物理のための微分幾何入門 第13章 §13.3 ★★★ 計量を保つ流れの生成子が Killing ベクトル。測地線に沿って g(K,x˙) が保存し、角運動量や Clairaut の関係がここから出る
Killing ベクトルの定義
計量を持つ多様体で、流れが長さと角を変えないとき、その流れを等長変換の族と呼ぶ。式では、すべての時刻で Φt∗g=g となることである。(13.8) により、これは生成子についての1つの条件に書き直せる。
定義 13.12(Killing ベクトル)
LKg=0 を満たすベクトル場 K を Killing ベクトルと呼ぶ。成分では (13.10) から次の Killing 方程式になる。
Kk∂kgij+gkj∂iKk+gik∂jKk=0.(13.13)
計量のどの成分にも座標 x1 が現れない場合を考える。K=∂1 とおくと、成分が定数なので (13.13) の第2・第3項が消える。第1項も、計量が x1 によらないので消える。つまり「計量が座標 x1 によらない」なら ∂1 は Killing ベクトルである。
逆に、Killing ベクトルが0でない点の近くでは、そのベクトルが ∂1 となる座標を作れる(§13.5 の定理 13.19)。その座標では計量が x1 によらない。
命題 13.13(共変微分による Killing 方程式)
Ki=gijKj とおき、∇ を Levi-Civita 接続(第9章 §9.2)とすると、次の式が成り立つ。
(LKg)ij=∇iKj+∇jKi.
したがって Killing 方程式は ∇iKj+∇jKi=0 と書ける。
証明
下付き3つの Christoffel 記号を次のように書く。
Γk,ij=21(∂igkj+∂jgki−∂kgij).
共変微分の定義から、次の式になる。
∇iKj=∂i(gjkKk)−ΓlijglkKk=gjk∂iKk+Kk∂igjk−Γk,ijKk.
添字を入れ替えた式と足す。Christoffel 記号は後ろの2つの添字について対称なので、その項は 2Γk,ijKk になる。
∇iKj+∇jKi=gjk∂iKk+gik∂jKk+Kk(∂igjk+∂jgik−2Γk,ij).
括弧の中は ∂kgij に等しいので、右辺は (13.10) と一致する。
Euclid 平面と球面の Killing ベクトル
例:Euclid 平面の Killing ベクトルはちょうど3つ
直交座標では計量の成分が定数なので、Killing 方程式は ∂iKj+∂jKi=0 になる。成分に分けると3本の式である。
∂xKx=0,∂yKy=0,∂xKy+∂yKx=0.
最初の2式から Kx=a(y)、Ky=b(x) と書ける。3式目は b′(x)+a′(y)=0 となる。
左の項は横の座標だけ、右の項は縦の座標だけの関数なので、両方とも定数である。その定数を ω とおくと、2つの関数は1次式になる。
b′=ω,a′=−ω,K=(c1−ωy)∂x+(c2+ωx)∂y=c1∂x+c2∂y+ωR.
Killing ベクトルは2つの並進と1つの回転の線形結合で、独立なものはちょうど3つである。
一般に n 次元の多様体の独立な Killing ベクトルは高々 n(n+1)/2 個で、Euclid 空間と球面はこの上限に達する。上限の証明には、Killing ベクトルが1点での値と1階微分で決まることを使う(Killing 方程式をもう1回微分し、第11章の Riemann テンソルで書き直すと示せるが、この巻では扱わない)。この章では主張だけを使う。
半径1の球面 g=dθ2+sin2θdφ2 では、(13.5) の3つの回転を制限したものが Killing ベクトルになる。極座標 (θ,φ) で書くと次の形である(例題 13.3 で Rx を導く)。
Rx=−sinφ∂θ−cotθcosφ∂φ,Ry=cosφ∂θ−cotθsinφ∂φ,Rz=∂φ.(13.14)
これらの括弧は (13.6) と同じ関係を満たす。球面の外の空間でも球面の上でも、回転を合成する規則は同じだからである。

図 13.2 球面の Killing ベクトル Rz=∂φ の流れ(青)。流れの線は緯線で、流れは球面を鉛直の軸まわりに回すので長さと角を変えない。赤い線は大円(測地線)の1つで、その上を進む自由粒子では g(Rz,x˙)=sin2θφ˙ が一定に保たれる(定理 13.14)。極では Rz=0 になり、流れは止まる。
測地線に沿って保存する量
定理 13.14(Killing ベクトルの保存量)
x(τ) を測地線とする(τ はアフィンパラメータ)。任意のベクトル場 K について次の式が成り立つ。
dτdg(K,x˙)=21(LKg)ijx˙ix˙j.(13.15)
とくに K が Killing ベクトルなら、次の量は測地線に沿って一定である。
g(K,x˙)=gijKix˙j.
証明
測地線の方程式(第10章 §10.1)を、下付きの Christoffel 記号で書いておく。
gijx¨j=−Γi,klx˙kx˙l.
左辺の量を積の微分で展開する。
dτd(gijKix˙j)=x˙k∂kgijKix˙j+gijx˙k∂kKix˙j+Kigijx¨j.
最後の項に測地線の方程式を代入する。速度の積は2つの添字について対称なので、Christoffel 記号の対称な部分だけが残る。
Kigijx¨j=−Ki(∂kgil−21∂igkl)x˙kx˙l.
これは展開の第1項を打ち消し、計量の微分の項を半分だけ残す。
dτdg(K,x˙)=(21Ki∂igkj+gij∂kKi)x˙kx˙j.
括弧の第2項を添字の組について対称化すると、次の形になる。
21(gij∂kKi+gki∂jKi).
これで括弧全体が 21(LKg)kj に等しくなり、(13.15) が出る。
この定理は、計量を保つ流れがあれば、それに対応する保存量が1つあると言っている。測地線の方程式は2階の微分方程式なので、保存量は「1回積分した式」を与え、解くべき方程式の階数を下げる。曲がった時空の自由落下も測地線なので、同じ定理から Schwarzschild 時空のエネルギーと角運動量の保存が出る(相対論入門 第9章、Schwarzschild 時空の軌道そのものは第12章)。
例(物理):回転面と Clairaut の関係
鉛直な軸のまわりの回転面を、高さ z と方位角 φ で表す。軸からの距離を ρ(z) とすると、計量は次の形である。
g=(1+ρ′(z)2)dz2+ρ(z)2dφ2.
成分が方位角によらないので、∂φ は Killing ベクトルである。定理 13.14 から、g(∂φ,x˙)=ρ2φ˙ が測地線に沿って一定になる。
弧長をパラメータにとり、測地線が緯線となす角を ψ とすると、ρφ˙=cosψ である。したがって ρcosψ が一定になる。これが第10章 §10.2 の Clairaut の関係で、ここでは「回転対称性に対応する保存量」として読める。自由粒子なら、この量に質量を掛けたものは角運動量の鉛直成分そのものである。
例題 13.3 球面の自由粒子と3つの角運動量 ★★★
オリジナル半径1の球面上を、力を受けずに運動する質量 m の粒子を考える。運動は測地線で、時刻をアフィンパラメータにとれる。
- (13.5) の Rx=y∂z−z∂y を球面の座標 (θ,φ) で書き、(13.14) を導け。さらに、それが Killing 方程式を満たすことを確かめよ。
- 次の3つの保存量が、角運動量 mr×r˙ の成分に等しいことを示せ。
ℓi=mg(Ri,x˙)(i=x,y,z).
3. 粒子が点 (1,0,0) を、速度 ω(0,cosα,sinα) で通るとする。角は 0<α<π/2 とする。このときの3つの保存量を求めよ。また、保存量だけを使って、粒子が達する最も高い点の高さを求めよ。
解答
(1) 球面の点は r=(sinθcosφ,sinθsinφ,cosθ) である。座標基底を空間のベクトルとして書くと次のとおりになる。
∂θr=(cosθcosφ,cosθsinφ,−sinθ),∂φr=(−sinθsinφ,sinθcosφ,0).
Rx は空間のベクトル (0,−z,y)=(0,−cosθ,sinθsinφ) である。
これを a∂θr+b∂φr と書き、成分を比べる。
第3成分:第1成分:第2成分:−asinθ=sinθsinφacosθcosφ−bsinθsinφ=0acosθsinφ+bsinθcosφ=−cosθ⟹a=−sinφ,⟹b=−cotθcosφ,(確かに合う).
次に Killing 方程式を確かめる。計量の成分は gθθ=1 と gφφ=sin2θ だけで、どちらも極角だけによる。成分 (Kθ,Kφ)=(−sinφ,−cotθcosφ) を (13.13) に入れる。
(LKg)θθ(LKg)θφ(LKg)φφ=2gθθ∂θKθ=0,=gθθ∂φKθ+gφφ∂θKφ=−cosφ+sin2θ⋅sin2θcosφ=0,=Kθ∂θgφφ+2gφφ∂φKφ=−2sinφsinθcosθ+2sin2θcotθsinφ=0.
3成分とも0なので、Rx は Killing ベクトルである。
(2) 球面の計量は空間の内積の制限なので、g(Ri,x˙) は空間のベクトルの内積 Ri⋅r˙ に等しい。Rx=(0,−z,y)=ex×r なので、スカラー三重積の性質を使う。
mRx⋅r˙=m(ex×r)⋅r˙=ex⋅(mr×r˙).
ほかの2つの回転も同じで、ℓi は角運動量の第 i 成分である。
(3) 角運動量を直接計算する。
mr×r˙=mω(1,0,0)×(0,cosα,sinα)=mω(0,−sinα,cosα).
よって3つの保存量は (ℓx,ℓy,ℓz)=mω(0,−sinα,cosα) である。3つとも一定なので、粒子は法線 (0,−sinα,cosα) の平面の中を動く。軌道はこの平面と球面の交わり(大円)になる。
最も高い点を保存量で求める。
そこでは極角の変化率が0なので、速度は緯線の向きだけを持つ。速さの2乗 g(x˙,x˙) も保存量なので、速さは一定値 ω をとる。したがって最高点では sinθ∣φ˙∣=ω である。ℓz=msin2θφ˙ と合わせると、次の式が出る。
sinθ=mωℓz=cosα,z=cosθ=sinα.
初速が赤道となす角が、そのまま最高点の緯度になる。
Killing ベクトルは Lie 括弧で閉じる
命題 13.15
K1,K2 が Killing ベクトルなら、[K1,K2] も Killing ベクトルである。
証明
任意のテンソルに作用する作用素として、次の恒等式が成り立つ。
L[X,Y]=LXLY−LYLX.(13.16)
関数では、これは Lie 括弧の定義そのものである。ベクトル場では、定理 13.8 により Jacobi 恒等式と同じ式になる。
[[X,Y],Z]=[X,[Y,Z]]−[Y,[X,Z]].
1形式では、命題 13.10 (i) で α(Z) に両辺を作用させれば、関数とベクトル場の場合に帰着する。(0,2) 型テンソルも同じ縮約の議論で帰着できる。(13.16) を計量に作用させると、右辺の2項がどちらも0になる。したがって L[K1,K2]g=0 である。
球面の3つの回転 (13.14) で言えば、2つの回転の括弧は3つ目の回転の −1 倍になり、Killing ベクトルの範囲から出ない。対称性の生成子は Lie 括弧で閉じた集まり(Lie 代数)を作る。
確認テスト
オリジナル
- 13.3-1 Euclid 平面で、拡大 D=x∂x+y∂y は Killing ベクトルか。LDδ を計算して答えよ。
- 13.3-2 上半平面 y>0 に次の計量を入れた双曲平面(Poincaré 上半平面)を考える。
g=y2dx2+dy2.
拡大 D=x∂x+y∂y が Killing ベクトルであることを示せ。また、次の測地線に沿って g(D,x˙) を計算し、一定であることを確かめよ(a>0)。
x=c+atanhτ,y=coshτa.
3. 13.3-3 2次元の Minkowski 時空 g=dt2−dx2 を考える(c=1)。ブースト B=x∂t+t∂x が Killing ベクトルであることを示せ。さらに等速直線運動 x=x0+vt を固有時でパラメータ表示し、g(B,x˙) が一定であることを確かめて、その値を求めよ。4. 13.3-4 球面の (13.14) について、[Rz,Rx] を極座標の成分で計算し、−Ry に等しいことを確かめよ。
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