統計学の復習 第3章 §3.2 ★★ 事象を集合として扱う。和・積・余事象・排反と de Morgan の法則、要素の個数の包除原理
試行・標本空間・事象
さいころを投げる、袋から玉を取り出す、のように、同じ条件で繰り返すことができて、結果が偶然に左右される操作を試行と呼ぶ。試行の結果として起こりうるもの全体の集合を標本空間と呼び Ω で表す。Ω の要素を根元事象と呼び、Ω の部分集合を事象と呼ぶ。Ω 自身を全事象、要素を持たない空集合 ∅ を空事象と呼ぶ。
たとえばさいころを1回投げる試行では Ω={1,2,3,4,5,6} で、「偶数の目が出る」という事象は A={2,4,6} である。試行の結果が ω であったとき、ω∈A なら「事象 A が起こった」という。事象を言葉でなく集合で書くと、次の演算がそのまま使える。
定義 3.8(事象の演算と排反)
事象 A,B に対して、
- 和事象 A∪B:A または B の少なくとも一方が起こるという事象。
- 積事象 A∩B:A と B がともに起こるという事象。
- 余事象 Ac:A が起こらないという事象(Ω の中での補集合)。本によっては Aˉ と書く。
A∩B=∅ のとき、A と B は排反である(互いに排反である)という。3個以上の事象 A1,…,An は、どの2つも排反であるとき互いに排反であるという。
排反は「2つの事象が同時には起こらない」という意味で、Ω の部分集合としての関係だけで決まる。確率をどう割り当てるかには関係しない。この点は、§3.3 で確率を入れてはじめて定義される「独立」との違いとして、あとで重要になる。
ベン図
事象どうしの関係は、全体 Ω を長方形、各事象をその中の円で表したベン図で見ると整理しやすい(図3.1)。2つの事象 A,B があると、Ω は互いに排反な4つの部分 A∩Bc、A∩B、Ac∩B、(A∪B)c に分かれる。2事象の問題は、この4つの部分の大きさ(個数や確率)のうち3つが分かれば残り1つも決まる、という形で解くことが多い。

図 3.1 2事象のベン図。長方形が標本空間 Ω、左の円が A、右の円が B。Ω は互いに排反な4つの部分に分かれ、A∪B は円の内側の3つの部分の和である。
余事象と de Morgan の法則
命題 3.9(事象の演算の基本則)
事象 A,B,C について次が成り立つ。
- (Ac)c=A、A∪Ac=Ω、A∩Ac=∅。特に A と Ac は排反である。
- (分配法則)A∩(B∪C)=(A∩B)∪(A∩C)、A∪(B∩C)=(A∪B)∩(A∪C)。
- (de Morgan の法則)(A∪B)c=Ac∩Bc、(A∩B)c=Ac∪Bc。
証明
集合が等しいことは、「左辺の要素はすべて右辺の要素であり、逆も成り立つ」ことを示せばよい。de Morgan の法則の前半を示す。ω∈(A∪B)c は「ω は A にも B にも属さない」ことと同じであり、これは「ω∈/A かつ ω∈/B」、すなわちω∈Ac∩Bc と同じである。後半は前半を Ac,Bc に使って (Ac∪Bc)c=A∩B とし、両辺の余事象をとる。1 と 2 も要素についての同じ議論で示される。
de Morgan の法則は「少なくとも一方が起こる」の否定が「どちらも起こらない」であることを集合の式で書いたものである。3個以上でも同じで、(A1∪⋯∪An)c=A1c∩⋯∩Anc が成り立つ。§3.3 で「少なくとも1つ起こる確率」を余事象で計算するときの根拠はこの式である。
和事象と積事象の要素の個数
有限集合 A の要素の個数を #A と書く(標本の大きさ n と字を分けるため、n(A) でなくこの記号を使う)。和事象の個数を数えるときは、重なりを二重に数えないことが要点である。
定理 3.10(要素の個数の包除原理)
有限集合 A,B,C について
#(A∪B)#(A∪B∪C)=#A+#B−#(A∩B),=#A+#B+#C−#(A∩B)−#(B∩C)−#(C∩A)+#(A∩B∩C).(3.4)(3.5)
証明
A∪B を図3.1 の内側の3つの部分 A∩Bc、A∩B、Ac∩B に重なりなく分ける。和の法則から
#(A∪B)=#(A∩Bc)+#(A∩B)+#(Ac∩B).
一方、A は A∩Bc と A∩B に重なりなく分かれるので #A=#(A∩Bc)+#(A∩B)、同様に #B=#(Ac∩B)+#(A∩B) である。#A+#B は内側の3つの部分を数え、そのうち A∩B だけを2回数えている。1回分を引いて (3.4) を得る。
(3.5) は (3.4) を2回使って導く。D=A∪B とおくと
#(A∪B∪C)=#D+#C−#(D∩C).
分配法則から D∩C=(A∩C)∪(B∩C) であり、この2つの積は A∩B∩C である。(3.4) をもう一度使うと
#(D∩C)=#(A∩C)+#(B∩C)−#(A∩B∩C).
#D にも (3.4) を代入して整理すると (3.5) になる。
4個以上の集合でも、「1個ずつの和 − 2個の積の和 + 3個の積の和 −⋯」という同じ形が成り立つ。一般の形の証明は帰納法で、数理統計の解説 第1章 §1.1 で確率の包除原理として扱う。2級では3個までで足りる。
例題 3.3 3つの集合の包除原理 ★★
オリジナル1から100までの整数のうち、2・3・5のいずれかで割り切れるものは何個あるか。また、2・3・5のどれでも割り切れないものは何個あるか。
解答
Ω={1,2,…,100} とし、2・3・5で割り切れる整数の集合をそれぞれ A2,A3,A5 とする。m で割り切れる整数は ⌊100/m⌋ 個ある(⌊x⌋ は x を超えない最大の整数)。2つ以上で同時に割り切れることは、その最小公倍数で割り切れることと同じなので
#A2=50,#A3=33,#A5=20,#(A2∩A3)=⌊100/6⌋=16,
#(A3∩A5)=⌊100/15⌋=6,#(A5∩A2)=⌊100/10⌋=10,#(A2∩A3∩A5)=⌊100/30⌋=3.
(3.5) に代入して
#(A2∪A3∪A5)=50+33+20−16−6−10+3=74 個.
どれでも割り切れない整数の集合は、de Morgan の法則から A2c∩A3c∩A5c=(A2∪A3∪A5)c なので、その個数は 100−74=26 個である。
確認テスト
オリジナル
- 3.2-1 さいころを1回投げる。A=「偶数の目」、B=「3の倍数の目」、C=「1の目」とする。A,B,C のうち排反な組をすべて挙げよ。また Ac∩Bc を要素で書け。
- 3.2-2 3つの事象について de Morgan の法則 (A∪B∪C)c=Ac∩Bc∩Cc を、要素についての議論で示せ。
- 3.2-3 1から200までの整数のうち、4でも6でも割り切れないものは何個あるか。
- 3.2-4 例題3.1 と同じ格子で、点 P=(2,1) と点 Q=(4,2) の少なくとも一方を通る最短経路は何通りあるか。
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