解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第3部 第7章 §3.7.3 ★★★ Ising 模型を積の分布で近似すると m=tanhβ(zJm+b) が出て、Tc=zJ/kB で自発磁化が現れる
積の分布での自由エネルギー
Ising 模型 (3.7.1) に 3.7.2節の手続きを当てる。格子点 i の分布 ρi(si) は si=±1 の2つの値の確率で、平均 mi=⟨si⟩ を使えば ρi(si)=(1+misi)/2 と1つの数で書ける。積の分布では隣どうしが独立なので ⟨sisj⟩=mimj で、
⟨H⟩ρ=−J⟨ij⟩∑mimj−bi∑mi.
エントロピーは格子点ごとの2値の分布のエントロピーの和で、二値エントロピー hb(p)=−plnp−(1−p)ln(1−p) を使ってS[ρ]=kB∑ihb((1+mi)/2)。外場が一様なら、どの格子点も同じ mi=m をとる解を探せばよい。このとき
NFMF(m)=−2zJm2−bm−kBThb(21+m)(3.7.10)
である(ボンドの数 Nz/2 を使った)。第1項は隣どうしがそろうことによるエネルギーの得、第3項は m を ±1 に寄せるほど失うエントロピーで、FMF(m) はこの2つの兼ね合いを1つの変数 m の関数として書いたものになっている。
自己無撞着方程式
dmdhb((1+m)/2)=−21ln1−m1+m=−artanhm なので、∂FMF/∂m=0 はkBTartanhm=zJm+b、すなわち
m=tanh(β(zJm+b))(3.7.11)
になる。同じ式は式 (3.7.8) からも直接読み取ることができる。格子点 i の1体の有効 Hamiltonian は、隣の z 個の sj を平均 m で置き換えた
hieff(si)=−(zJm+b)si=:−beffsi(3.7.12)
で、1つのスピンが外場 beff の中にあるときの平均は tanh(βbeff) である。隣のスピンの平均がつくる外場zJm を 分子場(Weiss 場)と呼ぶ(Weiss(1907)、J. Phys. Théor. Appl. 6、661)。
外場 b=0 で式 (3.7.11) を図で解く(図 3.7.1)。m=0 はつねに解である。右辺 tanh(βzJm) の原点での傾きはβzJ で、これが 1 を超えると、直線 m と曲線 tanh(βzJm) は原点のほかに ±m∗ の2点で交わる。境目の温度
kBTc=zJ(3.7.13)
が平均場の近似での相転移の温度(Curie 温度)である。T<Tc では外場が無くても m=0 の解があり、これを自発磁化と呼ぶ。

図 3.7.1 自己無撞着方程式 (3.7.11)(b=0)を図で解く。直線 y=m と曲線 y=tanh(mTc/T) の交点が解。T<Tc では原点のほかに m∗(点。T=0.7Tc で 0.829)で交わる。平均場の近似の結果なので実線
どの解を選ぶか
T<Tc で解が3つあるとき、選ぶのは FMF を最小にする解である。式 (3.7.10) を2回微分するとFMF′′(0)/N=−zJ+kBT⋅1−m21m=0=kB(T−Tc) で、T<Tc では m=0 は FMF の極大になる。自発磁化 ±m∗ の2つの解は FMF の値が等しい極小で、外場が無ければどちらが選ばれるかは H の対称性からは決まらない。H が s→−s で不変なのに、選ばれる状態は不変でない。これを対称性の自発的な破れと呼ぶ。
ここで1つ注意しておく。有限の N のカノニカル分布は s→−s で不変なので、厳密な ⟨si⟩ はつねに 0 である(例題 3.7.1 の (3))。自発磁化は、N→∞ の極限をとってから外場 b→0 にする、という順序で定義される。積の分布はこの順序を先取りして、+m∗ と −m∗ のどちらか一方の「谷」に入った分布を表している。
例題 3.7.3 自発磁化と外場への応答 ★★
オリジナル平均場の近似の Ising 模型で、kBTc=zJ を単位にとる。
- b=0 で、T=0.5Tc と T=0.9Tc の自発磁化 m∗ を数値で求めよ。
- T=0.5Tc で、1格子点あたりの FMF(m∗)−FMF(0) を kBTc の単位で求め、自発磁化の状態のほうが自由エネルギーが低いことを確かめよ。
- T=2Tc、b=0.1kBTc のときの m を求め、m≈b/(kB(T−Tc)) と比べよ。
解答
(1) Tc/T=x−1 とおくと方程式は m=tanh(m/x)。反復 m←tanh(m/x) を m=1 から始めると速く収束し、x=0.5 で m∗=0.958、x=0.9 で m∗=0.525。Tc の半分の温度ですでに 96% までそろう。
(2) 式 (3.7.10) から、kBTc の単位でFMF(m)/N=−21m2−0.5hb((1+m)/2)。hb(1/2)=ln2 なので
NkBTcFMF(m∗)−FMF(0)=−20.9582−0.5hb(0.979)+0.5ln2=−0.163<0.
エネルギーの得 −0.459 が、エントロピーの損 0.5(ln2−hb(0.979))=0.296 を上回っている。
(3) m=tanh((m+0.1)/2) を解くと m=0.0993。m が小さいので tanh を1次まで展開すると m=(m+0.1)/2、すなわち m=0.1 で、これは b/(kB(T−Tc))=0.1/1 に等しい。差 0.0007 は tanh の3次の項の分である。Tc より上でも、隣のスピンが外場に沿って向くと分子場がそれを強めるので、相互作用の無い場合の m=tanh(b/kBT)=0.050 の約2倍になる。
近似の裏付け
型 A(射影) | 小さいもの 分布を格子点ごとの積 ∏iρi の集合に限る(捨てるのは相関 ⟨sisj⟩−⟨si⟩⟨sj⟩) | 証明 条件付き(FMF≥F は Gibbs–Bogoliubov の不等式で証明済み。上界と真の値の差の評価は無く、1次元では相転移の有無まで誤る) | 行き先 近似の数理 第4章
ほかの巻では
- ハミルトニアンの選び方で固体を考える 第5部第3章:Heisenberg 模型に同じ Weiss の平均場を当てる。記号の対応:向こうの H=J∑Si⋅Sj の J はこの巻の −J
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com