統計学の復習 第13章 §13.2 ★★★ H0:p1=p2 の下では共通の比率が1つしかないので、2群を合わせて推定する(プール)。差の区間推定では H0 を置かないのでプールしない
差の分散と、H0 の下での形
独立な2つの標本で、第1群は n1 人中 X1 人、第2群は n2 人中 X2 人が性質 A を持っていたとする。X1∼Bin(n1,p1)、X2∼Bin(n2,p2) は独立である。帰無仮説 H0:p1=p2 を検定したい。
比べるのは p^1−p^2 である。2群が独立なので共分散は 0 で、第7章の V[X−Y]=V[X]+V[Y] から、p1,p2 が何であっても
E[p^1−p^2]=p1−p2,V[p^1−p^2]=n1p1(1−p1)+n2p2(1−p2)(13.2)
が成り立つ。この式は第11章で差の区間推定に使ったものと同じである。
H0 の下では p1=p2 なので、共通の値を p と書くと、(13.2) は
E[p^1−p^2]=0,V[p^1−p^2]=p(1−p)(n11+n21)
になる。2つの項に同じ p が入るので、p(1−p) を括り出すことができる。
この p は H0 が指定していない未知の値なので、データから推定する必要がある。H0 の下では、第1群の n1 人も第2群の n2 人も、同じ確率 p で性質 A を持つ。したがって n1+n2 人全体を1つの標本とみなしてよく、p の推定値として全体の比率
p^=n1+n2X1+X2=n1+n2n1p^1+n1+n2n2p^2(13.3)
を使う。これをプールした比率(合併した比率)と呼ぶ。2番目の形から分かるように、p^ は2群の比率を標本の大きさで重み付けた平均である。
命題 13.2(母比率の差の検定)
H0:p1=p2 の下で、n1,n2 が大きいとき
Z=p^(1−p^)(n11+n21)p^1−p^2(13.4)
の分布は N(0,1) で近似できる。ここで p^ はプールした比率 (13.3) である。棄却域は §13.1 と同じく、対立仮説の向きで決める。
分子 p^1−p^2 は、独立な2つの標本平均の差なので、中心極限定理から近似的に正規分布に従う。分母の p^ は、H0 の下で n1+n2 個のデータから作った p の推定量で、大数の法則により n1+n2 が大きければ p に近い。分母の p を p^ で置き換えた影響は、第11章の母比率の区間の場合と同じ理由で、正規近似の誤差に比べて小さい。
検定はプール、区間推定は非プールである理由
第11章の差の信頼区間では、標準誤差を
n1p^1(1−p^1)+n2p^2(1−p^2)
とし、2群の比率を別々に入れた(非プール)。検定の (13.4) はこれと形が違うが、別の公式から出てきたものではない。どちらも差の分散 (13.2) という同じ和で、違うのは「和の各項の p1,p2 に何を入れるか」だけである。
区間推定では p1 と p2 が等しいとは仮定しない。2つの未知の値には、それぞれの群の推定値 p^1,p^2 を入れるほかない。検定では、H0 の世界での分布を計算している。その世界では p1=p2 で、未知の値は1つしかない。1つの値を推定するのに、片方の群だけを使う理由は無く、n1+n2 個全部を使った方が推定のばらつきが小さい。これは §13.1 の「検定は H0 の値、区間は標本の値」という原則を2標本に当てはめたものである。1標本では H0 が値 p0 まで指定していたのでそれを入れ、2標本では H0 が「等しい」としか言わないので、等しいという条件の下での推定値 p^ を入れる。
| 手続き | 仮定 | 標準誤差 |
| 差の区間推定(第11章) | なし | p^1(1−p^1)/n1+p^2(1−p^2)/n2 |
| 差の検定(本節) | H0:p1=p2 | p^(1−p^)(1/n1+1/n2) |
第10章の2標本の t でも同じ形のことが起きていた。等分散 σ12=σ22 を仮定すると、Xˉ1−Xˉ2 の分散 σ12/n1+σ22/n2 の2つの項に同じ σ2 が入り、それを2群をまとめた不偏分散 Sp2(第9章・第10章)で推定した。比率の場合との違いは、平均の場合の等分散が問題文で与えられる仮定であるのに対し、比率の場合は H0 そのものから「分散の中の p が等しい」ことが出てくる点である。比率の差の検定では、H0 の世界では仮定が定義から正しいので、等分散の確認にあたる手続きは要らない。
プールしないと有意水準が保たれない場合
非プールの標準誤差で検定しても、n1,n2 が十分大きければ H0 の下で統計量は N(0,1) に近づくので、大標本では間違いではない。しかし n1 と n2 の大きさが大きく違い、p が小さいときには、非プールの検定は有意水準を保たない。
その理由は、小さい方の群の p^i が偶然 0 になりやすいことにある。p^1=0 だと、非プールの標準誤差の第1項 p^1(1−p^1)/n1 が 0 になり、標準誤差が実際のばらつきより小さく見積もられる。その結果、分母が小さくなって統計量の絶対値が大きく出て、H0 が正しいのに棄却してしまう。プールした比率は n1+n2 個全部から作るので、片方の群が 0 でも全体が 0 になることは少なく、この問題が起きにくい。
n1=20、n2=80 のとき、H0:p1=p2=p の下で、両側 5% の検定が実際に H0 を棄却する確率(第1種の過誤の確率)は、X1=0,…,20 と X2=0,…,80 の全部の組の二項確率を足し合わせて正確に計算できる。結果を図 13.1 に示す。

図 13.1 n1=20、n2=80 で H0:p1=p2=p が正しいとき、両側 5% の検定が H0 を棄却する確率(二項確率の和による正確な値)。破線は名目の 0.05。非プールでは p=0.05 で 0.208、p=0.06 で 0.211 と、名目の4倍を超える。プールした検定も p<0.15 では 0.035〜0.088 の範囲で名目からずれるが、p≥0.15 では 0.047〜0.051 でほぼ名目に一致する。
図の p=0.05 では、プールした検定の棄却確率は 0.047 で名目の 0.05 に近いのに対し、非プールの検定は 0.208 で、「有意水準 5%」と称しながら5回に1回は H0 を棄却してしまう。非プールの検定が棄却しやすいことは、H0 が正しくても棄却しているだけなので、検出力が高いことを意味しない。
注意
対策本によっては、比率の差の検定を非プールの標準誤差で書いているものがある。n1,n2 が大きく、大きさがそろっていれば2つの統計量の値はほとんど同じで(例題 13.3 を参照)、結論も一致することが多い。2級の選択式の問題では、選択肢の数値に合う方を選べば足りる。記述で手続きを問われたときは、H0 の下の分布を使うという理由を添えて、プールした (13.4) を書く。§13.4 で示すように、プールした Z の2乗は 2×2 分割表の独立性検定の統計量に厳密に一致し、非プールの Z ではこの一致が成り立たない。
例題 13.3 2つの治療法の改善率の差 ★★★
オリジナル治療法 A を受けた200人のうち130人、治療法 B を受けた250人のうち140人の症状が改善した。
- 改善率に差があるかを、プールした比率で両側検定せよ(有意水準 5%)。
- 非プールの標準誤差で計算した統計量の値と比べよ。
- 検定の前に「A の方が改善率が高いか」を調べると決めていた場合の結論を述べよ。
解答
(1) p^1=130/200=0.65、p^2=140/250=0.56、差は 0.09 である。プールした比率は p^=270/450=0.6 で、標準誤差は
0.6×0.4×(2001+2501)=0.24×0.009=0.00216=0.046476
である。Z=0.09/0.046476=1.936 で、両側 5% の棄却域 ∣Z∣≥1.960 に入らない。p 値は 2{1−Φ(1.936)}=0.0528 で、H0 は棄却されない。
(2) 非プールの標準誤差は 0.65×0.35/200+0.56×0.44/250=0.0011375+0.0009856=0.0021231=0.046077 で、統計量は 0.09/0.046077=1.953 である。2群の大きさが近く、比率も 1/2 から大きく離れていないので、2つの値はほとんど同じで、どちらも 1.960 に届かない。
(3) H1:p1>p2 の片側検定になり、棄却域は Z≥z0.05=1.645 である。Z=1.936 はこれに入るので棄却し、A の方が改善率が高いといえる(p 値 0.0264)。片側にするか両側にするかは、データを見る前に、調べたい差の向きで決める(第12章)。データを見て差が正だったから片側にする、という手順をとると、実際の第1種の過誤の確率は α の2倍になる。
確認テスト
オリジナル
- 13.2-1 母比率の差の検定ではプールした比率を、差の信頼区間では各群の比率を標準誤差に入れる。その理由を、差の分散の式 (13.2) に触れて2〜3文で述べよ。
- 13.2-2 男性300人のうち96人、女性250人のうち60人がある商品を購入した経験があった。購入率に男女差があるかを、有意水準 5% で両側検定せよ。
- 13.2-3 13.2-2 のデータで、購入率の差 p1−p2 の95% 信頼区間を求めよ。区間が 0 を含むかどうかと 13.2-2 の結論が合っているかを確かめよ。
- 13.2-4 H0:p1=p2=p の下で、プールした比率 (13.3) が p の不偏推定量であることを示し、その分散 V[p^] を求めよ。V[p^] が V[p^1] と V[p^2] のどちらよりも小さいことを確かめよ。
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