物理のための微分幾何入門 第10章 §10.1 ★★★ 「曲がらない」と「最短」が同じ方程式になることを示し、径数の取り方の自由度を確かめる
平面の直線には2つの顔がある。1つは「進む向きを変えない線」で、もう1つは「2点を結ぶ最短の線」である。
曲面や一般の多様体の上では、この2つを計量と接続の言葉で言い直すことになる。言い直した結果がどちらも同じ方程式に行き着くことが、この章の出発点である。その方程式の解を測地線と呼ぶ。
この章では、第8章 §8.2 の Christoffel 記号と第9章 §9.3 の曲線に沿う共変微分を使う。第5章 §5.4 の「運動エネルギーの計量」も使う。
道具をそろえたあと、回転面の上の測地線を Clairaut の関係で解く。続いて、束縛された質点の自由運動が測地線そのものであることを示す。さらに、位置エネルギーのある運動も Jacobi 計量の測地線になること、光線が屈折率でつくる計量の測地線になることを示す。
ここで作る道具は、あとの章でも使う。第11章 §11.4 では、隣り合う測地線の開き具合(測地線偏差)から曲率を読み、潮汐力へつなぐ。第13章 §13.3 では、この章の Clairaut の関係を Killing ベクトルの保存量として一般化する。第15章 §15.1 では、測地線でつくる三角形の内角の和から Gauss–Bonnet の定理を組み立てる。
記号は次のとおりとする。多様体の座標を xi と書き、力学の場面では qi と書く。計量は gij で表し、Christoffel 記号は次の式で定める(第8章 §8.2)。
Γkij=21gkl(∂iglj+∂jgli−∂lgij)(10.1)
上付きと下付きの同じ添字は和をとる。曲線の径数による微分は ˙ で表し、径数を取り替えたときだけ ′ を使う。
平行移動からの定義
平面の上を一定の速度で進む点を考える。速度ベクトルは向きも大きさも変わらないので、加速度は0である。
曲面の上では、速度ベクトルを微分すると接平面からはみ出す成分が出る。第9章では、接平面に射影した微分を曲線に沿う共変微分として定めた。その成分の式は、曲線 xi(t) に沿うベクトル場 Vk(t) について次のとおりであった(第9章 §9.3)。
dtDVk=V˙k+Γkijx˙iVj(10.2)
「進む向きを変えない」を、速度ベクトルの共変微分が0になることと読み替える。
定義 10.1(測地線)
曲線 xi(t) を考える。速度ベクトル x˙i がその曲線に沿って平行移動されているとき、すなわち Dx˙k/dt=0 のとき、この曲線を測地線と呼ぶ。(10.2) に Vk=x˙k を入れると、成分の式は次のようになる。
x¨k+Γkijx˙ix˙j=0(k=1,…,n)(10.3)
これを測地線の方程式と呼ぶ。
平らな空間のデカルト座標では Christoffel 記号がすべて0なので、(10.3) は x¨k=0 になり、解は等速直線運動である。曲線座標をとると Christoffel 記号は0でなくなる。それでも解は同じ直線で、座標で見た式の形が変わるだけである(例題 10.1)。
測地線の方程式は2階の常微分方程式なので、出発点と初速度を決めれば解が1つに決まる。
命題 10.2(存在と一意性)
点 p と、そこでの接ベクトル v を1つ選ぶ。すると、ある正の数 ε があって、∣t∣<ε で定義された測地線のうち次の2条件を満たすものがただ1つある。
x(0)=p,x˙(0)=v
証明
速度を新しい未知関数 vk=x˙k とおくと、(10.3) は 2n 個の未知関数についての1階の連立方程式になる。
x˙k=vk,v˙k=−Γkij(x)vivj
右辺は (x,v) の滑らかな関数なので、局所的に Lipschitz 連続である。常微分方程式の Picard–Lindelöf の定理により、初期値 (p,v) を通る解が短い時間のあいだただ1つ存在する。
測地線の上では、速さが一定に保たれる。これは平行移動が内積を保つことの言い換えである。
命題 10.3(速さの保存)
測地線の上で、次の量は径数 t によらず一定である。
w:=gij(x)x˙ix˙j
証明
Levi-Civita 接続は計量と両立する(第9章 §9.2)。曲線に沿う2つのベクトル場 Y,Z について、次の Leibniz 則が成り立つ。
dtdg(Y,Z)=g(dtDY,Z)+g(Y,dtDZ)
Y=Z=x˙ とおくと、測地線では Dx˙/dt=0 なので右辺は0になる。したがって w=g(x˙,x˙) は一定である。
径数の取り方
測地線の方程式は、曲線の形だけでなく径数の進み方まで指定する。同じ曲線を別の径数で走ると、方程式がどう変わるかを確かめる。
命題 10.4(径数の取り替え)
x(t) を測地線とし、x˙=0 とする。滑らかで導関数が正の関数を使って、径数を t=ϕ(λ) と取り替える。取り替えた曲線を y(λ)=x(ϕ(λ)) とおく。すると次が成り立つ。
y′′k+Γkijy′iy′j=ϕ′ϕ′′y′k(10.4)
したがって y が測地線の方程式を満たすのは、ϕ(λ)=aλ+b の形の1次関数のときに限る。
証明
連鎖律から y′=ϕ′x˙ である。もう1回微分すると、次の式を得る。
y′′=ϕ′′x˙+ϕ′2x¨
これらを左辺に入れると、ϕ′2 の項は測地線の方程式によって消える。
y′′k+Γkijy′iy′j=ϕ′′x˙k+ϕ′2(x¨k+Γkijx˙ix˙j)=ϕ′′x˙k=ϕ′ϕ′′y′k
y′=0 なので、右辺が0になるのは ϕ′′=0 のときに限る。
測地線の方程式 (10.3) をそのまま満たす径数をアフィン径数と呼ぶ。命題 10.4 により、アフィン径数どうしは1次変換でつながる。命題 10.3 と合わせると、アフィン径数は弧長 s の定数倍に限られる。以下では、とくに断らない限り弧長 s を径数に使う。
長さとエネルギーの変分から
次に「最短」の側から同じ方程式を導く。2点を結ぶ曲線 x(t)(a≤t≤b)について、次の2つの汎関数を考える。
L[x]=∫abgijx˙ix˙jdt,E[x]=21∫abgijx˙ix˙jdt(10.5)
L は曲線の長さで、径数の取り替えで値が変わらない。E はエネルギー汎関数と呼ばれ、平方根が無い代わりに径数の進み方に依存する。
定理 10.5(エネルギーの停留と測地線)
端点を止めた変分について、E[x] が停留する曲線は測地線であり、逆も成り立つ。
証明
被積分関数 E=21gij(x)x˙ix˙j の Euler–Lagrange 方程式を書く。必要な偏微分は次の2つである。
∂x˙k∂E=gkjx˙j,∂xk∂E=21∂kgijx˙ix˙j
1つめを時刻で微分する。係数 gkj も曲線 x(t) を通して時刻に依存するので、次の2つの項が出る。
dtd(gkjx˙j)=gkjx¨j+∂igkjx˙ix˙j
第2項の x˙ix˙j は2つの添字について対称である。そこで係数を対称化し、21(∂igkj+∂jgki) に置き換えてよい。したがって Euler–Lagrange 方程式は次のようになる。
gkjx¨j+21(∂igkj+∂jgki−∂kgij)x˙ix˙j=0
両辺に glk を掛けて和をとると、括弧の部分は (10.1) の Γlij になる。こうして x¨l+Γlijx˙ix˙j=0 を得る。式変形はすべて同値変形なので、逆も成り立つ。
この証明は、Christoffel 記号の公式 (10.1) がどこから来たかの1つの答えにもなっている。Euler–Lagrange 方程式の一般論は虎の巻『解析力学から様々な理論分野を組み立てる』第1部第4章にある。
定理 10.6(長さの停留と測地線)
速度が0にならない曲線を考え、w=gijx˙ix˙j とおく。L[x] が端点を止めた変分で停留することは、次の式と同値である。
x¨k+Γkijx˙ix˙j=2ww˙x˙k(10.6)
とくに弧長を径数にとれば w=1 で右辺は0になり、測地線の方程式に戻る。L が停留する曲線は、測地線を径数で走り直したものに限られる。
証明
被積分関数 w の偏微分は、次のとおり定理 10.5 の場合を w で割ったものになる。
∂x˙k∂w=wgkjx˙j,∂xk∂w=2w∂kgijx˙ix˙j
1つめを時刻で微分すると、分母の w を微分した項が1つ増える。
dtdwgkjx˙j=w1(dtd(gkjx˙j)−2ww˙gkjx˙j)
残りは定理 10.5 の証明と同じ計算である。Euler–Lagrange 方程式を w 倍し、glk で添字を上げると (10.6) を得る。右辺は x˙ に比例するので、命題 10.4 と比べると、この曲線は測地線を径数 ϕ で走り直したものになる。
2つの汎関数の関係は、Cauchy–Schwarz の不等式で押さえられる。
命題 10.7(長さとエネルギーの不等式)
区間 [a,b] で定義された曲線について、次の不等式が成り立つ。
L[x]2≤2(b−a)E[x](10.7)
等号は速さ w が一定のときに限る。したがって、定義域を [a,b] に固定した曲線のうちでエネルギー汎関数を最小にするものは、速さが一定で、長さ L も最小にする。
証明
関数 1 と w に Cauchy–Schwarz の不等式を使う。
(∫ab1⋅wdt)2≤∫ab12dt∫abwdt=(b−a)⋅2E[x]
等号は w が定数のときに限る。次に、エネルギー汎関数を最小にする曲線を γ とし、比べる相手の任意の曲線を c とする。c を速さ一定に走り直した曲線を c~ とする。長さは変わらず、等号の場合から次の式が成り立つ。
E[c~]=2(b−a)L[c]2
これを使うと、次の不等式を得る。
L[γ]2≤2(b−a)E[γ]≤2(b−a)E[c~]=L[c]2
よって L[γ]≤L[c] となる。さらに γ では途中の不等号がすべて等号になり得るので、γ の速さは一定である。
なぜエネルギー汎関数を使うのか
- L は径数の取り替えで変わらないので、停留曲線は径数の分だけ決まらない。定理 10.6 の右辺はその自由度の表れである。
- E には平方根が無く、径数まで決めてくれる。停留曲線はアフィン径数で走る測地線になる。
- 力学では、E は自由粒子の作用そのものである。この見方は §10.3 で使う。
測地線は最短とは限らない
- 球面の上の2点は、大円の短い弧でも長い弧でも結べる。どちらも測地線だが、長い弧は最短ではない。
- 正反対の2点(対蹠点)を結ぶ大円は無数にあり、すべて同じ長さである。
- 正しく言えるのは「十分短い測地線は、近くの曲線の中で最短」という局所的な主張である。どこまで伸ばすと最短でなくなるかは、第11章 §11.4 の Jacobi 方程式で判定する。

図 10.1 極座標で見た直線。速度 x˙(濃い矢印)は一定だが、動径方向 er と角方向 eθ(灰色の矢印)への分け方は点ごとに変わる。成分 (r˙,θ˙) の時間変化を打ち消す項が Christoffel 記号の項である。
例題 10.1 極座標で見た直線 ★★
オリジナル平面の極座標 (r,θ) での線素は ds2=dr2+r2dθ2 である。
- Christoffel 記号を求め、測地線の方程式を書け。
- 2つめの方程式から保存量 h=r2θ˙ を導け。
- 直線 rcos(θ−θ0)=b を一定の速さ v で走る運動が、測地線の方程式を満たすことを確かめよ。
解答
- 計量の成分は grr=1、gθθ=r2 で、ほかは0である。0でない微分は ∂rgθθ=2r だけなので、(10.1) から次の2つが残る。
Γrθθ=−21grr∂rgθθ=−r,Γθrθ=Γθθr=21gθθ∂rgθθ=r1
ほかの成分は0である。測地線の方程式は次の2本になる。Γθrθ と Γθθr の2項が同じ寄与をするので、係数2がつく。
r¨−rθ˙2=0,θ¨+r2r˙θ˙=0
2. 2つめの式に r2 を掛けると、左辺は1つの微分にまとまる。
r2θ¨+2rr˙θ˙=dtd(r2θ˙)=0
よって h=r2θ˙ は一定である。これは単位質量あたりの角運動量にあたる。3. 回転して θ0=0 としてよい。直線 x=b の上を速さ v で上向きに走る運動を極座標で書くと、次のようになる。
r=b2+v2t2,θ=arctanbvt
θ˙=bv/r2 なので h=r2θ˙=bv で、2つめの式は満たされる。1つめの式を調べるため、r を2回微分する。
r˙=rv2t,r¨=rv2−r3v4t2=r3v2(r2−v2t2)=r3b2v2
一方で rθ˙2=h2/r3=b2v2/r3 なので、r¨−rθ˙2=0 も成り立つ。
直線を走る点の θ は等速では進まず、r も一様には増えない。それでも図 10.1 の運動は等速直線運動であり、座標の成分の変化を Christoffel 記号の項が打ち消している。
確認テスト
オリジナル
- 10.1-1 x(t) を測地線とする。次の3つの曲線のうち、測地線の方程式 (10.3) をそのまま満たすものはどれか。
x(2t+1),x(−t),x(t3)
満たさないものについては、(10.4) の右辺の係数を求めよ。2. 10.1-2 上半平面 y>0 に、次の計量を入れる(Poincaré の上半平面)。
ds2=y2dx2+dy2
- (a) 0でない Christoffel 記号を求めよ。
- (b) 縦の直線 x=x0, y=es が、弧長 s を径数とする測地線であることを示せ。y=1 から y=e までの長さも求めよ。
- (c) 半円 x=x0+Rtanhs, y=R/coshs が、弧長 s を径数とする測地線であることを示せ。
- 10.1-3 平面の線分を x=t2, y=0 (0≤t≤1) と走る曲線を考える。長さとエネルギー汎関数を求めて、不等式 (10.7) を確かめよ。同じ線分を x=t と走り直すと等号になることも確かめよ。
- 10.1-4 初速度 v の測地線を x(t) とする。また、c を0でない定数とする。y(t)=x(ct) が初速度 cv の測地線であることを示せ。さらに命題 10.2 の一意性を使い、初速度 cv の測地線がもとの測地線と同じ道を ∣c∣ 倍の速さで通ることを結論せよ。
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