数理統計 第4章 §4.1 ★★ 同時密度から正規化定数・周辺密度・領域の確率・共分散を求める計算。どの大問でも最初の小問になる
第2章と第3章では、確率変数を1つずつ扱った。統計の問題では、標本 X1,…,Xn がいつも複数あり、そこから作る統計量(和・比・最大値など)の分布を求める必要がある。そのためには、複数の確率変数の分布をまとめて書き、そこから一部の変数だけの分布を取り出し、ある変数の値を知ったときの残りの分布を求め、変数を別の変数へ取り替えたときの密度を計算する、という4つの操作を手で最後まで実行できなければならない。本章はこの4つを順に作る。
§4.1 では同時分布と周辺分布、および共分散と相関係数を定義する。§4.2 では条件付き分布と条件付き期待値を定義し、全期待値の法則・全分散の公式と独立性の判定法を証明する。§4.3 ではヤコビアンを使った変数変換の公式を証明し、たたみ込み・比の分布・ガンマとベータの関係を導く。§4.4 では平均ベクトルと共分散行列を導入し、多項分布と多変量正規分布の性質(線形変換・周辺分布・条件付き分布)を証明する。
1級の統計数理では、本章の手続きが大問の前半の小問として繰り返し現れる。2025年 統計数理 問5 の題材(ポアソン分布の再生性をたたみ込みで導く)は §4.3 のたたみ込みそのものであり、問3 の題材(単回帰での標本相関係数の密度)は、独立な2つの統計量から比を作ってヤコビアンで密度を求める §4.3 の手続きで書く。第5章の t 分布・F 分布の導出と、第9章の回帰の議論で使う多変量正規の条件付き分布も、本章で準備する。
同時分布関数・同時確率関数・同時密度関数
同じ試行の上で定義された2つの確率変数 X,Y の組 (X,Y) を2次元確率変数(確率ベクトル)と呼ぶ。その分布を表す最も一般的な量は次の同時分布関数である。
定義 4.1(同時分布関数)
F(x,y)=P(X≤x, Y≤y) を (X,Y) の同時分布関数と呼ぶ。
長方形 (a,b]×(c,d] に入る確率は、次の2段で求める。
- 事象 {X≤b,Y≤d} から、次の2つの事象を除く。
{X≤a,Y≤d},{X≤b,Y≤c}
2. 2回除かれた事象 {X≤a,Y≤c} を1回戻す。
こうして
P(a<X≤b, c<Y≤d)=F(b,d)−F(a,d)−F(b,c)+F(a,c)(4.1)
と書ける。右辺は確率なので非負であり、これは F が満たすべき条件の1つになる。
X,Y がともに離散型で、取りうる値が可算個の組 (xi,yj) に限られるとする。このとき
p(xi,yj)=P(X=xi,Y=yj)
を同時確率関数と呼ぶ。連続型の場合は次のように定義する。
定義 4.2(同時確率密度関数)
非負の関数 f(x,y) があって、平面の任意の(可測な)集合 A について
P((X,Y)∈A)=∬Af(x,y)dxdy(4.2)
が成り立つとき、f を (X,Y) の同時確率密度関数(同時密度)と呼ぶ。A=R2 とおけば ∬R2f=1 である。
A=(−∞,x]×(−∞,y] とおくと
F(x,y)=∫−∞x∫−∞yf(s,t)dtds
である。f が連続な点では、微分積分学の基本定理を2回使って
f(x,y)=∂x∂y∂2F(x,y)
を得る。
X1,…,Xn の n 個についても、同じように次の2式で定義する。
F(x1,…,xn)=P(X1≤x1,…,Xn≤xn),P(X∈A)=∫Af(x1,…,xn)dx1⋯dxn
以下では記号を軽くするために2次元で書くが、証明はどれも n 次元でそのまま成り立つ。
周辺分布
(X,Y) の分布が分かっているとき、X だけの分布を周辺分布と呼ぶ。
命題 4.3(周辺密度)
(X,Y) が同時密度 f を持つとする。このとき X と Y はそれぞれ次の密度
fX(x)=∫−∞∞f(x,y)dy,fY(y)=∫−∞∞f(x,y)dx(4.3)
を持つ。離散型では和 pX(xi)=∑jp(xi,yj) で同じことが成り立つ。
証明
{X≤x}={X≤x, Y∈R} である。そこで (4.2) で A=(−∞,x]×R とおき、積分の順序を入れ替えると
P(X≤x)=∫−∞x{∫−∞∞f(s,y)dy}ds
となる。X の分布関数が中括弧の関数の積分で書けたので、中括弧が X の密度である。
周辺化の計算で答案を誤る最大の原因は、密度が 0 でない範囲(台)の扱いである。台が三角形のように長方形でない形をしているとき、y で積分する範囲は x に依存する。答案では、まず台を xy 平面に描く。次に x を固定した縦線が台を横切る区間を読み取り、それから積分を書く。
同時分布での期待値・共分散・相関係数
関数 g(X,Y) の期待値は、g(X,Y) 自身の分布を求めなくても
E[g(X,Y)]=∬g(x,y)f(x,y)dxdy(4.4)
で計算できる(離散型は和)。これは第2章の1変数の場合と同じ主張の2次元版で、証明も同じである。g(x,y)=ax+by とおけば、(4.3) から E[aX+bY]=aE[X]+bE[Y] が従う。期待値の線形性は、X と Y が独立でなくても成り立つ。
定義 4.4(共分散と相関係数)
μX=E[X]、μY=E[Y] とする。
Cov(X,Y)=E[(X−μX)(Y−μY)],ρ=ρ(X,Y)=V[X]V[Y]Cov(X,Y)
をそれぞれ X と Y の共分散、相関係数と呼ぶ。相関係数は V[X],V[Y]>0 のときに定める。
積を展開して線形性を使うと、計算に向く形
Cov(X,Y)=E[XY]−E[X]E[Y](4.5)
を得る。同じく展開すると、定数 a,b,c,d について Cov(aX+b,cY+d)=acCov(X,Y)、
V[aX+bY]=a2V[X]+2abCov(X,Y)+b2V[Y](4.6)
が成り立つ。n 個の和については V[∑iXi]=∑iV[Xi]+2∑i<jCov(Xi,Xj) である。
定理 4.5(相関係数の範囲 ★★)
- (i) −1≤ρ(X,Y)≤1 が成り立つ。
- (ii) ∣ρ∣=1 となるのは、次の条件が成り立つときに限る。
定数 a=0, b があって、確率1で Y=aX+b.
そのとき ρ の符号は a の符号に一致する。
証明
X と Y を標準化した
X~=V[X]X−μX,Y~=V[Y]Y−μY
は、どちらも平均0・分散1で、E[X~Y~]=ρ である。任意の実数 t について (4.6) から
0≤V[tX~+Y~]=t2+2ρt+1
となる。右辺は t の2次式で常に非負なので、判別式は 4ρ2−4≤0 である。すなわち ∣ρ∣≤1 を得る。
∣ρ∣=1 のときは t=−ρ とおく。
V[−ρX~+Y~]=ρ2−2ρ2+1=1−ρ2=0
分散が0の確率変数は確率1で平均に等しいので、Y~=ρX~ が確率1で成り立つ。これを X,Y に戻すと
Y=μY+ρV[Y]/V[X](X−μX)
という1次式になる。
逆に Y=aX+b なら、次のとおり ρ=±1 である。
Cov(X,Y)=aV[X],V[Y]=a2V[X],ρ=∣a∣a=±1
相関係数が測るのは1次式の関係の強さだけである。Y が X の関数として完全に決まっていても、関係が1次でなければ相関係数の絶対値は1未満になる。次節の例のように、ρ=0 になることもある。
非復元抽出の同時確率関数
赤玉3個・白玉2個の袋から、戻さずに2個を順に取り出す。Xi は、i 回目が赤なら1、白なら0とする。P(X1=1,X2=1)=53⋅42=103 のように乗法定理で計算すると、同時確率関数と周辺確率関数は次の表になる。
| X2=0 | X2=1 | 計 |
| X1=0 | 1/10 | 3/10 | 2/5 |
| X1=1 | 3/10 | 3/10 | 3/5 |
| 計 | 2/5 | 3/5 | 1 |
周辺確率は表の行と列の和である。X2 の周辺分布は X1 と同じで、2回目に赤が出る確率も 3/5 になる。
E[X1X2]=P(X1=1,X2=1)=3/10 なので、(4.5) から
Cov(X1,X2)=103−(53)2=−503
である。1回目に赤を取ると袋の赤の割合が下がるので、共分散は負になる。
例題 4.1 同時密度 x+y の周辺化と共分散 ★★
オリジナル(X,Y) の同時密度を次で定める。
f(x,y)={c(x+y)0(0<x<1, 0<y<1)(それ以外)
- 定数 c と周辺密度 fX(x) を求めよ。
- Cov(X,Y) と相関係数 ρ を求めよ。
- P(X+Y≤1) を求めよ。
解答
- 全体の積分は
c∫01∫01(x+y)dydx=c∫01(x+21)dx=c(21+21)=c
なので c=1 である。周辺密度は
fX(x)=∫01(x+y)dy=x+21(0<x<1)
である。f は x,y について対称である。よって fY(y)=y+21 である。2. 周辺密度から次を得る。Y も同じである。
E[X]E[X2]V[X]=∫01x(x+21)dx=31+41=127=∫01x2(x+21)dx=41+61=125=125−14449=14411
積の期待値は (4.4) で
E[XY]=∫01∫01xy(x+y)dydx=∫01(2x2+3x)dx=61+61=31.
よって次のとおりである。
Cov(X,Y)=31−14449=−1441,ρ=11/144−1/144=−111
3. 領域 {x+y≤1} と台の共通部分を、x を固定した縦線で読む。y の範囲は 0<y<1−x である。
P(X+Y≤1)=∫01∫01−x(x+y)dydx=∫01{x(1−x)+2(1−x)2}dx=∫0121−x2dx=31.
確認テスト
オリジナル
- 4.1-1 定数 a,b,c,d について、次を示せ。
Cov(aX+b,cY+d)=acCov(X,Y)
また、ac>0 のとき ρ(aX+b,cY+d)=ρ(X,Y) となることを確かめよ。2. 4.1-2 (X,Y) の同時密度を次で定める。
f(x,y)={cxy0(0<y<x<1)(それ以外)
次の5つを求めよ。
c,fX,fY,Cov(X,Y),ρ
3. 4.1-3 (X,Y) の同時密度を次で定める。
f(x,y)={e−y0(0<x<y)(それ以外)
次の4つを求めよ。
fX,fY,P(Y<2X),ρ(X,Y)
4. 4.1-4 N 個の玉があり、そのうち M 個が赤玉である。ここから n 個を戻さずに取り出す。Xi は、i 回目が赤なら1、白なら0とする。p=M/N とおく。
- i=j のとき、次を示せ。
Cov(Xi,Xj)=−N−1p(1−p)
2. 赤の個数 Sn=∑i=1nXi について、次を導け。
V[Sn]=np(1−p)N−1N−n
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