数理統計 第3章 §3.3 ★★ 指数型分布族の積率の公式、混合分布の平均と分散、無限分解可能性。第6・7章の十分統計量と最強力検定の準備になる
指数型分布族
ここまでの分布の多くは、母数とデータが指数関数の中で「母数の関数 × データの関数」の積の形でしか結び付かないという共通の構造を持つ。
定義 3.19(指数型分布族)
確率関数または密度が、次の関数を使って (3.24) の形に書けるとする。
- 母数に依存しない関数:h(x)≥0 と、T1(x),…,Tk(x)。
- 母数 θ の関数:η1(θ),…,ηk(θ)。
- 母数 θ の関数:A(θ)。
f(x;θ)=h(x)exp{j=1∑kηj(θ)Tj(x)−A(θ)}(3.24)
このとき、この分布の族を指数型分布族と呼ぶ。η=(η1,…,ηk) を自然母数と呼ぶ。η を母数とみて次のように書いた形を、正準形と呼ぶ。
f(x;η)=h(x)exp{η⊤T(x)−κ(η)},κ(η)=log∫h(x)eη⊤T(x)dx.
κ は規格化のための関数である(離散なら積分を和に読み替える)。
定義から、分布の台 {x:f(x;θ)>0}={x:h(x)>0} は θ によらない。したがって U(0,θ) のように台が母数とともに動く分布は指数型分布族に入らない。主な分布の正準形は次のとおりである。
- Bin(n,p)(n は既知):
(xn)pxqn−x=(xn)exp{xlog(p/q)+nlogq}
なので、次のようにとる。
h(x)=(xn),T(x)=x,η=log(p/q),κ(η)=nlog(1+eη).
最後の式は、q=1/(1+eη) から −nlogq=nlog(1+eη) となることによる。
- Po(λ):e−λλx/x!=x!1exp{xlogλ−λ} である。よって
T(x)=x,η=logλ,κ(η)=eη.
- N(μ,σ2)(両方未知):指数の中を展開すると
−2σ2x2+σ2μx−2σ2μ2−21log(2πσ2)
である。よって T(x)=(x,x2)、η=(μ/σ2,−1/(2σ2))。
- Ga(α,β)(両方未知):例題 3.5 で扱う。
定理 3.20(十分統計量の平均と分散 ★★)
正準形の指数型分布族を考える。κ が有限になる範囲を自然母数空間と呼び、η はその内点にあるとする。このとき T=T(X) の積率母関数は、原点の近くの s について
E[es⊤T]=exp{κ(η+s)−κ(η)}
となる。また
E[Tj]=∂ηj∂κ(η),Cov(Ti,Tj)=∂ηi∂ηj∂2κ(η).(3.25)
証明
κ の定義 eκ(η)=∫h(x)eη⊤T(x)dx を使うと
E[es⊤T]=∫h(x)e(η+s)⊤T(x)−κ(η)dx=eκ(η+s)−κ(η).
η は内点なので、s が小さければ右辺は有限である。したがって T のキュムラント母関数(積率母関数の対数)は
K(s)=κ(η+s)−κ(η)
である。その1階偏微分の s=0 での値が平均、2階偏微分の値が共分散である。
1変数の場合で確かめる。K=logM から
K′=MM′,K′′=MM′′−(MM′)2.
s=0 において M=1 なので、次のようになる。
K′(0)=E[T],K′′(0)=E[T2]−E[T]2.
ポアソン分布なら κ(η)=eη なので、E[X]=V[X]=eη=λ。二項分布なら
κ′(η)=1+eηneη=np,κ′′(η)=(1+eη)2neη=npq
で、命題 3.2 と一致する。母関数を毎回計算しなくても、正準形にすれば κ の微分だけで平均と分散が出る。
この構造は後の章で次のように使う。
- 第6章:標本 X1,…,Xn の同時密度は
∏h(xi)exp{η⊤i∑T(xi)−nκ(η)}
となる。ここから ∑iT(Xi) が十分統計量になる。尤度方程式は
n1i∑T(Xi)=∇κ(η)
すなわち「十分統計量の標本平均=その期待値」になる。Fisher 情報量は κ の2階微分である。
- 第7章:η が θ の単調関数である1母数の族を考える。そこでは単調尤度比が成り立ち、片側検定の一様最強力検定が作られる。
例題 3.5 ガンマ分布の正準形と E[logX] ★★
オリジナルX∼Ga(α,β) とする。α,β はともに未知とする。ディガンマ関数を ψ(α)=Γ′(α)/Γ(α) と書く。
- 密度を次の正準形に書け。
h(x)exp{η1T1(x)+η2T2(x)−κ(η1,η2)}
また、そのときの十分統計量 T と自然母数 η を求めよ。関数 κ も求めよ。2. 定理 3.20 を使って E[X] と E[logX] を求めよ。3. α=2、β=1 とする。E[logX] の値を、ψ(2)=1−γ を使って求めよ。ここで γ=0.5772 は Euler の定数である。
解答
(1) 密度を書き直すと
Γ(α)βαxα−1e−x/β=x1exp{αlogx−x/β−logΓ(α)−αlogβ}
なので、次のようにとる。
h(x)=1/x,T(x)=(logx, x),η=(α, −1/β).
β=−1/η2 を代入して
κ(η1,η2)=logΓ(η1)+η1logβ=logΓ(η1)−η1log(−η2)(η1>0, η2<0).
(2) κ=logΓ(η1)−η1log(−η2) を微分する。∂η2∂log(−η2)=η21 に注意すると
∂η2∂κ∂η1∂κ=−η2η1=αβ,=ψ(η1)−log(−η2)=ψ(α)+logβ.よって E[X]=αβ(定理 3.14 と一致),
したがって
E[logX]=ψ(α)+logβ.
さらに2階微分から、次も得る。
V[logX]=∂η12∂2κ=ψ′(α),Cov(logX,X)=∂η1∂η2∂2κ=−η21=β.
(3) E[logX]=ψ(2)+log1=1−0.5772=0.4228。
(2) の結果から、ガンマ分布の最尤推定の尤度方程式は次のようになる。
n1∑logXi=ψ(α)+logβ,Xˉ=αβ.
これが α について閉じた形で解けない理由である(第11章の Newton 法の例)。
混合分布と階層モデル
母数そのものが確率変数であるようなモデルを考える。たとえば次の2段で書いたモデルである。
- Λ がある分布に従う。
- Λ の値を与えたとき、X がその値を母数とするポアソン分布に従う。
このようなモデルを階層モデルと呼ぶ。そのときの X の周辺分布を混合分布と呼ぶ。
混合分布の平均と分散は、次の2つの公式で求める。条件付き期待値は第4章 §4.2 で定義する。ここでは E[X∣Y] が Y の関数である確率変数であることだけを使う。
E[X]=E[E[X∣Y]],V[X]=E[V[X∣Y]]+V[E[X∣Y]].(3.26)
後者は次のように示す。V[X∣Y]=E[X2∣Y]−E[X∣Y]2 の期待値をとったものと、V[E[X∣Y]] の定義を並べる。
E[V[X∣Y]]V[E[X∣Y]]=E[X2]−E[E[X∣Y]2],=E[E[X∣Y]2]−E[X]2.
2式を足せば E[X2]−E[X]2=V[X] になる。
条件付きの揺らぎの平均と、条件付き平均の揺らぎの和が全体の分散になる。母数が揺らぐ分だけ、混合分布の分散は条件付き分布の分散より大きくなる。
例題 3.6 ポアソン・ガンマ混合と負の二項分布 ★★
オリジナルΛ∼Ga(α,β) とする。Λ=λ を与えたとき X∼Po(λ) とする。
- X の周辺確率関数を求めよ。それが負の二項分布 (3.7) であることを示せ。母数は r=α、p=1/(1+β) である。ここで r は正の実数でよい。
- (3.26) を使って E[X] と V[X] を求めよ。V[X]>E[X] を確かめよ。
- α=2、β=1.5 とする。次を求めよ。
E[X],V[X],P(X=0)
解答
(1) λ について積分して周辺化する。被積分関数を λ のガンマ密度の形にまとめると
P(X=k)=∫0∞e−λk!λk⋅Γ(α)βαλα−1e−λ/βdλ=k!Γ(α)βα1∫0∞λk+α−1e−λ(1+β)/βdλ.
積分は、形状 k+α・尺度 β/(1+β) のガンマ密度の規格化定数である。その値は
Γ(k+α)(1+ββ)k+α
に等しい。よって
P(X=k)=k!Γ(α)Γ(k+α)(1+β1)α(1+ββ)k.
係数は
k!Γ(α)Γ(k+α)=k!(α+k−1)(α+k−2)⋯α=(kα+k−1)
と書ける。p=1/(1+β)、q=β/(1+β) とおく。すると r=α として、(3.7) の形 (kr+k−1)prqk になる。
(2) E[X∣Λ]=V[X∣Λ]=Λ なので、(3.26) から
E[X]V[X]=E[Λ]=αβ,=E[Λ]+V[Λ]=αβ+αβ2=αβ(1+β).
β>0 なので V[X]>E[X]。負の二項分布の公式 rq/p=αβ、rq/p2=αβ(1+β) とも一致する。
(3)
E[X]=2×1.5=3,V[X]=3×2.5=7.5,P(X=0)=(1/2.5)2=0.16.
計数データの分散が平均よりはっきり大きいとき、個体ごとに発生率 λ がばらついていると考えてこのモデルを当てはめる。第10章のベイズ推定では、Λ の分布を事前分布とみなす。X=k を観測したあとの Λ の条件付き分布(事後分布)は、再びガンマ分布
Ga(α+k, β/(1+β))
になる。(1) の被積分関数がこの密度に比例していることから分かる。
無限分解可能性
確率変数 X が次の性質を持つとき、X の分布は無限分解可能であるという。
任意の正の整数 n について、独立同一分布に従う n 個の確率変数の和と同じ分布を持つ。
X=dYn,1+⋯+Yn,n
積率母関数で言えば、各 n について MX(t)1/n がまた何かの分布の積率母関数になることである。
- Po(λ):eλ(et−1)={e(λ/n)(et−1)}n である。Yn,i∼Po(λ/n) ととればよい。
- N(μ,σ2):Yn,i∼N(μ/n,σ2/n)。
- Ga(α,β):(1−βt)−α={(1−βt)−α/n}n である。Yn,i∼Ga(α/n,β) ととればよい。NB(r,p) も同様に NB(r/n,p) に分ける。
一方、退化していない有界な分布は無限分解可能でない。∣X∣≤c とする。X が独立同一な Yn,1,…,Yn,n の和に分解されたとする。
- もし P(Yn,1>c/n)=δ>0 なら、独立性から
P(X>c)≥P(すべての Yn,i>c/n)=δn>0
となって矛盾する。よって Yn,1≤c/n。下側も同様で、∣Yn,1∣≤c/n である。2. すると、すべての n で次が成り立つ。
V[X]=nV[Yn,1]≤n(c/n)2=c2/n.
よって V[X]=0 となる。
したがって 0<p<1 の Bin(n,p) は無限分解可能でない。U(a,b) も同様である。無限分解可能な分布は、短い時間区間の増分を足し合わせて作る確率過程の、1時点の分布として現れる(ポアソン過程やブラウン運動、第12章)。
確認テスト
オリジナル
- 3.3-1 U(0,θ)(θ>0 が母数)が指数型分布族でない理由を1行で述べよ。
- 3.3-2 X∼Po(λ) とする。X=n を与えたとき Y∼Bin(n,p) とする。これは、X 個のそれぞれを確率 p で独立に残すことに当たる。次を示せ。
Y∼Po(λp),X−Y∼Po(λq),Y と X−Y は独立.
また λ=4、p=0.25 とする。P(Y=0) を求めよ。3. 3.3-3 P∼Beta(a,b) とする。P=p を与えたとき X∼Bin(n,p) とする(ベータ二項分布)。 E[X] と V[X] を求めよ。また n=10、a=b=2 とする。そのときの値を、Bin(10,0.5) の分散と比べよ。4. 3.3-4 N(μ,σ2) を正準形に書け。κ(η1,η2) を η1,η2 で表せ。定理 3.20 から E[X] と E[X2] を導け。
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