数理統計 第4章 §4.4 ★★★ 共分散行列・多項分布・多変量正規分布。線形変換と条件付き分布の公式は回帰(第9章)と標本分布論(第5章)で毎回使う
平均ベクトルと共分散行列
X=(X1,…,Xk)⊤ を k 次元の確率ベクトルとする。成分ごとの期待値を並べた
μ=E[X]=(E[X1],…,E[Xk])⊤
を平均ベクトルと呼ぶ。また、(i,j) 成分が Cov(Xi,Xj) の行列
Σ=Cov(X)=E[(X−μ)(X−μ)⊤]
を共分散行列(分散共分散行列)と呼ぶ。対角成分は分散 V[Xi] で、Σ は対称行列である。
命題 4.12(線形変換の平均と共分散)
定数行列 B と定数ベクトル c をとる。B の大きさは m×k である。次が成り立つ。
E[BX+c]=Bμ+c,Cov(BX+c)=BΣB⊤.(4.16)
特に任意のベクトル a について次が成り立ち、Σ は半正定値である。
V[a⊤X]=a⊤Σa≥0
証明
前半は成分ごとの線形性である。後半は、(BX+c)−(Bμ+c)=B(X−μ) から次のとおりである。
E[B(X−μ)(X−μ)⊤B⊤]=BE[(X−μ)(X−μ)⊤]B⊤=BΣB⊤
B=a⊤(1×k)とおけば最後の主張になる。分散は非負である。
半正定値性から、たとえば次の行列は共分散行列になりえない。
(4331)
行列式が 4−9<0 で、固有値の一方が負だからである。2次元では、半正定値であることと ∣ρ∣≤1(定理 4.5)は同じ条件である。
多項分布
1回の試行で、k 個の結果のうち1つが起こるとする。各結果の確率は p1,…,pk(∑pi=1)である。これを独立に n 回繰り返す。結果 i が起こった回数を Xi とする。X=(X1,…,Xk) の同時確率関数は
P(X1=x1,…,Xk=xk)=x1!⋯xk!n!p1x1⋯pkxk(xi≥0, i∑xi=n)(4.17)
である。係数は並べ方の数である。つまり n 回のうち、どの x1 回が結果1で、どの回が結果2で…という選び方の数である。
これを多項分布と呼び、X∼Mult(n;p1,…,pk) と書く。k=2 が二項分布である。
命題 4.13(多項分布の周辺・平均・共分散 ★★)
- (i) 各成分は Xi∼Bin(n,pi) に従う。
- (ii) i=j のとき、Cov(Xi,Xj)=−npipj である。
証明
指示変数 It,i を、次で定める。
It,i={10(t 回目の試行の結果が i)(それ以外)すると Xi=∑t=1nIt,i である。
(i) 各 t で P(It,i=1)=pi である。試行は独立なので Xi∼Bin(n,pi) となる。
(ii) i=j とする。共分散を、試行の組ごとに見る。
- 同じ試行では2つの結果は同時に起こらないので、It,iIt,j=0 である。したがって Cov(It,i,It,j)=0−pipj となる。
- 異なる試行 t=s では独立なので、共分散は0である。
共分散の双線形性から、次を得る。
Cov(Xi,Xj)=t∑s∑Cov(It,i,Is,j)=−npipj
総数が n に固定されているので、ある結果が多く出れば他は少なくなる。そのため共分散は負になる。共分散行列は
Σ=n(diag(p)−pp⊤)
と書ける。1⊤Σ1=n(1−1)=0 から、Σ は正則でない。これは ∑Xi=n が定数であることに対応する。
例題 4.6 多項分布の差と条件付き分布 ★★
オリジナルX=(X1,X2,X3)∼Mult(n;p1,p2,p3) とする。
- V[X1−X2] を n,p1,p2 で表せ。
- X3=x3 が与えられたときの X1 の条件付き分布が、次であることを示せ。
Bin(n−x3, p1+p2p1)
3. n=100、(p1,p2,p3)=(0.5,0.3,0.2) とする。このとき V[X1−X2] と E[X1∣X3=20] を求めよ。
解答
- (4.6) と命題 4.13 から、次を得る。
V[X1−X2]=np1(1−p1)+np2(1−p2)+2np1p2
2. X3∼Bin(n,p3) である。X1=x1 のとき X2=n−x3−x1 が決まる。m=n−x3 とおくと
P(X1=x1∣X3=x3)=m!x3!n!(p1+p2)mp3x3x1!(m−x1)!x3!n!p1x1p2m−x1p3x3=(x1m)(p1+p2p1)x1(p1+p2p2)m−x1
となる(分母で 1−p3=p1+p2 を使った)。これは Bin(m,p1/(p1+p2)) の確率関数である。3. 分散は次のとおりである。
V[X1−X2]=100(0.25+0.21+2×0.15)=100×0.76=76
X3=20 のとき、条件付き分布は Bin(80,0.5/0.8)=Bin(80,0.625) である。よって
E[X1∣X3=20]=80×0.625=50.
多変量正規分布
定義 4.14(多変量正規分布)
Z=(Z1,…,Zk)⊤ の成分が独立に N(0,1) に従うとする。正則な行列 A とベクトル μ∈Rk をとる。A の大きさは k×k である。次の形に書ける確率ベクトル X を考える。
X=μ+AZ,Σ=AA⊤
この X はk 変量正規分布(多変量正規分布)に従うという。平均は μ、共分散行列は Σ である。記号では X∼Nk(μ,Σ) と書く。
命題 4.12 から、平均は μ である。共分散行列は AIA⊤=AA⊤=Σ である。
Σ は正定値対称行列である。逆に任意の正定値対称行列は、Cholesky 分解などで AA⊤ の形に書ける。よって、すべての正定値対称行列が共分散行列として現れる。
定理 4.15(多変量正規分布の密度と積率母関数 ★★★)
X∼Nk(μ,Σ) の密度と積率母関数は
f(x)M(t)=(2π)k/2∣Σ∣1/21exp{−21(x−μ)⊤Σ−1(x−μ)},=E[et⊤X]=exp(t⊤μ+21t⊤Σt)(4.18)(4.19)
である(∣Σ∣ は行列式)。どちらも平均と共分散行列だけで決まり、A の選び方によらない。
証明
Z の密度は、独立性から次のとおりである。
i∏(2π)−1/2e−zi2/2=(2π)−k/2exp(−z⊤z/2)
線形変換 x=μ+Az の逆写像とヤコビアンは、次のとおりである。
z=A−1(x−μ),detA−1=detA1
さらに次の2つが成り立つ。
∣Σ∣z⊤z=det(AA⊤)=(detA)2=(x−μ)⊤(A−1)⊤A−1(x−μ)=(x−μ)⊤(AA⊤)−1(x−μ)(よって ∣detA∣=∣Σ∣1/2)
定理 4.11 の k 次元版から、(4.18) を得る。
積率母関数を求める。s=A⊤t とおくと t⊤X=t⊤μ+s⊤Z である。Zi の独立性と E[esZi]=es2/2 から、次を得る。
M(t)s⊤s=et⊤μi∏esi2/2=exp(t⊤μ+s⊤s/2)=t⊤AA⊤t=t⊤Σt
2変量(k=2)の場合を書き下す。記号を次のようにとる。
μ=(μ1,μ2),V[Xi]=σi2,相関係数 ρ (∣ρ∣<1)
このとき ∣Σ∣=σ12σ22(1−ρ2) である。zi=(xi−μi)/σi とおいて逆行列を計算すると
f(x1,x2)=2πσ1σ21−ρ21exp{−2(1−ρ2)z12−2ρz1z2+z22}(4.20)
となる。
定理 4.16(多変量正規分布の基本性質 ★★★)
X∼Nk(μ,Σ) とする。
- (線形変換)m×k の行列 B をとり、その階数は行の数に等しいとする。ベクトル c について、次が成り立つ。
BX+c∼Nm(Bμ+c, BΣB⊤)
特に各成分は Xi∼N(μi,Σii) に従う。成分の任意の一部も多変量正規分布に従う。2. (無相関と独立)X=(X1,X2) と分け、Σ も対応して分ける。
Σ=(Σ11Σ21Σ12Σ22)
Σ12=O なら、2つの部分ベクトルは独立である。3. (2次形式)(X−μ)⊤Σ−1(X−μ)∼χk2。
証明
(1) Y=BX+c の積率母関数は、s∈Rm について次のとおりである。
E[es⊤Y]=es⊤cM(B⊤s)=exp{s⊤(Bμ+c)+21s⊤BΣB⊤s}
これは Nm(Bμ+c,BΣB⊤) の積率母関数 (4.19) である。B の階数が行の数に等しいので、BΣB⊤ は正定値である。積率母関数が分布を決めることから主張が従う。成分の一部は、B を単位行列の一部の行をとった行列にすればよい。
(2) Σ12=O とし、t=(t1,t2) と分ける。すると
t⊤Σt=t1⊤Σ11t1+t2⊤Σ22t2
となり、(4.19) が t1 だけの関数と t2 だけの関数の積に分かれる。これは、独立な N(μ1,Σ11) と N(μ2,Σ22) を並べたベクトルの積率母関数と一致する。よって X1 と X2 は独立である。
(3) Z=A−1(X−μ) は、成分が独立な N(0,1) である。2次形式は Z⊤Z=∑iZi2 に等しい。独立な標準正規の2乗の k 個の和は χk2 に従う(第3章)。
(2) は、正規分布に限っては「共分散が0」だけから独立性まで言えることを述べている。第5章で Xˉ と S2 の独立性を示すときと、第9章で回帰係数の推定量と残差の独立性を示すときに、この性質を使う。ただし前提は同時に多変量正規分布に従うことであり、各成分が正規分布に従うだけでは足りない。
反例を挙げる。X∼N(0,1) に独立な符号を掛けて、Y を作る。符号は ±1 を等確率でとる。
2つはどちらも N(0,1) に従い、無相関である。しかし ∣Y∣=∣X∣ なので独立でない。
多変量正規分布の条件付き分布
定理 4.17(条件付き分布 ★★★)
定理 4.16 (2) の分け方をとる。X2=x2 が与えられたとき、X1 の条件付き分布は
N(μ1+Σ12Σ22−1(x2−μ2), Σ11−Σ12Σ22−1Σ21)(4.21)
である。
証明
C=Σ12Σ22−1 とおき、W=X1−CX2 を作る。組 (W,X2) は X の正則な線形変換である。よって定理 4.16 (1) から、同時に多変量正規分布に従う。その共分散は
Cov(W,X2)=Σ12−CΣ22=Σ12−Σ12=O
なので、(2) から W と X2 は独立である。W の平均は μ1−Cμ2 である。共分散は
Σ11−CΣ21−Σ12C⊤+CΣ22C⊤=Σ11−Σ12Σ22−1Σ21
である。ここで次の等式を使った。
CΣ22C⊤=Σ12Σ22−1Σ21=CΣ21=Σ12C⊤
X1=W+CX2 である。W は X2 と独立である。
よって X2=x2 を条件としても、W の分布は変わらない。よって条件付き分布は、W の分布を Cx2 だけ平行移動したものである。これで (4.21) を得る。
2変量の場合に書き下す。X1=x1 が与えられたとき、X2 の条件付き分布は
X2∣X1=x1 ∼ N(μ2+ρσ1σ2(x1−μ1), σ22(1−ρ2))(4.22)
である。条件付き期待値は x1 の1次式で、その傾きは次のとおりである。
ρσ1σ2=V[X1]Cov(X1,X2)
これは、第9章の単回帰で最小2乗法が推定する傾きの母集団版である。条件付き分散は x1 によらず、∣ρ∣ が大きいほど小さい。図 4.3 は、等高線の楕円と回帰直線の位置関係を示している。

図 4.3 標準化した2変量正規分布(ρ=0.6)の等高線 Q=(z12−2ρz1z2+z22)/(1−ρ2)=c(青、c=1,3,5.991)。最も外側の楕円は確率 0.95 を囲む(確認テスト 4.4-4)。回帰直線 z2=0.6z1(赤)は楕円の長軸 z2=z1(灰の破線)より傾きが小さく、各楕円の縦の接線の接点(黒い点)はすべてこの直線の上にある。
図の性質は、次の3段で確かめられる。
- z1 を固定する。このとき Q は z2 の2次関数になる。最小になるのは z2=ρz1 のときである。
- したがって、密度を縦線に沿って最大にする点は直線 z2=ρz1 の上にある。この点が条件付き分布の平均である。
- 楕円の縦の接線の接点は、その縦線の上で楕円が1点だけになる点である。よって同じ直線の上にある。
平均への回帰と呼ばれる現象も、ここから読める。z1 が大きくても、条件付き期待値は ρz1 にとどまる。この現象は、∣ρ∣<1 であることだけから起こる。
例題 4.7 2変量正規分布の条件付き確率と線形結合 ★★★
オリジナル(X,Y) は2変量正規分布に従い、平均・分散・相関係数は次のとおりとする。
E[X]=1,E[Y]=2,V[X]=4,V[Y]=9,ρ=0.5
- X=3 が与えられたときの Y の条件付き分布を求めよ。また P(Y>5∣X=3) を求めよ。
- X+Y の分布を求め、P(X+Y>6) を求めよ。
- X と独立になる Y−aX を作りたい。そのための定数 a を求めよ。
解答
Cov(X,Y)=ρσXσY=0.5×2×3=3 である。
- (4.22) から、条件付き分布の平均と分散は次のとおりである。
平均分散=2+0.5⋅23(3−1)=3.5=9(1−0.25)=6.75
よって Y∣X=3∼N(3.5,6.75) である。標準偏差は 6.75=2.598 なので、Z∼N(0,1) として
P(Y>5∣X=3)=P(Z>1.5/2.598)=P(Z>0.5774)=0.2819.
2. 定理 4.16 (1) で B=(1 1) とおくと、X+Y は正規分布に従う。平均は3、分散は 4+9+2×3=19 である。よって
P(X+Y>6)=P(Z>3/19)=P(Z>0.6882)=0.2457.
3. (X,Y−aX) は (X,Y) の正則な線形変換なので、同時に正規分布に従う。定理 4.16 (2) から、独立と無相関は同値である。
Cov(X,Y−aX)=3−4a=0よりa=43
この a は、条件付き期待値の傾き ρσY/σX に等しい。
確認テスト
オリジナル
- 4.4-1 次の行列が、どんな確率ベクトルの共分散行列にもなりえない理由を示せ。
(4331)
命題 4.12 を使い、具体的なベクトル a を1つ挙げて示すこと。2. 4.4-2 X∼N3(0,Σ) とする。ただし
Σ=210121012.
次の2つを求めよ。
Y=X1−X2+X3 の分布
X2=1 が与えられたときの X1 の条件付き分布
4.4-3 X1,…,Xn を N(μ,σ2) からの無作為標本とする。
- Cov(Xˉ,Xi−Xˉ)=0 を示せ。
- 定理 4.16 を使って、次の2つが独立であることを示せ。
Xˉ,(X1−Xˉ,…,Xn−Xˉ)
4. 4.4-4 X∼N2(μ,Σ) とし、2次形式を次で定める。
Q=(X−μ)⊤Σ−1(X−μ)
- zi=(xi−μi)/σi とおく。Q を z1,z2,ρ で書け。
- P(Q≤c)=0.95 となる c を求めよ。χ22 が Ex(1/2)(平均2の指数分布)と一致することを使うこと。
- 4.4-5 多項分布で、i=j とする。命題 4.13 から、相関係数 ρ(Xi,Xj) を pi,pj で表せ。また pi=0.5、pj=0.3 のときの値を求めよ。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com