数理統計 第12章 §12.4 ★ 正規分布の性質だけから共分散・最大値・到達時刻の分布を導く。導出は2変量正規と変数変換の練習になる
定義
定義 12.14(ブラウン運動)
連続時間の確率過程 {B(t)}t≥0 が次の4条件を満たすとき、(標準)ブラウン運動と呼ぶ。
- B(0)=0。
- (独立増分)0≤t0<t1<⋯<tk に対して、次の増分は独立である。
B(t1)−B(t0), …, B(tk)−B(tk−1).
3. 0≤s<t に対して B(t)−B(s)∼N(0,t−s)。4. 確率1で、経路 t↦B(t) は連続である。
ブラウン運動は対称ランダム・ウォークの極限として現れる。原点から出発する対称ランダム・ウォーク Sn を、時間と空間の両方向に縮める。縮める倍率は、時間方向に 1/n、空間方向に 1/n である。
nS⌊nt⌋
を考えると、中心極限定理から各時刻でその分布は N(0,t) に収束する。重ならない区間の増分は重ならない歩の和なので、独立である。過程全体としての収束は Donsker の定理と呼ばれ、ここでは証明しない。
V[Sn]=n である。分散を t に保つには、時間を 1/n 倍に縮めたときに、空間を平方根の倍率で縮める必要がある。
共分散とガウス過程
0≤s≤t とする。B(t)=B(s)+{B(t)−B(s)} と分けると、独立増分から次を得る。
Cov(B(s),B(t))=V[B(s)]+Cov(B(s),B(t)−B(s))=s=min(s,t)(12.12)
となる。
任意の時刻 t1<⋯<tk での値 (B(t1),…,B(tk)) を考える。これは独立な正規分布に従う増分の線形変換なので、多変量正規分布に従う。
このように有限個の時刻での値が常に多変量正規分布に従う過程を、ガウス過程と呼ぶ。ブラウン運動は平均 0、共分散 min(s,t) のガウス過程である。逆にこの2つ(と経路の連続性)から、ブラウン運動の定義が復元できる。
例題 12.5 2時点で正である確率 ★
オリジナル標準ブラウン運動について、P(B(1)>0, B(2)>0) を求めよ。
解答
Z1=B(1)、Z2=B(2)−B(1) とおく。2つは独立に N(0,1) に従い、求める確率は P(Z1>0, Z1+Z2>0) である。
同時密度 2π1e−(z12+z22)/2 は、原点のまわりの回転で変わらない。そこで極座標 (Z1,Z2)=(RcosΘ,RsinΘ) に移ると、偏角は [0,2π) 上の一様分布に従う。ヤコビアンを掛けた密度 2π1re−r2/2 が、偏角を含まないことから従う。
2つの条件を偏角で書くと次のとおりである。
- z1>0 は −π/2<θ<π/2。
- z1+z2>0 は cosθ+sinθ=2sin(θ+π/4)>0 である。すなわち −π/4<θ<3π/4。
両方を満たすのは −π/4<θ<π/2 で、角度の幅は 3π/4。よって
P(B(1)>0, B(2)>0)=2π3π/4=83.
これは2変量正規分布の象限確率の公式 41+2π1arcsinρ と一致する。相関係数は次のとおりで、公式の値は 41+81 になる。
ρ=1⋅2min(1,2)=21,arcsinρ=4π.
マルチンゲールと二次変動
ブラウン運動からも連続時間のマルチンゲールが作られる。s<t に対して、時刻 s までの情報で条件付ける。増分 B(t)−B(s) はそれと独立な N(0,t−s) なので、次の3つはマルチンゲールである(確認は確認テスト 12.4-2 と同じ計算)。
B(t),B(t)2−t,exp(θB(t)−2θ2t)(θ∈R).(12.13)
3つ目は、N(0,v) の積率母関数 E[eθZ]=eθ2v/2 による。指数の中の −θ2t/2 が、ちょうど期待値の増加を打ち消す。
区間 [0,t] を等分し、増分 Δk=B(kt/n)−B((k−1)t/n) をとる。その2乗和 Qn=∑k=1nΔk2 を考える。Δk は独立に N(0,t/n) に従う。正規分布の4次モーメント 3v2 から、次が成り立つ。
E[Δk2]=nt,V[Δk2]=2(nt)2.
よって
E[Qn]=t,V[Qn]=n2t2→0(12.14)
である。したがって Qn→t(2次平均収束)で、これを二次変動と呼ぶ。
- 滑らかな関数なら、増分は 1/n の大きさで、2乗和は 0 に収束する。
- ブラウン運動の増分は 1/n の大きさなので、2乗和が有限の値に残る。
統計の言葉では、σB(t) の経路を連続に観測できれば、分散母数は二次変動 σ2t から誤差なく決まる。一方、ドリフトを加えた X(t)=μt+σB(t) の μ を考える。区間 [0,T] の観測からの最尤推定量は次のとおりである。
μ^=TX(T)∼N(μ,Tσ2).
観測を細かくしても、精度は観測期間 T でしか上がらない。
最大値と到達時刻
最大値を B(t)=max0≤s≤tB(s) とする。高さ a>0 に初めて達する時刻を Ta=min{t:B(t)=a} とする。
定理 12.15(ブラウン運動の鏡像原理 ★)
a>0 に対して
P(B(t)≥a)=P(Ta≤t)=2P(B(t)≥a)=2{1−Φ(ta)}(12.15)
である(Φ は標準正規分布の分布関数)。到達時刻の密度は
fTa(t)=2πt3aexp(−2ta2)(t>0)(12.16)
で、E[Ta]=∞ である。
証明
経路の連続性から {B(t)≥a}={Ta≤t} である。B(t)≥a なら Ta≤t なので、次のように分けられる。
P(Ta≤t)=P(B(t)≥a)+P(Ta≤t, B(t)<a).
到達時刻以後の B(Ta+u)−a は、それまでと独立な標準ブラウン運動になる(強マルコフ性)。その分布は符号を反転しても変わらない。よって到達時刻以後を高さ a で折り返しても確率は保たれ、
P(Ta≤t, B(t)<a)=P(Ta≤t, B(t)>a)=P(B(t)>a)
となる。P(B(t)=a)=0 なので (12.15) を得る。これは系 12.7 の連続版である。離散の場合に残っていた P(Sn=m) の項は、連続分布では 0 になる。
密度は (12.15) を t で微分して求める。ϕ を標準正規の密度として
fTa(t)=−2ϕ(ta)⋅dtdta=2ϕ(ta)2t3/2a=2πt3ae−a2/(2t).
t→∞ で tfTa(t)∼a/2πt となる。∫∞t−1/2dt=∞ なので、期待値は無限大である。
t→∞ で P(Ta≤t)→2{1−Φ(0)}=1 である。ブラウン運動はどの高さにも確率1で到達するが、到達までの時間の期待値は無限大になる。§12.2 の再帰性のあとに述べた性質の連続版である。
例題 12.6 最大値と到達時刻の中央値 ★
オリジナル標準ブラウン運動について、次を求めよ。
- P(max0≤s≤4B(s)≥2)。
- 高さ 2 に初めて達する時刻 T2 の中央値。
解答
(1) (12.15) で a=2、t=4 として
2{1−Φ(2/2)}=2{1−Φ(1)}=2×0.15866=0.3173.
(2) 中央値 m は P(T2≤m)=1/2 を満たす。よって
2{1−Φ(2/m)}=21,すなわち1−Φ(2/m)=41
で、2/m=z0.25=0.6745。よって m=(2/0.6745)2=8.79 である。期待値は無限大だが中央値は有限で、到達時刻の分布の右の裾が非常に重いことを示している。
確認テスト
オリジナル
- 12.4-1 標準ブラウン運動について、Cov(B(2),B(5)) と V[B(5)−2B(2)] を求めよ。
- 12.4-2 exp(θB(t)−θ2t/2) がマルチンゲールであることを示せ。それを使って E[eB(t)] を求めよ。
- 12.4-3 二次変動の式 (12.14) の V[Qn]=2t2/n を導け。正規分布 N(0,v) の4次モーメントが 3v2 であることを使ってよい。
- 12.4-4 ドリフトつきブラウン運動 X(t)=μt+σB(t) について、exp(−2μX(t)/σ2) がマルチンゲールであることを使う。正の数 a,b をとる。過程が −a より先に b に達する確率を求めよ。さらに次の場合の値も求めよ。
μ=0.5,σ=1,a=b=1.
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com