統計学の復習 第9章 §9.3 ★★★ E[∑(Xi−Xˉ)2]=(n−1)σ2。μ の代わりに Xˉ を使うと、ちょうど σ2 の1個ぶんが失われる
2つの分散の推定量
母分散 σ2 を推定したい。μ が分かっていれば、(Xi−μ)2 の期待値が σ2 なので、その平均
σ^μ2=n1i=1∑n(Xi−μ)2,E[σ^μ2]=n1⋅nσ2=σ2(9.3)
は σ2 の不偏推定量である。ただし μ が未知なら σ^μ2 は統計量ではないので、μ を Xˉ で置き換えた量を考える。
定義 9.7(標本分散と不偏分散)
偏差平方和を W=∑i=1n(Xi−Xˉ)2 とおく。
σ^2=nWを標本分散,S2=n−1Wを不偏分散
と呼ぶ(n≥2)。その平方根 σ^、S を、それぞれ標本標準偏差、不偏分散の平方根と呼ぶ。実現値は s2、s と書く。
第2章ではデータの記述として同じ2つの量を定義した。ここでは Xi が確率変数なので、W、σ^2、S2 も確率変数である。「標本分散」という語が n−1 で割る量を指す本もあるので、問題文では割る数を確かめる必要がある。
偏差平方和の分解と期待値
定理 9.8(偏差平方和の分解)
任意の実数 X1,…,Xn と μ について
i=1∑n(Xi−μ)2=i=1∑n(Xi−Xˉ)2+n(Xˉ−μ)2.(9.4)
証明
Xi−μ=(Xi−Xˉ)+(Xˉ−μ) と分けて2乗し、i について足すと
∑(Xi−μ)2=∑(Xi−Xˉ)2+2(Xˉ−μ)∑(Xi−Xˉ)+n(Xˉ−μ)2.
Xˉ の定義から ∑(Xi−Xˉ)=∑Xi−nXˉ=0 なので、中央の交差項は消える。
これは第2章の平行移動の公式 ∑(xi−c)2=Sxx+n(xˉ−c)2 で c=μ とおいたものと同じである。右辺の2つの項はどちらも 0 以上なので、∑(Xi−Xˉ)2≤∑(Xi−μ)2 が常に成り立つ。偏差を Xˉ から測ると、真の平均 μ から測るより平方和が小さくなる。
定理 9.9(不偏分散の不偏性)
X1,…,Xn が独立で、どれも平均 μ、分散 σ2 をもつとき
E[i=1∑n(Xi−Xˉ)2]=(n−1)σ2.(9.5)
したがって E[S2]=σ2(S2 は σ2 の不偏推定量)、E[σ^2]=nn−1σ2(偏りは −σ2/n)である。
証明
(9.4) の両辺の期待値をとる。左辺は ∑E[(Xi−μ)2]=nσ2 である。右辺の第2項は nE[(Xˉ−μ)2]=nV[Xˉ]=n⋅σ2/n=σ2 である(E[Xˉ]=μ を使った)。よって
E[∑(Xi−Xˉ)2]=nσ2−σ2=(n−1)σ2.
これを n−1 で割れば E[S2]=σ2、n で割れば E[σ^2]=(n−1)σ2/n である。
証明では正規分布であることを使っていない。平均と分散をもつ母集団からの無作為標本なら、どの分布でも E[S2]=σ2 が成り立つ。
なぜ n−2 でも n−3 でもなく n−1 か
n−1 という数が何から決まるかを、証明の中で特定しておく。(9.4) の右辺第2項 n(Xˉ−μ)2 は、μ の代わりに Xˉ を使ったために平方和から失われた量である。その期待値は n⋅V[Xˉ]=n⋅σ2/n=σ2 で、n がいくつでもちょうど σ2 の1個ぶんになる。n 倍の n と V[Xˉ] の分母の n が打ち消し合うので、失われる量の期待値には n が残らない。
したがって平方和の期待値は nσ2 から σ2 を1つ引いた (n−1)σ2 になり、n−1 で割ったときに限り期待値が σ2 に一致する。
別の見方として、偏差を並べたベクトル e=(X1−Xˉ,…,Xn−Xˉ) は、恒等的に ∑(Xi−Xˉ)=0 という1本の1次の拘束を満たす。n 個の成分のうち n−1 個を決めれば残りの1個は決まるので、e が自由に動ける方向は n−1 個しかない。
この「自由に動ける方向の数」を偏差平方和の自由度と呼ぶ。図 9.2 は n=2 の場合で、観測ベクトル X は (1,1) 方向の成分 Xˉ(1,1) と、それに直交する偏差 e に分かれる。e は (1,1) に直交する1本の直線(1次元)の上にしかない。

図 9.2 n=2 のときの偏差の分解。観測 X=(4,2) は、平均の方向 (1,1) への射影 Xˉ(1,1)=(3,3)(緑)と、それに直交する偏差 e=(1,−1)(青)の和に分かれる。偏差は (1,1) に直交する直線の上にしかなく、自由度は 2−1=1 である。(9.4) は、この直交分解に対する三平方の定理である。
この「自由度=データの個数-同じデータから推定した母数の個数」という数え方は、以後の章でも同じ形で現れる。単回帰の残差は切片と傾きの2つを推定するので自由度が n−2(第14章)、k 群の一元配置分散分析の群内の平方和は k 個の群平均を推定するので自由度が N−k(第15章)になる。正規母集団では W/σ2 が自由度 n−1 のカイ二乗分布に従う。この事実は第11章で使い、その証明は数理統計の解説 第5章 §5.2 で扱う。
「n−1 で割ると大きくなるから」は理由にならない
同じデータから計算すると、S2=n−1nσ^2 なので、不偏分散は標本分散より常に大きい(すべての値が等しいときだけ両方 0)。しかし「標本分散は小さめに出るので、大きくするために n−1 で割る」という説明では、n−2 で割らない理由を説明することができない。割る数を n−1 に決めているのは (9.5) の等式で、期待値がちょうど σ2 になる割り方が n−1 だけである。
2点の差による表し方
第2章で示したデータの恒等式 Sxx=n1∑i<j(xi−xj)2 を使うと、不偏性をもう1つの方法で確かめることができる。この恒等式から、不偏分散は
S2=n−1W=n(n−1)1i<j∑(Xi−Xj)2=(2n)−1i<j∑2(Xi−Xj)2(9.6)
と書ける。S2 は、(2n) 組あるすべての2点の組について (Xi−Xj)2/2 を平均したものである。
i=j なら Xi−Xj の期待値は 0、分散は V[Xi]+V[Xj]=2σ2 なので、E[(Xi−Xj)2]=2σ2 である。各項の期待値が σ2 なので、その平均である S2 の期待値も σ2 になる。この表し方には μ がまったく現れないので、未知の μ を推定する必要がない。
例題 9.3 標本分散・不偏分散・μ が既知のときの推定値 ★★★
オリジナル
- 5 個のデータ 12,15,9,14,10 について、標本分散 σ^2 と不偏分散 s2 の値を求めよ。また、母平均が μ=11 と分かっている場合の推定値 σ^μ2 を求めよ。
- n=2 のとき、S2=(X1−X2)2/2 であることを示し、E[S2]=σ2 と E[σ^2]=σ2/2 を直接確かめよ。
解答
(1) xˉ=(12+15+9+14+10)/5=60/5=12。偏差は 0,3,−3,2,−2 で、その2乗の和は 0+9+9+4+4=26 である。
σ^2=526=5.2,s2=426=6.5.
μ=11 からの偏差は 1,4,−2,3,−1 で、2乗の和は 1+16+4+9+1=31、σ^μ2=31/5=6.2 である。定理 9.8 のとおり 31=26+5×(12−11)2 が成り立つ。
(2) Xˉ=(X1+X2)/2 なので X1−Xˉ=(X1−X2)/2、X2−Xˉ=−(X1−X2)/2 である。
W=2⋅4(X1−X2)2=2(X1−X2)2,S2=2−1W=2(X1−X2)2.
E[X1−X2]=0、V[X1−X2]=2σ2 なので E[(X1−X2)2]=2σ2。よって E[S2]=σ2、E[σ^2]=E[W]/2=σ2/2 である。n=2 では標本分散の期待値は母分散の半分しかなく、偏りが最も大きい。
例題 9.4 2群をまとめた不偏分散 ★★
オリジナル平均の違うかもしれない2つの母集団から、独立に X1,…,Xm と Y1,…,Yn を取る。2つの母集団の分散は等しく σ2 とする。それぞれの偏差平方和を WX=∑(Xi−Xˉ)2、WY=∑(Yj−Yˉ)2、不偏分散を SX2、SY2 とする。
- Sp2=m+n−2WX+WY が σ2 の不偏推定量であることを示せ。
- m=6、sX2=4.0、n=10、sY2=6.0 のとき、sp2 を求めよ。
- 2つの母集団が正規分布なら、V[SX2]=2σ4/(m−1)、V[SY2]=2σ4/(n−1) が成り立つ(第11章で示す)。m=6、n=10 のとき、Sp2 と (SX2+SY2)/2 はどちらも不偏であることを確かめ、分散を比べよ。
解答
(1) 定理 9.9 を各群に使うと E[WX]=(m−1)σ2、E[WY]=(n−1)σ2。よって E[WX+WY]=(m+n−2)σ2 で、m+n−2 で割れば E[Sp2]=σ2 である。2群で平均を1つずつ、合わせて2つ推定したので、自由度は m+n から 2 を引いた m+n−2 になる。
(2) wX=(m−1)sX2=5×4.0=20、wY=9×6.0=54 なので sp2=74/14≈5.286。Sp2=m+n−2(m−1)SX2+(n−1)SY2 は、自由度を重みにした SX2 と SY2 の加重平均である。
(3) E[(SX2+SY2)/2]=(σ2+σ2)/2=σ2 なので、これも不偏である。2群は独立なので
V[2SX2+SY2]=41(52σ4+92σ4)=457σ4≈0.1556σ4.
一方 Sp2=(5SX2+9SY2)/14 なので
V[Sp2]=19625⋅52σ4+81⋅92σ4=19610+18σ4=71σ4≈0.1429σ4.
Sp2 の方が分散が小さい。データの多い群に大きな重みを置いているためで、例題 9.2 の逆分散の重み付けと同じ考え方である。この Sp2 は、第10章の母平均の差の区間推定と第12章の2標本 t 検定で使う。
一致性と有限母集団
S2 の分散は母集団の4次の積率に依存するので、一般の形は2級の範囲では扱わない。正規母集団なら V[S2]=2σ4/(n−1)(第11章)で、n→∞ で 0 に近づく。S2 は不偏なので、命題 9.5 により σ2 の一致推定量である。
σ^2=nn−1S2 も、偏り −σ2/n と分散がともに 0 に近づくので一致推定量である。σ^2 は「一致するが不偏でない」推定量の例になっている。平均二乗誤差では σ^2 の方が S2 より小さいことを、第2章の総合問題で計算した。
有限母集団から戻さずに取る場合
定理 9.9 は Xi が独立であること、すなわち無限母集団からの抽出か、戻しながらの抽出を前提にしている。N 個の個体から n 個を戻さずに取ると、Xi どうしは独立でなくなり、V[Xˉ]=nσN2⋅N−1N−n になる(σN2 は N で割った母集団の分散)。このとき S2 が不偏に推定するのは σN2 ではなく、N−1 で割った母集団の分散 N−1NσN2 である。n=N(全数調査)では V[Xˉ]=0 となり、矛盾は起きない。
確認テスト
オリジナル
- 9.3-1 同じデータから計算した s2 と σ^2 について、s2−σ^2=n−1σ^2 を示せ。また s2≥σ^2 で、等号が成り立つのはどのようなデータのときか答えよ。
- 9.3-2 n=10 のデータで ∑xi=50、∑xi2=290 であった。xˉ、偏差平方和、σ^2、s2 を求めよ。
- 9.3-3 (X1,Y1),…,(Xn,Yn) は互いに独立な組で、どの組も Cov(Xi,Yi)=γ をもつとする(i=j なら Xi と Yj は独立)。E[∑(Xi−Xˉ)(Yi−Yˉ)]=(n−1)γ を示せ。ヒント:∑(Xi−Xˉ)(Yi−Yˉ)=∑(Xi−μX)(Yi−μY)−n(Xˉ−μX)(Yˉ−μY)。
- 9.3-4 E[Xˉ2]=μ2+σ2/n を示し、Xˉ2 が μ2 の不偏推定量でないことを確かめよ。さらに Xˉ2−S2/n が μ2 の不偏推定量であることを示せ。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com