数理統計 第9章 §9.5 ★★ 一元配置を線形モデルとして F 検定を導き、期待平均平方から変量効果の分散成分を推定する
一元配置の分散分析は線形モデル
k 個の群(処理)があるとする。群 i の観測を Yi1,…,Yini とする。全観測数を N=∑ni とする。モデル
Yij=μi+εij,εij は独立に N(0,σ2)(9.17)
は、群の指示変数を列にもつ N×k の計画行列による線形モデルである。X⊤X=diag(n1,…,nk) なので、推定値は群平均 μ^i=Yˉi⋅ である。残差平方和は群内平方和
Se=i=1∑kj=1∑ni(Yij−Yˉi⋅)2,Se/σ2∼χN−k2
である(定理 9.6 で p=k)。帰無仮説 H0:μ1=⋯=μk のモデルは切片だけのモデルである。その残差平方和は総平方和 ST=∑∑(Yij−Yˉ)2 である。差 SA=ST−Se は
SA=i=1∑kni(Yˉi⋅−Yˉ)2
で(確認テスト 9.5-1)、群間平方和と呼ばれる。定理 9.7(q=k−1)から、H0 のもとで
F0=Se/(N−k)SA/(k−1)=VeVA∼Fk−1,N−k(9.18)
を得る。これが分散分析の F 検定である。分散分析表は、次の2つの分解を並べた表である。
ST=SA+Se,N−1=(k−1)+(N−k).
二元配置や直交配列表の解析も、計画行列を変えて同じ定理を使ったものであり、手順の詳細は実験計画法の解説で扱う。
H0 が成り立たないときの SA の期待値は、
E[SA]=(k−1)σ2+i=1∑kni(μi−μˉ)2,μˉ=N1i=1∑kniμi(9.19)
である(確認テスト 9.5-2)。Ve の期待値は σ2 である。よって F0 が1より大きく出ることは、群間の差の証拠になる。
変量効果モデル
群が「たまたま選ばれた製造ロット」や「無作為に選んだ測定者」のように、もっと大きな母集団から抽出されたものであることがある。知りたいものが個々のロットの平均ではなくロット間のばらつきの大きさであるときは、群ごとの効果を固定した母数ではなく確率変数とみなす。各群の観測数がそろっている(ni=n)場合を扱う。
定義 9.12(一元配置の変量効果モデル)
Yij=μ+Ai+εij(i=1,…,k; j=1,…,n),
Ai∼N(0,σA2)、εij∼N(0,σ2) とし、これらはすべて独立とする。σA2 と σ2 を分散成分と呼ぶ。
このモデルでは V[Yij]=σA2+σ2 である。同じ群の2つの観測は相関をもつ。
Cov(Yij,Yij′)=σA2(j=j′),ρI=σA2+σ2σA2.
この相関係数 ρI を級内相関係数という(確認テスト 9.5-3)。
定理 9.13(変量効果モデルの平方和の分布 ★★)
定義 9.12 のモデルで、次のようにおく。
SA=ni∑(Yˉi⋅−Yˉ)2,Se=i∑j∑(Yij−Yˉi⋅)2,VA=k−1SA,Ve=k(n−1)Se.
このとき次が成り立つ。
- 次の2つが成り立ち、両者は独立である。
σ2+nσA2SA∼χk−12,σ2Se∼χk(n−1)2.
2. とくに E[VA]=σ2+nσA2、E[Ve]=σ2。
証明
群平均は Yˉi⋅=μ+Ai+εˉi⋅ である。これらは群ごとに独立に N(μ,σA2+σ2/n) に従う。正規標本の標本分散の定理(第5章 §5.2)を k 個の群平均に使うと
σA2+σ2/n∑i(Yˉi⋅−Yˉ)2∼χk−12.
両辺に n を掛けた形に直せば第1の主張になる。
群内の偏差は Yij−Yˉi⋅=εij−εˉi⋅ で、Ai が消える。群 i の中で同じ定理を使うと
σ2∑j(εij−εˉi⋅)2∼χn−12
で、これは εˉi⋅ と独立である。群どうしは独立なので、和をとって Se/σ2∼χk(n−1)2。
さらに、Se は {εij−εˉi⋅} だけの関数である。SA は {Ai,εˉi⋅} だけの関数である。この2組は独立なので、SA と Se は独立である。期待値は χ2 の平均が自由度に等しいことから出る。
この定理から3つのことが従う。
- H0:σA2=0 の検定統計量は、固定効果と同じ F0=VA/Ve である。H0 のもとで Fk−1,k(n−1) に従う。
- 期待平均平方を連立させた分散分析推定量
σ^2=Ve,σ^A2=nVA−Ve(9.20)
は不偏である。ただし VA<Ve のとき σ^A2 は負になる。そのときは0と報告するのが普通だが、そうすると不偏性は失われる。3. θ=σA2/σ2 とおくと、次の量は θ だけに依存するピボットである。
1+nθF0=Se/{σ2k(n−1)}SA/{(σ2+nσA2)(k−1)}∼Fk−1,k(n−1)
よって分散の比 θ の正確な信頼区間が作れる(確認テスト 9.5-4)。
固定効果と変量効果の違い
平方和の計算と F0 の値は2つのモデルで同じである。違いは結論の範囲にある。
- 固定効果では「この k 個の群の平均に差があるか」を問う。
- 変量効果では「群を取り出したもとの母集団にばらつきがあるか」を問う。
期待平均平方も、固定効果の ∑ni(μi−μˉ)2/(k−1) が、変量効果では nσA2 に置き換わる。二元配置で一方の因子だけが変量のときは、F の分母にどの平均平方を使うかがこの違いで変わる。
例題 9.6 ロット間変動の分散成分 ★★
オリジナルある部品を無作為に選んだ4つのロットから3個ずつ取り出し、特性値を測った。
| ロット 1 | 10.2 | 10.8 | 10.5 |
| ロット 2 | 11.6 | 11.1 | 11.9 |
| ロット 3 | 9.8 | 10.1 | 9.5 |
| ロット 4 | 10.9 | 11.4 | 11.2 |
定義 9.12 のモデルで分散分析表を作り、H0:σA2=0 を有意水準 5% で検定せよ(F3,8(0.05)=4.066)。さらに σ2, σA2 と級内相関係数を推定せよ。
解答
群平均は 10.5, 11.5333, 9.8, 11.1667、総平均は yˉ=10.75。
SA=3{(−0.25)2+0.78332+(−0.95)2+0.41672}=3×1.7522=5.2567.
群内の偏差の2乗和は、ロット1から順に 0.18、0.3267、0.18、0.1267 で、Se=0.8133。確かめとして ST=6.07=SA+Se。
| 要因 | 平方和 | 自由度 | 平均平方 | F0 |
| ロット間 | 5.2567 | 3 | 1.7522 | 17.23 |
| ロット内 | 0.8133 | 8 | 0.10167 | |
| 計 | 6.0700 | 11 | | |
F0=17.23>4.066 なので H0 を棄却し、ロット間にばらつきがあると判断する。分散成分は
σ^2=0.1017,σ^A2=31.7522−0.1017=0.5502,ρ^I=0.5502+0.10170.5502=0.844.
特性値のばらつきの約8割がロット間の違いによる、と読める。
確認テスト
オリジナル
- 9.5-1 一元配置で ST=SA+Se が成り立つことを、交差項
i∑j∑(Yˉi⋅−Yˉ)(Yij−Yˉi⋅)
が0になることから示せ。2. 9.5-2 固定効果モデル (9.17) で、式 (9.19) の E[SA] を導け。3. 9.5-3 変量効果モデルで、次の2つを求めよ。
Cov(Yij,Yij′) (j=j′),Cov(Yij,Yi′j′) (i=i′).
また、級内相関係数が σA2/(σA2+σ2) になることを示せ。4. 9.5-4 k=5, n=4 の変量効果モデルで F0=VA/Ve=6.0 を得た。θ=σA2/σ2 の 95% 信頼区間を求めよ。F4,15(0.025)=3.804、F4,15(0.975)=0.1155 とする。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com