物理のための微分幾何入門 第11章 §11.4 ★★★ 近くを通る2本の測地線の間隔の加速度が曲率で決まることを示し、Newton 力学の潮汐をその例として読む
測地線の族
近くを通る測地線の族を考える。2つの変数の写像 xμ(t,s) を考える。各 s について、t の関数として見たこの写像がアフィンパラメータの測地線になるものとする。その上の2つのベクトル場を次で定める。
Tμ=∂t∂xμ,Jμ=∂s∂xμ.(11.19)
T は測地線の速度で、J は隣の測地線への間隔を表す。J を Jacobi 場(偏差ベクトル)と呼ぶ。
曲線に沿う共変微分を D/dt・D/ds と書く。たとえば DZρ/ds=∂sZρ+ΓρνσJνZσ である。
補題 11.15
(1) DJρ/dt=DTρ/ds。(2) 族の上のベクトル Z について
dtDdsDZρ−dsDdtDZρ=RρσμνZσTμJν.(11.20)
証明
(1) ∂tJρ=∂t∂sxρ=∂sTρ である。接続の項は ΓρμνTμJν と ΓρνμJνTμ で、下の添字の対称性から等しい。
(2) dsDZρ=∂sZρ+ΓρνσJνZσ に D/dt を作用させる。接続の t 微分は ∂tΓ=Tμ∂μΓ なので
dtDdsDZρ=∂t∂sZρ+Tμ∂μΓρνσJνZσ+Γρνσ(∂tJνZσ+Jν∂tZσ)+ΓρμλTμ(∂sZλ+ΓλνσJνZσ).
この式から、2つのパラメータを入れ替えた式を引く(T↔J)。2階の偏微分 ∂t∂sZ は消える。(1) の ∂tJ=∂sT から、Γ∂J の項も消える。Γ∂Z を含む4項も、2つずつ同じ形なので消える。
残るのは ∂Γ の2項と ΓΓ の2項である。
(∂μΓρνσ−∂νΓρμσ+ΓρμλΓλνσ−ΓρνλΓλμσ)ZσTμJν.
括弧の中は (11.3) そのものである。
定理 11.16(測地線偏差の方程式 ★★★)
測地線の族の Jacobi 場は
dt2D2Jρ=RρσμνTσTμJν(11.21)
を満たす。これを Jacobi 方程式(測地線偏差の方程式)と呼ぶ。
証明
補題 11.15 の (1) から dt2D2J=dtDdsDT である。(2) で Z=T とすると、これは dsDdtDT+RρσμνTσTμJν に等しい。各曲線が測地線なので DT/dt=0 で、第1項は消える。
平らな空間では右辺が 0 で、間隔は t の1次式でしか変わらない。曲率があると、初めは平行に出発した測地線どうしが加速度を持って近づいたり離れたりする。逆に、測地線の間隔の加速度を測れば、曲率を知ることができる。
2次元の Jacobi 方程式
2次元で、速度 T は長さ1、Jacobi 場 J はそれに直交するとする。例題 11.2 の式を (11.21) の右辺に入れると、g(T,J)=0、g(T,T)=1 から次の形になる。
RρσμνTσTμJν=K(Tρg(T,J)−Jρg(T,T))=−KJρ.
測地線に沿って平行移動した長さ1の法線 N を使い、J=j(t)N と書く。N は平行なので D2J/dt2=j′′N である。
命題 11.17(2次元の Jacobi 方程式 ★★★)
2次元で、測地線に直交する Jacobi 場の大きさ j(t) は
j′′(t)+Kj(t)=0(11.22)
を満たす。K は測地線上の点での Gauss 曲率である。
K が一定で、1点から角度をつけて出発する族 j(0)=0, j′(0)=1 を考える。解は曲率の符号で3通りに分かれる。
- K=1/a2>0:j=asin(t/a)。間隔は最大になったあと縮み、t=πa で再び 0 になる。
- K=0:j=t。間隔は一定の割合で広がる。
- K=−1/ℓ2<0:j=ℓsinh(t/ℓ)。間隔は指数関数的に広がる。

図 11.3 1点から角度をつけて出発した2本の測地線の間隔 j(t)(j(0)=0、j′(0)=1、∣K∣=1)。正の曲率では t=π で再び会い、負の曲率では指数関数的に離れる((11.22))。
正の曲率で再び会う点を共役点と呼ぶ。球面では北極から出たすべての大円が南極で会い、北極と南極は互いに共役点である。共役点を越えた測地線は、もう最短の道ではない(端点を少しずらした近くの道の方が短くなる)。
例題 11.4 球面の経線の間隔 ★★
オリジナル半径 a の球面で、北極から角 δφ をなして出発する2本の経線を考える。
- 北極からの弧長 t での2本の間隔 j(t) を、(11.22) を解いて求めよ。
- 地球(a=6.371×106 m)で δφ=1∘ のとき、赤道での間隔を求めよ。
- 同じ結果を、緯線の半径から幾何で確かめよ。
解答
(1) 北極で2本は一致するので j(0)=0 である。出発の角が δφ なので、北極のごく近くでは平面と同じく j≈tδφ である。したがって j′(0)=δφ である。K=1/a2 で (11.22) を解くと
j(t)=aδφsin(t/a)
を得る。
(2) 赤道は t=πa/2 なので j=aδφ である。δφ=π/180=0.017453 を入れると、次のようになる。
j=6.371×106×0.017453 m=1.112×105 m≈111 km.
(3) 北極からの弧長 t の点は余緯度 t/a にある。そこの緯線の半径は asin(t/a) である。角 δφ の経線どうしの間隔はその半径に δφ を掛けたもので、(1) と一致する。t=πa の南極で j=0 となり、2本は共役点で再び会う。
Newton の重力の潮汐は曲率である
Newton 力学で、重力ポテンシャル Φ(x) の中を自由に運動する粒子は x¨=−∇Φ に従う。近くを運動する2粒子の位置の差 ξ は、右辺を1次まで展開して
ξ¨i=−∂i∂jΦξj(11.23)
に従う。行列 ∂i∂jΦ を潮汐テンソルと呼ぶ。
この式は (11.21) と同じ形をしている。実際、時刻 t と位置 xi をまとめた4次元の空間に、0でない成分が
Γitt=∂iΦ(11.24)
だけの対称な接続を置くと、測地線の方程式 (11.2) は t¨=0 と x¨i+∂iΦ=0 になる。t をパラメータに選べば、これは Newton の運動方程式そのものである。
この接続はどんな計量の Levi-Civita 接続でもない。
(t,x) の空間には計量を勝手に置かない(第5章 §5.5)が、定義 11.1 は接続だけで曲率を決めるので、そのまま計算できる。(11.3) に入れると、接続どうしの積はすべて 0 になる。積 ΓρμλΓλνσ が0でないには、前の因子から λ=t が要る。ところが後ろの因子は上の添字が空間のときしか0でないので、両立しないからである。
命題 11.18(Newton 力学の曲率 ★★)
接続 (11.24) の曲率の0でない成分は
Ritjt=−Rittj=∂i∂jΦ(11.25)
で、Ricci テンソルの0でない成分は Rtt=∇2Φ=4πGρ だけである。
証明
Ritjt=∂jΓitt−∂tΓijt=∂j∂iΦ である。上の添字が t の成分は、Γtμν=0 から消える。2番目の添字が空間の添字 k の成分も、Γiνk=0 から消える。Ricci は Rtt=Ritit=∑i∂i2Φ で、Poisson 方程式 ∇2Φ=4πGρ を使えば最後の等号になる。
この接続で (11.21) を書く。同時刻の2粒子を比べるので J=(0,ξ)、速度は T=(1,v) である。右辺で0でないのは σ=μ=t, ν=j の項だけである。
RittjTtTtξj=−∂i∂jΦξj.
Jt=0 なので D2ξi/dt2=ξ¨i で、Newton の (11.23) がそのまま出る。
この見方では、重力は「接続が平坦でないこと」で、潮汐はその曲率である。一様な重力(∂i∂jΦ=0)は曲率を持たず、自由落下する箱の中では消せる。一方、潮汐は座標の取り替えでは消せない。一般相対論では同じ役割を時空の計量の曲率 c2Ri0j0≃∂i∂jΦ が担い、その導出は『相対論入門』第10章 §10.2 で行う。
点質量の潮汐
点の質量を M とし、ポテンシャル Φ=−GM/r を考える。単位ベクトル n=x/r を使うと、潮汐テンソルは次のとおりである。
∂i∂jΦ=r3GM(δij−3ninj)(11.26)
である。固有値は、質量の方向に −2GM/r3、それに垂直な2方向に +GM/r3 である(確認テスト 11.4-4)。(11.23) の負号から、質量の方向には引き伸ばされ、垂直な方向には押し縮められる。跡は 0 で、物質の無い所では Rtt=0 であることに対応する。

図 11.4 地球の周りに輪に並べた自由な試験粒子が月の潮汐で受ける相対加速度(赤の矢印、(11.26))。月の方向の成分は +2GMx/d3、垂直な成分は −GMy/d3 で、輪は月の方向に伸びた楕円(青)になる。満潮が地球の両側に1つずつできる理由である。
例題 11.5 地球と月の潮汐の見積もり ★★★
オリジナル次の値を使う(Mm は月の質量、d は地球と月の距離)。
G=6.674×10−11 m3kg−1s−2,g=9.81 m/s2,Mm=7.342×1022 kg,ME=5.972×1024 kg,d=3.844×108 m,RE=6.371×106 m.
- 地球の中心と、月に最も近い地表の点との、月の引力による相対加速度(潮汐加速度)を (11.26) から求めよ。月の引力そのものの大きさとも比べよ。
- 海面が潮汐のポテンシャルの等ポテンシャル面に沿うとして(平衡潮)、満潮と干潮の海面の高さの差を見積もれ。
解答
(1) 月の方向に間隔 ξ=RE をとると、(11.23) と (11.26) から相対加速度は 2GMmRE/d3 である。数値を入れると
atide=(3.844×108)32×6.674×10−11×7.342×1022×6.371×106 m/s2=1.10×10−6 m/s2
で、g の 1.1×10−7 倍である。月の引力そのものは GMm/d2=3.32×10−5 m/s2 で、その約 3% にすぎない。地球全体が月に向かって自由落下しているので、引力そのものは打ち消され、場所による差だけが残る。
(2) (11.23) の右辺は、潮汐のポテンシャル Φtide=21∂i∂jΦξiξj の勾配の −1 倍である。(11.26) を入れ、月の方向から測った角を ϑ とすると、地表(∣ξ∣=RE)で
Φtide=2d3GMmRE2(1−3cos2ϑ)
となる。
月の真下 ϑ=0 と真横 ϑ=π/2 を比べる。ポテンシャルの差は 23GMmRE2/d3 である。海面の高さの差 h は、これを重力加速度 g=GME/RE2 で割ったものになる。
h=23MEMm(dRE)3RE=1.5×0.01229×4.553×10−6×6.371×106 m=0.53 m.
実際の潮位差は海岸の地形と海水の運動で大きく変わるが、外洋での大きさの目安はこの値である。
確認テスト
オリジナル
- 11.4-1 平面上の Jacobi 方程式 (11.22) の一般解を書き、それが2本の直線の間隔の式になっていることを確かめよ。
- 11.4-2 K=−1/ℓ2 の面で、j(0)=0, j′(0)=1 の Jacobi 場を求めよ。それを使い、1点から測地線の長さ r にある点がなす円の周の長さを求め、平面の 2πr と比べよ。
- 11.4-3 太陽の質量 Ms=1.989×1030 kg、地球と太陽の距離 ds=1.496×1011 m として、太陽による地表の潮汐加速度を求め、月によるものとの比を求めよ。太陽の引力そのものは月の引力の何倍か。また、月と太陽が一直線に並ぶとき(大潮)と直角に並ぶとき(小潮)の潮汐加速度の比を見積もれ。
- 11.4-4 (11.26) を導き、その固有値と固有ベクトルを求めよ。跡が 0 になることも確かめよ。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com