物理のための微分幾何入門 第11章 §11.3 ★★★ Riemann を縮約して Ricci とスカラー曲率を作り、2次元で R=2K、3次元で Ricci が全部を決めることを示す
縮約
Riemann テンソルは4つの添字を持ち、そのままでは扱いにくい。縮約は座標に依らない操作なので(第4章 §4.2)、添字を縮約して小さなテンソルを作る。
定義 11.9(Ricci テンソルとスカラー曲率)
Rσν=Rρσρν,R=gσνRσν(11.15)
をそれぞれ Ricci テンソル・スカラー曲率と呼ぶ。
縮約の選び方はほかにもあるが、どれも ±Rσν か 0 になる。(11.10) から Rρρμν=0(確認テスト 11.2-2)、(11.9) から Rρσνρ=−Rσν である。したがって Ricci テンソルは、Riemann から作れる2階のテンソルとして本質的に1つしかない。
命題 11.10(Ricci は対称)
Rσν=Rνσ。
証明
Rσν=gρλRλσρν と書く。(11.12) で組を入れ替えると Rλσρν=Rρνλσ である。計量の対称性を使って和の添字の名前を入れ替えると、次を得る。
Rσν=gρλRρνλσ=gλρRλνρσ=Rνσ.
2次元と3次元
命題 11.11(2次元の Ricci ★★★)
2次元では
Rμν=Kgμν,R=2K(11.16)
である。K は例題 11.2 の量(Gauss 曲率)である。
証明
例題 11.2 の式に gρμ を掛けて縮約する。2次元では gρμgρμ=2 なので
Rσν=K(gρμgρμgσν−δμνgσμ)=K(2gσν−gσν)=Kgσν.
さらに gσν で縮約すると R=2K を得る。
球面では R=2/a2 で、符号は正である。記法の正本の注意どおり、正の曲率は正定値の計量で述べる。同じ球面を時空の空間部分として −a2(dθ2+sin2θdφ2) と書くと R=−2/a2 になる。
命題 11.12(3次元では Ricci が全部を決める ★★)
3次元では
Rρσμν=gρμRσν−gρνRσμ−gσμRρν+gσνRρμ−2R(gρμgσν−gρνgσμ).(11.17)
証明
テンソルの式なので、1点 p で計量が δij になる基底をとって示せば足りる。3次元では、反対称な組 [ρσ] は Levi-Civita 記号 ϵρσα によって1つの添字と1対1に対応する。したがって (11.9)・(11.10) を満たす配列は、ある行列 Aαβ で次のように書ける。
Rρσμν=ϵρσαϵμνβAαβ.
(11.12) から A は対称である。3次元には相異なる4つの添字が無いので、第1 Bianchi 恒等式は自動的に成り立つ(命題 11.8 の証明)。縮約して Ricci を作ると、ϵρσαϵρνβ=δσνδαβ−δσβδαν から
Rσν=δσνTrA−Aνσ,R=3TrA−TrA=2TrA
となる。
したがって Aαβ=2Rδαβ−Rαβ で、A は Ricci だけで決まる。これを ϵϵ の積の公式(δ の3行3列の行列式)に入れて展開すると (11.17) になる。
この命題から、3次元の空間では Ricci が 0 なら Riemann も 0 である。4次元以上ではそうならず、Ricci が 0 でも Weyl テンソルの分だけ曲がっていてよい。Schwarzschild 時空はその例で、『相対論入門』第12章が扱う。
縮約した Bianchi 恒等式
系 11.13(縮約した Bianchi 恒等式 ★★★)
Gμν=Rμν−21gμνR と置くと ∇μGμν=0。
証明
(11.13) で ρ と μ を縮約する。計量は共変微分と交換するので(∇g=0)、縮約は微分の内側でも外側でもよい。
∇λRσν+∇ρRρσνλ−∇νRσλ=0
を得る。第3項では Rρσλρ=−Rσλ を使った。
さらに gσν で縮約する。第2項の gσνRρσνλ は、(11.10)・(11.12) で並べ替えると −Rρλ になる。
∇λR−∇ρRρλ−∇νRνλ=0,つまり∇ρ(Rρλ−21δρλR)=0.
添字を下げれば主張の式になる。
Gμν を Einstein テンソルと呼ぶ。物質のエネルギー運動量テンソルも ∇μTμν=0 を満たすので、Einstein 方程式 Gμν∝Tμν は保存則と矛盾しない。その議論は『相対論入門』第11章 §11.2 に送る。2次元では (11.16) から Gμν=Kgμν−Kgμν=0 で、Einstein テンソルは恒等的に消える。
Ricci の幾何的な意味
2つの接ベクトル X,Y が張る面の断面曲率を次の式で定める。
K(X,Y)=g(X,X)g(Y,Y)−g(X,Y)2RρσμνXρYσXμYν.(11.18)
2次元では例題 11.2 の式から分子は分母の K 倍で、K(X,Y)=K になる。高い次元では、断面曲率はその面の方向に沿って測地線で作った小さな曲面の Gauss 曲率である。
命題 11.14(Ricci は断面曲率の和)
長さ1の T と、それに直交する正規直交な e1,…,en−1 をとると
RσνTσTν=i=1∑n−1K(ei,T).
証明
T,e1,…,en−1 を正規直交基底に選ぶと、縮約は基底についての和になる。
RσνTσTν=i∑RρσμνeiρTσeiμTν+RρσμνTρTσTμTν.
最後の項は (11.10) で 0 になる。残りの各項は、(11.18) の分母が 1 なので K(ei,T) に等しい。
Ricci は「T の方向に進む測地線の束が、それに直交するすべての方向で平均してどれだけ寄り集まるか」を測る。この読み方は §11.4 の測地線偏差で式になる。もう1つの読み方として、測地線で作った半径 r の小さな球の体積がある。
測地球の体積とスカラー曲率
空間の次元を n とする。点 p から測地線の長さで r 以内にある点の集まりを測地球と呼ぶ。その体積は、平らな場合の V0rn と比べて次のようになる。
V(r)=V0rn(1−6(n+2)Rr2+O(r4))
になる。証明は p を中心とする測地線の座標で計量を2次まで展開して得られるので、ここでは2つの例で確かめるだけにする。
- 半径 a の球面の円板の面積は 2πa2(1−cos(r/a))=πr2(1−r2/12a2+⋯) である。R=2/a2、n=2 で公式と一致する。
- 3次元球面(§11.5)の球の体積は 34πr3(1−r2/5a2+⋯) である。R=6/a2、n=3 で公式と一致する。
正の曲率では球が平らな場合より小さく、負の曲率では大きくなる。
例題 11.3 トーラスの曲率 ★★
オリジナル管の半径が b、中心の円の半径が c>b のトーラスを考える。その計量は ds2=b2dθ2+(c+bcosθ)2dφ2 である。θ=0 が外側の赤道、θ=π が内側の赤道に当たる。
- Gauss 曲率 K とスカラー曲率 R を求め、符号が変わる所を答えよ。
- トーラス全体での ∫KdA を求めよ。
解答
(1) 弧長 r=bθ を使うと、計量は次の形になる。
ds2=dr2+f(r)2dφ2,f=c+bcos(r/b).
例題 11.1 の結果 K=−f′′/f が使えて、f′′=−cos(r/b)/b だから
K=b(c+bcosθ)cosθ,R=2K=b(c+bcosθ)2cosθ.
外側の赤道では K=1/b(c+b)>0、内側の赤道では K=−1/b(c−b)<0 である。K=0 になるのは θ=±π/2、つまりトーラスの上と下の円である。
同じ K は第7章の例題 7.3 で第二基本形式から求めた。第7章の半径 R,r が、ここの c,b に当たる。ここでは計量だけから同じ値が出たので、驚異の定理の確かめにもなる。
(2) 面積要素は dA=detgdθdφ=b(c+bcosθ)dθdφ である。KdA=cosθdθdφ となって分母が消え、
∫KdA=∫02π∫02πcosθdθdφ=0
を得る。外側の半分 ∣θ∣<π/2 の寄与は 4π である。内側の半分の寄与は −4π で、両者はちょうど打ち消し合う。全曲率が管の太さに依らず 0 になることは、第15章 §15.2 の Gauss–Bonnet の定理の1つの例である(トーラスの Euler 標数は 0)。

図 11.2 トーラス(c=2、b=1)の Gauss 曲率の符号。橙が K>0 の外側、青が K<0 の内側、灰色の帯の上と下の円で K=0 になる。全体の積分は 0 である(例題 11.3)。
確認テスト
オリジナル
- 11.3-1 Riemann テンソルの1番目と4番目の添字の縮約 Rρμνρ を Ricci テンソルで表せ。
- 11.3-2 地球を半径 RE=6.371×106 m の球とみなし、表面の Gauss 曲率とスカラー曲率を求めよ。また半径 a の円柱の面 ds2=a2dφ2+dz2 のスカラー曲率を求めよ。
- 11.3-3 2次元の計量 ds2=e2w(x,y)(dx2+dy2) を考える。その Gauss 曲率が K=−e−2w(∂x2w+∂y2w) であることを示し、w=ln(ℓ/y) の場合の値を求めよ。
- 11.3-4 n 次元で gμνGμν=(1−n/2)R を示せ。また n≥3 では、Einstein テンソルが消えることと Ricci テンソルが消えることが同値であることを示せ。
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