統計学の復習 第9章 §9.2 ★★★ Xˉ は μ の不偏推定量で分散 σ2/n。重みの和が 1 の線形な推定量の中で分散が最小
標本平均の期待値と分散
母集団の平均を μ、分散を σ2 とし、X1,…,Xn を無作為標本とする。μ の推定量として最も自然なのは標本平均 Xˉ=n1∑i=1nXi である。期待値の線形性と、独立な確率変数の和の分散が分散の和になること(第7章)から、次が成り立つ。
E[Xˉ]=n1i=1∑nE[Xi]=nnμ=μ,V[Xˉ]=n21i=1∑nV[Xi]=n2nσ2=nσ2.(9.2)
1つ目の式は独立性を使わず、2つ目の式は独立性(正確には Xi どうしの共分散が 0 であること)を使っている。したがって Xˉ は μ の不偏推定量で、平均二乗誤差は V[Xˉ]=σ2/n である。これは n→∞ で 0 に近づくので、命題 9.5 により Xˉ は μ の一致推定量でもある。この一致性は、第8章の大数の弱法則そのものである。
母集団がベルヌーイ分布(Xi は 1 か 0)なら μ=p、σ2=p(1−p) で、Xˉ は成功の割合 p^=X/n に一致する。(9.2) から E[p^]=p、V[p^]=p(1−p)/n が得られる。これは例題 9.1 の (1) を、二項分布の公式を使わずに出し直したものである。
重みの和が1の線形な推定量の中での最良性
Xˉ 以外にも μ の不偏推定量はいくらでもある。X1 だけでもよいし、(X1+X2)/2 でもよい。一般に定数 c1,…,cn を使った T=∑ciXi を考えると、E[T]=μ∑ci なので、T が μ の不偏推定量であることは ∑ci=1 と同値である。
命題 9.6(標本平均の最良性)
∑i=1nci=1 を満たす T=∑ciXi の中で、分散が最小になるのは c1=⋯=cn=1/n、すなわち T=Xˉ のときである。
証明
Xi は独立で分散が等しいので V[T]=σ2∑ci2 である。ci=n1+di とおくと、∑ci=1 から ∑di=0 となり
∑ci2=∑(n21+n2di+di2)=n1+n2∑di+∑di2=n1+∑di2 ≥ n1.
等号はすべての di が 0 のときに限る。よって V[T]≥σ2/n=V[Xˉ] で、等号は T=Xˉ のときだけ成り立つ。
この命題は、平均と分散だけを使い、母集団の分布の形を何も仮定していない。ただし比べている相手は「重みの和が 1 の線形な推定量」に限られる。中央値のように線形でない推定量まで含めた比較は、母集団の分布の形によって答えが変わる。
中央値との比較
正規母集団では、標本の中央値も μ の推定量として使える(分布が μ について対称なので、偏りは 0 である)。n が大きいとき、中央値の分散はおよそ πσ2/(2n)≈1.571σ2/n で、Xˉ の約 1.57 倍になる。一方、裾の重い分布では中央値の方が分散の小さいことがある。この近似の導出(標本分位点の漸近正規性)は、数理統計の解説 第5章 §5.5 で扱う。
例題 9.2 精度の違う2つの測定器の結果をまとめる ★★
オリジナル同じ長さ μ を2つの測定器で測る。測定器 A は誤差の標準偏差が 2、測定器 B は 4 で、どちらも偏りはないとする。A で 4 回、B で 8 回、すべて独立に測り、それぞれの平均を XˉA、XˉB とする。
- V[XˉA] と V[XˉB] を求めよ。
- Tc=cXˉA+(1−c)XˉB が任意の c で μ の不偏推定量であることを示し、V[Tc] を最小にする c と最小値を求めよ。
- 12 個の測定値をすべて同じ重みで平均した推定量の分散を求め、(2) と比べよ。
- xˉA=10.3、xˉB=9.7 のとき、(2) の推定量による推定値を求めよ。
解答
(1) (9.2) から V[XˉA]=22/4=1、V[XˉB]=42/8=2。
(2) E[Tc]=cμ+(1−c)μ=μ なので、c によらず不偏である。XˉA と XˉB は独立なので
V[Tc]=c2⋅1+(1−c)2⋅2=3c2−4c+2=3(c−32)2+32.
最小は c=2/3 のときで、最小値は 2/3 である。一般に分散が vA、vB のとき、最適な重みは c=vB/(vA+vB) で、分散の逆数に比例する重みになる(確認テスト 9.2-4)。
(3) 全体の平均は (4XˉA+8XˉB)/12=31XˉA+32XˉB で、c=1/3 の場合に当たる。分散は 3⋅91−34+2=1 で、(2) の 2/3 より大きい。命題 9.6 は「すべての観測の分散が等しい」ことを仮定していたので、精度の違う観測が混ざると、同じ重みの平均は最良でなくなる。
(4) 32×10.3+31×9.7=6.8667+3.2333=10.1。
確認テスト
オリジナル
- 9.2-1 次の各文が正しいか誤りかを答え、誤りなら理由を述べよ。(a) 標本平均 Xˉ は確率変数である。(b) ある標本で計算した xˉ=52.3 の分散は σ2/n である。(c) E[Xˉ]=μ を示すには X1,…,Xn の独立性が要る。
- 9.2-2 n=3 のとき、T=6X1+2X2+3X3 が μ の不偏推定量であることを示し、V[T] を V[Xˉ] と比べよ。
- 9.2-3 X1,…,Xn をポアソン分布 Po(λ) からの無作為標本とする。(a) Xˉ が λ の不偏推定量であることを示し、その分散を求めよ。(b) 0 を観測した個数を N0 とする。N0/n が P(X=0)=e−λ の不偏推定量であることを示し、その分散を求めよ。
- 9.2-4 T1,T2 はどちらも μ の不偏推定量で互いに独立、分散はそれぞれ v1,v2(ともに正)とする。T=cT1+(1−c)T2 の分散を最小にする c を求め、最小値が v1+v2v1v2 になり、v1 と v2 のどちらよりも小さいことを示せ。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com