物理のための微分幾何入門 第4章 §4.4 ★★★ 点ごとのテンソルを並べたテンソル場では、成分の微分と座標の2階微分がテンソルの変換則を破る
テンソル場
定義 4.14(テンソル場)
多様体 M(第1章)の各点に、その点の接空間 TpM(第2章)上のテンソルを対応させる。各点のテンソルが (r,s) 型で、座標近傍の中で成分が座標の滑らかな関数になるとき、これをテンソル場と呼ぶ。成分は座標基底 ∂i と dxi に関するものとする。
テンソル場の成分は、同じ点の上で変換則 (4.4) に従う。ヤコビ行列 (4.5) はその点での値をとるので、変換則の係数は点ごとに異なる。代表例は、ベクトル場 V=Vi∂i、関数の微分 df=∂ifdxi、確認テスト 4.2-2 のテンソルである。
命題 4.15(ゼロは座標に依らない)
ある座標で、テンソル場の成分が点 p においてすべて 0 であるとする。このとき、ほかのどの座標でも、その点での成分はすべて 0 である。
証明
変換則 (4.4) の右辺は、古い成分について斉次な1次式である。古い成分がすべて 0 なら、ヤコビ行列の値によらず右辺は 0 になる。
この命題から、テンソル場の等式は、1つの座標で成り立てばどの座標でも成り立つ。物理の法則をテンソルの等式で書くと、座標の選び方に依らない主張になるのはこのためである。逆にこの命題は、量がテンソルでないことを示す手段にもなる。ある座標で成分がすべて 0、別の座標で 0 でない成分を持つ量は、テンソルではない。
成分の微分はテンソルにならない
関数の偏微分は、連鎖律から ∂i′f=∂x′i∂xj∂jf を満たし、1形式の変換則に従う。ところがベクトル場の成分を微分すると、この性質が崩れる。変換則 V′i=∂xk∂x′iVk を新しい座標で微分すると、積の微分で2つの項が出る。
∂j′V′i=∂x′j∂xl∂xk∂x′i∂lVk+∂x′j∂xl∂xl∂xk∂2x′iVk(4.16)
第1項は (1,1) 型の変換則そのものである。第2項は座標の2階微分を含み、座標変換が1次式でない限り 0 にならない。したがって、成分の偏微分 ∂jVi は一般の座標変換ではテンソルにならない。1次の座標変換(たとえば Lorentz 変換)では第2項は消えるので、慣性系どうしでは ∂μ を含む式をテンソルとして扱うことができる(相対論入門 第4章 §4.4)。
一定のベクトル場を極座標で見る
平面の一定のベクトル場 V=∂x の直交座標の成分は (1,0) で、その偏微分はすべて 0 である。極座標の基底で展開すると、次のようになる。
∂x=cosθ∂r−rsinθ∂θ,Vr=cosθ,Vθ=−rsinθ,∂θVr=−sinθ=0
直交座標で 0、極座標で 0 でないので、命題 4.15 により成分の偏微分はテンソルではない。極座標の成分が点ごとに変わるのは、ベクトル場が変わったからではない。基底 ∂r,∂θ の向きが点ごとに変わるからである(図 4.4)。

図 4.4 半径 r=2 の円の上の2点での極座標の基底 ∂r(青)と ∂θ/r(赤、長さ 1 に縮めて描いた)。一定のベクトル場 ∂x(緑)はどちらの点でも同じ矢印だが、極座標の成分 (Vr,Vθ) は θ=20∘ で (0.94,−0.17)、θ=110∘ で (−0.34,−0.47) と変わる。
1形式の成分の微分にも、同じ種類の項が出る。変換則 αi′=∂x′i∂xkαk を微分すると、次の式になる。
∂j′αi′=∂x′i∂xk∂x′j∂xl∂lαk+∂x′j∂x′i∂2xkαk(4.17)
ただしこの場合、余分な第2項は2つの添字 i,j について対称である。
命題 4.16(反対称化した微分はテンソル)
1形式の成分から作った ∂iαj−∂jαi は、(0,2) 型の反対称テンソル場の成分である。
証明
(4.17) から、添字を入れ替えた式を引く。偏微分の順序は交換できるので、第2項の2階微分は打ち消し合う。
∂i′αj′−∂j′αi′=∂x′i∂xk∂x′j∂xl(∂kαl−∂lαk)
残った式は (0,2) 型の変換則である。
電磁場テンソル (4.12) は、4元ポテンシャルにこの命題を当てはめたものである。したがって電磁場テンソルは、Lorentz 変換に限らずどの座標変換でもテンソルとして変わる。この操作は、第12章で外微分 dα として定式化する。
加速度と Christoffel 記号
曲線 xi(t) の速度は、連鎖律 x˙′i=∂xk∂x′ix˙k からベクトルの変換則に従う。もう1回微分すると、座標の2階微分を含む項が加わる。
x¨′i=∂xk∂x′ix¨k+∂xk∂xl∂2x′ix˙kx˙l(4.18)
したがって、座標の2階微分 x¨i はベクトルの成分ではない。たとえば等速円運動を極座標で書くと r¨=θ¨=0 だが、加速度は 0 でない。
加速度を正しく表すために、平面(一般に Euclid 空間)の点の位置を直交座標のベクトル X で表す。曲線座標の基底を ei=∂X/∂xi とおくと、これは座標基底 ∂i の直交座標の成分に当たる。基底の微分を基底で展開した係数を、Christoffel 記号と呼ぶ。
∂xj∂ei=Γkjiek(4.19)
左辺は ∂j∂iX で2つの添字について対称なので、Γkji=Γkij である。
位置を2回微分すると、加速度の成分が得られる。速度 X˙=x˙iei を微分するとき、基底の変化 e˙i=x˙j∂jei を使う。
X¨=(x¨k+Γkijx˙ix˙j)ek,ak=x¨k+Γkijx˙ix˙j(4.20)
加速度 X¨ は座標に依らない矢印なので、その成分 ak はベクトルの成分である。
極座標の基底は、直交座標の成分で次のように書ける。
er=(cosθ,sinθ),eθ=r(−sinθ,cosθ)
これを微分して基底で展開すると、次の式が得られる。
∂rer=0,∂θer=∂reθ=r1eθ,∂θeθ=−rer
0 でない Christoffel 記号は次の3つである。
Γrθθ=−r,Γθrθ=Γθθr=r1(4.21)
(4.20) に代入すると、加速度の極座標の成分が出る。
ar=r¨−rθ˙2,aθ=θ¨+r2r˙θ˙(4.22)
動径成分の −rθ˙2 は向心加速度で、極座標の基底が回ることから出る項である。
証明
新しい基底は ei′=∂x′i∂xaea である。これを微分するとき、連鎖律 ∂j′=∂x′j∂xb∂b と定義 (4.19) を使う。
∂j′ei′=∂x′j∂x′i∂2xcec+∂x′i∂xa∂x′j∂xbΓcbaec
最後に ec=∂xc∂x′kek′ と書き直し、新しい基底の係数を読むと (4.23) になる。
直交座標では基底が一定なので、Christoffel 記号はすべて 0 である。極座標では (4.21) のとおり 0 でない。命題 4.15 により、Christoffel 記号はテンソルではない。
直交座標から出発すると、変換則 (4.23) の第1項は消える。
Γ′kji=∂xc∂x′k∂x′j∂x′i∂2xc
平面の Christoffel 記号は、座標の2階微分そのものである。同じ座標で2組の Christoffel 記号の差をとると、変換則の第2項は打ち消し合うので、差はテンソルになる(第9章 §9.2 で使う)。
定義 4.18(平面の共変微分)
ベクトル場 V=Viei を座標で微分したものを、基底で展開する。
∂jV=(∂jVk+ΓkjiVi)ek,∇jVk=∂jVk+ΓkjiVi(4.24)
展開の係数 ∇jVk を共変微分の成分と呼ぶ。
共変微分の成分は、(1,1) 型のテンソル場の成分である。実際、矢印としての微分は連鎖律 ∂j′V=∂x′j∂xl∂lV に従う。新しい基底の係数への書き直しは、ek=∂xk∂x′iei′ で行われる。2つの係数を合わせると、(1,1) 型の変換則 (4.7) になる。
成分の微分 (4.16) の余分な項は、Christoffel 記号の変換則の第2項とちょうど打ち消し合っている。
曲面と時空への拡張
- ここでは平面の位置ベクトル X を使って Christoffel 記号を定めた。
- 曲面や一般の多様体には、点を比べるための共通の直交座標がない。そこでは計量から Christoffel 記号を決める(第8章 §8.2、第9章 §9.2)。
- 計量を使った公式は Γkij=21gkl(∂iglj+∂jgli−∂lgij) である。確認テスト 4.2-2 のテンソルに当てはめると (4.21) が再現される。
- Minkowski 時空でも、慣性系の座標では Christoffel 記号は 0 で、加速する観測者の座標(Rindler 座標)では 0 でない。後者は慣性力に当たる(相対論入門 第7章 §7.4・第8章 §8.3)。
例題 4.5 一定のベクトル場の共変微分 ★★★
オリジナル平面の一定のベクトル場 V=∂x を極座標で表す。
- 成分の偏微分 ∂jVk を4つとも求めよ。
- 共変微分 ∇jVk を4つとも求め、すべて 0 になることを確かめよ。
解答
(1) 成分は Vr=cosθ, Vθ=−sinθ/r である。
∂rVr=0,∂θVr=−sinθ,∂rVθ=r2sinθ,∂θVθ=−rcosθ
(2) (4.24) に (4.21) を代入する。動径の上付き添字を持つ記号のうち 0 でないのは Γrθθ だけで、Γθθθ=0 でもある。
∇rVr∇θVr∇rVθ∇θVθ=∂rVr+ΓrriVi=0,=∂θVr+ΓrθθVθ=−sinθ+(−r)(−rsinθ)=0,=∂rVθ+ΓθrθVθ=r2sinθ+r1(−rsinθ)=0,=∂θVθ+ΓθθrVr=−rcosθ+r1cosθ=0.
直交座標では共変微分は成分の偏微分に等しく、すべて 0 である。極座標でもすべて 0 になり、命題 4.15 と整合する。成分の偏微分が 0 でないのは基底の回転によるもので、Christoffel 記号の項がその分を差し引いている。
例題 4.6 地球の公転の向心加速度 ★★
オリジナル地球の公転を、半径 R=1.496×1011m、周期 365.25 日の円運動とみなす。
- 極座標の加速度 (4.22) を使って、加速度の成分を求めよ。
- 太陽の重力定数 GM⊙=1.327×1020m3/s2 を使って GM⊙/R2 を計算し、(1) と比べよ。
解答
(1) 円運動では動径が一定で、r˙=r¨=0 である。等速なので角速度 θ˙=Ω は一定で、θ¨=0 である。周期は 365.25×86400=3.156×107s なので、角速度は次の値になる。
Ω=3.156×107s2π=1.991×10−7s−1
(4.22) から角度成分は 0 で、動径成分は次のようになる。
aθ=0,ar=−RΩ2=−1.496×1011×(1.991×10−7)2m/s2=−5.93×10−3m/s2
座標の2階微分がすべて 0 でも、Christoffel 記号の項 Γrθθθ˙2=−RΩ2 が残る。
(2) 重力による加速度の大きさは次の値である。
R2GM⊙=(1.496×1011)21.327×1020m/s2=5.93×10−3m/s2
(1) の動径成分の大きさと3桁まで一致する。加速度の極座標の成分を (r¨,θ¨) と取り違えると、この一致は得られない。
確認テスト
オリジナル
- 4.4-1 ある量の成分が直交座標ではすべて 0 で、極座標では 0 でない成分を持つ。この量はテンソル場になりうるか。理由とともに答えよ。
- 4.4-2 平面の座標 (u,v) を (x,y)=(u,v+u2) で定める。基底 eu,ev を求め、0 でない Christoffel 記号をすべて求めよ。
- 4.4-3 正の定数 b,w について、(x,y)=(b,wt) の等速直線運動を極座標で書く。動径の2階微分 r¨ は 0 でないが、(4.22) の2つの成分はともに 0 になることを示せ。
- 4.4-4 関数の2階偏微分 Hij=∂i∂jf は、一般にはテンソルでないことを示せ。さらに、df=0 となる点(臨界点)では (0,2) 型の変換則に従うことを示せ。
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