解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第3部 第4章 §3.4.2 ★★★ 取り替える変数の組を1つ選ぶごとにポテンシャルが1つ決まる。示量変数を全部取り替えると 0 しか残らない
第1部第7章の道具
第1部第7章で作った道具を3つ思い出しておく。1つ目は定義で、下に凸な f(x) の Legendre 変換は f∗(p)=supx[px−f(x)]、傾き p の接線の切片は −f∗(p) である。2つ目は導関数の入れ替えで、(f∗)′(p)=x、(f∗)′′=1/f′′ が成り立つ。3つ目は取り替えない変数の規則で、f が別の変数 y にも依存するとき、y を止めたまま x だけを取り替えると、y についての偏微分は符号を変えて引き継がれる(∂f∗/∂y=−∂f/∂y)。熱力学では切片に負号を付けずにそのまま使う習慣があり、F(T,V)=infS[U−TS]=−U∗ と書いた。
取り替える変数の組で決まるポテンシャル
U(S,V,N) の3つの示量変数のうち、取り替えるものの集合を1つ選ぶ。選んだ変数 xa をそれぞれの傾き ya=∂U/∂xa に取り替えた関数を
Φ(取り替えた傾き, 残した示量変数):=選んだ xainf[U−a∑yaxa](3.4.5)
で定める。傾きは (yS,yV,yN)=(T,−P,μ) なので、V を取り替えると −yVV=+PV の項が付く。選び方は 23=8 通りあり、名前の付いたものは次の5つである。
F(T,V,N)G(T,P,N)=Sinf[U−TS],=S,Vinf[U−TS+PV],He(S,P,N)Ω(T,V,μ)=Vinf[U+PV],=S,Ninf[U−TS−μN],(3.4.6)
と、何も取り替えない U 自身である。inf を2つの変数について取るとき、1つずつ順に取っても同時に取っても値は同じなので、G は F の V を取り替えても、He の S を取り替えても得られる。この「順序によらない」ことが、ポテンシャルを図 3.4.1 の格子に並べられる理由である。

図 3.4.1 U(S,V,N) の示量変数を傾きに取り替える組み合わせ。矢印1本が1変数の Legendre 変換(切片に負号を付けない熱力学の約束)で、どの道筋を通っても行き先は同じ。(S,V,N) を全部取り替えた右下は、Gibbs–Duhem の関係を満たす (T,P,μ) で 0、満たさなければ −∞ になる
取り替えた変数と残した変数の偏微分
式 (3.4.5) の inf を与える点では ∂U/∂xa=ya が成り立つ。Φ を ya で微分すると、inf の点の動きからの寄与はこの条件で消え、−xa だけが残る。残した示量変数 xb で微分すると、取り替えない変数の規則により ∂U/∂xb がそのまま引き継がれる(F=−U∗ と負号ごと約束したので符号は変わらない)。
∂ya∂Φ=−xa,∂xb∂Φ=∂xb∂U=yb.(3.4.7)
たとえば F では ∂F/∂T=−S、∂F/∂V=−P、∂F/∂N=μ になる。
凸性も引き継がれる。U−∑ayaxa は ya の1次式なので、その inf は ya について上に凸である(1次式の下限は上に凸)。また、残した変数 xb については、(xa,xb) について同時に下に凸な関数を xa について最小にしたものなので、xb について下に凸のままである。したがって F(T,V,N) は T について上に凸、V と N について下に凸で、G(T,P,N) は T と P の両方について上に凸になる。この符号が3.4.5節で安定性の条件として現れる。
全部取り替えると 0 が残る
図 3.4.1 の右下、3つを全部取り替えた関数は
S,V,Ninf[U(S,V,N)−TS+PV−μN]
である。角括弧の中は1次同次性 (3.4.2) により (S,V,N) について1次同次なので、どこか1点で負の値を取れば、その点を λ 倍して λ→∞ とすると −∞ に下がる。負の値をどこでも取らなければ、λ→0 で 0 に近づくので下限は 0 である。値が 0 になる (T,P,μ) の組は、ある (S,V,N) で Euler の関係 (3.4.3) が成り立つ組、すなわち Gibbs–Duhem の関係で結ばれた組に限られる。示量変数を全部取り替えると、関数としての情報は残らず、「どの (T,P,μ) の組が許されるか」という拘束だけが残る。
同じ理由で、示量変数を1つだけ残したポテンシャルは、その変数の1次式になる。G(T,P,N) は N だけが示量変数なので G=Ng(T,P) と書くことができ、式 (3.4.7) の ∂G/∂N=μ から g=μ、すなわち G=μN である。Ω(T,V,μ) は V だけが示量変数なので、∂Ω/∂V=−P から Ω=−PV である。どちらも Euler の関係 (3.4.3) を書き直したものになっている。
例題 3.4.2 光子気体では G=0 ★★★
オリジナル空洞の中の光子気体は、粒子数が保存しないので N を変数に持たず、基本関係式は定数 K>0 を使って U(S,V)=KS4/3V−1/3 と書くことができる(この形の由来は黒体放射を扱う第5部第3章で導く)。
- (1) T を求め、U=arVT4(ar=81/(256K3))を示せ。
- (2) F(T,V) と P を求め、G=F+PV=0 を示せ。
- (3) He(S,P)=infV[U+PV] を求め、S の1次式 T(P)S になることを確かめよ。
解答
(1) T=∂U/∂S=34KS1/3V−1/3 より S=(4K3T)3V。これを U に入れるとU=K(4K3T)4V=256K381VT4。
(2) F=U−TS=KS4/3V−1/3−34KS4/3V−1/3=−31U=−31arVT4。P=−∂F/∂V∣T=31arT4=U/(3V) で、圧力は温度だけで決まる。G=F+PV=−31arVT4+31arVT4=0。
(3) U+PV を V で微分して 0 と置くと −31KS4/3V−4/3+P=0、すなわち最小点で PV=U/3。よって He=U+PV=34U で、最小点の V=(K/(3P))3/4S を入れて
He(S,P)=34(3P)1/4K3/4S.
(2) の P=31arT4 を T について解くと T=(3P/ar)1/4=34(3P)1/4K3/4 で、He=T(P)S になっている。
この基本関係式の示量変数は (S,V) の2つだけなので、2つとも取り替えた G は、本文の議論どおり 0 になる。光子気体の化学ポテンシャルが 0 であること(G=μN で N が変数にないこと)と、圧力が温度だけで決まること(Gibbs–Duhem の関係が SdT=VdP だけになること)は、同じ事実の言い換えである。He が S の1次式になったのも、示量変数が1つだけ残ったためである。
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