解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第5部 第11章 §5.11.4 ★★★ 第5部第10章のカウンター項から β(λ)=−ϵλ+3λ2/(16π2) が出て、Wilson の再帰式と係数まで一致する。QED の e3/(12π2) と走る α
カウンター項から β 関数へ
第5部第9章・第5部第10章では、d=4−ϵ 次元の次元正則化で4点関数の1ループの泡の積分を計算し、その極を最小引き算(MS)で消すカウンター項を決めた。泡の積分は
∫(2π)dddk(k2+m02)21=(4π)d/2Γ(ϵ/2)(m02)−ϵ/2=16π21(ϵ2+O(1))
で、3つのチャネルがそれぞれ対称因子 2(掛かる因子は 21) と λ2 を持つので、極の部分は 16π2ϵ3λ2 になる。次元正則化では λ に μϵ を掛けて無次元にしてあり、裸の結合 λ0 と物理的な結合 λ(μ) の関係は
λ0=μϵ(λ+16π2ϵ3λ2+O(λ3))(5.11.15)
である。μ は次元正則化のために入れた任意の尺度で、裸の結合 λ0 は μ によらない。この要請から、λ が μ とともにどう変わるかが決まる。β(λ):=μdμdλ と置き、式 (5.11.15) を lnμ で微分して 0 と置くと
ϵ(λ+16π2ϵ3λ2)+β(λ)(1+16π2ϵ6λ)=0
で、これを λ の2次まで解くと
β(λ)=−ϵλ+16π23λ2+O(λ3)(5.11.16)
を得る。1/ϵ の極は打ち消し合い、β(λ) は ϵ→0 で有限に残る。d=4 では β(λ)=3λ2/(16π2) である。同じ係数 3λ2/(16π2) は、第5部第9章の5.9.7節の総合問題(正則化によらない結合の変化)と第5部第10章の式 (5.10.22)(くりこみの条件)でも出た。
Wilson の再帰式と同じものであること
Wilson の ℓ は長い距離へ向かう向きに進み、μ はエネルギー(波数)の尺度なので、μ∝Λe−ℓ、すなわち μdμd=−dℓd である。式 (5.11.12) で r=0 と置き、d=4 の値 K4=1/(8π2) を使って u=λ/(8π2) と戻すと
μdμdλ=−8π2(ϵu−23u2)=−ϵλ+16π23λ2
で、式 (5.11.16) と係数まで一致する。殻の積分の JΔℓ は、次元正則化の 16π21⋅ϵ2 の極と同じく、対数発散 ∫d4k/k4 の係数 8π21 を取り出したものだからである。1ループの β 関数の係数は、正則化の仕方(切断・次元正則化)によらない。
Wilson–Fisher 固定点は、場の量子論の言葉では β(λ∗)=0 の点 λ∗/(16π2)=ϵ/3 である。図 5.11.2 に g:=λ/(16π2) で書いたβ 関数 μdg/dμ=−ϵg+3g2 を示す。

図 5.11.2 1ループの β 関数 μdg/dμ=−ϵg+3g2(近似なので実線)。ϵ>0 では g∗=ϵ/3 に零点があり(黒丸)、μ を下げる(長い距離へ向かう)と g は 0 からも大きい側からも g∗ に近づく。ϵ=0 では零点は g=0 だけで、μ を下げると g は対数的に 0 へ向かう
走る結合と Landau 極
d=4 で式 (5.11.16) を解くと
λ(μ)1=λ(μ0)1−16π23lnμ0μ(5.11.17)
になる。μ を下げると λ は対数的に 0 へ向かい、d=4 の臨界現象は平均場の指数に対数の補正が付いた形になる。μ を上げると λ は大きくなり、ln(μ/μ0)=16π2/(3λ(μ0)) で式の上では発散する。この点を Landau 極と呼ぶ。1ループの式はその手前で λ が大きくなった所で使えなくなるので、Landau 極の位置そのものに意味があるわけではないが、「切断 Λ を無限に大きくすると低いエネルギーの λ は 0 になる」という傾向を示している。
結合定数が尺度によって変わるという見方は、Gell-Mann と Low が QED で最初に示した1M. Gell-Mann, F. E. Low (1954), Phys. Rev. 95, 1300。。第5部第10章の真空偏極から、光子の場の規格化の因子は1ループで Z3=1−e2/(6π2ϵ) であった。Ward の恒等式で頂点と電子の場の因子が打ち消し合うのでe0=μϵ/2Z3−1/2e となり、ϕ4 と同じ手順で
β(e)=−2ϵe+12π2e3,μdμdα=3π2α2(d=4, α=e2/(4π))(5.11.18)
を得る。電荷は短い距離ほど大きく見える。電子と陽電子の対が電荷のまわりで分極し、遠くから見ると電荷を一部遮蔽するためである。
非可換ゲージ理論では、ゲージ場自身が電荷を持つために β 関数の符号が逆になりうる。SU(3) で nf 種類のクォークがあるとき、1ループの結果はβ(g)=−(11−32nf)g3/(16π2) で、nf≤16 では負になる2D. J. Gross, F. Wilczek (1973), Phys. Rev. Lett. 30, 1343;H. D. Politzer (1973), Phys. Rev. Lett. 30, 1346。。結合は短い距離で弱くなる(漸近的自由性)。この計算は非可換ゲージ理論のくりこみを要するので、この巻では結果の引用にとどめる。
Callan–Symanzik 方程式
n 点の相関関数 G(n) について、裸の量で書いた G0(n)=Zϕn/2G(n) が μ によらないことを書くと
[μ∂μ∂+β(λ)∂λ∂+nγϕ(λ)]G(n)=0,γϕ:=21μdμdlnZϕ(5.11.19)
になる3C. G. Callan (1970), Phys. Rev. D 2, 1541;K. Symanzik (1970), Commun. Math. Phys. 18, 227。。γϕ を場の異常次元と呼ぶ。固定点 β(λ∗)=0 ではこの式は G(n) が尺度について冪の形になることを言い、2点関数は G(2)(k)∝k−2+2γϕ(λ∗) になる。臨界指数 η(5.11.5節)は η=2γϕ(λ∗) である。ϕ4 理論では γϕ は2ループから始まり、η=ϵ2/54+O(ϵ3) になる4K. G. Wilson (1972), Phys. Rev. Lett. 28, 548。。1ループでは η=0 で、Wilson の再帰式で ζ が相互作用の無いときと同じだったことと一致する。
近似の裏付け
型 B(極限) | 小さいもの λ/(16π2)→0(1ループで打ち切る) | 証明 未解決(4次元の ϕ4 は連続極限が自由場になる〔Aizenman–Duminil-Copin 2021〕。摂動級数は収束せず、各次数の係数が厳密な理論の展開になっているかが定まらない) | 行き先 近似の数理 第1章
例題 5.11.4 走る α と2つの Landau 極 ★★
オリジナル
- (1) 式 (5.11.18) を解いて 1/α(μ) を 1/α(μ0) と ln(μ/μ0) で書け。
- (2) μ0=mec2=0.51099895MeV で 1/α=137.036 とし、電子のループだけを入れて μ=mZc2=91.1876GeV での 1/α を求めよ(α と me は CODATA 2018〔E. Tiesinga ら (2021), Rev. Mod. Phys. 93, 025010〕、mZ は Particle Data Group〔R. L. Workman ら (2022), Prog. Theor. Exp. Phys. 2022, 083C01〕の値)。
- (3) 同じ条件で QED の Landau 極 μL を求め、μL/me を10の冪で答えよ。
- (4) d=4 の ϕ4 理論で λ(μ0)=1 のとき、Landau 極 μL/μ0 を求めよ。
解答
(1) μdα/dμ=2α2/(3π) は d(1/α)/dlnμ=−2/(3π) と書けるのでα(μ)1=α(μ0)1−3π2lnμ0μ。
(2) ln(91.1876×103/0.51099895)=12.092、3π2×12.092=2.566 なので 1/α(mZ)=137.036−2.566=134.47。第5部第10章の式 (5.10.27) は定数 −5/3 を含み、同じ mZ で 134.65 になる。差は、対数の主要項だけを取るか、電子の質量での合わせ方の定数まで入れるかの違いである。α は約 2% 大きくなる。μ ごとに、それより軽い荷電粒子(μ 粒子・クォークなど)が同じ符号の寄与を足すので、実際の変化はこれより大きい。
(3) 1/α(μL)=0 から ln(μL/me)=23π×137.036=645.8、すなわち μL/me=e645.8=10280.5。宇宙の観測に関わるどのエネルギーよりもはるかに大きく、QED の Landau 極は実用上問題にならない。
(4) ln(μL/μ0)=16π2/3=52.64、μL/μ0=e52.64=7.25×1022。結合が 1 程度でも、Landau 極は μ0 から 1022 倍離れている。係数 3/(16π2)≈0.019 が小さいので、対数による変化は非常にゆっくりである。
1 M. Gell-Mann, F. E. Low (1954), Phys. Rev. 95, 1300。
2 D. J. Gross, F. Wilczek (1973), Phys. Rev. Lett. 30, 1343;H. D. Politzer (1973), Phys. Rev. Lett. 30, 1346。
3 C. G. Callan (1970), Phys. Rev. D 2, 1541;K. Symanzik (1970), Commun. Math. Phys. 18, 227。
4 K. G. Wilson (1972), Phys. Rev. Lett. 28, 548。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com