物理のための微分幾何入門 第13章 §13.4 ★★★ 配位空間の流れを接束へ持ち上げ、Lagrangian を保つなら運動量1形式と生成子の縮約 piXi が保存する
流れを接束へ持ち上げる
第3章 §3.5 で見たとおり、Lagrangian は配位空間 Q の接束 TQ の上の関数である。配位空間の流れで軌道全体を動かすと、各点の位置だけでなく速度も動く。速度は接ベクトルなので、押し出しで運ばれる。
Φ~s(q,q˙)=(Φs(q),(Φs)∗q˙).(13.17)
これを流れの接持ち上げと呼ぶ。
接持ち上げも流れなので、生成子のベクトル場 X~ が接束の上にある。座標 (qi,q˙i) で時間について1次まで展開すると、生成子の成分が読み取れる。
Φs(q)i=qi+sXi(q)+O(s2),((Φs)∗q˙)i=q˙i+sq˙j∂jXi+O(s2).
したがって生成子は次の形になる。
X~=Xi∂qi∂+q˙j∂qj∂Xi∂q˙i∂.(13.18)
速度の成分の変化率 q˙j∂jXi は、軌道に沿った Xi(q(t)) の時間微分に等しい。
定義 13.16(対称性と準対称性)
配位空間のベクトル場 X を考える。
- X~L=0 のとき、X を Lagrangian の対称性と呼ぶ。
- 配位空間の関数 Λ(q) があって次の式が成り立つとき、X を準対称性と呼ぶ。
X~L=q˙i∂iΛ.
準対称性の右辺は、軌道に沿った Λ(q(t)) の時間微分である。Lagrangian に時間の全微分を足しても Euler–Lagrange 方程式は変わらないので、準対称性の流れも運動方程式の解を解へ写す。
Noether の定理
定理 13.17(Noether の定理)
X が準対称性で、X~L=q˙i∂iΛ が成り立つとする。このとき Euler–Lagrange 方程式の解に沿って、次の量が一定である。
Q=piXi−Λ,pi=∂q˙i∂L.(13.19)
対称性(Λ=0)なら Q=piXi である。
証明
解に沿って Q を時間で微分する。Euler–Lagrange 方程式 p˙i=∂L/∂qi と、X˙i=q˙j∂jXi を使う。
dtdQ=p˙iXi+piX˙i−Λ˙=∂qi∂LXi+∂q˙i∂Lq˙j∂jXi−q˙i∂iΛ.
最初の2項は、(13.18) の生成子を Lagrangian に作用させたもの X~L にちょうど等しい。仮定から X~L は最後の項と打ち消し、全体が0になる。
保存量 piXi の幾何の意味を確かめておく。第3章 §3.4 で見たとおり、運動量 p=pidqi は配位空間の1形式(点ごとの余接ベクトル)である。対称性の生成子はベクトル場なので、2つを縮約した値はどの座標で計算しても同じスカラーになる(確認テスト 13.4-4)。Noether の保存量は、運動量1形式を対称性のベクトルに当てた値である。
Lagrangian が運動エネルギーとポテンシャルの差の形をしているときを考える。
L=21mgijq˙iq˙j−V(q).
生成子を作用させると、運動エネルギーの部分は計量の Lie 微分 (13.10) を与える。
X~L=2m(LXg)ijq˙iq˙j−XV.(13.20)
したがって、運動エネルギーの計量の Killing ベクトル X が XV=0 も満たせば、それは対称性である。保存量は Q=mg(X,q˙) で、ポテンシャルが無い場合が §13.3 の定理 13.14 である。
例(物理):中心力と角運動量
平面の中心力の Lagrangian を考える。
L=2m(x˙2+y˙2)−V(r).
回転 R=x∂y−y∂x は Euclid 計量の Killing ベクトルで(§13.3)、原点からの距離を変えない。したがって回転は対称性で、保存量は次の式になる。
Q=pxRx+pyRy=mx˙⋅(−y)+my˙⋅x=m(xy˙−yx˙).
これは角運動量 ℓz である。
時間の並進と Hamilton 形式の側
- 時間の並進によるエネルギー保存は、配位空間の流れ(時刻を動かさない流れ)の枠には入らない。時刻を座標に含めた拡大配位空間で扱うことになる。計算は虎の巻『解析力学から様々な理論分野を組み立てる』第1部第10章に送る。
- 相空間では、保存量 Q が Hamilton ベクトル場 XQ を通じて元の流れを生成する(第14章 §14.2)。ここで ω=dpi∧dqi とし、XQ は次の式で定める。
ιXQω=−dQ.
- 1次元で符号を確かめる。XQ=a∂q+b∂p とおくと、内部積は ιXQω=bdq−adp である。
a=∂p∂Q,b=−∂q∂Q.
Q=H なら q˙=∂H/∂p となり、巻の約束どおりの符号である。Q=p なら XQ=∂q で、運動量は並進を生成する。
例題 13.4 一様磁場の中の荷電粒子の保存量 ★★★
オリジナル質量 m、電荷 e の粒子が、平面の中を動いている。平面に垂直な一様磁場 B があり、ベクトルポテンシャルを A=2B(−y,x) とする。Lagrangian は次の式である。
L=2m(x˙2+y˙2)+ex˙⋅A=2m(x˙2+y˙2)+2eB(xy˙−yx˙).
- 回転 R=x∂y−y∂x が対称性であることを示し、保存量 QR を求めよ。
- 横方向の並進 ∂x は対称性ではないが、準対称性であることを示せ。縦方向の並進 ∂y についても同じことを調べ、2つの保存量 Qx,Qy を求めよ。
- 粒子は角振動数 ωc=eB/m で半径 ρ の円運動をする。円の中心を (Xc,Yc) として、3つの保存量をこれらで表せ。
- 次の値をとる。
m=1,e=1,B=2.
粒子が点 (1,0) を速度 (0,1) で通るとき、3つの保存量と円の中心・半径を求めよ。
解答
(1) 回転の成分は (Rx,Ry)=(−y,x) である。(13.18) から、速度の成分の変化率は (−y˙,x˙) になる。
R~=−y∂x+x∂y−y˙∂x˙+x˙∂y˙.
運動エネルギーには R~(x˙2+y˙2)=2x˙(−y˙)+2y˙x˙=0 となる。磁場の項には次のとおりになる。
R~(xy˙−yx˙)=(−y)y˙−xx˙+xx˙−y(−y˙)=0.
よって R~L=0 で、回転は対称性である。
正準運動量は次のとおりである。
px=mx˙−2eBy,py=my˙+2eBx.
(13.19) から保存量を作る。
QR=px(−y)+pyx=m(xy˙−yx˙)+2eB(x2+y2).
運動学的な角運動量だけでは保存せず、磁場の項を足したものが保存する。
(2) 並進の成分は定数なので、持ち上げは X~=∂x のままである。Lagrangian を横の座標で偏微分すると、次の式になる。
X~L=2eBy˙=dtd(2eBy).
0ではないので対称性ではないが、Λx=2eBy の準対称性である。保存量は Qx=px−Λx=mx˙−eBy になる。
縦方向も同じで、∂yL=−2eBx˙ なので Λy=−2eBx の準対称性である。保存量は Qy=py−Λy=my˙+eBx になる。運動方程式から直接確かめることもできる。
mx¨=eBy˙,my¨=−eBx˙⟹Q˙x=Q˙y=0.
(3) 円運動を位相 ψ で表す。
x=Xc+ρcosψ,y=Yc+ρsinψ,ψ˙=−ωc.
位相の変化率は運動方程式から決まり、このとき速度は次の形になる。
x˙=ωc(y−Yc),y˙=−ωc(x−Xc).
これを並進の保存量に代入すると、次の結果になる。
Qx=mωc(y−Yc)−eBy=−eBYc,Qy=eBXc.
回転の保存量も代入して計算する。次の式を使う。
xy˙−yx˙=−ωc(ρ2+ρ(Xccosψ+Ycsinψ)).
代入して整理する。
QR=−eB(ρ2+ρ(Xccosψ+Ycsinψ))+2eB(Xc2+Yc2+ρ2+2ρ(Xccosψ+Ycsinψ))=2eB(Xc2+Yc2−ρ2).
並進の保存量は円の中心の位置、回転の保存量は中心の原点からの距離と半径の組み合わせである。
(4) 与えられた値では eB=2、ωc=2 である。初期値を代入する。
Qx=0−2⋅0=0,Qy=1+2⋅1=3,QR=1⋅(1⋅1−0)+1⋅(1+0)=2.
(3) から中心は (Xc,Yc)=(3/2,0) である。半径は速さを角振動数で割って ρ=1/2 になる。検算として 2eB(Xc2−ρ2)=49−41=2 が回転の保存量と一致する。
確認テスト
オリジナル
- 13.4-1 Euclid 平面の回転 R=x∂y−y∂x の接持ち上げを (13.18) で求めよ。それが x˙2+y˙2 を変えないことも確かめよ。
- 13.4-2 次の Lagrangian について、対称性となる並進の向きを求め、保存量を書け。
L=2m(x˙2+y˙2)−V(x−2y).
3. 13.4-3 半径 a の球面振り子を考える(θ は鉛直下向きからの角)。
L=2ma2(θ˙2+sin2θφ˙2)+mgacosθ.
(13.14) の3つの回転のうちどれが対称性かを (13.20) で調べ、保存量を書け。次の初期値で動き出すときの保存量の値も求めよ。
θ=3π,θ˙=0,φ˙=2g/a.
4. 13.4-4 座標変換で piXi の値が変わらないことを、運動量と生成子の成分の変換則から示せ。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com