統計学の復習 第2章 §2.2 ★★ 3つの代表値は「ずれの合計を最小にする点」として統一的に導ける
3つの代表値は別々の定義に見えるが、「データとのずれをどう測るか」を決めると、ずれの合計を最小にする点として1つの枠組みで導ける。
定理 2.3(代表値はずれの合計を最小にする点 ★★★)
データ x1,…,xn と実数 c について、次が成り立つ。
- (i) 2乗のずれの和 Q(c)=∑i(xi−c)2 は c=xˉ でただ1つの最小値 Sxx をとる。
- (ii) 絶対値のずれの和 A(c)=∑i∣xi−c∣ は中央値 c=x~ で最小値をとる(n が偶数なら x(n/2)≤c≤x(n/2+1) のどの c でも最小)。
- (iii) 一致しない個数 N(c)=#{i:xi=c} は最頻値 c で最小値をとる。
証明
(i) xi−c=(xi−xˉ)+(xˉ−c) と分けて2乗し、和をとる。
Q(c)=i∑(xi−xˉ)2+2(xˉ−c)i∑(xi−xˉ)+n(xˉ−c)2=Sxx+n(xˉ−c)2.(2.4)
中央の交差項は命題 2.2 により0である。右辺の第2項は c=xˉ のときだけ0で、それ以外では正なので、最小値は c=xˉ でとる Sxx である。
(ii) A(c) は c の連続関数で、データ点の間では1次関数である。c がどのデータ点とも一致しないとき、c より小さいデータの個数を m−、大きいデータの個数を m+ とすると、c より小さい xi については ∣xi−c∣=c−xi が傾き +1 で、大きい xi については ∣xi−c∣=xi−c が傾き −1 で変化するので
dcdA=m−−m+
である。c を左から右へ動かすと m− は増え m+ は減るので、傾きは負から正へ単調に増える。傾きが負の区間(m−<m+、つまり c より下のデータが半分未満)では A は減少し、傾きが正の区間では増加する。n が奇数なら、c<x((n+1)/2) で m−≤(n−1)/2<m+、c>x((n+1)/2) で m−>m+ となるので、最小は真ん中の値 x((n+1)/2)=x~ でとる。n が偶数なら、x(n/2)<c<x(n/2+1) で m−=m+=n/2 となり傾きが0なので、この区間全体(端点を含む)で A は一定の最小値をとる。中央値 x~ はこの区間の中点である。
(iii) N(c)=n−#{i:xi=c} なので、N(c) を最小にすることは c と一致するデータの個数を最大にすることと同じで、それは最頻値の定義そのものである。
(2.4) は平行移動の公式と呼ばれ、この章と第9章・第15章で繰り返し使う。この式は「平均以外の点 c のまわりで測った2乗和は、平均のまわりの2乗和より n(xˉ−c)2 だけ大きい」と読む。

図 2.2 データ 2,3,3,4,5,7,11 について、ずれの平均を c の関数として描いたもの。左の放物線は平均 5 で最小、右の折れ線は中央値 4 で最小になる。折れ線の角はデータ点の位置にある。
なぜ平均だけが外れ値の影響を大きく受けるか
2乗のずれでは、遠くのデータほどずれが2乗で大きく数えられる。そのため、最小化の結果である平均は、遠くにある少数のデータに近づく方向へ動く。絶対値のずれでは、遠いデータも近いデータも「傾き ±1」でしか数えられず、最小点は大小の個数の釣り合いだけで決まる。したがって、中央値は外れ値の大きさに左右されない。
分布の形と3つの代表値の並び
右に長い裾を持つ分布(大きい値の側に少数のデータが散らばる分布)では、例題 2.1 のように「最頻値 < 中央値 < 平均」と並ぶことが多い。左に長い裾を持つ分布では並びが逆になる。左右対称な分布では、平均と中央値は一致する(山が1つなら最頻値も一致する)。
この並びは定理ではない
「右に裾が長ければ 最頻値 < 中央値 < 平均」は多くの分布で成り立つ経験則で、いつでも成り立つ不等式ではない。たとえばデータ 0,0,0,2,2,3,5 は平均 12/7≈1.71、中央値 2、最頻値 0 で、偏差の3乗の和 ∑(xi−xˉ)3≈22.5 が正なので、歪みの向き(第6章で扱う歪度の符号)は右に裾の長い側である。それでも平均は中央値より小さい。2級の選択肢で「必ず」と書かれていたら疑ってよい。
並びの向きは定理にならないが、平均と中央値の距離には常に成り立つ上限がある。
定理 2.4(平均と中央値の距離 ★★)
∣xˉ−x~∣≤n1∑i∣xi−x~∣≤n1∑i∣xi−xˉ∣≤σ^。
証明
1つめの不等号は、xˉ−x~=n1∑i(xi−x~) に三角不等式 ∣∑ai∣≤∑∣ai∣ を使ったものである。2つめの不等号は、定理 2.3(ii) により A(c) が c=x~ で最小になることから、A(x~)≤A(xˉ) として得られる。3つめは、di=∣xi−xˉ∣ とおいて 0≤n1∑i(di−dˉ)2=n1∑idi2−dˉ2(dˉ=n1∑idi)を使う。右辺の第1項は σ^2 なので dˉ2≤σ^2、すなわち dˉ≤σ^ である。
この定理から、平均と中央値は標準偏差1個ぶんより離れることがない。2つの代表値の差が標準偏差に比べて大きいという計算結果が出たら、どこかの計算が違っている。
例題 2.2 ずれの和の最小値と定理の不等式を確かめる ★★
オリジナルデータ 2,3,3,4,5,7,11 について、次に答えよ。
- (1) 平均・中央値・最頻値を求めよ。
- (2) Q(c)=∑i(xi−c)2 を c の2次式として書き、最小値を求めよ。
- (3) A(c)=∑i∣xi−c∣ の c=x~ と c=xˉ での値を求めよ。
- (4) 定理 2.4 の4つの量を計算し、不等式が成り立つことを確かめよ。
解答
(1) 和は 35 なので xˉ=5。7個の真ん中(4番目)が x~=4。2回現れる 3 が最頻値である。
(2) 偏差は −3,−2,−2,−1,0,2,6 で、Sxx=9+4+4+1+0+4+36=58。平行移動の公式 (2.4) から
Q(c)=58+7(c−5)2
で、最小値は c=5 のときの 58 である。
(3) A(4)=2+1+1+0+1+3+7=15、A(5)=3+2+2+1+0+2+6=16。中央値での値のほうが小さく、定理 2.3(ii) と合う。
(4) ∣xˉ−x~∣=1、A(4)/7=15/7≈2.143、A(5)/7=16/7≈2.286、σ^=58/7≈2.878。したがって 1≤2.143≤2.286≤2.878 で、不等式はすべて成り立つ。図 2.2 の2つのグラフの最小点が、それぞれ (2) と (3) に当たる。
確認テスト
オリジナル
- 2.2-1 データ 1,4,6,10 について、A(c)=∑i∣xi−c∣ が 4≤c≤6 で一定になることを示し、その値を求めよ。
- 2.2-2 データ 1,1,2,2,2,3,4,9 の平均・中央値・最頻値と σ^ を求め、∣xˉ−x~∣≤σ^ を確かめよ。
- 2.2-3 正の重み w1,…,wn について、∑iwi(xi−c)2 を最小にする c が加重平均 ∑iwixi/∑iwi であることを示せ。
- 2.2-4 データ 1,2,2,3,3,3,8 について、一致しない個数 N(c) を c=2,3,xˉ で計算し、最頻値で最小になることを確かめよ。
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