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計量が無い空間

2026年10月22日9分で読めますAI生成教科書『基礎理論』第5章 計量
目次
  1. 計量は追加の構造
  2. Galilei の時空: 平面
  3. 熱力学の状態空間
  4. 相空間
  5. 確認テスト
  6. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

物理のための微分幾何入門 第5章 §5.5 ★★★ 計量は多様体に後から足す構造で、物理の空間には計量が備わっていないものも多い。長さや角を言う前に、計量があるかを確かめる

計量は追加の構造

多様体と座標だけでは、接ベクトルの長さも角も決まらない。長さを決めるには、§5.1 の意味の計量を、物理の理由に基づいて1つ選ぶ必要がある。Euclid 空間では、剛体で測った長さから計量が決まる。

物理で扱う空間の中には、どの計量を選んでも物理の法則と両立しないもの、そもそも計量を選ぶ理由が無いものがある。ここでは3つの例を調べる。どの例でも、計量を使わずに言えること(1形式・曲線の接し方・2形式の面積)は意味を持つ。

Galilei の時空:(x,t)(x,t) 平面

非相対論の物理の時空を、1次元の空間に限って (x,t)(x,t) 平面で考える。速度 vv で動く慣性系への取り替え(Galilei 変換)は x′=x−vt, t′=tx'=x-vt,\ t'=t である。変位は次のように変わる。

(dx′, dt′)=(dx−v dt, dt)(\mathrm{d} x',\ \mathrm{d} t')=(\mathrm{d} x-v\,\mathrm{d} t,\ \mathrm{d} t)

物理の法則がすべての慣性系で同じ形をとるなら、時空に置く計量も Galilei 変換で変わってはならない。

定理 5.14(Galilei 変換で不変な2次形式)

(x,t)(x,t) 平面の定数係数の2次形式を、次の形とする。

Q=A dx2+2B dx dt+C dt2Q=A\,\mathrm{d} x^2+2B\,\mathrm{d} x\,\mathrm{d} t+C\,\mathrm{d} t^2

これがすべての vv についての Galilei 変換で不変になるのは、A=B=0A=B=0 のときに限る。すなわち不変な2次形式は Q=C dt2Q=C\,\mathrm{d} t^2 だけで、これは退化している。

証明

QQ に変換後の変位を入れて展開する。

A(dx−vdt)2+2B(dx−vdt)dt+Cdt2=A dx2+2(B−Av) dx dt+(Av2−2Bv+C) dt2A(\mathrm{d} x-v\mathrm{d} t)^2+2B(\mathrm{d} x-v\mathrm{d} t)\mathrm{d} t+C\mathrm{d} t^2 =A\,\mathrm{d} x^2+2(B-Av)\,\mathrm{d} x\,\mathrm{d} t+(Av^2-2Bv+C)\,\mathrm{d} t^2

これがすべての vv で元の2次形式と等しいためには、交差項の係数から Av=0Av=0 が要る。0でない vv をとれば A=0A=0 である。

すると時間の2乗の係数の条件は −2Bv=0-2Bv=0 となり、BB も0になる。逆に Q=C dt2Q=C\,\mathrm{d} t^2 は、dt′=dt\mathrm{d} t'=\mathrm{d} t なので不変である。この2次形式は (1,0)(1,0) 方向のベクトルに0を返すので、退化している。

定理から、Galilei の時空には非退化な計量が無いことがわかる。時空に残る構造は2つである。

  1. 時間の1形式 dt\mathrm{d} t。2つの事象の時間差は、すべての慣性系で同じ値になる。
  2. 同時刻の直線の上の距離 dx2\mathrm{d} x^2。同時刻の2点の間でだけ意味を持つ。
図

図 5.5 Galilei 変換 x′=x−t/2x'=x-t/2、t′=tt'=t による (x,t)(x,t) 平面の取り替え。左の慣性系 KK では、静止した物体 A の世界線は鉛直、速さ 1/21/2 で動く物体 B の世界線は傾いている。B に紙の上で垂直な破線を引いても、右の K′K' へ移すと破線は B の世界線に垂直でなくなる。紙の上の直角は座標の選び方で変わり、(x,t)(x,t) 平面の構造ではない。水平な線(同時刻の線)は両方の図で水平のまま保たれる。

図 5.5 のように (x,t)(x,t) 平面を紙に描くと、紙の Euclid 計量 dx2+dt2\mathrm{d} x^2+\mathrm{d} t^2 を使ってしまいやすい。この計量は Galilei 変換で不変でない。そのうえ、長さの2乗と時間の2乗という次元の違う量を足している。

相対論では、光速 cc が c2dt2c^2\mathrm{d} t^2 の形で次元をそろえる。そして Lorentz 変換で不変な Minkowski 計量 (5.19) が定まる。Galilei の時空は光速を無限大にした極限で、このとき計量は退化した dt2\mathrm{d} t^2 と同時刻の直線の dx2\mathrm{d} x^2 に分かれる。

熱力学の状態空間

単一成分の気体の平衡状態は2つの変数で決まり、状態空間は2次元の多様体である。(S,V), (T,V), (p,V)(S,V),\ (T,V),\ (p,V) は、どれも同じ点を指す別の座標である(第1章 §1.3)。内部エネルギーの微分

dU=T dS−p dV\mathrm{d} U=T\,\mathrm{d} S-p\,\mathrm{d} V

は1形式で、温度と圧力の符号を変えたものはその成分である(第3章 §3.2)。

成分の組 (T,−p)(T,-p) は、内部エネルギーの勾配ベクトルではない。勾配ベクトルにするには、§5.2 のとおり計量で添字を上げる必要がある。状態空間には、その計量が備わっていない。

p–Vp\text{–}V 図に等温線と断熱線を描くと、2本の線のなす「角」が見える。しかしこの角は、縦軸と横軸の目盛りの取り方で変わる(例題 5.8)。目盛りの選び方は紙の上の計量 dV2+dp2\mathrm{d} V^2+\mathrm{d} p^2 の選び方で、熱力学はそれを指定しない。

一方、2本の線の傾きの比は、軸の目盛りの取り替えでは変わらない。目盛りを取り替えると、両方の傾きに同じ因子が掛かるからである。理想気体では、この比は比熱比 γ\gamma に等しい。

状態空間に計量を置く研究

状態空間に計量を置く研究もある。

  • Weinhold は、内部エネルギー U(S,V)U(S,V) の2階微分の行列を計量に選んだ。
  • Ruppeiner は、エントロピーの2階微分の行列に負号を付けたものを計量に選んだ。
  • どちらも、平衡の安定性や揺らぎの大きさという物理の理由から計量を選んでいる。計量を使う議論をするときは、このように「どの計量を、なぜ選んだか」を書く必要がある。

相空間

Hamilton 力学の相空間は座標 (q,p)(q,p) を持つ。qq の次元は長さで、pp の次元は運動量である。そのため dq2+dp2\mathrm{d} q^2+\mathrm{d} p^2 は次元の違う量の和で、物理の意味を持たない。相空間に備わっている構造は計量ではなく、2形式 ω=dp∧dq\omega=\mathrm{d} p\wedge\mathrm{d} q である(第14章)。

正準変換は、この2形式を保つ変換である。例として、正の定数 λ\lambda による Q=λq, P=p/λQ=\lambda q,\ P=p/\lambda を考える。dP∧dQ=dp∧dq\mathrm{d} P\wedge\mathrm{d} Q=\mathrm{d} p\wedge\mathrm{d} q なので2形式は保たれ、相空間の領域の面積(Liouville の体積)も保たれる。一方、2点の Euclid 距離は保たれない(確認テスト 5.5-3)。

調和振動子の軌道は (q,p)(q,p) 平面の楕円である。運動量を mω0m\omega_0 で割った座標を使うと、軌道は円になる。円に見えるのは単位の選び方の結果で、相空間の構造から出たものではない。相空間で座標によらない意味を持つのは、軌道が囲む面積のように2形式だけで決まる量である。

計量を勝手に置かない

長さ・角・直交・勾配ベクトル・ラプラシアンは、すべて計量を使う。これらを言う前に、次の2点を確かめる。

  1. その空間に、物理が定める計量があるか。Euclid 空間・運動エネルギーの配位空間・Minkowski 時空にはある。
  2. 無いなら、計量を使わない量(1形式・曲線の接し方・2形式の面積)で言い直せるか。Galilei の時空・熱力学の状態空間・相空間はこの場合である。

例題 5.8 p–Vp\text{–}V 図の等温線と断熱線の角は単位で変わる ★★

オリジナル単原子分子の理想気体の比熱比は γ=5/3\gamma=5/3 である。この気体が p=100 kPa, V=25.0 Lp=100\,\mathrm{kPa},\ V=25.0\,\mathrm{L} の状態にある。

  1. この点での等温線と断熱線の傾き dp/dV\mathrm{d} p/\mathrm{d} V を求めよ。
  2. 圧力を kPa、体積を L で測り、1 kPa と 1 L を紙の上で同じ長さに描く。2本の線が体積の軸となす角と、2本の線のなす角を求めよ。
  3. 圧力を bar(100 kPa)で測り、1 bar と 1 L を同じ長さに描く。同じ角を求めよ。
  4. どちらの描き方でも変わらない量を1つ挙げよ。
解答

(1) 等温線は pVpV が一定なので、傾きは −p/V-p/V である。断熱線は pVγpV^\gamma が一定なので、傾きは −γp/V-\gamma p/V である。数値を入れると、等温線の傾きは −4.00 kPa/L-4.00\,\mathrm{kPa/L}、断熱線の傾きは −6.67 kPa/L-6.67\,\mathrm{kPa/L} になる。

(2) 紙の上の傾きは −4.00-4.00 と −6.67-6.67 である。体積の軸となす角は arctan⁡4.00=75.96∘\arctan4.00=75.96^\circ と arctan⁡6.67=81.47∘\arctan6.67=81.47^\circ になる。2本の線のなす角は 5.51∘5.51^\circ である。

(3) bar で測ると、傾きは −0.0400-0.0400 と −0.0667 bar/L-0.0667\,\mathrm{bar/L} になる。体積の軸となす角は 2.29∘2.29^\circ と 3.81∘3.81^\circ である。2本の線のなす角は 1.52∘1.52^\circ である。(2) と値が違うので、「等温線と断熱線のなす角」は状態空間の性質ではない。

(4) 傾きの比は、どちらの描き方でも γ=5/3\gamma=5/3 である。2本の線が交わること、およびどちらが急かという順序も変わらない。

確認テスト

オリジナル

  1. 5.5-1 相空間の座標 (q,p)(q,p) に対して dq2+dp2\mathrm{d} q^2+\mathrm{d} p^2 を計量と呼べない理由を、物理量の次元から1文で述べよ。
  2. 5.5-2 Galilei 変換の速度を 2 m/s2\,\mathrm{m/s} とする。(x,t)(x,t) 平面の変位 (Δx,Δt)=(3 m, 1 s)(\Delta x,\Delta t)=(3\,\mathrm{m},\ 1\,\mathrm{s}) を、この変換で移した変位を求めよ。1 m と 1 s を同じ長さとみなした「紙の上の長さ」が、変換の前後で変わることを確かめよ。時間差 Δt\Delta t は変わらないことも確かめよ。
  3. 5.5-3 正準変換 Q=λq, P=p/λQ=\lambda q,\ P=p/\lambda(λ>0\lambda>0)を考える。相空間の原点と点 (1,0)(1,0) の Euclid 距離が λ\lambda 倍になることを示せ。一方、単位正方形 0≤q,p≤10\le q,p\le1 の像の面積が1のままであることを示せ。
  4. 5.5-4 圧力と体積の図で、2つの単位をそれぞれ aa 倍と bb 倍に取り替える。点を通る任意の2曲線の傾きの比が変わらないことを示せ。一方、2曲線のなす角は一般に変わる。このことを、例題 5.8 の数値を使わずに、紙の上の傾き s1, s2s_1,\ s_2 の式で示せ。

木下の勉強ステータス

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