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マルチンゲール

2026年10月15日10分で読めますAI生成教科書『資格試験』第12章 発展的トピック:確率過程
目次
  1. 定義と例
  2. 停止時刻と任意抽出定理
  3. 最大不等式と逐次検定
  4. 確認テスト
  5. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

数理統計 第12章 §12.3 ★ 停止時刻での期待値を計算する道具。破産問題を解き直し、尤度比の列の大きさを抑える不等式を導く

定義と例

観測される確率変数の列を X1,X2,…X_1,X_2,\dots とする。時刻 nn までの情報を Fn=σ(X1,…,Xn)\mathcal F_n=\sigma(X_1,\dots,X_n) と書く。これで条件付けるとは、X1,…,XnX_1,\dots,X_n の値を与えて条件付けることを指す。

定義 12.9(マルチンゲール)

確率変数の列 {Mn}n≥0\{M_n\}_{n\ge0} が次の3条件を満たすとき、{Fn}\{\mathcal F_n\} に関するマルチンゲールと呼ぶ。

  1. (i) 各 MnM_n は X1,…,XnX_1,\dots,X_n の関数である。
  2. (ii) E[∣Mn∣]<∞E[\lvert M_n\rvert ]<\infty。
  3. (iii) E[Mn+1∣Fn]=MnE[M_{n+1}\mid\mathcal F_n]=M_n。

(iii) の等号を ≥\ge に変えたものを劣マルチンゲールと呼ぶ。≤\le に変えたものを優マルチンゲールと呼ぶ。

条件 (iii) は「現在までの情報をすべて使っても、次の値の予測は現在の値のままである」という意味である。両辺の期待値をとると E[Mn+1]=E[Mn]E[M_{n+1}]=E[M_n] である。よって E[Mn]=E[M0]E[M_n]=E[M_0] がすべての時刻で成り立つ。

ランダム・ウォークから作るマルチンゲール

§12.2 の単純ランダム・ウォーク SnS_n について、次の3つはマルチンゲールである。

  1. Mn=Sn−n(p−q)M_n=S_n-n(p-q)。実際、

E[Mn+1∣Fn]=Sn+E[Xn+1]−(n+1)(p−q)=Sn−n(p−q).E[M_{n+1}\mid\mathcal F_n]=S_n+E[X_{n+1}]-(n+1)(p-q)=S_n-n(p-q). 2. Mn=rSnM_n=r^{S_n}(r=q/pr=q/p)。実際、

E[rSn+1∣Fn]=rSnE[rXn+1]=rSn(p⋅qp+q⋅pq)=rSn(q+p)=rSn.E[r^{S_{n+1}}\mid\mathcal F_n]=r^{S_n}E[r^{X_{n+1}}]=r^{S_n}\Bigl(p\cdot\frac qp+q\cdot\frac pq\Bigr)=r^{S_n}(q+p)=r^{S_n}. 3. p=1/2p=1/2 のとき Mn=Sn2−nM_n=S_n^2-n。次の計算から従う。

E[Sn+12∣Fn]=Sn2+2SnE[Xn+1]+E[Xn+12]=Sn2+1.E[S_{n+1}^2\mid\mathcal F_n]=S_n^2+2S_nE[X_{n+1}]+E[X_{n+1}^2]=S_n^2+1.

統計学で最も重要な例は尤度比の列である。X1,X2,…X_1,X_2,\dots が密度(または確率関数)ff から独立に得られるとする。別の密度 gg との尤度比

Λn=∏i=1ng(Xi)f(Xi)(Λ0=1)(12.10)\Lambda_n=\prod_{i=1}^n\frac{g(X_i)}{f(X_i)}\qquad(\Lambda_0=1)\tag{12.10}

を考える(f>0f>0 の範囲で gg が定義されているとする)。真の密度が ff のもとで、次の2式が成り立つ。

Ef[g(X)f(X)]=∫g(x)f(x)f(x) dx=∫g(x) dx=1,Ef[Λn+1∣Fn]=ΛnEf[g(Xn+1)f(Xn+1)]=Λn.\begin{aligned}E_f\Bigl[\frac{g(X)}{f(X)}\Bigr]&=\int\frac{g(x)}{f(x)}f(x)\,\mathrm{d} x=\int g(x)\,\mathrm{d} x=1,\\ E_f[\Lambda_{n+1}\mid\mathcal F_n]&=\Lambda_nE_f\Bigl[\frac{g(X_{n+1})}{f(X_{n+1})}\Bigr]=\Lambda_n.\end{aligned}

よって尤度比の列は、ff のもとでマルチンゲールである。帰無仮説 H0:fH_0:f が正しいとき、対立仮説に有利な証拠の大きさ Λn\Lambda_n は、平均すると増えも減りもしない。

停止時刻と任意抽出定理

定義 12.10(停止時刻)

非負整数(または ∞\infty)の値をとる確率変数 τ\tau を考える。各時刻の事象 {τ=n}\{\tau=n\} が、X1,…,XnX_1,\dots,X_n だけで決まるとする。このとき τ\tau を停止時刻と呼ぶ。

「初めて 0 か NN に達した時刻」は、そこまでの値を見れば判定できるので停止時刻である。一方「最後に 0 にいた時刻」は、未来を見ないと判定できないので停止時刻でない。

定理 12.11(任意抽出定理 ★)

{Mn}\{M_n\} をマルチンゲール、τ\tau を停止時刻とする。次のいずれかが成り立つとき、E[Mτ]=E[M0]E[M_\tau]=E[M_0] である。

  1. τ≤K\tau\le K(定数)である。
  2. P(τ<∞)=1P(\tau<\infty)=1 である。さらに定数 KK があって、常に ∣Mmin⁡(n,τ)∣≤K\lvert M_{\min(n,\tau)}\rvert \le K である。
証明

(1) 停止時刻までの増分だけを足すと、次のように書ける。

Mτ=M0+∑k=1K(Mk−Mk−1)1{τ≥k}.M_\tau=M_0+\sum_{k=1}^{K}(M_k-M_{k-1})\mathbf 1\{\tau\ge k\}.

事象 {τ≥k}={τ≤k−1}c\{\tau\ge k\}=\{\tau\le k-1\}^c は、X1,…,Xk−1X_1,\dots,X_{k-1} だけで決まる。よって

E[(Mk−Mk−1)1{τ≥k}]=E[1{τ≥k} E[Mk−Mk−1∣Fk−1]]=0E[(M_k-M_{k-1})\mathbf 1\{\tau\ge k\}]=E\bigl[\mathbf 1\{\tau\ge k\}\,E[M_k-M_{k-1}\mid\mathcal F_{k-1}]\bigr]=0

である。和をとれば E[Mτ]=E[M0]E[M_\tau]=E[M_0]。

(2) min⁡(n,τ)\min(n,\tau) は有界な停止時刻なので、(1) から E[Mmin⁡(n,τ)]=E[M0]E[M_{\min(n,\tau)}]=E[M_0]。P(τ<∞)=1P(\tau<\infty)=1 なので、確率1で Mmin⁡(n,τ)→MτM_{\min(n,\tau)}\to M_\tau である。∣Mmin⁡(n,τ)∣≤K\lvert M_{\min(n,\tau)}\rvert \le K なので、有界収束定理から極限と期待値を交換できる。よって E[Mτ]=E[M0]E[M_\tau]=E[M_0] を得る。

条件を外すと結論は成り立たない。対称ランダム・ウォークで τ=min⁡{n:Sn=1}\tau=\min\{n:S_n=1\} とする。定理 12.8 と同じ議論で P(τ<∞)=1P(\tau<\infty)=1 だが、E[Sτ]=1≠0=E[S0]E[S_\tau]=1\ne0=E[S_0] である。Smin⁡(n,τ)S_{\min(n,\tau)} は下に有界でないので、条件2を満たさない。

定理 12.12(Wald の等式 ★)

次の2つを仮定する。

  • X1,X2,…X_1,X_2,\dots が独立同分布で、E[∣X1∣]<∞E[\lvert X_1\rvert ]<\infty。
  • τ\tau が停止時刻で、E[τ]<∞E[\tau]<\infty。

このとき Sτ=X1+⋯+XτS_\tau=X_1+\dots+X_\tau について、E[Sτ]=E[τ]E[X1]E[S_\tau]=E[\tau]E[X_1] である。

証明

Sτ=∑k≥1Xk1{τ≥k}S_\tau=\sum_{k\ge1}X_k\mathbf 1\{\tau\ge k\} である。事象 {τ≥k}\{\tau\ge k\} は X1,…,Xk−1X_1,\dots,X_{k-1} だけで決まる。よって XkX_k と独立で、

E[∣Xk∣1{τ≥k}]=E[∣X1∣]P(τ≥k).E[\lvert X_k\rvert \mathbf 1\{\tau\ge k\}]=E[\lvert X_1\rvert ]P(\tau\ge k).

∑kP(τ≥k)=E[τ]<∞\sum_kP(\tau\ge k)=E[\tau]<\infty なので絶対収束し、和と期待値を交換できる。

E[Sτ]=∑kE[X1]P(τ≥k)=E[X1]E[τ].E[S_\tau]=\sum_kE[X_1]P(\tau\ge k)=E[X_1]E[\tau].

例題 12.4 マルチンゲールで解く破産問題 ★

オリジナル原点から出発する対称ランダム・ウォークを考える。a,ba,b を正の整数とする。高さ −a-a または bb に初めて達した時刻で止める。この時刻を τ\tau とする。

  1. P(τ<∞)=1P(\tau<\infty)=1 を示せ。
  2. P(Sτ=b)P(S_\tau=b) を、マルチンゲール SnS_n に任意抽出定理を使って求めよ。
  3. E[τ]E[\tau] を、マルチンゲール Sn2−nS_n^2-n を使って求めよ。a=3a=3、b=5b=5 での値も求めよ。
解答

(1) a+ba+b 歩続けて上に進むと、どこから出発していても区間 (−a,b)(-a,b) を出る。連続する a+ba+b 歩ずつの区切りは独立である。各区切りで全部上に進む確率は 2−(a+b)2^{-(a+b)} なので、m→∞m\to\infty で

P(τ>m(a+b))≤(1−2−(a+b))m→0.P(\tau>m(a+b))\le(1-2^{-(a+b)})^m\to0.

(2) 停止するまでは −a≤Sn≤b-a\le S_n\le b なので、∣Smin⁡(n,τ)∣≤max⁡(a,b)\lvert S_{\min(n,\tau)}\rvert \le\max(a,b) である。よって定理 12.11 の条件2を満たす。h=P(Sτ=b)h=P(S_\tau=b) とすると、

E[Sτ]=bh−a(1−h)=E[S0]=0E[S_\tau]=bh-a(1-h)=E[S_0]=0

から h=a/(a+b)h=a/(a+b)。これは (12.7) で、出発点を aa、目標を N=a+bN=a+b に平行移動したものと一致する。

(3) Sn2−nS_n^2-n に定理 12.11(1) を、有界な停止時刻 min⁡(n,τ)\min(n,\tau) で使う。すると E[Smin⁡(n,τ)2]=E[min⁡(n,τ)]E[S_{\min(n,\tau)}^2]=E[\min(n,\tau)]。n→∞n\to\infty での両辺の極限は次のとおりである。

  • 左辺は、Smin⁡(n,τ)2≤max⁡(a,b)2S_{\min(n,\tau)}^2\le\max(a,b)^2 の有界収束定理により E[Sτ2]E[S_\tau^2] に収束する。
  • 右辺は、単調収束定理により E[τ]E[\tau] に収束する。

よって

E[τ]=E[Sτ2]=b2aa+b+a2ba+b=ab(a+b)a+b=ab.E[\tau]=E[S_\tau^2]=b^2\frac{a}{a+b}+a^2\frac{b}{a+b}=\frac{ab(a+b)}{a+b}=ab.

a=3a=3、b=5b=5 なら次のとおりである。

P(Sτ=5)=38,E[τ]=15.P(S_\tau=5)=\frac38,\qquad E[\tau]=15.

最大不等式と逐次検定

定理 12.13(非負マルチンゲールの最大不等式 ★)

{Mn}\{M_n\} を非負のマルチンゲールとする。任意の c>0c>0 と nn について

P(max⁡0≤k≤nMk≥c)≤E[M0]c(12.11)P\Bigl(\max_{0\le k\le n}M_k\ge c\Bigr)\le\frac{E[M_0]}{c}\tag{12.11}

が成り立つ。右辺は nn によらない。よって n→∞n\to\infty として、P(sup⁡kMk≥c)≤E[M0]/cP(\sup_kM_k\ge c)\le E[M_0]/c も成り立つ。

証明

σ=min⁡{k:Mk≥c}\sigma=\min\{k:M_k\ge c\} とし、ρ=min⁡(σ,n)\rho=\min(\sigma,n) とおく。これは nn 以下の停止時刻なので、定理 12.11(1) から E[Mρ]=E[M0]E[M_\rho]=E[M_0]。

  • max⁡k≤nMk≥c\max_{k\le n}M_k\ge c のときは σ≤n\sigma\le n である。よって Mρ=Mσ≥cM_\rho=M_\sigma\ge c。
  • そうでないときも、非負性から Mρ≥0M_\rho\ge0 である。

よって E[M0]=E[Mρ]≥c P(max⁡k≤nMk≥c)E[M_0]=E[M_\rho]\ge c\,P(\max_{k\le n}M_k\ge c) となる。

これを尤度比 (12.10) に当てはめる。E[Λ0]=1E[\Lambda_0]=1 なので、次を得る。

Pf(ある n で Λn≥1/α)≤α.P_f(\text{ある }n\text{ で }\Lambda_n\ge1/\alpha)\le\alpha.

データを1つ得るたびに尤度比を計算し、1/α1/\alpha を超えた時点で帰無仮説を棄却する手続きを考える。いつ止めるかをデータを見ながら決めても、第1種の誤りの確率は α\alpha 以下に保たれる。

これは Wald の逐次確率比検定(SPRT)で、棄却の境界を 1/α1/\alpha に置いたものに当たる。固定した標本サイズでの検定を何度も繰り返す場合とは違い、この保証は観測を続ける回数に上限を置かなくても成り立つ。

確認テスト

オリジナル

  1. 12.3-1 対称ランダム・ウォークについて、Mn=Sn2−nM_n=S_n^2-n がマルチンゲールであることを示せ。
  2. 12.3-2 p≠qp\ne q の単純ランダム・ウォークを考える。rSnr^{S_n}(r=q/pr=q/p)がマルチンゲールであることを使う。破産問題の確率 (12.7)(非対称の場合)を、任意抽出定理から導け。
  3. 12.3-3 公正なさいころを、初めて6の目が出るまで振る。出た目の合計の期待値を Wald の等式で求めよ。
  4. 12.3-4 公正な硬貨を投げ、次のようにおく。

Mn=2n1{最初の n 回がすべて表}.M_n=2^n\mathbf 1\{\text{最初の }n\text{ 回がすべて表}\}.

MnM_n がマルチンゲールで E[Mn]=1E[M_n]=1 であることを示せ。しかし確率1で Mn→0M_n\to0 となることを示し、極限と期待値が交換できない理由を述べよ。

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