物理のための微分幾何入門 第12章 §12.6 ★★★ 計量を使って k 形式を n−k 形式へ移す Hodge 双対を入れると、発散・ラプラシアン・Maxwell 方程式の残り半分が書ける
計量が要る理由
外微分は計量を使わずに定まり、k 形式を k+1 形式へ移す。しかし外微分だけでは、1形式 a♭ から発散を作ることはできない。発散は1形式からではなく、流束の形の2形式 Φa から (12.17) で作るものだからである。
1形式と2形式を結ぶ対応は、§12.1 でユークリッドの内積と向きを使って入れたものであった。その対応を一般の計量で定めたものが、Hodge 双対である。
Hodge 双対の定義
n 次元の多様体に、計量 gij と向きが入っているとする。1形式の内積を ⟨dxi,dxj⟩=gij で定める。k 形式へは、添字を上げた成分の縮約で広げる。
⟨α,β⟩=k!1αi1⋯ikβi1⋯ik(12.36)
正の向きの座標で、体積形式を次のように定める。
vol=∣g∣dx1∧⋯∧dxn,g=det(gij)
定義 12.20(Hodge 双対)
形式 β∈Ωk の Hodge 双対を、次の性質を持つ形式として定める。これを ⋆β と書く。性質は、すべての k 形式 α について次が成り立つことである。
α∧⋆β=⟨α,β⟩vol(12.37)
⋆β は n−k 形式である。
このような形式がただ1つ存在することを、正規直交な余枠で確かめる。各点で ⟨ei,ej⟩=±δij を満たす1形式の組 e1,…,en をとる。符号は計量の符号数で決まる。正の向きなら、vol=e1∧⋯∧en である。
命題 12.21(正規直交な余枠での Hodge 双対)
増加する添字の組 I と、その補集合 J(増加順)をとる。符号 sIJ=±1 を eI∧eJ=sIJvol で定める。このとき Hodge 双対は次の形にただ1つ決まる。
⋆eI=⟨eI,eI⟩sIJeJ(12.38)
さらに k 形式について、次の式が成り立つ。
⋆⋆=sgn(g)(−1)k(n−k)(12.39)
証明
α が基底 eK の場合に (12.37) を確かめれば足りる。K=I なら、左辺は ⟨eI,eI⟩vol で、右辺に等しい。2つの組が異なれば、eK と eJ は共通の1形式を含むので、左辺は0になる。右辺も、異なる基底の内積が 0 なので 0 である。
一意性は、外積による Λk と Λn−k の対が非退化であることから従う。
(12.39) を示す。(12.38) を2回使うと、次の式になる。
⋆⋆eI=⟨eI,eI⟩⟨eJ,eJ⟩sIJsJIeI
2つの組を入れ替える符号は、(12.5) から (−1)k(n−k) である。したがって sJI=(−1)k(n−k)sIJ である。2つの内積の積は、基底の各1形式の内積をすべて掛けたもので、g の符号に等しい。
3次元ユークリッド空間では、ei=dxi として (12.38) を当てる。
⋆1=dx∧dy∧dz,⋆dx=dy∧dz,⋆dy=dz∧dx,⋆dz=dx∧dy(12.40)
(12.39) から ⋆⋆=1 なので、逆向きの対応も同じ表から読める。§12.1 の対応 (12.9) は、Φa=⋆a♭ と書ける。
ベクトル解析の演算とラプラシアン
Hodge 双対を使うと、3次元のベクトル解析の演算はすべて形式の言葉で書ける。
(∇f)♭=df,(∇×a)♭=⋆da♭,∇⋅a=⋆d⋆a♭,Δf=⋆d⋆df(12.41)
右辺は計量と向きだけを使って定まるので、どの座標でも同じ式で計算できる。
定理 12.22(ラプラシアンの一般形)
正定値の計量 gij を持つ n 次元の多様体で、正の向きの座標をとる。このとき次が成り立つ。
⋆d⋆df=g1∂i(ggij∂jf)(12.42)
証明
1形式 β=βidxi の Hodge 双対は、添字を上げた成分 βi=gijβj を使って次の形になる。
⋆β=i∑(−1)i−1gβidx1∧⋯∧dxi∧⋯∧dxn
これを確かめるには、(12.37) の左辺に α=dxj を入れる。和の第 i 項との外積は、i=j のときだけ残る。そのとき符号 (−1)i−1 と並べ替えの符号が打ち消し、次の値になる。
dxj∧⋆β=gβjdx1∧⋯∧dxn=⟨dxj,β⟩vol
β=df とし、外微分をとる。第 i 項では ∂i の項だけが残る。dxi を元の位置へ戻す符号 (−1)i−1 が、前の符号と打ち消す。
d⋆df=∂i(ggij∂jf)dx1∧⋯∧dxn
最後に、⋆vol=1 と dx1∧⋯∧dxn=vol/g を使う。すると (12.42) を得る。⋆vol=1 は、(12.38) で補集合が空の場合にあたる。
第5章 §5.3 では、同じ式を計量と体積要素から導いた。ここでの導出から、式の中の g は体積形式の係数だと分かる。gij は、1形式 df をベクトルへ移すために要るものである。『電磁気学入門』第1章 §1.4 の曲線座標の公式は、どれも (12.41) を正規直交な余枠で書いたものである。
例題 12.8 円柱座標のラプラシアンを Hodge 双対で出す ★★
オリジナル円柱座標 (r,φ,z) のユークリッド計量は次の形である。
ds2=dr2+r2dφ2+dz2
正規直交な余枠として、次の3つを使う。
e1=dr,e2=rdφ,e3=dz
- (1) 3つの座標の微分の Hodge 双対を求めよ。
- (2) 関数 f(r,φ,z) について ⋆d⋆df を計算し、円柱座標のラプラシアンを求めよ。
- (3) (2) を使って、r>0 で Δ(lnr)=0 を確かめよ。これは、一様に帯電した直線のまわりの電位が lnr に比例することに対応する。
解答
(1) 体積形式は vol=e1∧e2∧e3=rdr∧dφ∧dz である。(12.38) から、余枠の双対は巡回の形になる。
⋆e1=e2∧e3,⋆e2=e3∧e1,⋆e3=e1∧e2
dφ=e2/r に注意して書き直す。
⋆dr=rdφ∧dz,⋆dφ=r1dz∧dr,⋆dz=rdr∧dφ
(2) df=frdr+fφdφ+fzdz に (1) を当てる。
⋆df=rfrdφ∧dz+rfφdz∧dr+rfzdr∧dφ
外微分をとると、各項で基底に無い座標の微分だけが残る。
d⋆df=[∂r(rfr)+∂φ(rfφ)+∂z(rfz)]dr∧dφ∧dz
3形式の基底は dr∧dφ∧dz=vol/r で、⋆vol=1 である。したがって次の結果を得る。
Δf=r1∂r∂(r∂r∂f)+r21∂φ2∂2f+∂z2∂2f
これは、(12.42) に g=r、gφφ=1/r2 を入れた式と同じである。
(3) 対数関数では rfr=1 が定数で、ほかの微分は0である。したがって Δf=0 である。
Maxwell 方程式
Minkowski 時空で、座標 xμ=(ct,x,y,z) と計量 ημν=diag(+1,−1,−1,−1) を使う。正規直交な余枠は dxμ そのものである。内積は ⟨dx0,dx0⟩=1、⟨dxi,dxi⟩=−1 である。体積形式を vol=dx0∧dx1∧dx2∧dx3 とする。
sgn(g)=−1 なので、(12.39) から2形式では ⋆⋆=−1 である。(12.38) で2形式の基底の双対を求めると、次のようになる。
⋆(dx0∧dx1)=−dx2∧dx3,⋆(dx2∧dx3)=dx0∧dx1(12.43)
空間の添字を巡回させた式も成り立つ。1形式の双対は次のとおりで、dx2、dx3 も巡回させた形になる。
⋆dx0=dx1∧dx2∧dx3,⋆dx1=dx0∧dx2∧dx3
電磁場の2形式は F=21Fμνdxμ∧dxν である。成分は F0i=Ei/c、F12=−B3 で、第4章 §4.3 と『電磁気学入門』第10章の記法と同じである。基底で書くと次のようになる。
F=c1(Exdx0∧dx1+Eydx0∧dx2+Ezdx0∧dx3)−(Bxdx2∧dx3+Bydx3∧dx1+Bzdx1∧dx2)(12.44)
(12.43) を当てると、その双対が出る。
⋆F=−(Bxdx0∧dx1+Bydx0∧dx2+Bzdx0∧dx3)−c1(Exdx2∧dx3+Eydx3∧dx1+Ezdx1∧dx2)(12.45)
⋆F は、F の中で電場と磁場を入れ替えた形をしている。具体的には、電場の項 E/c を −B に置き換える。磁場の項 B は E/c に置き換える。
定理 12.23(微分形式で書いた Maxwell 方程式)
4元電流 Jμ=(cρ,J) の1形式を J♭=Jμdxμ とする。Maxwell 方程式は、次の2つの式と同値である。
dF=0,d⋆F=−μ0⋆J♭(12.46)
前者は次の上の2式に、後者は下の2式にあたる。
∇⋅B=0,∇⋅E=ρ/ε0,∇×E+∂tB=0,∇×B−c21∂tE=μ0J
証明
dF を計算する。(12.44) の第1の括弧では、dx0 についての微分の項が dx0∧dx0=0 で消える。空間の微分の項を dx0 の後ろへまとめると、(12.16) の形の回転が現れる。
d[c1Eidx0∧dxi]=−c1dx0∧[(∇×E)xdx2∧dx3+(∇×E)ydx3∧dx1+(∇×E)zdx1∧dx2]
第2の括弧からは、時間の微分の項と、(12.17) の発散の項が出る。
−d[Bxdx2∧dx3+⋯]=−c1dx0∧[∂tBxdx2∧dx3+⋯]−(∇⋅B)dx1∧dx2∧dx3
ここで ∂0=c1∂t を使った。基底ごとの係数が 0 になる条件が、Faraday の法則と磁場の Gauss の法則である。
d⋆F も同じ計算で、(12.45) の置き換えをすればよい。
d⋆F=dx0∧[(∇×B−c21∂tE)xdx2∧dx3+⋯]−c1(∇⋅E)dx1∧dx2∧dx3
一方、Jμ=(cρ,−J) と1形式の双対の表から、右辺の形式は次のとおりである。
⋆J♭=cρdx1∧dx2∧dx3−dx0∧[Jxdx2∧dx3+Jydx3∧dx1+Jzdx1∧dx2]
係数を比べる。3形式 dx1∧dx2∧dx3 の係数から、∇⋅E/c=μ0cρ が出る。μ0ε0c2=1 を使うと、これは ∇⋅E=ρ/ε0 である。dx0 を含む項の係数から、Ampère–Maxwell の法則が出る。
電磁場がポテンシャルの外微分 F=dA なら、前者の式は d2=0 から自動的に成り立つ。これは成分で書いた式 ∂[λFμν]=0(Bianchi 恒等式)と同じ内容である。ゲージ変換 A→A+dχ で電磁場が変わらないことも、d2=0 による。
後者の式は、成分では ∂μFμν=μ0Jν である(共変形の導出は『電磁気学入門』第10章 §10.4)。右辺の負号は、計量の符号と体積形式の向きの選び方から出るもので、物理の内容は変わらない。
電荷の保存
(12.46) の後者に d を当てると、左辺は d2=0 で消える。その結果、d⋆J♭=0 が出る。確認テスト 12.6-3 で計算するとおり、これは連続の式 ∂tρ+∇⋅J=0 である。電荷の保存は、Maxwell 方程式の形から自動的に従う。
熱力学の Maxwell の関係式
熱力学の状態空間は2次元の多様体で、計量は無いが外微分は使える(第5章 §5.5)。内部エネルギー U を状態空間の関数とみなすと、熱力学の基本関係式は1形式の等式である。
dU=TdS−pdV(12.47)
両辺に d を当てると、左辺は d2U=0 で、右辺は Leibniz 則で2項になる。
dT∧dS=dp∧dV(12.48)
この1つの2形式の等式を、いろいろな座標(チャート)で成分に書くと、Maxwell の関係式がすべて出る。
例題 12.9 Maxwell の関係式を d2=0 から出す ★★★
オリジナル
- (1) 状態空間の座標を (S,V) にとる。(12.48) の両辺を dS∧dV の倍数として書き、次の関係を導け。
(∂V∂T)S=−(∂S∂p)V
2. (2) 座標を (T,V) にとり、同じようにして次の関係を導け。
(∂V∂S)T=(∂T∂p)V
3. (3) n モルの理想気体を考える。定積モル比熱 CV は定数で、エントロピーと状態方程式は次のとおりである。
S=nCVlnT+nRlnV+定数,pV=nRT
(2) の両辺を計算して、一致することを確かめよ。4. (4) 状態空間の閉曲線(サイクル)C について、次の等式を Stokes の定理から示せ。
∮CTdS=∮CpdV
その物理的な意味を述べよ。
解答
(1) (S,V) 座標では、dT は次のように展開できる。
dT=(∂S∂T)VdS+(∂V∂T)SdV
dS∧dS=0 なので、左辺は次の1項だけになる。
dT∧dS=(∂V∂T)SdV∧dS=−(∂V∂T)SdS∧dV
右辺は dp∧dV=(∂p/∂S)VdS∧dV である。係数を比べると、求める関係を得る。
(2) (T,V) 座標では、エントロピーの微分を2つの座標の微分で展開する。
dT∧dS=(∂V∂S)TdT∧dV,dp∧dV=(∂T∂p)VdT∧dV
係数を比べると、求める関係を得る。(1) と (2) は、同じ2形式 (12.48) を別のチャートで書いたものである。これは第1章 §1.3 で見た「同じ点を指す別のチャート」の具体例になっている。
(3) 左辺は (∂S/∂V)T=nR/V である。右辺は p=nRT/V から (∂p/∂T)V=nR/V で、両辺は一致する。
(4) Stokes の定理を、C が囲む領域 D に使う。
∮CTdS=∫DdT∧dS=∫Ddp∧dV=∮CpdV
左辺はサイクルで系が受け取る正味の熱で、右辺は系が外へする正味の仕事である。1周すると U が元に戻るので、両者は等しい。(12.48) は、温度とエントロピーの図の面積と、圧力と体積の図の面積が等しくなるという形でこの事実を表す。
確認テスト
オリジナル
- 12.6-1 3次元ユークリッド空間で、(12.37) から ⋆dx=dy∧dz を確かめよ。同様に ⋆(dx∧dy)=dz を確かめ、すべての次数で ⋆⋆=1 を示せ。
- 12.6-2 球座標 (r,θ,φ) の正規直交な余枠として、次の3つを使う。
e1=dr,e2=rdθ,e3=rsinθdφ
f=rm について ⋆d⋆df を計算せよ。その結果から、Coulomb ポテンシャルにあたる m=−1 では、原点の外で Δf=0 となることを確かめよ。3. 12.6-3 d(⋆J♭) を計算し、それが (∂tρ+∇⋅J)vol に等しいことを示せ。4. 12.6-4 (12.43) を使って、dx0∧dx1 について ⋆⋆=−1 を確かめよ。真空の Maxwell 方程式((12.46) で電流を0とした式)の解 F を考える。F′=⋆F も解であることを示せ。それを使って、場の置き換え (E,B)→(−cB,E/c) で真空の方程式が保たれることを述べよ。5. 12.6-5 (12.48) を座標 (S,p) で成分に書け。それを使って、(∂T/∂p)S=(∂V/∂S)p を導け。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com