場の量子論入門 第1部 第4章 §1.4.3 ★★★ 適用2:Klein–Gordon の「負確率」の正体は電荷である
次は時空を動かさない対称性(内部対称性)を扱う。複素スカラー場のラグランジアン
L=∂μϕ∗∂μϕ−m2ϕ∗ϕ(1.4.6)
を考える。第3.3節の補足で述べたとおり ϕ と ϕ∗ を独立な変数として扱う。係数に 21 が付かないのは、実場2つ分をまとめているためである(ϕ=(ϕ1+iϕ2)/2 と書けば、(1.4.6) は ϕ1,ϕ2 それぞれの (1.3.5) の和になる)。
このラグランジアンは、位相の一斉回転
ϕ ⟶ e−iαϕ,ϕ∗ ⟶ e+iαϕ∗
のもとで不変である(ϕ∗ϕ も ∂μϕ∗∂μϕ も位相が打ち消し合う)。α は時空によらない定数で、このような対称性を大域的 U(1) 対称性と呼ぶ。無限小では Δϕ=−iϕ、Δϕ∗=+iϕ∗ であり、L は変化しないので Jμ=0 である。
(1.4.2) を、ϕ と ϕ∗ の両方について足して適用する。
∂(∂μϕ)∂L=∂μϕ∗,∂(∂μϕ∗)∂L=∂μϕ
なので
jμ=∂μϕ∗⋅(−iϕ)+∂μϕ⋅(+iϕ∗)
となり、整理すると
jμ=i(ϕ∗∂μϕ−ϕ∂μϕ∗),∂μjμ=0 (1.4.7)
が得られる(保存は運動方程式の上で成り立ち、検算スクリプトで確認済みである)。時間成分は
j0=i(ϕ∗ϕ˙−ϕϕ˙∗)
で、これは第1.3節で「確率密度と読めない」と述べた Klein–Gordon の ρ にほかならない。場の理論では、これは確率密度ではなく電荷密度である。電荷は正にも負にもなってよいので、符号が変わることは何の問題も起こさない。量子化すると Q=∫d3xj0 の固有値は「粒子の個数 − 反粒子の個数」に比例する整数になる(第2部 第5章)。
実スカラー場では ϕ∗=ϕ なので (1.4.7) は恒等的にゼロである。つまり実場は電荷を持たない。π0 や Higgs ボソンのような中性のスピン0粒子は実場で、π± のような荷電粒子は複素場で記述する。場が実か複素かという形式的な違いが、粒子が中性か荷電かという物理的な区別に対応している。
例題 4.2(複素スカラー場のカレントと保存の確認)
オリジナルラグランジアン (1.4.6) について答えよ。
- (1) ϕ と ϕ∗ の従う運動方程式を求めよ。
- (2) (1.4.7) の jμ について ∂μjμ=0 を、運動方程式を使って直接示せ。
- (3) 平面波 ϕ=Ne−ip⋅x(p0=E>0)に対する jμ を求め、ϕ=Ne+ip⋅x の場合と比べよ。
解答
(1) ϕ∗ について変分すると、∂L/∂(∂μϕ∗)=∂μϕ、∂L/∂ϕ∗=−m2ϕ なので (□+m2)ϕ=0。ϕ について変分すると同様に (□+m2)ϕ∗=0 である。どちらも Klein–Gordon 方程式に従う。
(2) 発散を取る。積の微分から
∂μjμ=i[∂μϕ∗∂μϕ+ϕ∗□ϕ−∂μϕ∂μϕ∗−ϕ□ϕ∗].
第1項と第3項は同じもの(縮約された添字の付け替え)なので打ち消し合う。残るのは
∂μjμ=i[ϕ∗□ϕ−ϕ□ϕ∗]=i[ϕ∗(−m2ϕ)−ϕ(−m2ϕ∗)]=0.
運動方程式 □ϕ=−m2ϕ とその共役を代入した。質量項が ϕ∗ϕ という組み合わせでしか入らないため、最後にきれいに相殺する。
(3) ∂μe−ip⋅x=−ipμe−ip⋅x を使うと
jμ=i[∣N∣2(−ipμ)−∣N∣2(+ipμ)]=2pμ∣N∣2.
時間成分は j0=2E∣N∣2>0 である。一方 ϕ=Ne+ip⋅x では符号がすべて反転し jμ=−2pμ∣N∣2 となり、j0<0 である。同じ絶対値の電荷が逆符号で現れる。e−ip⋅x が粒子、e+ip⋅x が反粒子に対応するという読み替えは、ここから来ている。
同じ対称性は、実場2つの言葉でも書ける。ϕ=(ϕ1+iϕ2)/2 と置くと (1.4.6) は21∑a=1,2[∂μϕa∂μϕa−m2ϕa2] になり、位相回転は平面 (ϕ1,ϕ2) の2次元回転に対応する。L が ϕ12+ϕ22 の形でしか2つの場を含まないので回転で不変になるわけで、2次元回転群 SO(2) と位相の群 U(1) が同じ群であることの反映である。ここで、回転対称性が成り立つには2つの場の質量が等しいことが要る点に注意したい。「粒子と反粒子の質量が等しい」ことと「電荷が保存する」ことは、同じ対称性の2つの顔である。
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