解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第3部 第7章 §3.7.5 ★★ 気体の粒子は他の粒子の密度が作るポテンシャル U(r) の中を動く。1体の H の Liouville 方程式が Vlasov 方程式、平衡では van der Waals の状態方程式
1体の Hamiltonian と Vlasov 方程式
3.7.2節の手続きを、相空間の粒子の気体 (3.7.3) に当てる。Γi=(ri,pi)、v1=∣p∣2/(2m)、v2=u(∣ri−rj∣) である。全部の粒子が同じ1体の分布をとる解を探し、数密度を n(r)=N∫ρ1(r,p)d3p(ρ1 は d3rd3p に関する1粒子の確率密度)とおくと、式 (3.7.8) は(N−1≈N として)
heff(r,p)=2m∣p∣2+U(r),U(r)=∫u(∣r−r′∣)n(r′)d3r′(3.7.20)
になる。粒子は、ほかの粒子の密度 n を相互作用 u でならしたポテンシャル U の中を動く。式 (3.7.9) はρ1∝e−βheff、すなわち運動量は Maxwell 分布、密度は n(r)∝e−βU(r) で、U がまた n で決まる自己無撞着方程式である。
heff は通常の1粒子の Hamiltonian の形をしているので、第1部の力学をそのまま当てることができる。1粒子の分布関数 f(r,p,t) がこのHamiltonian の流れで運ばれるとすると、Liouville 方程式(第3部第1章)∂f/∂t={heff,f} は
∂t∂f+mp⋅∇rf−∇rU[f](r,t)⋅∇pf=0,U[f](r,t)=∫u(∣r−r′∣)f(r′,p′,t)d3r′d3p′(3.7.21)
になる。これが Vlasov 方程式で、プラズマや銀河の力学で使われる。普通の Liouville 方程式と違い、流れを決める U が f 自身から決まるので、方程式は f について非線形である。平衡の平均場の分布 f∝e−βheff は heff の関数なので {heff,f}=0 を満たし、Vlasov 方程式の定常解になっている(第3部第1章の「保存量の関数は定常」と同じ理由)。N 粒子の Hamilton 方程式から Vlasov 方程式が出ることは、相互作用を 1/N 倍して N→∞ にする極限で証明されている(Dobrushin の定理、近似の数理 第6章)。衝突を足して Boltzmann 方程式にする話は 第3部第8章で扱う。
剛体の芯と引力の尾:van der Waals の状態方程式
実在の分子の相互作用 u(r) は、近距離で強く反発し、遠距離で弱く引き合う。式 (3.7.20) を素直に使うと、反発の部分が r→0 で発散するためU が無限大になり、近似が成り立たない。反発の芯は、平均でならすことのできない「重なれない」という制約で、相関そのものだからである。そこで u を、直径 σ の剛体の芯(r<σ で u=+∞)と、r>σ の引力の尾 uat(r)<0 に分け、扱いを分ける。
引力の尾は平均場で扱う。一様な密度 n=N/V では U=n∫r>σuatd3r=−2an で、
a:=−21∫r>σuat(r)4πr2dr>0.(3.7.22)
全エネルギーへの寄与は、各組を1回ずつ数えるため 21NU=−aN2/V である。
剛体の芯は、配置積分で各粒子が使える体積を減らすものとして扱う。2つの粒子の中心は距離 σ より近づけないので、1組が排除する体積は半径 σ の球34πσ3 で、これを組の2粒子で分けると1粒子あたり bv:=32πσ3(添字 v は外場の b と区別するため)。各粒子が使える体積を V−Nbv とみなすと、配置積分は
QN≈(V−Nbv)Nexp(βVaN2)
になる。これは密度が低い所でだけ正しい近似で、平均場の近似とは別のものである。Z=QN/(N!λT3N) と Stirling の公式から
F=−NkBTlnNλT3V−Nbv−NkBT−VaN2,
圧力 P=−∂F/∂V は
P=V−NbvNkBT−V2aN2(3.7.23)
で、van der Waals の状態方程式になる。引力の尾の平均場は、圧力を aN2/V2 だけ下げる。
∂P/∂V=0 と ∂2P/∂V2=0 を同時に満たす点が臨界点で、
Vc=3Nbv,kBTc=27bv8a,Pc=27bv2a(3.7.24)
である。T<Tc の等温線には ∂P/∂V>0 の区間があり(図 3.7.3)、そこでは体積を増やすと圧力が上がるので、一様な状態は力学的に不安定になる。Ising 模型の T<Tc で m=0 が FMF の極大になったのと同じ事情で、現実には気体と液体が共存する。共存する圧力を決める Maxwell の等面積の作図は、自由エネルギーの V についての凸包をとることにあたる。

図 3.7.3 van der Waals の等温線(換算した変数。黒い点が臨界点)。T=0.9Tc の線は 0.719<V/Vc<1.53 で右上がりになり、一様な状態が不安定になる。平均場の近似の結果なので実線
例題 3.7.5 換算した状態方程式 ★★
オリジナルvan der Waals の状態方程式 (3.7.23) について次に答えよ。
- 臨界点 (3.7.24) を導き、PcVc/(NkBTc) を求めよ。
- Pr=P/Pc、Vr=V/Vc、Tr=T/Tc で書き直し、物質によらない形になることを示せ。
- 引力の尾が uat(r)=−ε0(σ/r)6(r>σ)のとき、a を求めよ。
解答
(1) ∂P/∂V=−(V−Nbv)2NkBT+V32aN2=0、∂2P/∂V2=(V−Nbv)32NkBT−V46aN2=0。第1式から NkBT=2aN2(V−Nbv)2/V3、第2式から NkBT=3aN2(V−Nbv)3/V4。2つを等しいとおくと 2V=3(V−Nbv)、すなわち Vc=3Nbv。第1式に戻すと NkBTc=2aN2(2Nbv)2/(3Nbv)3=8aN/(27bv)、これを状態方程式に入れてPc=2Nbv8aN/(27bv)−9N2bv2aN2=27bv24a−27bv23a=27bv2a。よって
NkBTcPcVc=27bv2a⋅3Nbv⋅8aN27bv=83.
(2) P=PcPr などを代入して Pc で割ると
Pr=3Vr−18Tr−Vr23.
a と bv は臨界点の値に吸収され、式に残らない(対応状態の法則)。この換算した式で Tr=0.9 の等温線が右上がりになる区間 0.719<Vr<1.53 と、Maxwell の作図で決まる共存の値は、第3部第4章の例題 3.4.6 で求めた。
(3) 式 (3.7.22) から
a=−21∫σ∞(−ε0r6σ6)4πr2dr=2πε0σ6∫σ∞r4dr=2πε0σ6⋅3σ31=32πε0σ3.
a=ε0bv となり、臨界温度は kBTc=8a/(27bv)=278ε0 と、引力の深さだけで決まる。
近似の裏付け
型 B(極限) | 小さいもの γσ→0(引力の尾を uat=γ3φ(γr) と書いたときの、芯の直径と引力の到達距離の比。Kac の極限) | 証明 証明済み(Lebowitz, Penrose(1966)、J. Math. Phys. 7、98:極限の自由エネルギーは、芯だけの系の厳密な自由エネルギーから an2 を引いたものの凸包=Maxwell の作図。V−Nbv の置き換えはこの極限に含まれない別の近似) | 行き先 近似の数理 第6章
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