解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第5部 第11章 §5.11.3 ★★★ 殻の積分を λ の2次まで行うと r と u の流れが閉じる。d<4 で Gauss の固定点は不安定になり、u∗=2ϵ/3 の新しい固定点で ν=21+12ϵ
殻の積分
相互作用 Sint=4!λ∫ϕ4 を λ について展開して式 (5.11.6) を計算する。ϕ> だけの Gauss 積分の期待値を⟨⋅⟩> と書くと、キュムラント展開で
SE′[ϕ<]=S0[ϕ<]+⟨Sint⟩>−21(⟨Sint2⟩>−⟨Sint⟩>2)+O(λ3)+(定数)(5.11.10)
である。ϕ> の伝播関数は ⟨ϕ~>(k)ϕ~>(k′)⟩>=(2π)dδ(d)(k+k′)/(k2+r) で、第5部第7章の Wick の定理で期待値を組み合わせに分ける。
ϕ4=(ϕ<+ϕ>)4 のうち、ϕ> について2次の項は 6ϕ<2ϕ>2 である。1次の項 ⟨Sint⟩> からは4!λ⋅6ϕ<2⟨ϕ>2⟩> が出て、これは ϕ<2 の係数を変える。⟨ϕ>(x)2⟩>=∫shell(2π)dddkk2+r1=:I と書くと
21Δrϕ<2=4λIϕ<2,Δr=2λI.
2次の項からは、x と y の2点の ϕ<2ϕ>2 どうしの ϕ> を2本ずつつないだ寄与 −21(4λ)2⋅2∫∫ϕ<2(x)ϕ<2(y)G>(x−y)2 が出る。G> は殻の波数だけでできているので、∣x−y∣∼1/Λ の範囲で減衰する。この範囲で ϕ< はほとんど変わらないので ϕ<2(y)≈ϕ<2(x) と置き(局所近似)、∫G>(z)2ddz=∫shell(2π)dddk(k2+r)21=:J を使うと、ϕ<4 の係数の変化は Δλ/4!=−16λ2J、すなわち
Δr=2λI,Δλ=−23λ2J(5.11.11)
を得る。Δr は第5部第8章の「おたまじゃくし」の図、Δλ は3つのチャネルの「泡」の図を、殻の運動量だけで計算したものである。同じ組み合わせから ϕ<6 の項や ϕ<2(∇ϕ<)2 の項も現れるが、それらは式 (5.11.7) で y<0 の係数で、次の節の固定点では ϵ2 の大きさにとどまるので捨てる。1ループでは勾配の項の係数は変わらない(I が外の運動量によらない)ので、ζ は相互作用の無いときと同じ e(d−2)Δℓ/2 でよい。
流れの方程式
殻が薄いとき ∫shell(2π)dddkf(∣k∣)=KdΛdf(Λ)Δℓ、Kd:=(2π)dSd=(4π)d/2Γ(d/2)2(Sd は単位球面の面積。K4=1/(8π2)、K3=1/(2π2))である。式 (5.11.11) に尺度の取り替え(式 (5.11.7) の e2Δℓ と eϵΔℓ)を合わせ、Λ を単位にした無次元の量rˉ:=r/Λ2、u:=KdλΛ−ϵ で書くと
dℓdrˉ=2rˉ+2(1+rˉ)u,dℓdu=ϵu−2(1+rˉ)23u2(5.11.12)
になる。これが1ループの再帰式である。これ以降は rˉ の上の棒を省いて r と書く。
2つの固定点
式 (5.11.12) の固定点は2つある。1つは (r∗,u∗)=(0,0) で、相互作用の無い理論である(Gauss 固定点)。ここでの行列 M は上三角で、固有値は 2 と ϵ である。d>4(ϵ<0)では u の方向は固定点に近づき、Gauss 固定点が臨界点を支配する。そこでの指数は平均場の値になり、第3部第10章で Ginzburg の判定条件が d>4 で Landau 理論を支持したことと一致する。d<4 では u の方向も外へ流れ出し、Gauss 固定点は臨界点を支配することができない。
もう1つの固定点は u=0 のもので、dℓdu=0 から u∗=32ϵ(1+r∗)2、これを dℓdr=0 に入れて
r∗=−6+ϵϵ=−6ϵ+O(ϵ2),u∗=32ϵ+O(ϵ2)(5.11.13)
を得る。これを Wilson–Fisher 固定点と呼ぶ1K. G. Wilson, M. E. Fisher (1972), Phys. Rev. Lett. 28, 240。。ϵ>0 で u∗>0 となり、物理的に意味のある(ϕ4 の係数が正で重みが積分できる)領域に入る。u∗ が ϵ に比例して小さいことが、λ についての展開をϵ についての展開として正当化する根拠になる。
固定点のまわりの行列 M を ϵ の1次まで求める。
M=2−2(1+r∗)2u∗(1+r∗)33u∗22(1+r∗)1ϵ−(1+r∗)23u∗=(2−3ϵO(ϵ2)21−ϵ)+O(ϵ2).
左下が ϵ2 の大きさなので、固有値は対角成分で ϵ の1次まで決まり
yt=2−3ϵ,yu=−ϵ,ν=yt1=21+12ϵ+O(ϵ2)(5.11.14)
になる。Wilson–Fisher 固定点には relevant な方向が1つ(温度)しかなく、u の方向は固定点に近づく。したがって、臨界温度を1つ合わせるだけで、どの u>0 から出発しても同じ固定点に行き着く。図 5.11.1 にこの流れを示す。

図 5.11.1 d=3(ϵ=1)の1ループの再帰式 (5.11.12) の流れ(近似なので実線)。G は Gauss 固定点、WF は Wilson–Fisher 固定点 (r∗,u∗)=(−1/7,0.490)。太線は WF に近づく臨界線(臨界面)で、その上の点はすべて WF に行き着く。臨界線の両側から出た細線は、WF の近くを通ってから yt>0 の方向に沿って高温相(r→+∞)か低温相(r→−∞)へ離れていく。G から出た細線は u が小さい所から出発しても WF の近くに引き寄せられる
固定点の r∗ が負であることにも意味がある。r は Landau 理論の a/κ∝T−Tc(0) なので、臨界点 r=r∗<0 は Landau 理論の転移温度より低い。揺らぎが秩序を壊す向きに働き、本当の転移温度 Tc は Tc(0) より下がる。これは非普遍的な量で、Λ や u の出発点に依存する。
近似の裏付け
型 B(極限) | 小さいもの u∗∝ϵ→0(ϵ=4−d。殻の積分を λ の2次で打ち切り、ϕ6 と微分の項を捨てる) | 証明 要確認(捨てた項が固定点で ϵ2 の大きさにとどまることは Wilson–Fisher(1972)の議論による。短距離の d=3 の ϕ4 理論で非自明な固定点が存在することの数学的な証明の状況は原論文で確かめていない) | 行き先 近似の数理 第13章
例題 5.11.3 ϵ=1 で再帰式を展開せずに解く ★★
オリジナル式 (5.11.12) を ϵ=1(d=3)とし、ϵ で展開せずにそのまま扱う。
- (1) 固定点 (r∗,u∗) を求めよ。
- (2) 固定点での行列 M を数値で求め、その固有値と ν=1/yt を求めよ。
- (3) 式 (5.11.14) の ν=21+12ϵ の ϵ=1 での値、および ν=1/(2−ϵ/3) と比べよ。3つの値が違うことは何を意味するか。
解答
(1) 式 (5.11.13) に ϵ=1 を入れて r∗=−1/7=−0.1429、u∗=32(76)2=0.4898。
(2) 1+r∗=6/7 を使うと M11=2−2(1+r∗)2u∗=2−31=1.667、M12=2(1+r∗)1=127=0.583、M21=(1+r∗)33u∗2=78=1.143、M22=1−(1+r∗)23u∗=1−2=−1。固有値は 32⋅21±(34)2+127⋅78 の形で、数値では yt=1.897、yu=−1.230。したがって ν=1/1.897=0.527。
(3) ϵ の1次の式では ν=0.583、ν=1/(2−ϵ/3)=1/(5/3) では 0.600 である。3次元 Ising の値 0.630(5.11.5節)に最も近いのは1次の展開で、展開しないで解いた 0.527 は最も遠い。再帰式 (5.11.12) 自体が λ の2次で打ち切ったものなので、ϵ の2次以上の部分は捨てた項と同じ大きさで、意味を持たない。展開しないで解くと、意味の無い高次の部分が数値に混ざる。3つの値の差(0.07 程度)は、1ループの結果が ϵ=1 で持つ不確かさの目安である。
1 K. G. Wilson, M. E. Fisher (1972), Phys. Rev. Lett. 28, 240。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com