統計学の復習 第6章 §6.5 ★★★ ポアソン過程の待ち時間の分布。P(T>t)=e−λt はポアソン分布の「0回」の確率そのもので、無記憶性が指数分布を一意に決める
定義と基本の量
定義 6.9(指数分布)
λ>0 に対して、密度
f(x)=λe−λx(x>0),f(x)=0(x≤0)(6.11)
を持つ分布を指数分布と呼び、X∼Ex(λ) と書く。
積分すると ∫0∞λe−λxdx=[−e−λx]0∞=1 で、密度の条件を満たす。累積分布関数と、ある値を超える確率(生存関数)は
F(x)=1−e−λx,P(X>x)=e−λx(x≥0)(6.12)
である。指数分布の確率は、正規分布と違い表を引かずに計算することができる。
定理 6.10(指数分布の期待値と分散)
X∼Ex(λ) のとき、E[X]=1/λ、V[X]=1/λ2 で、標準偏差は期待値と同じ 1/λ である。中央値は (log2)/λ である。
証明
部分積分で u=x、dv=λe−λxdx(v=−e−λx)とすると
E[X]=∫0∞xλe−λxdx=[−xe−λx]0∞+∫0∞e−λxdx=0+λ1.
境界の項は、x→∞ で指数関数の減少が x の増加に勝つので 0 になる。同じく u=x2 として
E[X2]=[−x2e−λx]0∞+∫0∞2xe−λxdx=λ2∫0∞xλe−λxdx=λ2E[X]=λ22
なので、V[X]=2/λ2−1/λ2=1/λ2 である。中央値 m は F(m)=1/2、すなわち e−λm=1/2 を解いて m=(log2)/λ≈0.693/λ である。
λ は単位時間あたりに事象が起こる割合(発生率)で、期待値 1/λ は平均の待ち時間である。1時間に平均 4 件の電話がかかってくるなら、次の電話までの平均の待ち時間は 1/4 時間、すなわち 15 分である。中央値 0.693/λ は平均 1/λ より小さい。右に長い裾(歪度 2)があるので、少数の長い待ち時間の寄与で平均が中央値より大きくなるからである。

図 6.3 指数分布 Ex(λ) の密度。x=0 での高さが λ で、λ が大きい(事象が頻繁に起こる)ほど待ち時間は短い所に集まる。どの λ でも密度は単調に減り、最頻値は 0 である。
ポアソン分布との関係
第5章で、単位時間あたりの発生率 λ で事象が独立に起こるとき、長さ t の時間に起こる回数 N(t) が Po(λt) に従うことを、区間を細かく切った二項分布の極限として導いた。このように事象が起こる仕組みをポアソン過程と呼ぶ。最初の事象が起こるまでの待ち時間を T とすると、「T が t より長い」と「時間 t の間に1回も起こらない」は同じ事象なので
P(T>t)=P(N(t)=0)=e−λt0!(λt)0=e−λt(6.13)
となる。これは式 (6.12) の生存関数そのもので、T∼Ex(λ) である。同じポアソン過程を、決まった時間の中の回数で見ればポアソン分布、次の事象までの時間で見れば指数分布になる。問題文が回数を問うのか時間を問うのかで、どちらを使うかが決まる。
ポアソン分布の発生率 λ と指数分布の母数 λ は同じ量なので、時間の単位をそろえて使う。1時間に 4 件なら、分を単位にすると λ=4/60 である。2回目、3回目の事象までの待ち時間(k 回目までの待ち時間)はガンマ分布 Ga(k,1/λ) に従い、指数分布の独立な和として表せる。この関係は数理統計の解説 第3章 §3.2 と第12章 §12.1 で扱う。
無記憶性
定理 6.11(無記憶性)
X∼Ex(λ) なら、すべての s,t≥0 について
P(X>s+t∣X>s)=P(X>t)(6.14)
が成り立つ。逆に、正の値をとる連続型の確率変数 X が式 (6.14) を満たすなら、X はある λ>0 について Ex(λ) に従う。
証明
前半。 X>s+t なら X>s なので、{X>s+t}∩{X>s}={X>s+t} である。条件付き確率の定義(第3章)から
P(X>s+t∣X>s)=P(X>s)P(X>s+t)=e−λse−λ(s+t)=e−λt=P(X>t).
後半。 G(t)=P(X>t) と置く。G は非増加で、X が連続型なので連続であり、X>0 だから G(0)=1、t→∞ で G(t)→0 である。式 (6.14) の左辺は G(s+t)/G(s) なので、G(s)>0 である限り
G(s+t)=G(s)G(t)(6.15)
が成り立つ。G(s)=0 のときも、G が非増加なので G(s+t)=0 となり、式 (6.15) は両辺が 0 で成り立つ。まず G(1)>0 を示す。G(1)=0 なら、式 (6.15) を n 回使った G(1)=G(1/n)n から G(1/n)=0 がすべての n で成り立つ(G(1/n)>0 なら左辺が正になって矛盾する)。n→∞ とすると G の連続性から G(0)=0 となり、G(0)=1 に反する。また G(1)=1 なら、G(m)=G(1)m=1 がすべての正の整数 m で成り立ち、G(t)→0 に反する。よって 0<G(1)<1 で、λ=−logG(1)>0 と置ける。
正の整数 m,n に対して、式 (6.15) をくり返し使うと G(m/n)=G(1/n)m であり、G(1)=G(1/n)n から G(1/n)=G(1)1/n なので
G(nm)=G(1)m/n=e−λm/n
となる。正の有理数 r で G(r)=e−λr が成り立った。任意の t>0 に対して t に近づく有理数の列 rk→t をとれば、G と指数関数の連続性から G(t)=limG(rk)=lime−λrk=e−λt である。これは Ex(λ) の生存関数なので、X∼Ex(λ) である。
式 (6.14) は、すでに s だけ待っても、そこから先の待ち時間の分布が待ち始めと変わらないことを表す。ポアソン過程では、重ならない時間の区間の回数が互いに独立なので、時刻 s までに何も起こらなかったという情報は、時刻 s 以後の事象について何も教えない。無記憶性は、この独立性を待ち時間の言葉に言い換えたものである。定理の後半から、連続型で無記憶な分布は指数分布だけである。第5章では、正の整数値をとる分布で無記憶なのは幾何分布だけであることを示した。幾何分布と指数分布の関係は、二項分布とポアソン分布の関係と同じく、離散の試行を連続の時間に移したものに当たる(総合問題 (4) で ⌈X⌉ が幾何分布に従うことを確かめる)。
部品の寿命が指数分布に従うなら、使い古した部品と新品の残り寿命の分布は同じである。したがって指数分布は、摩耗せず偶発的な原因だけで故障する部品の寿命に使われる。使うほど故障しやすくなる部品には、指数分布は当てはまらない。
独立な指数分布の最小値
命題 6.12(最小値の分布)
X1∼Ex(λ1)、X2∼Ex(λ2) が独立なら、M=min(X1,X2)∼Ex(λ1+λ2) であり、P(X1<X2)=λ1/(λ1+λ2) である。
証明
2つの最小値が t を超えるのは、両方が t を超えるときなので、独立性から
P(M>t)=P(X1>t, X2>t)=P(X1>t)P(X2>t)=e−λ1te−λ2t=e−(λ1+λ2)t
で、これは Ex(λ1+λ2) の生存関数である。次に、X1=x を固定して X2>x となる確率を x について足し合わせると
P(X1<X2)=∫0∞λ1e−λ1xP(X2>x)dx=∫0∞λ1e−(λ1+λ2)xdx=λ1+λ2λ1
となる。
2つのポアソン過程を重ね合わせると、事象の発生率は足し算になる。最小値の分布はその言い換えで、「どちらかが起こるまでの待ち時間」は発生率 λ1+λ2 の指数分布に従う。
例題 6.9 電話の待ち時間 ★★★
オリジナルある窓口には電話が1時間に平均 4 件、ポアソン過程に従ってかかってくる。
- 次の電話まで 30 分以上かかる確率を求めよ。
- 次の電話までの待ち時間の期待値・標準偏差・中央値を分で答えよ。
- すでに 20 分間電話が無かった。ここからさらに 30 分以上電話が無い確率を求めよ。
解答
(1) 時間を単位にすると待ち時間 T は Ex(4) に従う。30 分は 0.5 時間なので
P(T>0.5)=e−4×0.5=e−2=0.1353.
式 (6.13) から、これは 30 分間の電話の件数 N∼Po(2) が 0 である確率 P(N=0)=e−2 と同じである。
(2) 定理 6.10 から、期待値と標準偏差はどちらも 1/4 時間 =15 分で、中央値は 15×log2=15×0.6931=10.40 分である。半分の人は約 10.4 分以内に電話を受けるが、平均は 15 分になる。
(3) 無記憶性 (6.14) から
P(T>6020+0.5∣T>6020)=P(T>0.5)=e−2=0.1353
で、(1) と同じである。20 分待ったかどうかで、この先の待ち時間の分布は変わらない。
例題 6.10 直列につないだ2つの部品の寿命 ★★
オリジナル部品Aの寿命は平均 2000 時間、部品Bの寿命は平均 3000 時間の指数分布に従い、互いに独立である。AとBを直列につなぐと、どちらか一方が故障した時点で装置全体が止まる。
- 装置の寿命の分布と期待値を答えよ。
- 装置が 1000 時間を超えて動く確率を求めよ。
- 装置が止まったとき、原因がAの故障である確率を求めよ。
解答
(1) Aの寿命は Ex(1/2000)、Bの寿命は Ex(1/3000) である。装置の寿命は2つの最小値なので、命題 6.12 から
λ=20001+30001=60003+2=12001
の指数分布 Ex(1/1200) に従い、期待値は 1200 時間である。平均の寿命 2000 と 3000 を足したり平均したりするのでなく、発生率(平均の逆数)を足す。
(2) P(M>1000)=e−1000/1200=e−5/6=0.4346 である。
(3) 命題 6.12 の後半から P(XA<XB)=1/12001/2000=20001200=0.6 である。発生率の大きい(平均寿命の短い)Aの方が先に壊れやすい。
確認テスト
オリジナル
- 6.5-1 X∼Ex(λ) の第1四分位数と第3四分位数を求めよ。
- 6.5-2 X∼Ex(λ) について、部分積分と数学的帰納法で E[Xk]=k!/λk(k=0,1,2,…)を示せ。
- 6.5-3 T1∼Ex(2) と T2∼Ex(3) が独立のとき、P(T1<T2) を積分で求めよ。
- 6.5-4 ある電子部品の寿命は平均 5 年の指数分布に従う。すでに 3 年使った部品が、使い始めから数えて 8 年を超えて使える確率を求め、新品が 8 年を超えて使える確率と比べよ。
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