数理統計 第4章 §4.3 ★★★ ヤコビアンで新しい変数の同時密度を書き、補助変数を積分で消す。和・差・比・ガンマとベータの関係を導く1級の定番の手続き
ヤコビアンによる変換公式
(X,Y) が同時密度 fX,Y を持つとする。その台を S と書く。台から平面の集合 T への1対1の写像 φ をとり、新しい確率変数を次で作る。
(u,v)=φ(x,y),(U,V)=φ(X,Y)
逆写像を (x,y)=ψ(u,v) と書き、ψ は連続な偏導関数を持つとする。
定理 4.11(変数変換の公式 ★★★)
ヤコビアンを
J(u,v)=∂(u,v)∂(x,y)=det(∂x/∂u∂y/∂u∂x/∂v∂y/∂v)
とし、T 上で J=0 とする。このとき (U,V) の同時密度は
fU,V(u,v)=fX,Y(ψ(u,v))∣J(u,v)∣((u,v)∈T)(4.12)
で、T の外では 0 である。
証明
T の任意の部分集合 B をとる。(U,V)∈B と (X,Y)∈ψ(B) は同じ事象である。そこで重積分の変数変換の公式 dxdy=∣J∣dudv を使うと
P((U,V)∈B)=∬ψ(B)fX,Y(x,y)dxdy=∬BfX,Y(ψ(u,v))∣J(u,v)∣dudv.
これがすべての B で成り立つので、被積分関数が (U,V) の密度である。
ヤコビアンは逆写像 ψ から計算する。ψ は、元の変数を新しい変数 u,v で書いた式である。
順写像の方が微分しやすいときは、次の手順でもよい(逆関数の微分の2次元版)。
- ∂(u,v)/∂(x,y) を計算して逆数をとる。
- 得た式の x,y を u,v で書き直す。
n 次元でも同じで、n×n の行列式の絶対値を掛ける。
1つの統計量 U=g(X,Y) の分布だけが欲しいときにも、この公式を使う。変換を1対1にするために補助変数 V を自分で選ぶ。(U,V) の同時密度を書いてから、V を積分で消す。手順を表にしておく。
変数変換の答案の手順
- 補助変数 V を選ぶ。逆写像が簡単に書けるものを選ぶ。
V=X,V=Y,V=X+Y (比のとき)
2. 逆写像 x=x(u,v)、y=y(u,v) を書く。3. ヤコビアン J を計算し、絶対値をとる。4. 元の台 S の条件を u,v の不等式に書き直す。それで新しい台 T を決める。5. (4.12) で同時密度を書き、必要なら v について T の範囲で積分する。
手順4を省くと、積分範囲を誤って正規化されていない密度を答えることになる。最後に密度の積分が1になるかを確かめる。
1対1でない変換もある。たとえば Y=X2 のように、同じ値に複数の点が写る場合である。このときは台を写像が1対1になる部分に分け、それぞれで (4.12) を計算して足し合わせる。
和の分布(たたみ込み)
X,Y は独立で、密度 fX,fY を持つとする。Z=X+Y の密度を求める。補助変数を W=X とすると、逆写像とヤコビアンは次のとおりである。
x=w,y=z−w,J=det(011−1)=−1,∣J∣=1
w について積分すれば
fZ(z)=∫−∞∞fX(w)fY(z−w)dw(4.13)
を得る。これを fX と fY のたたみ込みと呼ぶ。離散型では P(Z=z)=∑kP(X=k)P(Y=z−k) である。
積分範囲は、fX(w)>0 と fY(z−w)>0 を同時に満たす範囲に限られる。たとえば X,Y∼U(0,1) 独立なら、範囲は次のとおりである。
0<w<1 かつ 0<z−w<1,すなわちmax(0,z−1)<w<min(1,z)
よって
fZ(z)={z2−z(0<z≤1)(1<z<2)(4.14)
という三角形の密度になる。図 4.2 は、P(Z≤z) が正方形の中で直線 x+y=z より下の部分の面積であることを示している。

図 4.2 X,Y∼U(0,1) 独立のとき、P(X+Y≤1.3) は単位正方形のうち直線 x+y=1.3 より下の部分(青)の面積1−0.72/2=0.755 に等しい。これを z で微分すると (4.14) の 2−z が出る。
指数分布の和を考える。X,Y∼Ex(λ) 独立とする。z>0 での積分範囲は 0<w<z となり
fZ(z)=∫0zλe−λwλe−λ(z−w)dw=λ2ze−λz(z>0)
となる。これは Ga(2,1/λ) の密度である。確認テスト 4.3-5 でこれを n 個の和へ広げる。
比の分布
Z=Y/X の密度を求める。補助変数を W=X とすると、逆写像とヤコビアンは次のとおりである。
x=w,y=zw,J=det(0w1z)=−w
これから Z の密度は
fZ(z)=∫−∞∞∣w∣fX,Y(w,zw)dw(4.15)
となる。絶対値 ∣w∣ を書き忘れると、w<0 の部分で負の密度を足すことになる。答えが0になる場合さえある。第5章の t 分布と F 分布、2025年 統計数理 問3 の題材(標本相関係数)の密度は、どれもこの形の計算で書く。
ガンマ分布とベータ分布の関係
第3章で定義したガンマ分布とベータ分布の密度を、もう一度書いておく。
Ga(α,β)Beta(a,b):Γ(α)βαxα−1e−x/β(x>0):B(a,b)va−1(1−v)b−1(0<v<1, B(a,b)=Γ(a+b)Γ(a)Γ(b))
この2つの間には、次の例題の関係がある。2変数の変換で、補助変数の選び方・ヤコビアン・台の書き直し・因数分解による独立性の判定をすべて1回ずつ使う問題になっている。
例題 4.4 ガンマ分布の和と比 ★★★
オリジナル次の X,Y は独立とする(尺度 β は共通)。
X∼Ga(a,β),Y∼Ga(b,β)
U=X+Y、V=X/(X+Y) とおく。
(U,V) の同時密度を求めよ。
次の2つを示せ。
- (a) U∼Ga(a+b,β)、V∼Beta(a,b) である。
- (b) U と V は独立である。
a=2、b=3 とする。このとき P(V>1/2) と E[V] を求めよ。
解答
- 逆写像は x=uv、y=u(1−v) である。ヤコビアンは
J=det(v1−vu−u)=−uv−u(1−v)=−u,∣J∣=u.
元の台は x>0, y>0 である。これは次の条件に対応する。
u=x+y>0,0<v=x+yx<1
逆に u>0, 0<v<1 なら x,y>0 である。よって T={u>0, 0<v<1} で、(4.12) から
fU,V(u,v)=Γ(a)βa(uv)a−1e−uv/β⋅Γ(b)βb{u(1−v)}b−1e−u(1−v)/β⋅u=Γ(a)Γ(b)βa+bua+b−1e−u/βva−1(1−v)b−1.
2. 定数を Γ(a+b) で掛けて割ると
fU,V(u,v)=Γ(a+b)βa+bua+b−1e−u/β⋅B(a,b)va−1(1−v)b−1(u>0, 0<v<1)
となる。台は直積である。同時密度は u だけの関数と v だけの関数の積である。
よって定理 4.10 から、U と V は独立である。それぞれの因子はすでに積分が1の密度の形なので、U∼Ga(a+b,β)、V∼Beta(a,b) である。3. Beta(2,3) の密度は v(1−v)2/B(2,3)=12v(1−v)2 である。
P(V≤21)=12∫01/2(v−2v2+v3)dv=12(81−121+641)=1611
なので P(V>21)=165=0.3125 である。E[V]=12∫01v2(1−v)2dv=12⋅301=52。一般に E[V]=a/(a+b) である。
比の期待値が期待値の比になる理由
一般には E[X/(X+Y)]=E[X]/E[X+Y] である。この例題では X=UV で、2つの因子は独立である。よって
E[X]=E[U]E[V],E[V]=E[U]E[X]=(a+b)βaβ=a+ba
が成り立つ。例題の (3) の値 2/5 はこれと一致する。独立性を示したあとは、積の期待値を分けて計算することができる。
例題 4.5 指数分布の差(台の場合分け) ★★
オリジナルX,Y∼Ex(1) は独立とする。U=X−Y の密度を求め、P(∣X−Y∣>1) を求めよ。
解答
補助変数を V=Y とすると、逆写像とヤコビアンは次のとおりである。
x=u+v,y=v,J=det(1011)=1
台 x>0, y>0 を新しい変数で書き直す。条件は次のとおりである。
v>0 かつ v>−u,すなわちv>max(0,−u)
(U,V) の同時密度は e−(u+v)e−v=e−u−2v なので
fU(u)=∫max(0,−u)∞e−u−2vdv=2e−ue−2max(0,−u).
符号で場合を分けると次のとおりである。
- u≥0 では fU(u)=e−u/2 である。
- u<0 では fU(u)=e−ue2u/2=eu/2 である。
まとめると fU(u)=21e−∣u∣ で、これは Laplace 分布である。対称性から P(∣U∣>1)=2∫1∞21e−udu=e−1=0.3679。
確認テスト
オリジナル
4.3-1 X,Y∼N(0,1) 独立とする。和と差を U=X+Y、V=X−Y とおく。
- ヤコビアンの絶対値を求め、(U,V) の同時密度を書け。
- U と V が独立であることを示せ。
- どちらも N(0,2) に従うことを示せ。
4.3-2 X,Y∼N(0,1) 独立とし、Z=Y/X とおく。式 (4.15) を使って、Z の密度が次の Cauchy 分布の密度であることを示せ。
fZ(z)=π(1+z2)1
また P(∣Z∣≤1) を求めよ。3. 4.3-3 X,Y∼N(0,1) 独立とし、極座標で (R,Θ) を定める。
X=RcosΘ,Y=RsinΘ(R>0, 0<Θ<2π)
(R,Θ) の同時密度を求めよ。それを使って、2つが独立であることを示せ。さらに P(R>2) を求めよ。4. 4.3-4 X,Y∼U(0,1) 独立とし、Z=X+Y とおく。たたみ込み (4.13) から (4.14) を導き、P(Z≤1.5) を求めよ。5. 4.3-5 X1,…,Xn∼Ex(λ) 独立とし、Sn=X1+⋯+Xn とおく。Sn の密度が
(n−1)!λnsn−1e−λs(s>0)
であること、すなわち Sn∼Ga(n,1/λ) を、たたみ込みと数学的帰納法で示せ。
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