数理統計 第9章 §9.4 ★★ 指数型分布族・リンク関数・スコアと Fisher 情報・Newton–Raphson(IRLS)・オッズ比の推測
ロジスティック回帰
応答が成功か失敗かの2値 Yi∈{0,1} のとき、Yi を正規分布でモデル化するのは不自然である。平均 πi=P(Yi=1) を xi⊤β と等しいとおくと、確率の範囲である0以上1以下からはみ出す。そこで πi を対数オッズに変換したものを線形にする。
log1−πiπi=xi⊤β,すなわちπi=1+exi⊤βexi⊤β.(9.13)
これをロジスティック回帰モデルと呼ぶ。xij が1増えると、対数オッズが βj 増える。よって eβj はオッズ比である。
Yi が独立にベルヌーイ分布 Bin(1,πi) に従うとき、対数尤度は
ℓ(β)=i=1∑n{Yilogπi+(1−Yi)log(1−πi)}=i=1∑n{Yiηi−log(1+eηi)},ηi=xi⊤β.
次の2つの微分を使う。
dηdlog(1+eη)=π,dηdπ=π(1−π).
すると、スコアとヘッセ行列は
∂β∂ℓ=i=1∑n(Yi−πi)xi=X⊤(Y−π),∂β∂β⊤∂2ℓ=−i=1∑nπi(1−πi)xixi⊤=−X⊤WX(9.14)
となる。W=diag(πi(1−πi)) である。ヘッセ行列は Y を含まないので、Fisher 情報行列はそのまま In(β)=X⊤WX である。これは正定値なので ℓ は狭義凹である。
最尤推定値は、存在すればただ1つで、尤度方程式 X⊤(Y−π)=0 の解である。ただし πi が β の非線形関数なので、一般には陽に解けない。
一般化線形モデル
正規線形モデルとロジスティック回帰は、次の枠組みの特別な場合である。
定義 9.10(一般化線形モデル)
Yi が独立に、密度(または確率関数)
f(y;θi,ϕ)=exp{ϕyθi−b(θi)+c(y,ϕ)}(9.15)
の指数型分布族に従うとする。さらに平均 μi=E[Yi] が、単調で滑らかなリンク関数 g を通して線形予測子に結ばれているとする。
g(μi)=xi⊤β.
このモデルを一般化線形モデル(GLM)という。θ を自然母数、ϕ を分散母数と呼ぶ。θi=xi⊤β となるリンクを正準リンクと呼ぶ。
命題 9.11(平均と分散)
(9.15) の分布について E[Y]=b′(θ)、V[Y]=ϕb′′(θ)。
証明
対数密度の θ 微分は (y−b′(θ))/ϕ である。スコアの期待値は0である(∫fdy=1 を θ で微分して得られる、第6章 §6.3)。よって E[Y]−b′(θ)=0。さらに Fisher 情報量の2通りの表し方 E[(∂θlogf)2]=−E[∂θ2logf] を使うと
ϕ2E[(Y−b′(θ))2]=ϕb′′(θ),すなわちV[Y]=ϕb′′(θ).
主な例を並べる。
- 正規分布 N(μ,σ2):正準リンクは恒等写像。
θ=μ,b(θ)=θ2/2,ϕ=σ2.
- ベルヌーイ分布:正準リンクはロジット(確認テスト 9.4-1)。
θ=log{π/(1−π)},b(θ)=log(1+eθ),ϕ=1.
- ポアソン分布 Po(μ):f(y)=exp{ylogμ−μ−logy!} より、正準リンクは対数。
θ=logμ,b(θ)=eθ,ϕ=1.
正準リンクのときは θi=xi⊤β なので、対数尤度は
ℓ(β)=ϕ1∑{Yixi⊤β−b(xi⊤β)}+(定数)
となる。よって
∂β∂ℓ=ϕ1X⊤(Y−μ),−∂β∂β⊤∂2ℓ=ϕ1X⊤WX,W=diag(b′′(θi)).(9.16)
ロジスティック回帰の式 (9.14) は、この ϕ=1、b′′=π(1−π) の場合である。正規線形モデルでは W=I で、尤度方程式は正規方程式に一致する。
Newton–Raphson 法と反復重みつき最小二乗
尤度方程式を Newton–Raphson 法で解く。現在の値 β(t) のまわりでスコアを1次近似して 0 とおくと
β(t+1)=β(t)+(X⊤WX)−1X⊤(Y−μ)
を得る(W,μ は β(t) で評価する)。これは次のように書き直せる。
β(t+1)=(X⊤WX)−1X⊤Wz,z=Xβ(t)+W−1(Y−μ).
すなわち、作業変数 z を重み W で重みつき最小二乗回帰する操作の繰り返しになっている。この見方から反復重みつき最小二乗法(IRLS)と呼ばれる。正準リンクでは観測された情報行列と Fisher 情報行列が一致するので、Newton–Raphson 法と Fisher のスコア法は同じ反復になる。
推測:Wald 検定・尤度比検定・逸脱度
第6章で示した最尤推定量の漸近正規性により、n が大きいとき β^ は近似的に次に従う。
β^≈Np(β, ϕ(X⊤WX)−1).
W を β^ で評価する。この行列の対角成分から、標準誤差 se(β^j) を作る。z=β^j/se(β^j) を N(0,1) と比べるのが Wald 検定である。
入れ子のモデルの比較には、第7章 §7.3 の尤度比検定を使う。データに完全に合わせた飽和モデル(μ^i=Yi)の対数尤度を ℓsat として、
D=2{ℓsat−ℓ(β^)}
を逸脱度(deviance)と呼ぶ。正規線形モデル(ϕ=σ2)では D=Se/σ2 で、逸脱度は残差平方和の一般化である。入れ子のモデルで、母数が q 個少ない H0 を考える。そのもとでは、逸脱度の差 D0−D(尤度比検定統計量)が漸近的に χq2 に従う。
完全分離
2値データで、ある超平面が Yi=1 の点と Yi=0 の点を完全に分けてしまうことがある。このときその方向に β を大きくするほど尤度が1に近づき、最尤推定値は存在しない。Newton–Raphson 法の係数と標準誤差がどちらも際限なく大きくなっていくときは、この状況を疑う。
例題 9.5 2群のロジスティック回帰とオッズ比 ★★
オリジナル処理なしの群(x=0)で40人中12人、処理ありの群(x=1)で40人中24人が反応した。モデル log{π/(1−π)}=β0+β1x を当てはめる。
- 尤度方程式を解いて β^0,β^1 を求めよ。
- Fisher 情報行列から β^1 の漸近分散を求め、次の式を示せ。
se(β^1)=1/12+1/28+1/24+1/16.
3. オッズ比 eβ1 の近似 95% 信頼区間を求めよ(z0.025=1.960)。4. H0:β1=0 の尤度比検定統計量を計算し、有意水準 5% で判定せよ(χ12(0.05)=3.841)。
解答
- 群 g=0,1 について、人数を ng=40 とする。反応数を yg、反応確率を πg と書く。スコア X⊤(Y−π) の成分は次のとおり。
切片成分:(y0−n0π0)+(y1−n1π1),x の成分:y1−n1π1.
両方を0とおくと π^0=12/40=0.3、π^1=24/40=0.6。よって
β^0=log0.70.3=log2812=−0.847,β^1=log0.3/0.70.6/0.4=log3.5=1.253.
2. W の成分は群ごとに wg=ngπg(1−πg) にまとまる。情報行列とその逆行列の (2,2) 成分は
X⊤WX[(X⊤WX)−1]22=(w0+w1w1w1w1),=(w0+w1)w1−w12w0+w1=w0w1w0+w1=w01+w11.
π^ を入れると w0=40⋅0.3⋅0.7=8.4 である。これは 1/w0=1/(12⋅28/40)=1/12+1/28 と書ける。同様に 1/w1=1/24+1/16。よって
se(β^1)=1/12+1/28+1/24+1/16=0.4725.
3. β1 の区間は次のとおり。
β^1±1.960×0.4725=1.253±0.926,すなわち [0.327, 2.179].
指数をとってオッズ比の区間は [1.39, 8.84]。1を含まないので 5% で有意である。4. H0 のもとでは共通の π^=36/80=0.45。対数尤度の差を2倍して
G2=2{12log0.450.3+28log0.550.7+24log0.450.6+16log0.550.4}=7.39>3.841
なので H0 を棄却する。Wald 統計量 z2=(1.253/0.4725)2=7.03 と近い値になる。
確認テスト
オリジナル
- 9.4-1 ベルヌーイ分布 Bin(1,π) の確率関数を (9.15) の形に書き、θ, b(θ), ϕ を求めよ。命題 9.11 から E[Y]=π、V[Y]=π(1−π) を確かめよ。
- 9.4-2 ポアソン回帰 logμi=xi⊤β(Yi∼Po(μi) 独立)を考える。X が切片の列を含むなら、最尤推定値で ∑μ^i=∑Yi が成り立つことを示せ。
- 9.4-3 2群のポアソン回帰 logμ=β0+β1x を考える。x=0 の10単位の合計件数は30、x=1 の10単位の合計件数は48であった。β^0, β^1, se(β^1) を求め、H0:β1=0 を Wald 検定(有意水準 5%)で判定せよ。
- 9.4-4 切片だけのロジスティック回帰(n 個の観測、標本平均 yˉ)を考える。初期値 β(0)=0 から Newton–Raphson 法を1回行った値を β(1) とする。これを yˉ で表せ。yˉ=0.7 のとき β(1) と最尤推定値を比べよ。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com