物理のための微分幾何入門 第8章 §8.3 ★★★ 3階微分の順序交換から、第一基本形式と第二基本形式が勝手には選べないことを示す。驚異の定理の直接の根拠
両立条件を求める
標構方程式 (8.6)・(8.7) は、r1,r2,n についての連立の偏微分方程式とみなせる。係数の gij と hij を勝手に与えたとき、この方程式に解があるとは限らない。解があるためには、3階の偏微分が順序によらない条件 ∂jrki=∂krji が要る。この条件を書き下すと、2つの方程式が出る。
記述を短くするため、Christoffel 記号だけで作った次の量を導入する。
Rlijk:=∂jΓlki−∂kΓlji+ΓljmΓmki−ΓlkmΓmji(8.12)
これは第11章で Riemann テンソルとして定義し直す量で、添字の並びと符号は虎の巻の記法(MTW・Carroll と同じ)に合わせてある。第11章の式 (11.3) で添字 (ρ,σ,μ,ν) を (l,i,j,k) と読み替えると、この式と項ごとに一致する。この章では、Christoffel 記号の組み合わせに付けた名前として扱う。添字を下げた量を Rlijk=glmRmijk と書く。
定理 8.8(Gauss の方程式と Codazzi の方程式 ★★★)
曲面の第一基本形式 gij と第二基本形式 hij は、次の2つの式を満たす。
Rlijk∂jhki−∂khji=hljhki−hlkhji(Gauss の方程式),+Γmkihjm−Γmjihkm=0(Codazzi の方程式).(8.13)(8.14)
証明
(8.6) の rki=Γmkirm+hkin を uj で微分する。積の微分で出る rjm と nj に、もう一度 (8.6)・(8.7) を入れる。
∂jrki=∂jΓmkirm+Γmki(Γljmrl+hjmn)+∂jhkin−hkihljrl=(∂jΓlki+ΓljmΓmki−hkihlj)rl+(∂jhki+Γmkihjm)n.
2行目では第1項の和の添字 m を l に付け替えた。
∂krji の展開は、上の式の j↔k の入れ替えで得られる。両者は等しく、r1,r2,n は1次独立なので、各成分の差が 0 になる。rl の成分の差は次のとおりである。
∂jΓlki−∂kΓlji+ΓljmΓmki−ΓlkmΓmji−hkihlj+hjihlk=0
左の4項は (8.12) の Rlijk なので、これは (8.13) である。n の成分の差を書けば (8.14) がそのまま出る。
n の両立条件から新しい式は出ない
- 標構方程式にはもう1つの両立条件 ∂jni=∂inj がある。
- これを同じように展開すると、接線成分は Codazzi の方程式と同値な式に、法線成分は hkihkj が i,j について対称という恒等式になる。
- したがって曲面の両立条件は、Gauss の方程式と Codazzi の方程式で尽きる。
2次元での形
2次元では Rlijk の独立な成分は1個しかない。Rlijk は前の2つの添字についても後ろの2つの添字についても反対称であることが第11章 §11.2 の定理 11.6 で示される。2次元で反対称な組は (12) だけなので、0 でない成分はすべて ±R1212 になる。
(8.13) の添字を glm で下げると、Rlijk=hljhki−hlkhji となる。(l,i,j,k)=(1,2,1,2) とおけば次の形を得る。
R1212=h11h22−h122=LN−M2(8.15)
Codazzi の方程式で独立なのは (i,j,k)=(1,2,1) と (2,1,2) の2本である。とくに直交座標系(F=0)が曲率線の方向にそろっている(M=0)場合には、(8.10) を使って次の形になる。
Lv=2Ev(EL+GN),Nu=2Gu(EL+GN)(8.16)
導出を1本示す。(i,j,k)=(1,2,1) の式は次のとおりである。
∂2h11−∂1h21+Γm11h2m−Γm21h1m=0
M=0 なら、これは Lv+Γ211N−Γ121L=0 となる。Γ211=−Ev/(2G) と Γ121=Ev/(2E) を入れれば第1式になる。
Codazzi の方程式の帰結:臍点だけの曲面
Codazzi の方程式の使い方を1つ示す。どの方向の法曲率も等しい点を臍点という。臍点では Weingarten 写像が恒等写像の定数倍になり、hij=kgij と書ける。
定理 8.9(全臍的曲面)
連結な曲面のすべての点が臍点なら、その曲面は平面の一部か球面の一部である。
証明
仮定から各点で hij=kgij となる関数 k(u,v) がある。Codazzi の方程式 (8.14) に代入する。
k(∂jgki−∂kgji+Γmkigjm−Γmjigkm)+kjgki−kkgji=0
括弧の中は、(8.9) の記号で Γmkigjm=Γj,ki と書けば、次のように 0 になる。
(Γi,jk+Γk,ji)−(Γi,kj+Γj,ki)+Γj,ki−Γk,ji=0
したがって kjgki=kkgji がすべての添字で成り立つ。(i,j,k)=(1,2,1) と (2,2,1) を選ぶと、次の連立方程式になる。
g11k2−g21k1=0,g12k2−g22k1=0
未知数 (k1,k2) の係数行列の行列式は −g21g12+g11g22=g>0 である。行列式が 0 でないので、k1=k2=0 となる。曲面は連結なので k は定数になる。
Weingarten の公式 (8.7) は ni=−kδilrl=−kri となる。
k=0 なら n は定数である。さらに (r⋅n)i=ri⋅n=0 より内積 r⋅n も定数なので、曲面は平面の一部である。
k=0 なら (r+n/k)i=ri−ri=0 である。したがって点 c=r+n/k は定数である。∣r−c∣=∣n∣/∣k∣=1/∣k∣ となるので、曲面は点 c を中心とする球面の一部である。
曲面論の基本定理
Gauss の方程式と Codazzi の方程式は、曲面が存在するための必要条件である。実はこれで十分でもあることを、主張と証明の筋だけ書いておく。第6章 §6.3 の曲線論の基本定理(曲率と捩率から曲線が剛体運動を除いて決まる)の曲面版に当たる。
定理 8.10(Bonnet の定理)
単連結な座標の領域で、正定値な対称行列 gij と対称行列 hij が滑らかに与えられ、Gauss の方程式と Codazzi の方程式を満たすとする。このとき、第一基本形式が gij、第二基本形式が hij の曲面が存在し、剛体運動の違いを除いてただ1つに決まる。
証明の筋は次のとおりである。標構方程式は、9成分の未知関数 (r1,r2,n) についての1階の線形偏微分方程式系である。このような系が任意の初期値から解けるための条件は、Frobenius の定理(第13章 §13.5 で主張を述べる)により、偏微分の順序交換の条件と一致する。その条件が Gauss の方程式と Codazzi の方程式なので、初期の標構を1つ選べば解が決まる。
解が求まると、初期の標構の内積がそろっていれば、ri⋅rj=gij などの関係は全領域で保たれる。そのうえで r を ri の積分として作る。初期の標構の選び方の自由度が回転、積分定数が平行移動であり、合わせて剛体運動の自由度になる。完全な証明は微分幾何の教科書(曲面論の章)に譲る。
例題 8.3 円環面で両立条件を確かめる ★★
オリジナル0<a<b とし、円環面 r(u,v)=((b+acosu)cosv, (b+acosu)sinv, asinu) を考える。
- 第一基本形式、単位法線 ru×rv/∣ru×rv∣、第二基本形式を求めよ。
- 0 でない Christoffel 記号を求めよ。
- Codazzi の方程式 (8.16) と Gauss の方程式 (8.15) が成り立つことを確かめよ。R1212 は (8.12) から計算せよ。
解答
1. ρ=b+acosu とおく。偏微分は次のとおりである。
ru=(−asinucosv, −asinusinv, acosu),rv=(−ρsinv, ρcosv, 0)
内積から E=a2, F=0, G=ρ2 を得る。外積は ru×rv=−aρ(cosucosv, cosusinv, sinu) で、長さは aρ である。
n=−(cosucosv, cosusinv, sinu)
これは管の中心線へ向かう内向きの法線である。
2階微分は次のとおりである。
ruu=−a(cosucosv, cosusinv, sinu),ruv=asinu(sinv, −cosv, 0),rvv=−ρ(cosv, sinv, 0)
n との内積をとると、L=a, M=0, N=ρcosu=(b+acosu)cosu となる。
2. E は定数である。G は1つめの座標だけの関数で、Gu=−2aρsinu である。(8.10) で 0 にならないのは次の2つ(と対称な成分)である。
Γ122=−2EGu=aρsinu,Γ212=2GGu=−ρasinu
3. Codazzi の第1式は、L が定数で Ev=0 なので両辺とも 0 である。第2式の左辺は Nu=−asinucosu−ρsinu である。右辺は次のように計算でき、左辺と一致する。
2Gu(EL+GN)=−aρsinu(a1+ρcosu)=−ρsinu−asinucosu
Gauss の方程式を確かめる。R1212=g11R1212=ER1212 で、(8.12) に (l,i,j,k)=(1,2,1,2) を入れる。
R1212=∂1Γ122−∂2Γ112+Γ11mΓm22−Γ12mΓm12
Γ112=Γ111=0 なので、第2項と第3項は 0 である。第4項で残るのは m=2 の Γ122Γ212=−sin2u である。
R1212=∂u(aρsinu)+sin2u=a−asin2u+ρcosu+sin2u=aρcosu
よって R1212=a2⋅ρcosu/a=aρcosu である。一方 LN−M2=aρcosu なので、(8.15) が成り立つ。
確認テスト
オリジナル
- 8.3-1 2次元の曲面で、Gauss の方程式と Codazzi の方程式はそれぞれ独立な式が何本あるか答えよ。
- 8.3-2 次の2組の関数(すべて定数)のうち、ある曲面の第一・第二基本形式になりうるのはどちらか。なりうるものは具体的な曲面を挙げ、なりえないものは理由を述べよ。(a) (E,F,G,L,M,N)=(1,0,1,1,0,0)、(b) (E,F,G,L,M,N)=(1,0,1,1,0,1)。
- 8.3-3 懸垂面 r(u,v)=(coshvcosu, coshvsinu, v) の第二基本形式を、法線 ru×rv/∣ru×rv∣ について求めよ。そのうえで Codazzi の方程式 (8.16) を確かめ、LN−M2 を求めよ。第一基本形式は例題 8.1 の結果を使ってよい。
- 8.3-4 連結な曲面で、すべての点で hij=0 なら、曲面は平面の一部であることを示せ。
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