物理のための微分幾何入門 第8章 §8.2 ★★★ 座標基底の微分を接線と法線に分けると、接線の側の係数が計量だけで書ける。第9・10章の共変微分と測地線の材料
座標基底の微分を分解する
曲面の各点には3本のベクトル r1,r2,n がある。はじめの2本は接平面を張り、n は接平面に垂直な単位ベクトルなので、3本は空間の基底になる。これをGauss の標構と呼ぶ(図 8.2)。座標を少し動かしたとき、この基底自身がどう変わるかを調べる。
基底を微分した rij と ni も空間のベクトルなので、同じ基底で展開できる。rij の法線成分は第7章の定義で hij と名付けた量そのものである。残りの接線成分の係数に名前を付ける。
定義 8.5(Christoffel 記号)
2階微分 rij を Gauss の標構で展開したときの接線成分の係数 Γkij を、Christoffel 記号という。
rij=Γkijrk+hijn(8.4)
偏微分の順序は交換できるので rij=rji であり、Γkij=Γkji が成り立つ。2次元では k が2通り、対称な組 (ij) が3通りなので、独立な成分は6個ある。

図 8.2 Gauss の標構 (r1,r2,n) と、2階微分 r11 の分解。接平面への射影(破線)の係数が Christoffel 記号 Γk11、法線成分が第二基本形式の成分 h11=L である。
Gauss の標構方程式
法線の微分 ni の展開も求めておく。係数を表すために、hij の添字を1つ上げた量を次のように定める。
hki=gklhli(8.5)
これは第7章の Weingarten 写像を座標基底で表した行列である。
定理 8.6(Gauss の標構方程式)
Gauss の標構の微分は次のように展開される。
rijni=Γkijrk+hijn,=−hkirk.(8.6)(8.7)
第2式を Weingarten の公式と呼ぶ。
証明
第1式は定義 8.5 そのもので、法線成分が hij になることは (8.4) と n の内積をとれば確かめられる。接ベクトルと法線は直交し、法線は単位ベクトルなので、内積の右辺には hij だけが残るからである。
第2式を示す。単位ベクトルの条件 n⋅n=1 を微分すると 2ni⋅n=0 を得る。したがって ni は接平面に入り、ni=ckirk と書ける。係数を決めるために、n⋅rj=0 を ui で微分する。
ni⋅rj+n⋅rji=0⟹ckigkj=−hij
両辺に gjl を掛けて和をとる。gkjgjl=δkl により cli=−gljhji=−hli を得る。
計量からの公式
Christoffel 記号は rij という外の空間のベクトルを使って定義した。ところが次の定理により、実際には第一基本形式だけで決まる。
定理 8.7(Christoffel 記号の公式 ★★★)
Christoffel 記号は計量とその1階導関数で次のように表される。
Γkij=21gkl(∂iglj+∂jgli−∂lgij)(8.8)
とくに Christoffel 記号は内在的である。
証明
(8.6) と rl の内積をとると、n⋅rl=0 により次の式を得る。
Γl,ij:=rij⋅rl=Γkijgkl(8.9)
Γl,ij は後ろの2つの添字について対称である。
次に gjl=rj⋅rl を ui で微分する。
∂igjl=rij⋅rl+rj⋅ril=Γl,ij+Γj,il
添字を巡回させた3つの式を作り、1つめと2つめを足して3つめを引く。
∂igjl+∂jgil−∂lgij=(Γl,ij+Γj,il)+(Γl,ji+Γi,jl)−(Γj,li+Γi,lj)=2Γl,ij.
2行目へは、後ろの2つの添字についての対称性 Γa,bc=Γa,cb を使った。
最後に (8.9) の両辺に glm を掛けて和をとると、Γmij=gmlΓl,ij となる。これに上の結果を入れ、g の対称性で添字の順を整えると (8.8) になる。
(8.8) は第11章で一般の次元の計量に対して定義に採る式であり、相対論入門の時空の Christoffel 記号とも同じ形である。曲面の場合は、外の空間での幾何的な意味(接平面への射影の係数)を持つことがここでの要点である。
直交座標系(F=0)では g11=1/E, g22=1/G となる。このとき公式は次の6本に簡単になる。添字の u,v は偏微分を表す。
Γ111Γ211=2EEu,=−2GEv,Γ112Γ212=2EEv,=2GGu,Γ122Γ222=−2EGu,=2GGv.(8.10)
たとえば Γ122 は、(8.8) で k=l=1, i=j=2 とおいた次の式から出る。
Γ122=21⋅E1(0+0−∂1g22)=−2EGu
例:球面と回転面
半径 a の球面 r=a(sinθcosφ, sinθsinφ, cosθ) を考える。第一基本形式は E=a2, F=0, G=a2sin2θ である。(8.10) で u=θ, v=φ とすると、0 でない成分は次の2つ(と対称な成分)だけになる。
Γθφφ=−sinθcosθ,Γφθφ=Γφφθ=sinθcosθ
回転面 r=(ρ(t)cosφ, ρ(t)sinφ, z(t)) を考える。母線は弧長 t で表されている、すなわち ρ′2+z′2=1 とする。
このとき E=1, F=0, G=ρ2 である。0 でない成分は Γtφφ=−ρρ′ と Γφtφ=ρ′/ρ である。球面は ρ=asin(t/a) の場合に当たる。
物理の例:曲面に沿う運動の加速度
質点が曲面の上を動き、時刻 τ に座標 ui(τ) にいるとする。位置は r(u(τ)) なので、速度と加速度は連鎖律で次のように書ける。
r˙=u˙iri,r¨=u¨krk+u˙iu˙jrij
第2式に (8.6) を入れると、加速度は接線成分と法線成分に分かれる。
r¨=(u¨k+Γkiju˙iu˙j)rk+hiju˙iu˙jn(8.11)
滑らかな曲面に拘束されて、ほかに力を受けない質点を考える。面からの垂直抗力は n の向きなので、運動方程式の接線成分は u¨k+Γkiju˙iu˙j=0 となる。これは第10章で扱う測地線の方程式である。法線成分は、面が質点を押し返す力 mhiju˙iu˙j を与える。
平面の極座標 (r,θ) で見ると、Christoffel 記号の役割がよく分かる。計量 E=1, G=r2 から、0 でない成分 Γrθθ=−r, Γθrθ=1/r が出る(確認テスト 8.2-2)。(8.11) の接線成分は次のようになる。
r¨−rθ˙2,θ¨+r2r˙θ˙
第1式の −rθ˙2 は遠心力として知られる項である。第2式に r を掛けると、Coriolis 力として知られる項 2r˙θ˙ が現れる。平面の上で Christoffel 記号が 0 にならないのは、空間が曲がっているからではなく、座標が曲がっているからである。
Christoffel 記号はテンソルではない
- 平面を直交直線座標 (x,y) で表すと、gij=δij は定数なので Christoffel 記号はすべて 0 になる。
- 同じ平面を極座標で表すと、上のとおり 0 でない成分が現れる。
- テンソルの成分は、ある座標ですべて 0 なら、どの座標でも 0 である(第4章 §4.4)。したがって Christoffel 記号はテンソルではない。
- 曲がっているかどうかは Christoffel 記号の値では判定できない。判定するのは §8.4 の Gauss 曲率である。
例題 8.2 緯線に沿って回る質点に要る力 ★★
オリジナル半径 a の滑らかな球面の上を、質量 m の質点が動く。質点は緯線 θ=θ0 に沿って、一定の角速度 φ˙=ω で回っている。ここで θ は北極から測った角で、0<θ0<π/2 とする。
- (8.11) を使って、加速度の接線成分と法線成分を求めよ。法線 n は外向きにとる。
- 同じ加速度を、半径 asinθ0 の円運動の向心加速度として直接求め、1 の結果と一致することを確かめよ。
- 球面から受ける垂直抗力のほかに、どの向きにどれだけの力が要るかを答えよ。
解答
1. θ˙=0, φ˙=ω、θ¨=φ¨=0 を (8.11) に入れる。接線成分で残るのは Γkφφω2 の項だけで、球面の Christoffel 記号から k=θ の成分だけが残る。
r¨ の接線成分=Γθφφω2rθ=−sinθ0cosθ0ω2rθ
法線は外向きの n=r/a である。rφφ=−asinθ(cosφ,sinφ,0) なので、hφφ=rφφ⋅n=−asin2θ である。法線成分は hφφω2n=−asin2θ0ω2n となる。
2. 質点は z 軸のまわりで半径 asinθ0 の等速円運動をする。加速度は軸へ向かう向きで、大きさは asinθ0ω2 である。
r¨=−asinθ0ω2(cosφ, sinφ, 0)
これと rθ=a(cosθcosφ, cosθsinφ, −sinθ) の内積は −a2sinθ0cosθ0ω2 である。∣rθ∣2=a2 で割った係数 −sinθ0cosθ0ω2 は 1 の接線成分と一致する。n=(sinθcosφ, sinθsinφ, cosθ) との内積 −asin2θ0ω2 も 1 の法線成分と一致する。
3. 運動方程式 mr¨=F の接線成分から、接平面内に次の力が要る。
F∥=−msinθ0cosθ0ω2rθ
rθ は南向き(θ が増える向き)なので、この力は北向きである。大きさは masinθ0cosθ0ω2 である。垂直抗力だけでは緯線の上を回り続けられず、北半球では極の側へ引く力が別に要る。力を除くと質点は緯線を離れ、大円(第10章の測地線)に沿って動く。
確認テスト
オリジナル
- 8.2-1 Γkij=Γkji となる理由を1行で述べよ。また、平面を直交直線座標で表したときの Christoffel 記号を答えよ。
- 8.2-2 平面の極座標 ds2=dr2+r2dθ2 の Christoffel 記号をすべて求めよ。さらに (8.11) の接線成分が r¨−rθ˙2 と θ¨+2r˙θ˙/r になることを確かめよ。
- 8.2-3 上半平面 y>0 に計量 ds2=(dx2+dy2)/y2 を入れる。この計量の Christoffel 記号をすべて求めよ(この面は第11章で Poincaré 上半平面として扱う)。
- 8.2-4 曲面上の曲線 ui(s) が弧長 s で表されているとする。加速度 d2r/ds2 の法線成分が hiju′iu′j であることを、標構方程式から示せ。これが第7章の法曲率 II/I と一致する理由も述べよ。
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