解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第3部 第4章 §3.4.4 ★★★ Z(β)=∫W(E)e−βEdE/ΔE の対数は、粒子数が大きいと被積分関数の最大値で決まり、その最大値が U(S) の Legendre 変換になる
統計力学の F と熱力学の F
第3部第3章では、温度 T の熱浴に接した系の分配関数 Z=∑ie−βEi(β=1/(kBT))を導き、F=−kBTlnZ と置いた。この F が、この章の F=infS[U−TS] と同じものであることを示す。
和をエネルギーの殻ごとにまとめる。幅 ΔE の殻 [E,E+ΔE) には W(E)=eS(E)/kB 個の状態があるので
Z(β)=∫0∞ΔEdEW(E)e−βE=∫0∞ΔEdEexp[kBS(E)−βE].(3.4.11)
Z は状態数 W(E) の Laplace 変換である。指数の中の S(E)/kB と βE はどちらも粒子数 N に比例する大きさを持つので、指数関数は最大点 E∗ の近くに鋭い山を作る。最大点の条件は ∂S/∂E=1/T で、これは E∗ が温度 T での内部エネルギー U であることを言っている。山の幅は、最大点のまわりで指数を2次まで展開した 2kB1∂E2∂2S(E−E∗)2=−2kBT2CV(E−E∗)2 から kBT2CV 程度で、CV∝N なので E∗∝N に比べて 1/N の割合でしかない。山の面積は「高さ×幅」なので
lnZ=Esup[kBS(E)−βE]+21ln(ΔE)22πkBT2CV+⋯(3.4.12)
となる。第1項は N に比例し、第2項は lnN の程度なので、N→∞ で lnZ を N で割ると第1項だけが残る。−kBT を掛けると
−kBTlnZ≈Einf[E−TS(E)]=Sinf[U(S)−TS]=F(T)
で、統計力学の F と熱力学の F が一致する。2つ目の等号は、S(E) と U(S) が互いの逆関数なので、E について最小にすることと S について最小にすることが同じであることによる。こうして、指数の重みの Laplace 変換は、N が大きい極限で、指数の中身の Legendre 変換に置き換わる。ln を取って N で割ると、積分が最大値に、∫eN(⋯) が sup(⋯) に変わる、というのが要点である。
lnZ は N が小さくても β について必ず下に凸である。dβ2d2lnZ=⟨E2⟩−⟨E⟩2≥0(エネルギーの分散)だからである。したがって −βF=lnZ は β について凸で、カノニカル分布から作った自由エネルギーは、状態数 S(E) が凹でなくても凸な関数として出てくる。S(E) が凹でない部分は、Legendre 変換の段階で凸包に置き換わって見えなくなる。この置き換わりの物理的な意味は3.4.5節で扱う。

図 3.4.2 W(E)∝Ek のときの式 (3.4.11) の被積分関数 Eke−βE を、最大点 E∗=k/β での値で割って E/E∗ の関数として描いたもの((ue1−u)k、u=E/E∗)。単原子理想気体では k≈3N/2。k が大きいほど山は鋭くなり、半値全幅は 22ln2/k に近づく(k=20 で 0.53、k=200 で 0.17)。3本とも厳密な式の値で、近似を含まない
ほかのアンサンブルも同じ形
和を取る変数を変えても同じことが起こる。粒子数 N も熱浴とやりとりする系の大分配関数 Ξ=∑NeβμNZN では、ZN=e−βF(T,V,N) の N についての和を eβμN の重みで取るので、N が大きいと−kBTlnΞ≈infN[F−μN]=Ω(T,V,μ) になる。体積も動かせる系の分配関数 ∫dVe−βPVZ(V) からは infV[F+PV]=G が出る。示量変数 x について「共役な傾き y を使った指数の重み eβyx で和を取る」操作が、N が大きい極限で「x を y に取り替える Legendre 変換」に移る。図 3.4.1 の矢印1本1本に、統計力学のアンサンブルの取り替えが1つずつ対応している。
近似の裏付け
型 B(極限) | 小さいもの 1/N→0(粒子数が大きい。lnZ を N で割った量を比べる) | 証明 条件付き(S(E)/N が N→∞ で N によらない凹関数に近づき、その最大点が孤立している場合の Laplace の方法。理想気体は Stirling の公式で確かめることができる。相互作用のある系で S/N の極限が存在する条件は要確認) | 行き先 近似の数理 第7章
例題 3.4.4 べき乗の状態数で Laplace と Legendre を比べる ★★
オリジナル状態数が W(E)=(E/ε0)k(ε0 はエネルギーの単位、k>0)で与えられ、ΔE=ε0 とする。
- (1) 式 (3.4.11) の Z(β) を厳密に求めよ。
- (2) 式 (3.4.12) の第1項 supE[kln(E/ε0)−βE] を求めよ。
- (3) βε0=1 とし、(1) の lnZ と (2) の値の差を k=10,100,1000 で求め、21ln(2πk) と比べよ。差を (2) の値で割った相対誤差も求めよ。
解答
(1) u=βE と置くと Z=∫0∞ε0dE(ε0E)ke−βE=(βε0)−(k+1)∫0∞uke−udu=(βε0)k+1Γ(k+1)。
(2) E で微分して k/E−β=0 より E∗=k/β。値は klnβε0k−k。E∗ は単原子理想気体(k≈23N)なら 23NkBT である。
(3) βε0=1 では lnZ=lnΓ(k+1)、(2) の値は klnk−k で、差は lnΓ(k+1)−(klnk−k) になる。数値は
k101001000差2.0793.2224.37321ln(2πk)2.0703.2224.373相対誤差1.6×10−18.9×10−37.4×10−4
差は Stirling の公式の補正 21ln(2πk) にほぼ等しく、式 (3.4.12) の第2項(山の幅の対数)にあたる。差そのものは k とともにゆっくり増えるが、k に比例して増える主要項に比べた割合は lnk/k の速さで 0 に近づく。lnZ を粒子数あたりで見る限り、Laplace 変換を Legendre 変換に置き換えた誤差は消える。
例題 3.4.5 理想気体の Ξ と Stirling の公式 ★★
オリジナル1粒子の分配関数を Z1 とし、区別できない N 粒子の理想気体の分配関数を ZN=Z1N/N! とする(第3部第3章)。
- (1) 大分配関数 Ξ=∑N=0∞eβμNZN を求め、Ω=−kBTlnΞ を書け。
- (2) N=−∂Ω/∂μ を求め、Ω を μ について Legendre 変換して戻した F=Ω+μN を N の関数として書け。
- (3) (2) の F と厳密な FN=−kBTlnZN を比べ、差が何であるかを述べよ。
解答
(1) z=eβμ と置くと Ξ=∑N(zZ1)N/N!=exp(zZ1) で、和は厳密に計算できる。Ω=−kBTZ1eβμ。
(2) N=−∂Ω/∂μ=Z1eβμ、すなわち μ=kBTln(N/Z1)。このとき Ω=−kBTN なので
F=Ω+μN=kBT[NlnZ1N−N].
Ω は μ の指数関数で、その Legendre 変換が NlnN−N の形になった。第1部第7章の例題で見た ex と plnp−p の対が、ここに現れている。
(3) 厳密には FN=−kBT(NlnZ1−lnN!)=kBT[lnN!−NlnZ1]。(2) との差は kBT[lnN!−(NlnN−N)]≈21kBTln(2πN) で、Stirling の公式 lnN!≈NlnN−N の補正そのものである(N=10,100,1000 で 2.08,3.22,4.37。前の例題の表と同じ数)。大正準から Legendre 変換で戻すと、和を最大項で置き換えたことになり、lnN! が Stirling の公式の主要部に置き換わる。
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