物理のための微分幾何入門 第14章 §14.6 ★★★ 保存量は局所にはいつでもあるが、相空間全体で1価なものは一般には無い。自由度と同じ数だけそろえば、運動はトーラスの上の等速回転になる
保存量の見つけ方
保存量 F は {F,H}=0 を満たす関数である。この条件は未知関数についての1階の偏微分方程式で、それを解く方法は主に次の3つである。
- (1) 対称性から作る。Hamiltonian を保つ流れがあれば、命題 14.14 によりその生成子が保存量になる。座標 qk が Hamiltonian に現れない(循環座標)なら、共役な運動量が保存する。回転対称なら角運動量が保存する(第13章 §13.3〜§13.5)。
- (2) Hamilton–Jacobi 方程式 (14.22) を変数分離で解く。分離するたびに現れる分離定数は、それぞれ保存量である。中心力の問題を球座標で分離すると、エネルギーと ∣L∣2 と Lz の3つが出る。
- (3) 候補の関数を作り、括弧が0になることを直接確かめる。Kepler 問題の Runge–Lenz ベクトルは、配位空間の回転では説明できない保存量の例である。
このように探して見つからないとき、保存量がそもそも存在しないのかどうかが問題になる。その答えは、局所と大域で分かれる。
保存量は局所には自明に存在する
命題 14.28(局所的な保存量)
Hamiltonian が時刻を含まず、点 x0 で XH(x0)=0 とする。このとき、点の近傍で互いに独立な 2n−1 個の保存量が存在する。
証明
第13章 §13.5 の流れの箱の定理を使う。点の近傍に局所座標 (s,y1,…,y2n−1) があって、XH=∂s となる。各 yk は XHyk=0 を満たすので、流れに沿って一定である。これらは座標なので、互いに独立である。
この命題によると、平衡点を除けば、保存量は局所にはいつでも存在する。yk は、軌道が流れの箱のどこを通るかを表す番号にすぎない。軌道ごとに値を割り振れば、それは保存量になる。意味のある問いは、保存量が相空間全体(あるいは等エネルギー面全体)で1価かつ滑らかな関数として存在するかどうかである。
命題 14.29(稠密な軌道と保存量)
ある軌道が開集合 U の中で稠密なら、連続な保存量はどれも U の上で定数である。
証明
保存量 F は、軌道の上で一定の値 c をとる。保存量は連続なので、軌道の閉包の上でも値は c である。軌道は開集合の中で稠密なので、閉包は U を含む。
局所の保存量は、軌道が流れの箱を出て戻ってきたとき、前と違う値を割り振られることになる。戻ってくるたびに軌道がその近くを少しずつ埋めていくと、1価のまま延長することはできない。これが「保存量は局所には自明で、大域には一般に無い」の意味である。
Liouville–Arnold の定理
定義 14.30(可積分系)
自由度 n の系で、Hamiltonian を含む関数の組 F1=H,F2,…,Fn を考える。これらが {Fi,Fj}=0 を満たすとき、包合的であるという。包合的で、考える範囲で微分が1次独立であるとき、この系を(Liouville の意味で)可積分と呼ぶ。
定理 14.31(Liouville–Arnold)
可積分系の等位集合を、次のように置く。
Mc={x∣Fi(x)=ci, i=1,…,n}
- (i) Mc は n 次元の部分多様体である。各ベクトル場 XFi の流れで不変であり、Lagrange 部分多様体である。
- (ii) Mc がコンパクトかつ連結なら、それはトーラス Tn と微分同相である。
- (iii) (ii) のとき、近傍に正準座標 (Ii,φi) がある。ここで φi は周期 2π の角度である。正準2形式は ω=dIi∧dφi となる。Hamiltonian は作用変数だけの関数になり、運動は次のとおりである。
I˙i=0,φ˙i=νi(I)=∂Ii∂H(14.23)
作用変数は、トーラスの基本的な閉曲線 γi に沿った積分で与えられる。
Ii=2π1∮γiθ
(i) を証明し、(ii) と (iii) は証明の筋を示す。
(i) の証明
微分が独立なので、陰関数定理から Mc は 2n−n=n 次元の部分多様体である。XFiFj={Fj,Fi}=0 なので、各ベクトル場は等位集合に接し、その流れは等位集合を保つ。ω が非退化なので、対応 dF↦XF は線形同型である。したがって n 本のベクトル場は各点で独立で、等位集合の接空間を張る。
(14.12) から、ω(XFi,XFj)={Fj,Fi}=0 である。したがって等位集合は Lagrange である。
(ii) の筋を述べる。系 14.13 から [XFi,XFj]=−X{Fi,Fj}=0 で、n 本の流れは可換である。各 s∈Rn に対して、流れを順に合成した写像を Φs とする。これは加法群 Rn の作用になる。
この作用は連結な等位集合の上で推移的である。ある点を固定する s の集合は、離散部分群 Γ⊂Rn になる。等位集合がコンパクトなので、Γ は独立な n 本のベクトルが生成する格子である。したがって Mc≅Rn/Γ≅Tn となる。
(iii) の筋を述べる。等位集合は Lagrange なので、θ の引き戻しは閉形式である。Stokes の定理から、∮γθ は閉曲線を等位集合の中で連続に変形しても変わらない。したがって作用変数は、c だけの関数として定まる。
等位集合の上の積分 S(q,I)=∫qθ を、第2種の母関数に使う。すると φi=∂S/∂Ii が角度変数になる。閉曲線 γj を1周したときの角度の増分は、2πδij になる。完全な証明は、Arnold の古典力学の数学的方法の本に譲る。
不変なトーラスの上で、角度は (14.23) により一定の角速度で回る。自由度1の系では、コンパクトな等エネルギー線はそのまま1次元のトーラス(円)である。したがって自由度1の系は、Hamiltonian だけで可積分である。

図 14.5 自由度2の可積分系の不変トーラス T2(模式図)。作用変数は2本の基本的な閉曲線 γ1,γ2 に沿った θ の積分 Ii=2π1∮γiθ で、軌道(緑)は角度 φ1,φ2 が一定の角速度 ν1,ν2 で増えるようにトーラスに巻きつく。ν1/ν2 が有理数なら軌道は閉じ、無理数なら軌道はトーラスの上で稠密になる。
自由度1の作用変数と周期
自由度1の系で、エネルギー E の閉じた軌道が囲む面積を A(E) とする。
A(E)=∮pdq,I=2πA(E)
命題 14.32(周期と面積)
軌道の周期は T(E)=dA/dE である。角振動数は ν=2π/T=dE/dI である。
証明
軌道の上半分と下半分を p=p±(q,E) と書くと、A(E)=∫(p+−p−)dq である。恒等式 H(q,p±(q,E))=E をエネルギーで微分すると、次を得る。
∂E∂p±=∂H/∂p1=q˙1
転回点では上下の運動量が一致するので、積分の端の動きは寄与しない。したがって dA/dE=∮dq/q˙=∮dt=T である。
単振り子の Hamiltonian を H=p2/2ml2−mglcosq とする。エネルギーが mgl より小さい秤動の軌道は、相空間の閉曲線である。mgl より大きい回転の軌道は、円柱を1周する曲線である。境目の軌道がセパラトリクスである(図 14.6)。
秤動では閉曲線を閉じた軌道にとり、回転では円柱を1周する閉曲線にとる。セパラトリクスに近づくと面積の傾きが無限大になり、周期は対数的に発散する。

図 14.6 単振り子(m=l=g=1)の相空間。秤動の軌道(紺は E=−21、朱は E=0)は閉曲線で、朱の軌道が囲む面積が 2πI である。破線のセパラトリクス E=1 の外側の緑の曲線は回転の軌道(E=2)で、q=±π を貼り合わせると円柱を1周する。
例題 14.9 調和振動子の作用変数 ★★
オリジナル調和振動子 H=p2/2m+mω02q2/2 のエネルギー E の軌道について、作用変数を求めよ。角振動数 ν=dE/dI を計算し、例題 14.5 の新しい運動量との関係も答えよ。
解答
軌道は楕円で、2つの半軸は次のとおりである。
q 方向: mω022E,p 方向: 2mE
面積は次のとおりで、作用変数は I=A/2π=E/ω0 である。
A(E)=πmω022E2mE=ω02πE
E=ω0I から ν=dE/dI=ω0 で、振幅によらない。例題 14.5 の変換では新しい Hamiltonian が ω0P だったので、P=I である。そこでの新しい位置 Q が、角度変数である。
例題 14.10 振れ角 60 度の振り子の周期 ★★
オリジナル長さ 1.00m の単振り子を、振れ角 60∘ から放す。重力加速度は 9.80m/s2 とする。命題 14.32 を使って、周期を第1種完全楕円積分で表せ。
K(k)=∫0π/21−k2sin2udu
周期の数値を求め、微小振動の周期と比べよ。
解答
振れ角の最大値を q0 とすると、エネルギーは E=−mglcosq0 である。エネルギーの保存から、角速度は次のとおりである。
q˙=l2gcosq−cosq0
命題 14.32 の周期を、往復の4分の1を4倍して書く。
T=∮q˙dq=4∫0q0q˙dq
cosq=1−2sin2(q/2) を使い、k=sin(q0/2) と置く。さらに sin(q/2)=ksinu と置換する。このとき、次の2式が成り立つ。
cosq−cosq0=2k2cos2u,dq=1−k2sin2u2kcosudu
代入すると、周期は次のとおりである。
T=42gl∫0π/22kcosu1−k2sin2u2kcosudu=4glK(k)
振れ角 60∘ では k=sin30∘=0.5 である。数値積分で K(0.5)=1.6858 を得る。l/g=0.31944s なので、次を得る。
T=4×0.31944×1.6858s=2.154s
微小振動の周期は 2πl/g=2.007s で、60度の振れでは周期が約 7.3% 長い。K(0)=π/2 なので、振れ角を0に近づけると微小振動の周期に戻る。
大域的な保存量が無い場合と、Poincaré・KAM の入口
2次元の調和振動子を考える。
H=H1+H2,Hi=2mpi2+2mωi2qi2
H1 と H2 は包合的な保存量なので、この系は可積分である。作用角変数では H=ω1I1+ω2I2 で、不変トーラスの上で角度は φi=ωit+φ0i と回る。
局所には、3つ目の保存量として次の関数がある。
K=ω2φ1−ω1φ2
ところが1つ目の角度を1周させると、この関数の値は 2πω2 だけ変わる。したがってこの関数は、トーラスの上で1価でない。
振動数の比が無理数なら、各トーラスの上で軌道は稠密になる(確認テスト 14.6-4)。命題 14.29 から、連続な保存量は各トーラスの上で定数である。すなわち、それは I1,I2 だけの関数である。したがって、2つの作用変数から作れない独立な保存量は存在しない。
振動数の比が有理数 ω1/ω2=r/s なら、事情が変わる(r,s は互いに素な自然数)。角度の組み合わせ sφ1−rφ2 は時間によらず、1周しても 2π の整数倍しかずれない。したがって、次の関数は1価の保存量になる。
G=I1s/2I2r/2cos(sφ1−rφ2)
とくに等方的な振動子では、角運動量がこの形の保存量になる。
Lz=q1p2−q2p1=2I1I2sin(φ1−φ2)
保存量が大域的に存在するかどうかは、振動数の比が有理数か無理数かという数論的な性質で決まる。
可積分な系に小さな摂動を加えた系 H=H0(I)+ϵH1(I,φ) では、事情はさらに変わる。Poincaré は19世紀の終わりに、一般の摂動について次のことを示した。Hamiltonian 以外に、摂動の大きさについて解析的な保存量は存在しない。しかし保存量が相空間全体に無いことは、どの不変トーラスも残らないことを意味しない。
Kolmogorov・Arnold・Moser の定理(KAM 定理)は、次のことを主張する。摂動のない部分が非退化(det(∂2H0/∂Ii∂Ij)=0)で、摂動が十分小さいとする。このとき、振動数の比が十分に無理数的なトーラス(Diophantus 条件を満たすもの)は、少し変形して生き残る。生き残るトーラスの全体の測度は、摂動を0に近づけると1に近づく。
振動数の比が有理数に近いトーラスは壊れ、その跡に島の列とカオス的な軌道の層が現れる。証明は入門の範囲を超えるので、ここでは主張だけを述べる。
図 14.7 は、周期的にたたかれる回転子の Poincaré 写像(標準写像)である。
H=2p2+Kcosqn∑δ(t−n)
時刻 t=1,2,… ごとに点 (q,p) を打つと、次の写像になる。
pn+1=pn+Ksinqn,qn+1=qn+pn+1(mod2π)
この写像のヤコビ行列の行列式は1で、面積を保つ正準変換である。
K=0 なら運動量は保存し、各水平線が不変な円(1次元のトーラス)になる。K=0.97 では、左右に横切る曲線として残るトーラス、島の列、点がばらまかれた領域が共存する。ばらまかれた領域の軌道は2次元の領域を埋める。したがってそこでは、運動量に代わる連続な保存量は存在しない。

図 14.7 標準写像(K=0.97)の軌道。初期値を14個とり、各160回写像した点を色分けして打った(数値計算)。左右に横切る点の列は生き残った不変曲線、閉じた点の輪は共鳴の島、まばらに散った点はカオス的な軌道である。
確認テスト
オリジナル
- 14.6-1 2次元の調和振動子 H=H1+H2 で、{H1,H2}=0 を示せ。2つの微分が1次独立になるのはどんな点か答えよ。
- 14.6-2 区間 [0,a] の中を、壁で弾性的に跳ね返りながら動く質量 m の粒子を考える。作用変数をエネルギーで表し、逆にエネルギーを作用変数で表せ。角振動数 ν=dE/dI を求めよ。周期が、速さ v で往復する時間 2a/v に一致することを確かめよ。
- 14.6-3 質量1の2次元の振動子を考える。
H=21(p12+p22)+21(ω12q12+ω22q22)
角運動量 Lz=q1p2−q2p1 について {Lz,H} を計算せよ。Lz が保存量になるのは ω12=ω22 のときに限ることを示せ。4. 14.6-4 α を無理数とする。円周の回転の軌道 {nαmod1} が区間 [0,1) で稠密であることを示せ。これを使って、振動数の比が無理数のとき2次元トーラスの上の軌道が稠密であることを示せ。5. 14.6-5 単振り子 H=p2/2ml2−mglcosq の回転の軌道について、作用変数を次で定める。
I=2π1∫02πpdq
エネルギーが mgl より十分大きいとき I≈2ml2E となることを示せ。そのとき角振動数が平均の角速度に一致することを確かめよ。
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