lagrangian 密度そのものではなく、その係数の読み方である。ϕ4 理論の L に書いた質量 m0 と結合定数 λ0 は、粒子を1個だけ取り出して測った質量や、散乱から決めた結合の強さとは一致しない。粒子は自分のまわりの場の揺らぎを常にまとっていて、測定はまとったものごと見るからである。この事情は量子論に限らない。理想流体の中で動く球の慣性は球の質量より大きく、古典の電子の慣性には自分の電場のエネルギーが加わる。どちらも、見えない自由度を消去すると Lagrangian の係数が変わる、という解析力学の事実である。
出てくるものは3つある。1つ目は質量のくりこみで、1ループの補正は切断の2乗 Λ2 に比例して発散し、裸の質量 m0 はそれを打ち消すように選ばれる。2つ目は結合定数のくりこみで、4点の頂点の発散は lnΛ だけで、測った結合 λ で書き直すと、どの運動量での散乱も有限になる。そのとき、異なる運動量で測った結合どうしの関係に ln が残り、これが次の章のくりこみ群の入口になる。3つ目は量子電気力学(QED)の電荷のくりこみで、ゲージ対称性のため電荷のくりこみは光子の場の規格化だけで決まり、電子にも陽子にも同じ割合でかかる。そのとき真空は誘電体のように振る舞い、近づくほど電荷が大きく見える。
道具は、第1部第7章の Legendre 変換である。生成汎関数 W[J] を源 J から場の平均 ϕˉ へ Legendre 変換した有効作用 Γ[ϕˉ] は、古典の作用 S に量子補正を足したものになり、くりこみの条件はすべて Γ の微分の値として書くことができる。5.10.6節では、誘電体の中の Coulomb の法則と古典の電子の電磁質量という、授業で習う2つの形とこの章の式を並べる。
この章では ℏ=c=1 とし、演算子の帽子を省く。ϕ4 理論の計算は虚時間(Euclid)で行い、QED の節だけ実時間に戻す。ループは1ループまでで、2ループ以上は結果の意味だけを述べる。
この節では ℏ=c=1 とする(古典の例だけ SI で書く)。
古典の例:流体の中の球
半径 a、質量 M の球が、密度 ρf の理想流体(粘性も渦も無い非圧縮の流体)の中を速度 U で動くとする。流体は球に押しのけられて動くので、系の運動エネルギーには流体の分が加わる。球から見て遠くで静止した流体の速度ポテンシャルはφf=−2r2a3Ucosθ(θ は U から測った角)で、流体の運動エネルギーを積分すると
Tf=2ρf∫r>a∣∇φf∣2d3r=21(21ρfVs)U2,Vs=34πa3(5.10.1)
になる(例題 5.10.1)。流体の速度場は球の速度 U で完全に決まるので、流体の自由度を消去した後の球の Lagrangian は
L=21(M+21ρfVs)R˙2−Vext(R)(5.10.2)
になる。球の運動を見て決まる慣性は Meff=M+21ρfVs で、M ではない。付加質量 21ρfVs と呼ばれるこの項は、球と流体の相互作用が Lagrangian の係数を書き換えた結果である。
この例で大事なのは、流体の中で球の運動だけを観測している人には M と 21ρfVs を分けて測る手段が無いことである。運動方程式に入るのは和の Meff だけで、どの実験の予言も Meff で書くことができる。流体を取り除いて M を測ることは古典ではできるが、場の量子論で粒子がまとう場の揺らぎは取り除くことができない。そこで、理論の係数を初めから Meff にあたる「測る量」で書く。これがくりこみの考え方である。
ϕ4 理論の裸の Lagrangian 密度
第5部第7章と同じく、実スカラー場の ϕ4 理論を選ぶ。虚時間の作用(Euclid 作用)で書くと
SE[ϕ0]=∫d4x[21(∂ϕ0)2+21m02ϕ02+4!λ0ϕ04](5.10.3)
である。(∂ϕ)2=∑μ=14(∂μϕ)2 は Euclid の内積で、運動量も k2=k42+k2≥0 と書く。実時間の p2=E2−p2 とは p実時間2=−k2 で対応する。添字 0 を付けた ϕ0, m0, λ0 を裸の場・質量・結合定数と呼ぶ。
m0 と λ0 は L の係数であって、測る量ではない。測る量として次の3つを選ぶ。粒子の伝播関数の極の位置から決める質量 m、その極の留数を 1 にするように規格化した場 ϕ、決めた運動量の配置での4点の頂点の値から決める結合定数 λ である(正確な定め方は5.10.2節の式 (5.10.12))。場の規格化を変えるために ϕ0=Z1/2ϕ とおくと、式 (5.10.3) の被積分関数は
21Z(∂ϕ)2+21Zm02ϕ2+4!Z2λ0ϕ4
になる。ここで
δZ:=Z−1,δm:=Zm02−m2,δλ:=Z2λ0−λ(5.10.4)
と定義すると、同じ作用が
SE=∫d4x[21(∂ϕ)2+21m2ϕ2+4!λϕ4]+∫d4x[21δZ(∂ϕ)2+21δmϕ2+4!δλϕ4](5.10.5)
と書ける。第1項は測る量で書いた ϕ4 理論で、第2項をカウンター項と呼ぶ。式 (5.10.5) は式 (5.10.3) の書き直しにすぎず、新しい相互作用を足したわけではない。
この章で選ぶ L は式 (5.10.5) である。カウンター項の係数 δZ,δm,δλ は、「m,ϕ,λ が本当に測る量になる」という条件から摂動の各次数で決める。その条件を書くための道具が次の節の有効作用である。流体の中の球にあてはめると、Meff が m に、M=Meff−21ρfVs が m0 に、付加質量が −δm にあたる。違いは、場の量子論では付加質量にあたる量が切断 Λ とともに発散することだけである。

図 5.10.1 ϕ4 理論の1ループの図とカウンター項。(a) は2点の頂点への1ループの補正(5.10.3節)、(b) は4点の頂点への補正で、外線の対の組み方が s,t,u の3通りある(5.10.4節)。(c) のバツ印はカウンター項の頂点で、(a) と (b) の発散をそれぞれ打ち消す
例題 5.10.1 流体の中の球の付加質量 ★★
オリジナル半径 a の球が理想流体(密度 ρf)の中を一定の速度 U で z 方向に動いている。球とともに動く原点から見て、流体の速度ポテンシャルを φf=−2r2a3Ucosθ とする(流体の速度は ∇φf)。
- (1) r=a で流体の速度の動径成分が球の表面の速度の動径成分 Ucosθ に等しく、∇2φf=0 を満たすことを確かめよ。
- (2) 流体の運動エネルギー Tf を求め、式 (5.10.1) を示せ。
- (3) 密度 2500kgm−3 のガラス球を水(1000kgm−3)の中で静かに放した瞬間の加速度を、付加質量を入れた場合と入れない場合で求めよ。g=9.81ms−2 とし、粘性は無視する。
解答
(1) ∂rφf=r3a3Ucosθ で、r=a では Ucosθ になる。φf∝r−2cosθ は双極子の形で、∇2(r−2cosθ)=r21∂r(r2∂rr−2)cosθ+r2sinθ1∂θ(sinθ∂θcosθ)r−2=r42cosθ−r42cosθ=0。
(2) ∣∇φf∣2=(∂rφf)2+(r−1∂θφf)2=r6a6U2(cos2θ+41sin2θ)。角度の積分は ∫(cos2θ+41sin2θ)dΩ=2π(32+41⋅34)=2π、動径の積分は ∫a∞r−6r2dr=3a31 なので
Tf=2ρfa6U2⋅2π⋅3a31=3πρfa3U2=21(21ρf⋅34πa3)U2.
(3) 球にかかる力は重力と浮力の差 (ρs−ρf)Vsg で、静止から動き出す瞬間は抵抗が無い。付加質量を入れると
U˙=ρs+21ρf(ρs−ρf)g=30001500×9.81=4.91ms−2,
入れないと 1500×9.81/2500=5.89ms−2 になる。測った加速度から質量を逆算すると、球の質量の 1.2 倍が得られる。運動だけを見る人にとっての球の「質量」は Meff である。
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