物理のための微分幾何入門 第13章 §13.5 ★★★ 対称性の流れに対して Xs=1・Xf=0 を解けば、流れが座標軸の1本になる座標ができ、その座標が循環座標になる
循環座標と対称性
Lagrangian が座標 q1 を含まないとき、その座標を循環座標と呼ぶ。循環座標の正準運動量は、Euler–Lagrange 方程式から直ちに保存する。
p˙1=∂q1∂L=0.
保存量が見えるかどうかは座標の選び方による。中心力の問題は、直交座標では循環座標を持たないが、極座標では角が循環座標になり角運動量が保存する。
この節では、対称性の流れから「その流れの向きを座標軸の1本にする座標」を作る。その座標では、流れに沿う座標がそのまま循環座標になる。先に、座標とベクトル場の成分の関係を1つ書いておく。
補題 13.18(成分は座標関数に作用させた値)
座標 (y1,…,yn) で、ベクトル場 X は次のように書ける。
X=i=1∑n(Xyi)∂yi∂.
証明
X=Xi∂/∂yi を座標関数 yk に作用させる。∂yk/∂yi=δik なので、Xyk=Xk になる。
この補題から、次の同値が出る。座標 (s,f1,…,fn−1) で X=∂/∂s となることは、次の連立の偏微分方程式が成り立つことと同じである。
Xs=1,Xfa=0(a=1,…,n−1).(13.21)
第2式は「関数が流れの線に沿って一定」という意味で、そのような関数を流れの不変量と呼ぶ。第1式は「関数が流れに沿って時間と同じ速さで増える」という意味である。
流れの箱の定理
定理 13.19(流れの箱の定理)
X(p)=0 とする。このとき点 p の近くに、次の性質を持つ座標 (s,f1,…,fn−1) がある。
X=∂s∂.
証明
(n−1) 次元の面 Σ を1枚とる。この面は点 p を通り、そこでの流れの向き X(p) に接しないものとする。たとえば X1(p)=0 なら、x1 を一定にした面をとればよい。
面の点を n−1 個の数 y=(y1,…,yn−1) で表す。その点を σ(y) と書き、σ(0)=p とする。面の各点から流れで時間 s だけ進む写像を作る。
Ψ(s,y)=ΦsX(σ(y)).
この写像の原点での Jacobi 行列を調べる。時間についての微分は、(13.1) から X(p) である。面のパラメータについての微分は、面の接ベクトル ∂σ/∂ya である。X(p) は面に接しないので、これら n 本のベクトルは1次独立で、Jacobi 行列は正則になる。
逆関数定理(第1章 §1.1)から、Ψ は原点の近くと p の近くの間の滑らかな1対1対応である。その逆写像の成分 (s,y) を座標にとり、fa=ya とおく。この座標の ∂/∂s は「面のパラメータを止めて時間を動かす」向きである。Ψ の定義から、その向きは流れの向き X に等しい。
この座標では、流れの線が s の座標線になり、流れは s をずらすだけの写像になる。図 13.3 は、回転の流れで曲がった流れの線を、まっすぐな座標線に直した様子である。定理は X=0 の点の近くについての主張で、流れの止まる点では成り立たない。また、座標が近くでしか作れないことも多い(例題 13.5 の角は1周すると 2π ずれる)。
座標を作る手順
定理の証明は、(13.21) の解き方をそのまま与える。実際に座標を作るときは、次の手順で進める。
- 手順1 不変量を n−1 個求める。不変量の条件は、流れの線(x˙i=Xi の解)に沿って一定ということである。次の特性方程式の第1積分を n−1 個求め、それを fa とする。
X1dx1=⋯=Xndxn.
2. 手順2 流れの時間 s を求める。 Xs=1 の解を1つ求める。0でない成分を1つ選び、流れの線に沿って ds=dxi/Xi を積分すればよい。3. 手順3 独立性を確かめる。 ds,df1,…,dfn−1 が1次独立(Jacobi 行列式が0でない)ことを確かめる。(13.21) から ds(X)=1、dfa(X)=0 である。したがって、不変量の微分どうしが独立なら、この条件は自動的に成り立つ。4. 手順4 Lagrangian を新しい座標で書く。流れが対称性なら、新しい座標で Lagrangian は s を含まない(次の定理)。
解は1通りではない。流れの時間に不変量の関数 h(f) を足しても、Xs=1 はそのまま成り立つ。不変量も、不変量どうしの関数に取り替えてよい。s の取り替えは、証明で s=0 とおく面の取り替えにあたる(確認テスト 13.5-5)。
定理 13.20(対称性の流れの時間は循環座標)
X が Lagrangian の対称性で、(s,fa) が (13.21) を満たす座標とする。このとき、新しい座標で書いた Lagrangian は s を含まず、この座標は循環座標である。その正準運動量 ps=∂L/∂s˙ は、Noether の保存量 (13.19) に等しい。
ps=piXi.
証明
新しい座標では X=∂s で、成分は定数である。(13.18) の速度の項は成分の微分を含むので消え、持ち上げも X~=∂/∂s になる。仮定 X~L=0 は ∂L/∂s=0 と同じである。
正準運動量の関係を示す。元の座標は新しい座標の関数で、速度は次の形である。
q˙i=∂s∂qis˙+∂fa∂qif˙a.
連鎖律で s˙ について微分する。
ps=∂q˙i∂L∂s˙∂q˙i=pi∂s∂qi.
∂qi/∂s は ∂s=X の元の座標での成分なので、正準運動量は Noether の保存量に等しい。
この定理は Noether の定理(定理 13.17)のもう1つの証明になっている。対称性の流れを座標軸に取り直せば、保存量は循環座標の運動量として見える。逆に言えば、「循環座標があるか」は座標の性質だが、「対称性があるか」は座標によらない性質で、後者があれば前者を作れる。初等力学で循環座標を探す作業は、この節の手順1・2を解くことにあたる(虎の巻『解析力学から様々な理論分野を組み立てる』第1部第8章・第10章)。
回転から極座標が出る
例題 13.5 回転の流れに合う座標を作る ★★★
オリジナル平面の回転 X=−y∂x+x∂y について、手順1〜4で (13.21) を満たす座標を作れ。
さらに中心力の Lagrangian をその座標で書き、保存量を求めよ。
L=2m(x˙2+y˙2)−V(x2+y2).
解答
手順1(不変量)。流れの線は x˙=−y、y˙=x の解である。特性方程式は次の形になる。
−ydx=xdy.
分母を払うと xdx+ydy=0 なので、21d(x2+y2)=0 である。不変量は x2+y2 の関数で、原点からの距離 f=r を選ぶ。実際 Xr=(−y)x/r+xy/r=0 である。
手順2(流れの時間)。Xs=1 を解く。半径 r0 の円の上で、次の曲線は流れの線そのものである。
x=r0coss,y=r0sins(x˙=−y, y˙=x を満たす).
したがって、点の s は正の横軸から測った角である。
s=θ=atan2(y,x),Xθ=(−y)⋅r2−y+x⋅r2x=1.
ここで角の偏微分 (∂xθ,∂yθ)=(−y/r2,x/r2) を使った。面 Σ は、角が0の半直線(正の横軸)である。
手順3(独立性)。(r,θ) の Jacobi 行列式は ∂(r,θ)/∂(x,y)=1/r で、原点以外では0でない。原点では X=0 で流れが止まり、定理 13.19 の仮定が成り立たない。また角は1周で 2π ずれるので、1つの座標として使えるのは半直線を1本除いた範囲である。
手順4(Lagrangian)。(x,y)=(rcosθ,rsinθ) を代入すると、速さの2乗は次の式になる。
x˙2+y˙2=r˙2+r2θ˙2,L=2m(r˙2+r2θ˙2)−V(r).
Lagrangian は角を含まないので、角は循環座標である。保存量は pθ=mr2θ˙ で、定理 13.20 の piXi=m(xy˙−yx˙) と一致する。極座標は「回転の流れの時間 θ と、回転の不変量 r」の組として出てきたのである。

図 13.3 回転 X=−y∂x+x∂y の流れの線(青い円)と、それをまっすぐにした座標(右)。面 Σ(赤、正の横軸)から流れに沿って測った時間 s が角 θ になり、不変量 r と組んで極座標ができる。灰色の線は s が一定の線である。緑の破線は s′=θ+r を使ったときの別の面 Σ(θ=−r の渦巻き)である(確認テスト 13.5-5)。原点では X=0 なので、箱は原点を含められない(右の図は s を 3π/2 までで切った)。
並進と回転を組み合わせた螺旋の対称性
例題 13.6 螺旋の対称性に合う座標 ★★★
オリジナル3次元空間で、鉛直の軸まわりの回転と鉛直方向の並進を組み合わせた流れを考える(定数 b は0でない)。
X=−y∂x+x∂y+b∂z.
この流れは、角 s の回転と距離 bs の並進を同時に行う。流れの線は、1周で高さが 2πb 上がる螺旋である。
- 手順1〜3で、(13.21) を満たす座標 (s,u,v) を作れ。元の座標への逆変換も書け。
- 質量 m の粒子が、螺旋に沿って同じ形をしたポテンシャル V(u,v) の中を動くとする(螺旋状にねじれた鎖の作る場の模型)。Lagrangian を新しい座標で書き、s が循環座標であることを確かめよ。
- 保存量 ps を元の座標で書き、角運動量と運動量の鉛直成分 ℓz,pz で表せ。
解答
(1) 手順2(流れの時間)から始める。鉛直成分の流れは z˙=b なので、s=z/b とおけばよい。
Xs=b⋅b1=1.
手順1(不変量)。流れは水平な成分を角 s だけ回し、高さを bs だけ上げる。そこで、点の水平な成分を角 z/b だけ逆に回した量を考える。
u=xcosbz+ysinbz,v=−xsinbz+ycosbz.
流れで水平な成分が角 s 回るとき、逆に回す角もちょうど同じだけ増える。したがって u,v は流れで変わらない。
式でも確かめる。c=cos(z/b)、σ=sin(z/b) と略す。高さについての微分は (∂zu,∂zv)=(v/b,−u/b) である。
XuXv=(−y)c+xσ+b⋅bv=−yc+xσ+(−xσ+yc)=0,=(−y)(−σ)+xc+b⋅(−bu)=yσ+xc−(xc+yσ)=0.
手順3(独立性)。逆変換は、(u,v) を角 s だけ回して戻せば得られる。
x=ucoss−vsins,y=usins+vcoss,z=bs.
この写像の Jacobi 行列式の大きさは ∣b∣ で、全空間で0にならない。定数が0でなければ、この流れは空間のどこでも止まらず、この座標は空間全体で使える。回転だけの流れでは軸の上で流れが止まり、例題 13.5 のように箱が軸を含められないのと対照的である。
(2) 速度を新しい座標で書く。水平な成分は (u,v) を角 s 回したものなので、時間で微分すると回転の項が加わる。
(x˙y˙)=(cosssins−sinscoss)(u˙−vs˙v˙+us˙),z˙=bs˙.
回転行列は長さを変えないので、運動エネルギーは次の式になる。
T=2m[(u˙−vs˙)2+(v˙+us˙)2+b2s˙2]=2m[u˙2+v˙2+(u2+v2+b2)s˙2+2s˙(uv˙−vu˙)].
運動エネルギーもポテンシャルも s を含まないので、Lagrangian の中で s は循環座標である。運動エネルギーの計量には s˙u˙ と s˙v˙ の交差項があり、この座標基底は直交していない。直交しない座標でも、循環座標の保存は成り立つ。
(3) s˙ で微分して正準運動量を求める。
ps=∂s˙∂L=m[(u2+v2+b2)s˙+uv˙−vu˙].
定理 13.20 によれば、これは piXi に等しい。
ps=px(−y)+pyx+pzb=ℓz+bpz,ℓz=m(xy˙−yx˙),pz=mz˙.
ポテンシャルが螺旋の形をしているので、角運動量と鉛直の運動量は別々には保存しない。保存するのは組み合わせ ℓz+bpz だけである。

図 13.4 螺旋の対称性 X=−y∂x+x∂y+b∂z の流れの線(b=0.16、2周分)。赤の線分は s=0(z=0)の面の一部である。その上の点 (u,v) から出る流れの線を時間 s だけたどった点が、座標 (s,u,v) を持つ。3本の螺旋は (u,v)=(1.2,0),(0.6,0),(−1.0,0) から出たもので、どれも同じ速さで鉛直方向へ進む。
可換な流れが複数あるとき
対称性が2つ以上あるとき、それらを同時に座標軸にできるかを考える。座標基底は (13.3) で可換なので、可換でない2つの流れは同時に座標軸にはならない。可換なら同時にまっすぐにできる。
定理 13.21(可換な流れの同時の箱)
ベクトル場 X1,…,Xk が点 p で1次独立で、互いに可換であるとする。このとき点 p の近くに、次の性質を持つ座標 (s1,…,sk,f1,…,fn−k) がある。
Xα=∂sα∂(α=1,…,k).
証明
k=2 で示す(一般の場合も同じ形である)。点 p を通る (n−2) 次元の面を、2つのベクトルの張る面に接しないようにとる。面の点を σ(y) と書く。次の写像を作る。
Ψ(s1,s2,y)=Φs1X1∘Φs2X2(σ(y)).
第1の時間についての微分は、定義から X1 である。
第2の時間については、定理 13.9 で流れが可換なので、順序を入れ替えて書ける。
Ψ(s1,s2,y)=Φs2X2∘Φs1X1(σ(y)).
したがって第2の時間についての微分は X2 である。原点での Jacobi 行列は正則なので、逆関数定理から (s1,s2,y) が座標になり、2つのベクトル場が座標基底になる。
たとえば鉛直の軸まわりの回転と鉛直方向の並進は可換で、同時に座標軸にしたものが円柱座標 (r,φ,z) である。螺旋の流れと回転も可換で、次の座標をとると両方が座標基底になる(確認テスト 13.5-4)。
(r,w,s)=(r,φ−bz,bz),Rz=∂w,X=∂s.
対称性が複数あれば、可換なものの数だけ循環座標を同時に作れる。
Frobenius の定理(主張)
可換でないベクトル場の組について、もっと弱い問いを立てる。ベクトル場 X1,…,Xk は、各点で k 次元の面を張る。その面にちょうど接する k 次元の部分多様体(積分多様体)が各点を通るか、という問いである。
定理 13.22(Frobenius の定理)
各点で1次独立なベクトル場 X1,…,Xk が張る面の族を考える。各点を通る積分多様体があるための必要十分条件は、次の式が成り立つことである。
[Xα,Xβ]=γ∑cγαβXγ(cγαβ は関数).
つまり、Lie 括弧が再び同じ面の中に入ることである。
証明の筋
必要性は短い。積分多様体があれば、各ベクトル場はその部分多様体の上のベクトル場で、その括弧も部分多様体に接する。
十分性は次の筋で示す。1次結合を取り直して、括弧で閉じた組を互いに可換な組に直せることを示す。そのあと定理 13.21 を使い、残りの座標が一定の面を積分多様体にとる。完全な証明は多様体論の本に譲る。
例:回転は球面を、Heisenberg 型の組は何も作らない
- 3次元空間の原点以外で、3つの回転は各点で2次元の面(原点を中心とする球面の接平面)を張る。括弧は (13.6) で再び回転になるので Frobenius の条件を満たし、積分多様体は原点を中心とする球面である。
- 次の2つのベクトル場は、各点で2次元の面を張る。
X=∂x,Y=∂y+x∂z,[X,Y]=∂z.
括弧は2つの1次結合にならず、面の外へ出る。したがって、この2つに同時に接する曲面は存在しない(確認テスト 13.5-3)。
局所と大域
流れの箱の定理は流れが止まらない点の近くでの主張で、保存量も循環座標も近くでは必ず作れる。問題になるのは座標を全体に広げられるかで、極座標の角が1周で 2π ずれるのはその最も簡単な例である。相空間で保存量を全体で定められるか(可積分性)は第14章 §14.6 で扱う。そこでの角変数は、回転の角を一般化したものになる。
確認テスト
オリジナル
- 13.5-1 原点を除いた平面の拡大 D=x∂x+y∂y について、(13.21) を満たす座標 (s,f) を作れ。自由粒子の Lagrangian 2m(x˙2+y˙2) をその座標で書くと、s は循環座標になるか。理由も述べよ。
- 13.5-2 第1象限で、双曲的な流れ X=x∂x−y∂y について (13.21) を満たす座標を作れ。逆変換も書け。
- 13.5-3 2つのベクトル場 X=∂x と Y=∂y+x∂z を考える。どの点の近くでも、両方に同時に接する曲面 z=h(x,y) が無いことを、直接の計算で示せ。
- 13.5-4 円柱座標を (r,φ,z) とし、例題 13.6 の流れと回転 Rz=∂φ を考える。2つが可換であることを確かめよ。さらに、本文の座標 (r,w,s)=(r,φ−z/b,z/b) で、2つの流れがどちらも座標基底になることを示せ。
- 13.5-5 例題 13.5 の回転で、s′=θ+r も Xs′=1 を満たすことを示せ。s′=0 となる曲線(面 Σ)はどんな曲線か。また、この座標でも中心力の Lagrangian で s′ が循環座標になることを示し、その正準運動量を求めよ。
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