実験計画法 第8章 §8.3 ★★★ 列の符号の線形モデルとして書けば、列平方和の分布・期待平均平方・有効反復数がすべて1行の計算で出る
データの構造式を列の符号で書く
直交表に因子と交互作用を割り付け、第 r 実験のデータを xr とする。データの構造式は、多元配置と同じく「一般平均+割り付けた主効果+割り付けた交互作用+誤差」である。式 (8.3) のとおり、2水準の主効果も交互作用もその列の符号に1つのパラメータを掛けた形になるので、構造式は
x=μ1+k=1∑N−1βkuk+ε,ε∼N(0,σ2IN)(8.4)
と書ける。ここで βk は、列[k]に割り付けた効果の大きさである。
- 主効果の列なら βk=a1、交互作用の列なら βk=(ab)11。
- 何も割り付けていない列では βk=0 と仮定する。
符号ベクトルが直交しているので、各パラメータの最小二乗推定量は
μ^=N1⊤x=xˉ,β^k=Nuk⊤x=NTk1−Tk2(8.5)
である(正規方程式の係数行列が NI になるため)。たとえば因子 A が列[k]にあれば
a^1=β^k=xˉA1−xˉ
である。これは「A1 のデータの平均 − 全平均」と同じである(xˉA1=Tk1/(N/2) を代入すると確かめられる)。
列平方和の分布と期待平均平方
定理 8.7(列平方和の分布 ★★★)
構造式 (8.4) のもとで、次が成り立つ。
- u1⊤x,…,uN−1⊤x は互いに独立で、uk⊤x∼N(Nβk,Nσ2)。
- E(S[k])=σ2+Nβk2。とくに何も割り付けていない列では S[k]/σ2∼χ12。
- 割り付けのない列の集合を E(本数 ϕe)とし、
Se=k∈E∑S[k],Ve=ϕeSe
とおく。列[k]に効果を置いたとき、帰無仮説 H0:βk=0 のもとで
F0=VeS[k]∼F1,ϕe.
証明
(1) x は多変量正規なので、その線形変換 (u1⊤x,…,uN−1⊤x) も多変量正規であり、独立性は共分散が0であることと同値である。Cov(uj⊤x,uk⊤x)=σ2uj⊤uk=0(j=k)。期待値は E(uk⊤x)=μuk⊤1+∑lβluk⊤ul=Nβk、分散は σ2uk⊤uk=Nσ2 である。
(2) Z=uk⊤x とおくと E(Z2)=V[Z]+(EZ)2=Nσ2+N2βk2。S[k]=Z2/N なので E(S[k])=σ2+Nβk2。βk=0 なら Z/Nσ2∼N(0,1) である。よって
σ2S[k]=(Nσ2Z)2∼χ12.
(3) 誤差の列の S[k]/σ2 は独立な χ12 である。よってその和は Se/σ2∼χϕe2 となる。帰無仮説のもとで S[k]/σ2∼χ12 であり、(1) よりこれは Se と独立である。F 分布の定義からF0=(Se/σ2)/ϕe(S[k]/σ2)/1∼F1,ϕe。
因子を列[k]に置いたときの期待平均平方は E(VA)=σ2+Na12 である。これは第4章の1元配置の結果と一致する。
E(VA)=σ2+a−1n∑iai2=σ2+2N⋅2a12(第4章の1元配置)(水準数2、繰返し n=N/2、a2=−a1 を代入)
分散分析の F 検定は、「期待平均平方が誤差分散より大きいか」を比 VA/Ve で判定している。したがって F0 が F1,ϕe(α) 以上なら、帰無仮説を棄却する。
分散分析表とプーリング
分散分析表には、割り付けた主効果と交互作用の行(平方和=その列の列平方和、自由度1)と、誤差の行を並べる。そして平均平方 V=S/ϕ と F0=V/Ve を書く。
L8 では誤差の自由度が1か2になりやすい。棄却限界は F1,1(0.05)=161.4 や F1,2(0.05)=18.51 と大きいため、実際に存在する効果でも有意になりにくい。
そこで、F0 が小さい(目安として F0<2、または有意水準20%でも有意でない)主効果や交互作用を誤差に足し込み、誤差の自由度を増やして検定し直す。これをプーリングと呼ぶ(第5章で導入した手続きと同じである)。プーリングでは次の2点に注意する。
- 交互作用 A×B を残すときは、2つの因子の主効果は F0 が小さくても残す。最適条件を A と B の組合せで決めるため、両方の主効果を推定式に入れる必要がある。
- プーリングは「その効果が無い」と判断して構造式から外す操作なので、外した効果は以後の推定式にも入れない。
母平均の点推定と有効反復数
プーリング後に残った効果の列の集合を M とする。ある水準の組合せでの母平均は、構造式 (8.4) から
μ+k∈M∑βkuk(uk はその組合せでの列[k]の符号)
である。その推定量は
μ^=xˉ+k∈M∑ukβ^k(8.6)
である。実際の計算では、これを平均の組合せで書き直したものを使う。
- 交互作用を含まないとき(A,B,C だけが残った場合):μ^(AiBjCl)=xˉAi+xˉBj+xˉCl−2xˉ。
- A×B が残ったとき:μ^(AiBjCl)=xˉAiBj+xˉCl−xˉ。ここで xˉAiBj は、その組合せのデータ N/4 個の平均である。
2つ目の式は、次の関係を使えば式 (8.6) と一致する。
xˉAiBj=xˉ+uAβ^A+uBβ^B+uAuBβ^A×B
この関係は、組合せ AiBj の N/4 個のデータの中で、ほかの列の符号は正と負が同数であることから従う。
定理 8.8(有効反復数 ★★★)
式 (8.6) の推定量の分散は
V[μ^]=neσ2,ne1=N1+(推定に用いた要因の自由度の和)(8.7)
である(田口の式)。また、推定量を各平均の和と差で書いたとき、各平均の係数(符号つき)をその平均のデータ数で割ったものの和は 1/ne に等しい(伊奈の式)。
証明
定理 8.7 (1) と同じ計算で、xˉ=1⊤x/N と β^k=uk⊤x/N は互いに独立である。分散はどれも σ2/N である(1,uk が互いに直交し、長さの2乗がどれも等しいため)。式 (8.6) で uk2=1 なので
V[μ^]=V[xˉ]+k∈M∑uk2V[β^k]=Nσ2(1+∣M∣).
2水準系では各要因の自由度が1なので、∣M∣ は推定に用いた要因の自由度の和に等しい。これが田口の式である。
伊奈の式は、たとえば μ^=xˉAiBj+xˉCl−xˉ なら次のように計算する。
ne1=N/41+N/21−N1=N5
田口の式では、要因 A,B,A×B,C の自由度の和が4なので (1+4)/N=5/N となり、一致する。
2水準系で使う推定式は、次の2つの形のどちらかである。
- (i) 交互作用を含まない形。 m 個の因子の平均を足して ∑l=1mxˉ(l)−(m−1)xˉ とする。
伊奈の式:田口の式: m⋅N2−Nm−1=Nm+1, N1+m(自由度の和は m)
で一致する。2. (ii) 交互作用を1組含む形。 交互作用の組合せの平均に、ほかの m 個の因子の平均を足してxˉAiBj+∑l=1mxˉ(l)−mxˉ とする。
伊奈の式:田口の式: N4+N2m−Nm=N4+m, N1+3+m(自由度の和は A,B,A×B の3と m)
で一致する。
交互作用の組が2つ以上あるときも、同じ数え方で確かめられる。
2水準系の推定の定石
- 点推定は「残った交互作用を含む組合せの平均」と「交互作用に関係しない因子の平均」を足し、重複して数えた全平均 xˉ を引く。
- ne=N/(1+推定に用いた要因の自由度の和)。伊奈の式で検算する。
- 母平均の 100(1−α)% 信頼区間:μ^±tϕe(α/2)Ve/ne。
- 新しく1回実験したときの値の 100(1−α)% 予測区間:μ^±tϕe(α/2)Ve(1+1/ne)。
信頼区間の根拠は、次の2つが独立であることによる。
μ^∼N(μ,neσ2),σ2ϕeVe∼χϕe2
点推定量は全平均と残った列の β^k だけで書け、Ve は誤差の列だけで書ける。よって定理 8.7 (1) から独立である。t 分布の定義から (μ^−μ)/Ve/ne∼tϕe となる。
予測区間は、新しいデータ x∗=μ+ε∗ が手元のデータと独立であることから得られる。このとき V[x∗−μ^]=σ2(1+1/ne) となる。
落とし穴
推定式と分散分析表の取り違えは、次の2方向で起こる。
- 交互作用が有意なのに μ^(AiBj)=xˉAi+xˉBj−xˉ を使うと、構造式の交互作用の項が推定式から抜けて偏りが生じる。
- 逆に交互作用をプーリングしたのに xˉAiBj を使うと、外したはずの交互作用の推定値を足し込むことになる。このとき ne も小さくなり、区間が無駄に広がる。
推定式は分散分析表で残した要因と1対1に対応させる。
例題 8.3 L16 での推定式と有効反復数 ★★★
オリジナル2水準の因子 A,B,C,D と交互作用 A×B を、16行の直交表に割り付けて実験した。プーリングの結果、要因 A,B,C,D,A×B が残り、誤差は ϕe=10, Ve=1.2 であった。
- 水準の組合せ A1B2C1D2 における母平均の点推定量を、平均の組合せで書け。
- 有効反復数 ne を伊奈の式と田口の式の両方で求めよ。
- 点推定量の分散が σ2/ne になることを、式 (8.6) の形から直接示せ。
- 点推定値が μ^=25.0 であったとき、母平均の95%信頼区間を求めよ(t10(0.025)=2.228)。
解答
(1) 交互作用 A×B が残っているので、この2因子は組合せの平均で扱う。残りの C,D は別々の平均で扱う。全平均を2回余分に数えるので
μ^(A1B2C1D2)=xˉA1B2+xˉC1+xˉD2−2xˉ.
(2) 伊奈の式:各平均のデータ数は次のとおりである。
- xˉA1B2 は 16/4=4 個。
- xˉC1 と xˉD2 は8個ずつ。全平均は16個。
よって
ne1=41+81+81−162=83,ne=38.
田口の式:推定に用いた要因は A,B,A×B,C,D で自由度の和は5、ne=16/(1+5)=8/3。両者は一致する。
(3) 各平均を列の符号で展開すると、次のようになる(u はその水準での符号)。
xˉA1B2xˉC1=xˉ+uAβ^A+uBβ^B+uAuBβ^AB,=xˉ+uCβ^C,xˉD2=xˉ+uDβ^D
したがって
μ^=xˉ+uAβ^A+uBβ^B+uAuBβ^AB+uCβ^C+uDβ^D.
右辺の6項は互いに独立で、符号の2乗は1、各項の分散は σ2/16 なので V[μ^]=6σ2/16=3σ2/8=σ2/ne となる。
(4) 順に計算する。
Ve/ne半幅=1.2×3/8=0.45=0.6708,=2.228×0.6708=1.495
よって95%信頼区間は 25.0±1.49、すなわち [23.51, 26.49] である。
確認テスト
オリジナル
- 8.3-1 L8 の列[k]に、2水準の因子を置いた。Tk1−Tk2 を構造式 (8.4) で書き下し、E(SA)=σ2+8a12 を示せ。
- 8.3-2 L8 で A,B,C の主効果だけが残った(交互作用はすべてプーリング)。μ^(A2B1C2) の推定式を書き、ne を伊奈の式と田口の式で求めよ。
- 8.3-3 L16 に A,B,C,D,A×B を割り付けた。列平方和は次のとおりで、残り10列の和は Se=12.0 であった。
SA=52.0,SB=30.0,SC=2.1,SD=0.9,SA×B=18.0
最初の分散分析表の F0 を求めよ。次に F0<2 の要因をプーリングして分散分析表を作り直し、有意水準5%と1%で判定せよ。棄却限界は F1,12(0.05)=4.75, F1,12(0.01)=9.33 を使う。4. 8.3-4 構造式 x=μ+ai+bj+(ab)ij+ε を考える(割り付けは8行の表で A=[1], B=[2], A×B=[3])。推定式 xˉAi+xˉBj−xˉ の期待値を求めよ。そして交互作用が存在するときの偏りが −(ab)ij であることを示せ。
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