物理のための微分幾何入門 第14章 §14.3 ★★★ Hamilton の流れは ω を保ち、したがって相空間の体積を保つ
流れは正準2形式を保つ
定理 14.15(正準2形式の保存)
Hamilton ベクトル場の流れ Φt について、次が成り立つ。
LXHω=0,Φt∗ω=ω
証明
Cartan の公式 (14.1) に、dω=0 と (14.8) を入れる。
LXHω=ιXHdω+dιXHω=0+d(−dH)=−d2H=0
(14.1) の2つ目の式から、引き戻しの時間微分は次のとおりである。
dtdΦt∗ω=Φt∗LXHω=0
時刻0では Φ0∗ω=ω なので、どの時刻でも Φt∗ω=ω である。
証明に使ったのは、ω が閉であることと、ιXHω が完全形式であることの2つだけである。逆向きの命題も成り立つ。
命題 14.16(局所 Hamilton ベクトル場)
ベクトル場 X が LXω=0 を満たすとする。このとき、各点の可縮な近傍で ιXω=−dH となる関数が存在する。
証明
Cartan の公式から LXω=dιXω なので、1形式 ιXω は閉である。Poincaré の補題により、可縮な近傍ではある関数 H で ιXω=−dH と書ける。
この関数は相空間全体で1価とは限らない。単振り子の相空間の円柱で X=∂p をとると、ιXω=dq である。したがって局所には H=−q と書けるが、q は円の角度なので、円柱全体では1価の関数にならない。局所と大域の食い違いは、§14.4 の正準変換と §14.6 の保存量でもう一度現れる。
相空間の体積
補題 14.17(正準2形式の冪)
正準2形式のウェッジ積を n 回とったものは、次の形の 2n 形式である。
ωn=n!dp1∧dq1∧dp2∧dq2∧⋯∧dpn∧dqn(14.15)
とくに ωn はどこでも0にならない。
証明
σi=dpi∧dqi と置く。2形式どうしは可換なので、ωn=(σ1+⋯+σn)n は多項式のように展開できる。同じ σi を2回含む項は、dqi∧dqi=0 を含むので消える。
残るのは、σ1,…,σn を1回ずつ含む項である。その数は n! 個で、可換性からどれも σ1∧⋯∧σn に等しい。
定理 14.18(Liouville)
相空間の体積要素を、正準座標で dnqdnp とする。Hamilton の流れ Φt は体積を保つ。すなわち相空間の有界な領域 D について
∫Φt(D)dnqdnp=∫Ddnqdnp(14.16)
が成り立つ。
証明
定理 14.15 と、引き戻しがウェッジ積と可換であることから
Φt∗(ωn)=(Φt∗ω)n=ωn
である。Φt は恒等写像から連続につながっているので、向きを保つ。積分の変数変換(第12章 §12.3)から次を得る。
∫Φt(D)n!ωn=∫DΦt∗n!ωn=∫Dn!ωn
補題 14.17 から、ωn/n! の積分は符号を除いて dnqdnp の積分に等しい。
座標で書くと、Liouville の定理は XH の発散が0であることに当たる。
divXH=i∑(∂qi∂∂pi∂H+∂pi∂(−∂qi∂H))=0
2階偏微分の順序を入れ替えると打ち消し合うので、この計算に Hamiltonian の具体形は要らない。
図 14.3 は、単振り子の相空間で初期値を円板に並べて流したものである。円板は時間とともに大きく引き伸ばされて曲がるが、面積は変わらない。振れの大きい軌道ほど周期が長いので、外側の点が内側の点より遅れ、領域は渦状に巻き込まれていく。

図 14.3 単振り子 H=p2/2−cosq の相空間で、中心 (0,1.3)・半径 0.4 の円板の初期値を流した様子(数値積分)。灰色の破線はセパラトリクス p=±2cos(q/2) である。t=0,2,4 の3つの領域の面積は、どれも π×0.42≈0.503 に等しい。
分布関数の時間発展と物理の例
相空間に多数の系を、初期値を変えて並べる。その密度を ρ(q,p,t) とする。各系は流れに乗って動き、系の数は増えも減りもしない。Liouville の定理から体積も保たれるので、流れに乗って見た密度は一定である。
0=dtdρ=∂t∂ρ+{ρ,H}
したがって密度は、次の Liouville 方程式に従う。
∂t∂ρ={H,ρ}(14.17)
統計力学の平衡分布は、この方程式の時間によらない解である。
1変数関数 f について {H,f(H)}=f′(H){H,H}=0 である。したがって、密度が ρ=f(H) の形なら右辺は0になる。小正準分布(等エネルギー面に一様な分布)と正準分布 ρ∝e−βH は、どちらもこの形である。等エネルギー面の上で「一様」という言い方が座標によらない意味を持つのは、流れが保つ体積があるからである。
摩擦のある系は Hamilton 系でない。この違いは体積の振る舞いに出る。
例題 14.4 自由落下と減衰振動の相空間の面積 ★★
オリジナル
- (1) 一様な重力のもとの鉛直運動 H=p2/2m+mgq を考える。時刻0に正方形 [0,a]×[0,b] にある初期値の集まりは、時刻 t にどんな形になるか。その面積も求めよ。
- (2) 減衰振動の方程式を次のように置く(γ>0)。右辺のベクトル場の発散を求め、相空間の領域の面積が e−γt 倍になることを示せ。
q˙=mp,p˙=−mω02q−γp
3. (3) (2) の系が Hamilton 系でないことを説明せよ。
解答
(1) Hamilton 方程式 q˙=p/m、p˙=−mg を解く。
q(t)=q0+mp0t−21gt2,p(t)=p0−mgt
初期値への依存は1次式で、行列は次のとおりである。
∂(q0,p0)∂(q,p)=(10t/m1)
正方形は、全体が (−gt2/2,−mgt) だけ平行移動する。そのうえで、運動量の大きい点ほど q の正の向きへずれる平行四辺形になる。行列式が1なので、面積は ab のまま変わらない。
(2) 発散は次のとおりである。
divX=∂q∂mp+∂p∂(−mω02q−γp)=−γ
領域 D(t) の面積を A(t) とする。その変化率は、境界で流れが外へ押し出す割合、すなわち発散の積分に等しい(Gauss の定理、第12章 §12.4)。
dtdA=∫D(t)divXdqdp=−γA
これを解いて A(t)=A(0)e−γt を得る。
(3) Hamilton ベクトル場の発散は必ず0である。(2) の発散は −γ=0 なので、どんな関数を選んでもこの系を Hamilton ベクトル場として書くことはできない。相空間の点はすべて原点へ吸い込まれ、面積は0へ向かう。
確認テスト
オリジナル
- 14.3-1 自由度1の H=p2/2m+V(q) について、divXH=0 を直接確かめよ。
- 14.3-2 H=qp の流れを求めよ。時刻0に正方形 [1,2]×[1,2] にある領域が時刻 t に移る先を求め、その面積が1であることを確かめよ。
- 14.3-3 n=2 の等方的な調和振動子を考える。
H=i=1∑2(2mpi2+2mω02qi2)
エネルギーが E と E+ΔE の間にある殻の体積を、幅の1次まで求めよ。半径 R の4次元の球の体積は π2R4/2 である。4. 14.3-4 Hamilton 系には漸近安定な平衡点(近くのすべての初期値がそこへ近づく点)が無いことを、Liouville の定理を使って示せ。5. 14.3-5 正準分布 ρ=e−βH/Z が Liouville 方程式 (14.17) の時間によらない解であることを、(14.11) から直接確かめよ。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com