実験計画法 第4章 §4.2 ★★★ 母平均・母平均の差・新しいデータの区間。いずれも「推定量の分散を Ve で置き換えて t 分布」の1つの型で書ける
推定の基本の型
分散分析で要因 A が有意になったら、次に各水準の母平均 μi=μ+ai を推定する。この節の推定はすべて同じ型で書ける。手順は次の3段である。
- 推定したい量 θ を、水準平均の線形結合 θ^=∑icixˉi⋅ で推定する。
- その分散を誤差分散 σ2 で表す。
- 誤差分散を Ve に置き換えて t 分布を使う。
定理 4.6(線形結合の区間推定 ★★★)
定数 c1,…,cℓ について θ=∑iciμi, θ^=∑icixˉi⋅ とする。このとき
E(θ^)=θ,V(θ^)=rσ2i∑ci2,Ve∑ici2/rθ^−θ∼tϕe(4.9)
が成り立ち、θ の信頼係数 1−α の信頼区間は
θ^±tϕe(α/2)rVei∑ci2(4.10)
である。
証明
水準平均 xˉi⋅∼N(μi,σ2/r) は互いに独立なので、θ^ は正規分布に従う。平均と分散は次のとおりである。
E(θ^)=∑ciμi=θ,V(θ^)=∑ci2σ2/r
よって Z=(θ^−θ)/σ2∑ci2/r∼N(0,1)。定理 4.4 (1) より W=Se/σ2∼χϕe2 である。これは水準平均たちと独立なので、Z とも独立である。補題 4.3 の t 分布の定義より
W/ϕeZ=Ve/σ2(θ^−θ)/σ2∑ci2/r=Ve∑ci2/rθ^−θ∼tϕe.
σ は分子と分母で消える。P(∣T∣≤tϕe(α/2))=1−α を θ について解けば (4.10) を得る。
この解説では上側 100α% 点を tn(α) と書く。両側の信頼係数 95% の区間には tϕe(0.025) が入る。品質管理の本では両側の確率で t(ϕe,0.05) と書く流儀もあるが、指す値は同じである。
この定理を3つの場合に使う。
- 水準 Ai の母平均:ci=1、ほかは 0。点推定は μ^(Ai)=xˉi⋅、信頼区間は xˉi⋅±tϕe(α/2)Ve/r。
- 2水準の母平均の差:ci=1, ck=−1。点推定は xˉi⋅−xˉk⋅、信頼区間は xˉi⋅−xˉk⋅±tϕe(α/2)2Ve/r。
- 対比:∑ici=0 を満たす線形結合 ∑ciμi。たとえば「第3水準と、第1・第2水準の平均との差」は c=(−21,−21,1) である。
対比では ∑ciμi=∑ciai となって一般平均が消えるので、対比は効果だけの量である。
有効反復数
母平均の点推定値の分散を σ2/ne と書いたときの ne を有効反復数と呼ぶ。1元配置法では水準平均の分散が σ2/r なので、ne=r である。繰返しが不揃いなら水準ごとの繰返し数になる。
2元配置法以上では、有意でない項をプーリングしたあとの点推定の分散を数え上げる必要があり、田口の式と伊奈の式で ne を求める。これは第5章で扱う。
最小有意差(lsd)
2つの水準 Ai, Ak の母平均が等しいかを、両側 t 検定で調べる。有意水準は α とする。(4.9) で θ=μi−μk=0 とおくと、検定統計量は
t0=2Ve/rxˉi⋅−xˉk⋅
で、∣t0∣≥tϕe(α/2) なら棄却する。これを差の大きさについて書き直すと
∣xˉi⋅−xˉk⋅∣≥lsd,lsd:=tϕe(α/2)r2Ve(4.11)
となる。lsd(least significant difference、最小有意差)は「2つの水準平均の差がこれ以上なら有意」という境目の値である。繰返し数が等しければ lsd はどの組でも同じなので、1つ計算しておけば、水準平均を大きさの順に並べて差を lsd と比べるだけで、すべての組の判定ができる。また、差の信頼区間 xˉi⋅−xˉk⋅±lsd が 0 を含まないことと、差が有意であることは同じである。
多重比較の問題
lsd による判定は、1つの組についての検定としては有意水準 α である。しかし水準の組 (2ℓ) 個を全部同時に判定すると、「本当は差がないのにどれか1組を有意とする確率」は α より大きくなる。この確率をファミリーワイズの第1種の過誤確率と呼ぶ。
5水準なら 10 組あり、Bonferroni の不等式からは上限 10α までしか押さえられない。分散分析で要因が有意になったときだけ lsd を使う方法(Fisher の LSD 法)は、この増加をある程度抑える。ただし4水準以上では有意水準に保てる保証はない。
ファミリーワイズの過誤確率を α 以下に抑えたいときは、次の方法を使う。
- Bonferroni の方法:比較する組の数を m として、1組あたりの有意水準を α/m にする。
- Tukey の方法。
試験で「lsd を用いて」と指定があれば lsd を使い、多重性について問われたら Bonferroni の不等式で上限を示せばよい。
データの予測
水準 Ai で新しく1回測ったときの値 x を予測する。x=μi+ε と書け、新しい誤差 ε∼N(0,σ2) は今までのデータと独立である。点予測は x^=xˉi⋅ である。予測の誤差 x−x^=(μi−xˉi⋅)+ε は独立な2つの部分の和で、
E(x−x^)=0,V(x−x^)=rσ2+σ2=(1+r1)σ2
である。σ2 を Ve に置き換えると、定理 4.6 と同じ議論で
(1+1/r)Vex−xˉi⋅∼tϕe,予測区間xˉi⋅±tϕe(α/2)(1+r1)Ve(4.12)
となる(証明は確認テスト 4.2-4)。予測区間は母平均の信頼区間より広い。母平均の区間の幅は繰返しを増やせば 0 に縮むが、予測区間の幅は 2tϕe(α/2)σ 程度より狭くならない。新しいデータ1個が持つ誤差の分散 σ2 は、手元のデータをいくら増やしても小さくならないためである。
要因が有意でないときの推定
F 検定で要因が有意でなかったときは、前節の最後で述べたように要因を誤差にプールすることが多い。構造式を xij=μ+εij とみなす。このときの誤差と推定は次のようになる。
- 誤差:平方和は Se′=SA+Se=ST である。自由度は ϕe′=N−1、平均平方は Ve′=ST/(N−1)。
- 母平均の点推定:どの水準でも μ^=xˉˉ で、分散は σ2/N。
- 信頼区間:xˉˉ±tN−1(α/2)Ve′/N。有効反復数はデータの総数に増える。
これは要因の効果を 0 と仮定して得た区間なので、効果が 0 でなければ偏りを含む。
対比による平方和の分解
水準が温度や濃度のように数量で、等間隔に設定されているときは、SA を「直線的な傾向」と「それ以外」に分けて調べられる。係数の和が 0 の対比 L=∑icixˉi⋅ に対して
SL=∑ici2rL2(4.13)
を対比の平方和と呼ぶ。自由度は 1 である。帰無仮説 H0:∑ciμi=0 のもとで次が成り立つ。
σ2∑ci2/rL∼N(0,1),σ2SL∼χ12,VeSL∼F1,ϕe
最後の量は (4.9) の t 統計量の2乗にほかならない。
係数ベクトルが互いに直交する(∑icici′=0)対比を、水準数より1つ少ない個数だけとる。その平方和の合計はちょうど SA になる。3水準なら直交多項式の係数がその組である。1次は c(1)=(−1,0,1)、2次は c(2)=(1,−2,1) である。
命題 4.7(直交対比による SA の分解 ★★)
係数ベクトル c(1),…,c(ℓ−1) がそれぞれ成分の和 0 で、互いに直交するとする。このとき
SA=k=1∑ℓ−1SLk
である。
証明
d=(xˉ1⋅−xˉˉ,…,xˉℓ⋅−xˉˉ) とおくと SA=r∥d∥2 である。このベクトルは成分の和が 0 の部分空間(ℓ−1 次元)に入り、係数ベクトルたちはその部分空間の直交基底になる。正規化した uk=c(k)/∥c(k)∥ で展開すると、Parseval の等式から ∥d∥2=∑k(uk⋅d)2 である。係数の和が 0 なので、内積は次のように対比に一致する。
c(k)⋅dr(uk⋅d)2=i∑ci(k)xˉi⋅=Lk,=rLk2/∥c(k)∥2=SLk.
足し合わせて結論を得る。
例題 4.3 分散分析後の区間推定・lsd・予測 ★★★
オリジナル例題 4.1 のデータについて次を求めよ。要約値と分位点は次のとおりである。
xˉ1⋅=13.0,xˉ2⋅=16.5,xˉ3⋅=16.0,Ve=2.778,ϕe=9,r=4,t9(0.025)=2.262
- μ(A2) の信頼係数 95% の信頼区間。
- lsd を求め、3組の水準の差のうち有意なものを判定せよ。
- μ(A2)−μ(A1) の信頼係数 95% の信頼区間。
- 水準 A2 で新しく1個作った部品の強度の 95% 予測区間。
解答
(1) Ve/r=2.778/4=0.8333 なので、幅の半分は 2.262×0.8333=1.885。信頼区間は 16.5±1.885、すなわち [14.61, 18.39] である。
(2) lsd は次のとおりである。
lsd=2.262×2×2.778/4=2.262×1.1785=2.666
水準平均を大きい順に並べると、第2水準(16.5)、第3水準(16.0)、第1水準(13.0)である。差を lsd と比べる。
- A2−A1=3.5:lsd 以上なので有意。
- A3−A1=3.0:lsd 以上なので有意。
- A2−A3=0.5:lsd 未満なので有意でない。
第1水準だけが低く、第2水準と第3水準は区別できないと読める。
(3) 点推定は 16.5−13.0=3.5 である。幅の半分は lsd そのものの 2.666 なので、区間は 3.5±2.666、すなわち [0.83, 6.17]。0 を含まないことは (2) の判定と一致する。
(4) 計算は次のとおりである。
(1+1/4)×2.778幅の半分予測区間=3.472=1.863,=2.262×1.863=4.215,=16.5±4.215=[12.28, 20.72].
(1) の母平均の区間の約 2.2 倍の幅になる(比は (1+1/r)/(1/r)=5)。
例題 4.4 直交多項式による SA の分解 ★★
オリジナル例題 4.1 の3水準は熱処理温度 100,110,120∘C に対応していたとする。1次の対比 c(1)=(−1,0,1) と2次の対比 c(2)=(1,−2,1) の平方和を求めよ。SA が両者の和になることを確かめ、それぞれを F1,9(0.05)=5.12 と比べて検定せよ。
解答
対比と平方和を計算する。
L1L2=−13.0+16.0=3.0,=13.0−2×16.5+16.0=−4.0,∑(ci(1))2∑(ci(2))2=2,=6,SL1SL2=4×3.02/2=18.000,=4×16/6=10.667.
c(1)⋅c(2)=−1+0+1=0 で2つは直交している。和は SL1+SL2=28.667=SA と一致する(命題 4.7)。
検定は次のとおりである。
- 1次:FL1=18.000/2.778=6.48≥5.12 で、1次の傾向は有意。
- 2次:FL2=10.667/2.778=3.84<5.12 で、2次の成分は有意でない。
温度を上げると強度が直線的に上がる傾向が認められ、曲がり(2次の成分)があるとは言えない。ただし水準平均の並び 13.0, 16.5, 16.0 は 110∘C で頭打ちのようにも見える。2次の成分が有意でないことを「曲がりがない」と読まないこと(§4.1 の最後の注意と同じ)。
確認テスト
オリジナル
- 4.2-1 1元配置法(繰返し数 r)の lsd の式を書け。また ∣xˉi⋅−xˉk⋅∣≥lsd がどの検定の棄却域と同じかを述べよ。
- 4.2-2 確認テスト 4.1-2 のデータ(4水準・繰返し 3、水準平均 10, 12, 11, 15、Se=24)を使う。μ(A4) と μ(A4)−μ(A1) の信頼係数 95% の信頼区間を求めよ。t8(0.025)=2.306 とする。
- 4.2-3 同じデータで、対比 θ=μ4−31(μ1+μ2+μ3) を考える。点推定値・信頼係数 95% の信頼区間・対比の平方和 SL を求めよ。対比の平方和が SA のどれだけを占めるかも答えよ。
- 4.2-4 水準 Ai での新しいデータ x について、次を示せ。
(1+1/r)Vex−xˉi⋅∼tϕe
5. 4.2-5 水準数 ℓ=5 の1元配置法ですべての2水準の組を lsd(1組あたり有意水準 5%)で比べる。比べる組の数と、Bonferroni の不等式によるファミリーワイズの第1種の過誤確率の上限を求めよ。この上限を 5% にするには、1組あたりの有意水準をいくらにすればよいか。
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