物理のための微分幾何入門 第14章 §14.4 ★★★ 正準変換は ω を保つ写像で、局所には1つの関数(母関数)で書ける
定義と同値な言い換え
定義 14.19(正準変換)
相空間の開集合の間の微分同相写像 F が F∗ω=ω を満たすとき、これを正準変換(シンプレクティック写像)と呼ぶ。正準座標で (Q,P)=F(q,p) と書くと、条件は次のとおりである。
dPi∧dQi=dpi∧dqi(14.18)
新しい変数を (Q,P) と書く記法は、虎の巻と同じである。
命題 14.20(正準変換の判定)
古い変数を z=(q,p)、新しい変数を Z=(Q,P) とする。ヤコビ行列を M=∂Z/∂z と書く。次の3つは同値である。
- (a) F は正準変換である。
- (b) 各点で MTΩM=Ω が成り立つ。
- (c) 新しい変数の Poisson 括弧を古い変数で計算すると、次のとおりになる。
{Qi,Pj}=δij,{Qi,Qj}={Pi,Pj}=0
とくに n=1 では、これらは detM=1 と同値である。すなわち F が向きと面積を保つことと同値である。
証明
(a)⇔(b)。接ベクトル U は、写像で MU に押し出される。(14.7) から次を得る。
(F∗ω)(U,V)=ω(MU,MV)=UTMTΩMV
これがすべての接ベクトルの組で UTΩV に等しいことは、(b) と同値である。
(b)⇔(c)。Ω の逆行列を J と書く。
J=Ω−1=−Ω=(0−InIn0)
(14.11) は {f,g}=(∇zf)TJ∇zg と書ける。したがって、新しい変数どうしの括弧を並べた行列は MJMT である。
(c) は MJMT=J のことである。両辺の逆行列をとると M−TΩM−1=Ω となり、これは (b) と同値である。
n=1 では、2次の行列について MTΩM=(detM)Ω が成り立つ(成分を書けば確かめられる)。したがって (b) は detM=1 と同値である。
正準変換の合成と逆写像は、正準変換である(確認テスト 14.4-4)。定理 14.15 から、Hamilton の流れは各時刻で正準変換である。時間発展は、正準変換の1パラメータの族である。
正準変換で変数を取り替えても、運動方程式は Hamilton の形のままである。
命題 14.21(正準変換と Hamilton 方程式)
F を正準変換とし、Hamiltonian を新しい変数で書いたものを K=H∘F−1 と置く。このとき F∗XH=XK である。すなわち、新しい変数も Hamilton 方程式に従う。
Q˙i=∂Pi∂K,P˙i=−∂Qi∂K
証明
Y=F∗XH と置く。任意の接ベクトル V について、F∗ω=ω から次が成り立つ。
(ιYω)(F∗V)=ω(F∗XH,F∗V)=ω(XH,V)=−dH(V)
H=K∘F なので、右辺は −dK(F∗V) に等しい。F∗V は任意の接ベクトルを動くので、ιYω=−dK となる。定義から Y=XK である。
母関数
F を正準変換とすると、1形式 F∗θ−θ は閉である。
d(F∗θ−θ)=F∗ω−ω=0
正準座標では、新しい変数を古い変数の関数と見て F∗θ=PidQi である。したがって pidqi−PidQi が閉形式である。
Poincaré の補題から、可縮な領域ではこれは完全形式で、ある関数の外微分に等しい。その関数を独立に選べる変数で書いたものが母関数である。
定理 14.22(第1種の母関数)
正準変換 F で、ある領域で (q,Q) が座標として使えるとする。すなわち det(∂Q/∂p)=0 とする。このとき、可縮な領域で関数 F1(q,Q) が存在して、次が成り立つ。
pi=∂qi∂F1,Pi=−∂Qi∂F1(14.19)
逆に、関数 F1(q,Q) が det(∂2F1/∂qi∂Qj)=0 を満たすなら、(14.19) は局所的に正準変換を定める。
証明
上で見たとおり、pidqi−PidQi は閉形式である。可縮な領域では、これを dF1 と書ける。(q,Q) を座標にして外微分を展開すると、次のとおりである。
dF1=∂qi∂F1dqi+∂Qi∂F1dQi
係数を比べると (14.19) を得る。
逆向きを示す。仮定の行列式の条件と陰関数定理(第1章 §1.4)から、pi=∂F1/∂qi を局所的に Q について解くことができる。得た Q(q,p) を Pi=−∂F1/∂Qi に入れると、新しい運動量が決まる。
こうして定めた写像では、pidqi−PidQi=dF1 が成り立つ。外微分をとると次のようになり、(14.18) が成り立つ。
dpi∧dqi−dPi∧dQi=d2F1=0
(q,Q) が座標にならない変換もある。恒等写像 Q=q がその例である。このときは F2(q,P)=F1+PiQi に置き換える。dF2=pidqi+QidPi なので、次の関係が成り立つ。
pi=∂qi∂F2,Qi=∂Pi∂F2(14.20)
恒等写像は F2=qiPi で生成される。配位空間の座標の取り替え Q=Q(q) は、F2=Qi(q)Pi で生成される。このとき (14.20) から pj=Pi∂Qi/∂qj となり、これは (14.2) そのものである。§14.1 の正準座標の誘導は、正準変換の特別な場合である。
Hamiltonian や変換そのものが時刻を含むときは、新しい Hamiltonian が K=H+∂F/∂t に変わる。これは、時刻を座標に加えた拡大相空間で考えると出る。2つの1形式 pidqi−Hdt と PidQi−Kdt の差が、ある関数の外微分になればよい。母関数の4つの型と時刻を含む場合の計算は、虎の巻『解析力学から様々な理論分野を組み立てる』第1部第12章にある。
例題 14.5 調和振動子を回転に直す正準変換 ★★★
オリジナルH=p2/2m+mω02q2/2 とし、次の変換を考える(P>0)。
q=mω02PsinQ,p=2mω0PcosQ
- (1) dp∧dq=dP∧dQ を示せ。
- (2) 新しい Hamiltonian を求め、新しい変数の時間発展を解け。
- (3) この変換の第1種の母関数が F1(q,Q)=21mω0q2cotQ であることを確かめよ。
解答
(1) q と p の外微分は次のとおりである。
dq=2mω0PsinQdP+mω02PcosQdQ,dp=2Pmω0cosQdP−2mω0PsinQdQ
ウェッジ積では、dP∧dQ に比例する項だけが残る。
dp∧dq=(2Pmω0mω02Pcos2Q+2mω0P2mω0P1sin2Q)dP∧dQ=dP∧dQ
(2) 代入すると、2つの項は次のとおりである。
2mp2=ω0Pcos2Q,2mω02q2=ω0Psin2Q
和をとって K=ω0P を得る。変換は時刻を含まないので、命題 14.21 から次のとおりである。
Q˙=∂P∂K=ω0,P˙=−∂Q∂K=0
したがって Q=ω0t+Q0 で、P=E/ω0 は一定である。相空間の楕円の運動が、角度の等速回転になる。
(3) 変換の2式の比から p/q=mω0cotQ である。与えられた母関数を q で偏微分すると、∂F1/∂q=mω0qcotQ=p を得る。Q で偏微分すると、次のとおりである。
−∂Q∂F1=2sin2Qmω0q2
変換の1つ目の式から q2/sin2Q=2P/(mω0) なので、これは P に等しい。
例題 14.6 どれが正準変換か ★★
オリジナルn=1 の次の写像が正準変換かどうかを判定せよ。正準変換なら、母関数を1つ求めよ。
- (1) (Q,P)=(p,−q)。
- (2) (Q,P)=(λq,p/λ)。ここで λ=0 は定数である。
- (3) (Q,P)=(q,2p)。
解答
(1) dP∧dQ=−dq∧dp=dp∧dq なので、正準変換である。新しい位置 Q=p は古い位置と独立に動くので、組 (q,Q) が座標になる。F1=qQ とすると、(14.19) の2式は次のとおりに成り立つ。
∂q∂F1=Q=p,−∂Q∂F1=−q=P
位置と運動量を入れ替える写像も正準変換である。正準変換のもとでは、位置と運動量の区別は保たれない。
(2) dP∧dQ=(dp/λ)∧(λdq)=dp∧dq なので、正準変換である。Q は q だけで決まるので、第1種は使えない。第2種 F2=λqP を使うと、(14.20) の2式は次のとおりに成り立つ。
∂q∂F2=λP=p,∂P∂F2=λq=Q
(3) dP∧dQ=2dp∧dq で、正準変換でない。ヤコビ行列の行列式は2で、この写像は面積を2倍にする。
確認テスト
オリジナル
- 14.4-1 q>0 で (Q,P)=(q2,p/(2q)) が正準変換であることを示せ。
- 14.4-2 平行移動 Q=q+a、P=p+b を生成する第2種の母関数を求めよ。ここで a,b は定数である。
- 14.4-3 定数 m,τ>0 について F1(q,Q)=m(q−Q)2/(2τ) が生成する変換を求めよ。それが、自由粒子の時間 τ の運動を逆向きにたどる写像であることを示せ。
- 14.4-4 正準変換の合成と逆写像が正準変換であることを示せ。
- 14.4-5 円柱 T∗S1 の写像 F(q,p)=(q,p+1) が正準変換であることを示せ。さらに F∗θ−θ を求め、それが円柱全体の上の関数の外微分としては書けないことを示せ。
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