物理のための微分幾何入門 第11章 §11.2 ★★★ 4つの添字の対称性と2つの Bianchi 恒等式を示し、独立な成分の数 n2(n2−1)/12 を数える
1点で接続を消す座標
この節の証明では、1点で Γ=0 になる座標を何度も使う。その存在を先に示す。
補題 11.5(1点で接続を消す座標)
対称な接続と点 p に対して、その点で接続の成分がすべて 0 になる座標がある。
証明
接続の成分は座標の取り替え x→y で次のように変わる(第4章 §4.4)。
Γ′ρμν=∂xλ∂yρ∂yμ∂xα∂yν∂xβΓλαβ−∂yμ∂xα∂yν∂xβ∂xα∂xβ∂2yρ.
新しい座標を yρ=(xρ−xpρ)+21Γραβ(p)(xα−xpα)(xβ−xpβ) と選ぶ。p での1階微分は単位行列で、2階微分は Γραβ(p) である(下の添字の対称性を使う)。したがって p で Γ′=Γ−Γ=0 である。
この座標は p でしか接続を消さないので、接続の微分は一般に 0 にならない。その残った微分がちょうど曲率である。
4つの添字の対称性
最初の添字を計量で下げた Rρσμν=gρλRλσμν を使う。
定理 11.6(Riemann テンソルの対称性 ★★★)
Levi-Civita 接続の Riemann テンソルは次を満たす。
Rρσμν=−Rρσνμ,Rρσμν=−Rσρμν,Rρσμν+Rρμνσ+Rρνσμ=0(第1 Bianchi 恒等式),Rρσμν=Rμνρσ.(11.9)(11.10)(11.11)(11.12)
証明
(11.9) は定義 (11.3) の形そのものから従う(確認テスト 11.1-1)。
(11.10) には計量との両立 ∇g=0 を使う。gρσ に交換子を作用させると左辺は 0 で、右辺は下の添字2つに (11.5) の項が付く。
0=[∇μ,∇ν]gρσ=−Rλρμνgλσ−Rλσμνgρλ=−Rσρμν−Rρσμν.
(11.11) は補題 11.5 の座標で示す。p では Γ=0 なので、(11.3) の積の項が落ちて次の形になる。
Rρσμν(p)=∂μΓρνσ−∂νΓρμσ.
(σ,μ,ν) を巡回させて足すと、6項は次のように組になって消える。
(∂μΓρνσ−∂μΓρσν)+(∂νΓρσμ−∂νΓρμσ)+(∂σΓρμν−∂σΓρνμ)=0.
ここで下の添字の対称性を使った。テンソルの式なので、1つの座標で成り立てばすべての座標で成り立つ。添字を下げても式の形は変わらない。
(11.12) は上の3つから代数で導く。第1 Bianchi の左辺を Cρσμν と書き、次の組み合わせを作る。
Cρσμν+Cσρνμ−Cμνρσ−Cνμσρ.
12項を書き出し、(11.9)・(11.10) で添字を並べ替える。すると Rσρνμ=Rρσμν と Rνμσρ=Rμνρσ が残り、ほかの8項は次の4組で打ち消し合う。
Rρμνσ=Rμρσν,Rρνσμ=Rνρμσ,Rσνμρ=Rνσρμ,Rσμρν=Rμσνρ.
組み合わせ全体は 2Rρσμν−2Rμνρσ に等しい。C=0 だから、これは 0 である。
対称性の読み方
Rρσμν の後ろの組 (μν) は「どの向きの小さな面に沿って1周するか」を表し、(11.9) は周回の向きを逆にすると符号が変わることを言う。前の組 (ρσ) は「ベクトルがどの面の中で回るか」を表す。(11.10) は、平行移動が長さを保つのでずれが回転(反対称な行列)になることの表れである。(11.12) は、周回する面と回転する面を入れ替えても係数が同じことを言う。
第2 Bianchi 恒等式
定理 11.7(第2 Bianchi 恒等式 ★★★)
対称な接続について
∇λRρσμν+∇μRρσνλ+∇νRρσλμ=0.(11.13)
証明
補題 11.5 の座標で点 p を見る。p では Γ=0 なので、共変微分は偏微分に等しい。さらに (11.3) の積の項 ΓΓ の微分は、積の微分の公式からどの項にも Γ(p)=0 が掛かるので消える。
したがって p で ∇λRρσμν=∂λ∂μΓρνσ−∂λ∂νΓρμσ である。(λ,μ,ν) を巡回させて足すと、6項は次のように組になる。
(∂λ∂μ−∂μ∂λ)Γρνσ+(∂μ∂ν−∂ν∂μ)Γρλσ+(∂ν∂λ−∂λ∂ν)Γρμσ=0.
偏微分は交換するので、どの組も 0 である。テンソルの式なので、すべての座標で成り立つ。
第2 Bianchi 恒等式は、電磁気の ∂λFμν+∂μFνλ+∂νFλμ=0 と同じ形をしている。これは偶然ではなく、どちらも「接続の曲率は恒等式を満たす」という同じ事実の現れである(第12章 §12.6・第15章 §15.4)。
独立な成分の数
命題 11.8(独立な成分の数 ★★)
n 次元で、対称性 (11.9)〜(11.12) を満たす4階の配列の独立な成分の数は
Nn=12n2(n2−1)(11.14)
である。n=1,2,3,4 で Nn=0,1,6,20 になる。
証明
(11.9)・(11.10) から、Rρσμν は反対称な組の対 ([ρσ],[μν]) を添字とする行列とみなせる。反対称な組の数は M=n(n−1)/2 である。(11.12) からこの行列は対称なので、成分は M(M+1)/2 個である。
ここに第1 Bianchi 恒等式が新しい条件を足すのは、4つの添字がすべて異なるときだけである。添字が重なる場合を確かめる。σ=μ なら、(11.11) の左辺は次の形になる。
Rρσσν+Rρσνσ+Rρνσσ.
(11.9) から第1項と第2項は打ち消し合い、第3項は 0 なので、条件は自動的に成り立つ。
ρ=σ なら第1項は (11.10) で 0 になる。残りは Rρμνρ+Rρνρμ である。(11.12) と (11.9) から Rρνρμ=Rρμρν=−Rρμνρ なので、これも自動的に 0 になる。ほかの重なり方も同じである。
4つの添字がすべて異なるとき、上の3つの対称性のもとで巡回和は4つの添字について完全反対称になる(確認テスト 11.2-4)。したがって相異なる4つの添字の組1つにつき条件は1つで、条件の数は (4n) である。
Nn=2M(M+1)−(4n)=4n(n−1)(2n(n−1)+1)−24n(n−1)(n−2)(n−3)=12n2(n2−1).
最後の等号は展開して整理すれば確かめられる。
表 11.1 Riemann テンソルの独立な成分の数。n=3 で Ricci テンソル(§11.3)の成分の数と一致する。| 次元 n | 反対称な組 M | M(M+1)/2 | (4n) | Nn | Ricci の成分 n(n+1)/2 |
| 1 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1 |
| 2 | 1 | 1 | 0 | 1 | 3 |
| 3 | 3 | 6 | 0 | 6 | 6 |
| 4 | 6 | 21 | 1 | 20 | 10 |
表から読み取れることを並べる。
- 1次元の曲線には内在的な曲率が無い。第6章の曲率 κ は、曲線が周りの空間の中でどう曲がるかを表す量である。
- 2次元では成分が1つしかない。それが Gauss 曲率 K に当たることを、次の例題で示す。
- 3次元では Riemann の6成分が Ricci の6成分で決まる(§11.3 の命題 11.12)。
- 4次元の時空では20成分のうち10個が Ricci で、残りの10個が Weyl テンソルになる。Einstein 方程式は Ricci を物質で決め、Weyl は物質の無い所の潮汐と重力波を担う(『相対論入門』第10章 §10.3・第13章 §13.3)。
例題 11.2 2次元では曲率は1つの数 ★★★
オリジナル2次元の計量 gμν(座標 x1,x2)について、次を示せ。
- Rρσμν の0でない成分は R1212=R2121=−R1221=−R2112 の4つだけである。
- K=R1212/detg と置くと、Rρσμν=K(gρμgσν−gρνgσμ) が成り立つ。
- 半径 a の球面で K=1/a2 を確かめよ。
解答
(1) (11.10) から、ρ=σ でなければ成分は 0 である。同じく (11.9) から μ=ν が要る。添字は1と2しかないので、前の組も後ろの組も (12) か (21) である。4通りの成分は、(11.9)・(11.10) で R1212 に ±1 を掛けたものになる。
(2) 右辺を Tρσμν=K(gρμgσν−gρνgσμ) と書く。T も (11.9)・(11.10) を満たすので、(1) と同じく全成分が T1212 で決まる。その値は次のとおりで、R1212 に一致する。
T1212=K(g11g22−g12g21)=Kdetg=R1212.
したがって R=T である。
(3) (11.8) を下げると Rθφθφ=gθθRθφθφ=a2sin2θ である。detg=a4sin2θ なので K=1/a2 を得る。これは第8章 §8.3 の Gauss の方程式 R1212=K(EG−F2) と同じ量で、Gauss 曲率が Riemann テンソルのただ1つの成分であることが分かる。
確認テスト
オリジナル
- 11.2-1 (11.14) から n=5 の独立な成分の数を求め、M(M+1)/2−(45) と一致することを確かめよ。
- 11.2-2 和をとらない成分 Rρρμν と、和をとった Rρρμν がどちらも消えることを示せ。
- 11.2-3 半径 a の球面で、0でない Rρσμν の成分をすべて書け。
- 11.2-4 4階の配列 Rρσμν が (11.9)・(11.10)・(11.12) を満たすとき、巡回和 Cρσμν=Rρσμν+Rρμνσ+Rρνσμ が4つの添字について完全反対称であることを示せ。
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