統計学の復習 第5章 §5.4 ★★ 有限個の箱から戻さずに抜き出したときの当たりの個数。平均は二項分布と同じ nM/N、分散は有限母集団修正 (N−n)/(N−1) の分だけ小さく、N→∞ で二項分布に戻る
確率関数と、二項分布との違い
定義 5.12(超幾何分布)
N 個のうち M 個が当たりである箱から、n 個を戻さずに無作為に取り出す。取り出した中の当たりの個数を X とすると
P(X=k)=(nN)(kM)(n−kN−M)(max(0,n−N+M)≤k≤min(n,M))(5.11)
である。この分布を超幾何分布と呼び、X∼HG(N,M,n) と書く。
取り出し方は全部で (nN) 通りあり、無作為に取り出すとはこれらが等しい確率で起こることをいう。そのうち当たりがちょうど k 個になるのは、当たり M 個から k 個、はずれ N−M 個から n−k 個を選ぶ場合で、その数は (kM)(n−kN−M) である。比をとって式 (5.11) を得る。k の範囲の下限と上限は、当たりの個数 k が M を超えられず、はずれの個数 n−k が N−M を超えられないことによって決まる。総和が 1 になることは、確認テスト 5.1-3 の Vandermonde の等式 ∑k(kM)(n−kN−M)=(nN) そのものである。
二項分布との違いは、1個取り出すたびに箱の中身が変わる点にある。1個目が当たりなら、2個目が当たりである確率は (M−1)/(N−1) で、1個目がはずれなら M/(N−1) である。2回目の結果の確率が1回目の結果に依存するので、各回は独立でなく、二項分布の条件 (iii) が崩れている。
期待値と分散:0か1の和と共分散
定理 5.13(超幾何分布の期待値と分散)
X∼HG(N,M,n)、p=M/N と置くと
E[X]=np,V[X]=np(1−p)⋅N−1N−n(5.12)
である。因子 (N−n)/(N−1) を有限母集団修正と呼ぶ。
証明
i 番目に取り出したものが当たりなら 1、はずれなら 0 をとる確率変数を Ii(i=1,…,n)とすると X=I1+⋯+In である。
各 Ii の分布。N 個を全部1列に並べる並べ方は N! 通りで等しく起こり、その先頭 n 個を取り出したものと考えてよい。i 番目の位置に来るものは、N 個のどれもが同じ確率 1/N で来るので、当たりである確率は M/N=p である。1番目でも i 番目でも、前に何が出たかを知らなければ当たりの確率は同じである。よって E[Ii]=p、V[Ii]=p(1−p) で、期待値の線形性から E[X]=np である。
共分散。i=j のとき、i 番目と j 番目の位置に来る2個の組は、N(N−1) 通りの順序付きの組のどれもが等しい確率で起こるので
E[IiIj]=P(Ii=1, Ij=1)=N(N−1)M(M−1)
である。よって
Cov(Ii,Ij)=N(N−1)M(M−1)−N2M2=N2(N−1)M[N(M−1)−M(N−1)]=−N2(N−1)M(N−M)=−N−1p(1−p).
1つが当たりだと残りの当たりが減るので、共分散は負になる。
分散。和の分散は、分散の和に、異なる組の共分散の和を足したものである(第7章 V[X+Y]=V[X]+V[Y]+2Cov(X,Y) を n 個に広げた形)。順序付きの組 (i,j)、i=j は n(n−1) 個あるので
V[X]=i=1∑nV[Ii]+i=j∑Cov(Ii,Ij)=np(1−p)−n(n−1)N−1p(1−p)=np(1−p)(1−N−1n−1)=np(1−p)N−1N−n.□
平均は戻す場合(二項分布)と同じで、分散だけが (N−n)/(N−1) 倍に縮む。n=1 ならこの因子は 1 で、1個だけ取り出すなら戻すかどうかは関係ない。n=N なら因子は 0 で、全部取り出せば当たりの個数は必ず M になり、ばらつきが無い。抜き取りの割合 n/N が小さいときは因子がほぼ 1 になり、二項分布で計算しても差が小さい。標本調査で母集団の大きさに比べて標本が小さいときに有限母集団修正を省いてよい理由がこれで、第8章の標本調査の議論にもつながる。
二項分布への極限
定理 5.14(超幾何分布の二項近似)
n と k を固定し、N→∞、M→∞ で M/N→p(0<p<1)とする。このとき
(nN)(kM)(n−kN−M) ⟶ (kn)pk(1−p)n−k.
証明
二項係数を階乗の比で書いて並べ直すと
(nN)(kM)(n−kN−M)=(kn)⋅N(N−1)⋯(N−n+1)M(M−1)⋯(M−k+1)⋅(N−M)(N−M−1)⋯(N−M−n+k+1)
となる((kM)(n−kN−M)/(nN) の分母と分子にある k!(n−k)! と n! をまとめると (kn) が出る)。右の分数は、分子が k+(n−k)=n 個の因子、分母も n 個の因子の積なので、分子と分母の因子を1つずつ組にして
j=0∏k−1N−jM−j⋅j=0∏n−k−1N−k−jN−M−j
と書ける。前の積の各因子は (M/N−j/N)/(1−j/N)→p、後ろの積の各因子は (1−M/N−j/N)/(1−(k+j)/N)→1−p に近づく。因子の数は n 個で固定なので、積は pk(1−p)n−k に近づく。
この極限は、箱の中の個数が非常に多ければ、数個取り出しても箱の中の当たりの割合がほとんど変わらず、戻しても戻さなくても同じ、ということを式にしたものである。
例題 5.7 抜き取り検査:戻さない場合と戻す場合 ★★
オリジナル20個の製品のうち6個が不良品である。ここから5個を戻さずに無作為に取り出し、その中の不良品の数を X とする。
- P(X=0)、P(X=1)、P(X≥2) を求めよ。
- E[X] と V[X] を求めよ。
- 取り出すたびに戻す場合(不良品の数を X′ とする)の P(X′≥2) と V[X′] を求め、(1)(2) と比べよ。
解答
(1) X∼HG(20,6,5) である。(520)=15504、(514)=2002、(414)=1001 なので
P(X=0)=(520)(06)(514)=155042002=0.12913,P(X=1)=(520)(16)(414)=155046006=0.38738.
「2個以上」は余事象で P(X≥2)=1−0.12913−0.38738=0.48349 である。
(2) p=6/20=0.3 として E[X]=5×0.3=1.5、
V[X]=5×0.3×0.7×20−120−5=1.05×1915=0.82895.
(3) 戻す場合は X′∼Bin(5,0.3) である。P(X′=0)=0.75=0.16807、P(X′=1)=5×0.3×0.74=0.36015 なので P(X′≥2)=0.47178、V[X′]=1.05 である。期待値は同じ 1.5 だが、戻さない方が分散が約 21% 小さい。戻さない場合、不良品を取り出すと箱の不良率が下がり、良品を取り出すと上がるので、取り出した個数の偏りが箱の側で打ち消される方向に働く。「0個」の確率が戻さない方で小さい(0.129<0.168)のも、この打ち消しの結果である。

図 5.2 20個中8個が当たりの箱から5個を戻さずに取り出した当たりの個数(左の棒)と、戻して取り出した場合(右の棒)。平均はどちらも 2 だが、戻さない方が中央の k=2 に確率が集まり、両端の k=0 と k=5 の確率が小さい。分散は 1.2 に対して 1.2×15/19=0.947 である。
分布の見分け方
問題文から分布を決めるときは、試行の仕組みを次の順に確かめる。
離散分布の見分け方
- 回数を前もって決めて、成功の回数を数えるか。決めているなら、取り出したものを戻す(各回が独立で確率が一定)なら二項分布、有限個の箱から戻さないなら超幾何分布。
- 成功するまで続けて、試行の回数を数えるか。「初めて〜するまで」なら幾何分布、「r 回目の〜まで」なら負の二項分布。
- 回数の上限が決まっておらず、一定の時間・面積の中で「まれに独立に起こる」事象を数えるか。そうならポアソン分布で、λ をその範囲の長さに比例させる。
- 時間そのもの(次に起こるまでの時間)を問われたら連続の指数分布(第6章)。
確認テスト
オリジナル
- 5.4-1 赤玉4個と白玉6個の入った袋から3個を戻さずに取り出す。赤玉の個数を X として、P(X=2)、E[X]、V[X] を求めよ。
- 5.4-2 定理 5.13 の共分散の計算で、Cov(I1,I2) を「1個目が当たりのときに2個目が当たりである条件付き確率」から計算し直し、同じ値になることを確かめよ。
- 5.4-3 不良率 5% の母集団から20個を戻さずに抜き取る。母集団の大きさが N=1000 のときと N=50 のときのそれぞれについて、有限母集団修正の値を求め、二項分布で分散を計算したときの誤差の割合を答えよ。
- 5.4-4 1 から 40 までの番号から6個を選んで申し込むくじで、当選番号6個が無作為に決まる。自分の6個のうち当選番号と一致する個数 X の分布を答え、P(X≥3) と E[X] を求めよ。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com