解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第3部 第4章 §3.4.5 ★★★ Legendre 変換は凸でない部分を凸包に置き換える。これが気体と液体の共存で、G(P) の折れ目が1次相転移の体積の跳びになる
安定性の条件
3.4.2節で、F(T,V) は V について下に凸であることを示した。2階偏微分で書くと
∂V2∂2FT=−∂V∂PT=VκT1≥0,∂T2∂2FV=−TCV≤0(3.4.13)
で、等温圧縮率 κT=−V1(∂V/∂P)T と定積熱容量 CV が負でないことと同じである。κT<0 の状態では、外から少し押して体積が減ると圧力も下がるので、さらに押し込まれて潰れていく。凸性は熱力学的な安定性の条件である。
ところが、分子間の引力を平均場で取り込んだ van der Waals の状態方程式(由来は第3部第7章)では、低温で (∂P/∂V)T>0 の区間が現れる。臨界点の値 Tc,Pc と1分子あたりの体積 vc で測った換算量 T,P,v では
P=3v−18T−v23,f(v)=−38Tln(3v−1)−v3(P=−dvdf)(3.4.14)
で、f は1分子あたりの自由エネルギー(Pcvc 単位。T だけの関数の項は省いた)である。T<1 では f(v) に上に凸な区間ができる。
Legendre 変換は凸包しか見ない
圧力 P を外から決めた系の Gibbs エネルギーは g(P)=infv[f(v)+Pv] である。第1部第7章で見たとおり、sup(ここでは inf)で定義した Legendre 変換は、関数の凸でない部分を見ない。g(P) は、f をその凸包 f∗∗(f の下に引ける凸関数のうち最大のもの)に置き換えても変わらない。f の上に凸な区間では、凸包は2点 vl<vg で f に接する1本の直線、共通接線になる。共通接線の条件は
−f′(vl)=−f′(vg)=Pco,f(vl)+Pcovl=f(vg)+Pcovg(3.4.15)
で、1つ目は2点の圧力が等しいこと、2つ目は2点の1分子あたりの Gibbs エネルギー(化学ポテンシャル)が等しいことである。2つ目を f(vl)−f(vg)=∫vlvgPdv と書き直すと ∫vlvg(P−Pco)dv=0 になり、P–v 図で水平線の上下の面積が等しいという Maxwell の等面積則になる。
凸包の直線部分は、体積 vl の液体と vg の気体が割合を変えて共存している状態を表す。系の一部を液体、残りを気体にすると、全体の自由エネルギーは2つの値の重み付き平均、すなわち2点を結ぶ線分の上の値になる。元の曲線 f(v) がこの線分より上にあるなら、一様な状態より2相に分かれた状態のほうが自由エネルギーが低い。3.4.3節の最小原理により、系は2相に分かれる。f∗∗ は、この分かれ方まで含めて最小にした自由エネルギーである。

図 3.4.3 換算温度 T=0.9 の van der Waals 気体。左:f(v) に Pcov を足して傾けた図(Pco=0.647)。共通接線は水平線になり、vl=0.603 と vg=2.349 で曲線に接する。その間で曲線が直線より上にあるので、凸包は直線部分を持つ。右:g(P)=f(v)+Pv を v を動かして描いた曲線。液体の枝と気体の枝が Pco で交わり、g(P)=infv[f+Pv] は2つの枝の低いほうをたどって Pco で折れる。灰色は (∂P/∂v)>0 の不安定な枝。どの曲線も近似を含まない
G(P) の折れ目が1次相転移
図 3.4.3 の右のように、g(P)=infv[f(v)+Pv] は、液体の枝と気体の枝の低いほうをたどる。2つの枝は Pco で交わり、そこで g は折れる。式 (3.4.7) により ∂g/∂P=v なので、折れ目の左右で傾き、すなわち1分子あたりの体積が vg から vl へ跳ぶ。Gibbs エネルギーの1階導関数が不連続になる転移を 1次相転移と呼ぶ。第1部第7章の例題では (x2−1)2 の Legendre 変換に折れ目ができることを見たが、それと同じ数学が、気体と液体の転移の体積の跳びを記述している。
逆に、凸な関数の Legendre 変換は滑らかである。f が狭義に凸なら g は P について微分可能で、体積は圧力の連続関数になる。T>1 では f は全域で凸なので、気体と液体の区別はなく、連続的につながる。T→1 で vl と vg が一致して跳びが 0 になる点が臨界点で、臨界点の近くの振る舞いを自由エネルギーの展開で調べるのが第3部第10章の Landau 理論である。
例題 3.4.6 van der Waals 気体の共存線 ★★
オリジナル換算した van der Waals の式 (3.4.14) を使う。
- (1) (∂P/∂v)T=0 が 4Tv3=(3v−1)2 と同じであることを示し、(∂P/∂v)T>0 の区間が現れるのは T<1 のときに限ることを示せ。T=0.9 でその区間の端の v と、そこでの P を数値で求めよ。
- (2) T=0.9 で共通接線の条件 (3.4.15) を数値で解き、Pco,vl,vg を求めよ。等面積則が成り立つことも確かめよ。
- (3) 転移での1分子あたりの体積の跳びを求めよ。
解答
(1) ∂P/∂v=−(3v−1)224T+v36=v3(3v−1)26[(3v−1)2−4Tv3] で、分母は v>1/3 で正なので、符号は (3v−1)2−4Tv3 で決まる。∂P/∂v>0 は T<h(v):=(3v−1)2/(4v3) と同じである。h′(v)=4v43(3v−1)(1−v) なので、h は v=1 で最大値 h(1)=1 を取る。したがって T<1 のときに限り、h(v)>T となる v の区間が現れる。T=0.9 で 4Tv3=(3v−1)2 を数値で解くと v=0.719 と 1.529、そこでの圧力は P=0.420(極小)と 0.724(極大)である。
(2) 3つの未知数に3つの式(P(vl)=Pco、P(vg)=Pco、f(vl)+Pcovl=f(vg)+Pcovg)を Newton 法で解くと
Pco=0.647,vl=0.603,vg=2.349.
Pco は (1) の極小 0.420 と極大 0.724 の間にある。∫vlvg(P−Pco)dv を数値積分すると 0(10−11 以下)になり、等面積則が成り立つ。
(3) vg−vl=1.745(臨界体積の単位)で、気体は液体の 3.89 倍の体積を持つ。この跳びは g(P) の Pco での傾きの差である。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com