電磁気学入門 第2章 §2.1 ★★★ 点電荷どうしの力の法則と、それを足し合わせて任意の電荷分布の電場を積分で書く式
この章では、時間によらない電荷の分布が作る電場(静電場)を扱う。出発点は2つの点電荷のあいだに働く力を与える Coulomb の法則と、力が電荷ごとに足し合わされるという重ね合わせの原理の2つだけである。そこから、電場の発散を電荷密度に結びつける Gauss の法則、電場の回転がゼロであることと電位の存在、電位が満たす Poisson 方程式とその解の一意性、そして電荷を集めるのに要した仕事を電場のエネルギーとして読み直す式を、順に導く。
道具としては、第1章で用意したベクトル解析を使う。具体的には、§1.2 の Gauss の発散定理と Stokes の定理、§1.3 のデルタ関数の公式
∇2∣r−r′∣1=−4πδ3(r−r′),(2.1)
そして §1.4 の球座標・円柱座標での発散とラプラシアンである。
この章で得る結果は、巻の残りのほとんどで使う。第3章(導体と境界値問題)は、この章の §2.3 で示す境界条件と一意性定理を用いて、鏡像法や変数分離で Poisson 方程式を解く。第4章(誘電体)は Gauss の法則を分極電荷を含む形に書き直し、第5章は静磁場について同じ形の議論を繰り返す。
第8章では、§2.4 の場のエネルギー密度 ε0E2/2 が、時間変化する場のエネルギー保存則の一部として現れる。単位は全編を通して SI で、真空の誘電率 ε0 を式に残す。
Coulomb の法則
真空中の2つの点電荷のあいだに働く力について、C.-A. de Coulomb はねじれ秤の実験で次の法則を見いだした(1785年)。源となる電荷 q′ が位置 r′ にあるとする。この電荷が、位置 r にある電荷 q に及ぼす力は
F=4πε01∣r−r′∣2qq′∣r−r′∣r−r′=4πε0qq′∣r−r′∣3r−r′(2.2)
である。この式は3つの事実を含んでいる。
- 向き:力は2つの電荷を結ぶ直線に沿う。同符号なら q′ から遠ざかる向き(斥力)、異符号なら近づく向き(引力)になる。
- 距離依存:大きさは距離の2乗に反比例する。
- 比例:大きさは2つの電荷の積に比例する。
比例係数の ε0 を真空の誘電率と呼び、その値は
ε0=8.8541878…×10−12 F/m,4πε01=8.98755…×109 Nm2/C2
である。SI では電荷の単位クーロン(C)を電流の単位アンペアから定めるので、ε0 は実験で決まる定数として式に残る。
式 (2.2) で2つの電荷の位置を入れ替えると、ベクトル r−r′ の符号だけが反転する。したがって逆向きの力は −F で、Coulomb 力は作用・反作用の法則を満たす。
電場
式 (2.2) は、力を受ける電荷 q に比例している。そこで q で割った量
E(r)=4πε0q′∣r−r′∣3r−r′(2.3)
を、電荷 q′ が位置 r に作る電場と定義する。電場を使うと、位置 r に置いた電荷 q が受ける力は
F=qE(r)
と書ける。電場の単位は N/C で、これは V/m と同じである(§2.3 で電位を定義すると分かる)。
電場を定義する意味は、力を「源の電荷」と「受ける電荷」の2つの因子に分けられることにある。静電場の範囲では、電場は力を計算するための中間の量にすぎないように見える。しかし第8章で時間変化を許すと、電場はエネルギーと運動量を運ぶ独立した物理量として扱う必要が出てくる。この章の §2.4 で、その最初の手がかりとして静電エネルギーを電場の言葉で書き直す。
重ね合わせの原理
電荷が複数あるとき、ある電荷が受ける力は、ほかの電荷が1つずつ単独で及ぼす力のベクトル和になる。これを重ね合わせの原理と呼ぶ。Coulomb の法則と同じく実験事実であり、論理的に導くことはできない。真空中の古典電磁気学の範囲では、精密な実験で破れは見つかっていない。
電場の言葉でいうと、点電荷 q1,…,qN が位置 r1,…,rN にあるときの電場は
E(r)=4πε01i=1∑Nqi∣r−ri∣3r−ri(2.4)
である。電荷が連続的に分布しているときは、体積要素 d3r′ の中の電荷 ρ(r′)d3r′ を1つの点電荷とみなして和を積分に置き換える。
E(r)=4πε01∫ρ(r′)∣r−r′∣3r−r′d3r′(2.5)
ここで ρ は電荷密度(単位 C/m3)である。電荷が面に集中しているときは面電荷密度 σ(単位 C/m2)を使う。線に集中しているときは線電荷密度 λ(単位 C/m)を使う。積分の中では次の置き換えを行う。
ρd3r′→σdS′(面),ρd3r′→λdl′(線)
点電荷の集まりも、第1章 §1.3 のデルタ関数を使えば
ρ(r′)=i∑qiδ3(r′−ri)
と書けて、(2.5) に代入すると (2.4) に戻る。したがって (2.5) 1本ですべての場合を扱える。図 2.1 に、源の点と電場を測る点の位置関係を示す。

図 2.1 電荷分布 ρ(r′)(灰色)の中の体積要素が、点 r に作る電場 dE。向きは r−r′ に沿う。
積分変数と観測点を混同しない
- 式 (2.5) で積分するのはプライムのついた源の座標 r′ で、観測点 r は定数として扱う。
- 対称性を使って積分を簡単にするときも、どちらの座標についての対称性かを確かめる。
- 観測点が電荷分布の中にあると被積分関数は ∣r−r′∣−2 で発散する。それでも3次元の積分は収束する(体積要素が ∣r−r′∣2 に比例して小さくなるため)。
例題 2.1 一様に帯電したリングの軸上の電場 ★★
オリジナル半径 a の円形のリングが xy 平面上に原点を中心として置かれている。リングには全電荷 Q が一様に分布している。z 軸上の点 (0,0,z) での電場を求めよ。
また、∣z∣≫a で点電荷の電場に近づくことを確かめ、電場の大きさが最大になる z を求めよ。
解答
リング上の点を r′=(acosθ′,asinθ′,0) と置く。線電荷密度は λ=Q/(2πa)、線要素は dl′=adθ′ である。観測点は r=(0,0,z) なので
r−r′=(−acosθ′,−asinθ′,z),∣r−r′∣=a2+z2
となり、距離は θ′ によらない。(2.5) で ρd3r′→λadθ′ と置き換えると
E=4πε0(a2+z2)3/2λa∫02π(−acosθ′,−asinθ′,z)dθ′.
x,y 成分の積分は ∫02πcosθ′dθ′=∫02πsinθ′dθ′=0 で消える。z 成分は 2πz になる。λ⋅2πa=Q を使って
E(0,0,z)=4πε0Q(a2+z2)3/2zz^.
∣z∣≫a では (a2+z2)3/2≈∣z∣3 なので
Ez≈4πε0z2Qsgn(z)
となる。これは原点に置いた点電荷 Q の電場である。
最大の位置を求める。z>0 で f(z)=z(a2+z2)−3/2 を微分すると
f′(z)=(a2+z2)−5/2[(a2+z2)−3z2]=(a2+z2)5/2a2−2z2
である。f′=0 から z=a/2 を得る。このとき電場の大きさは
Emax=4πε0Q(3a2/2)3/2a/2=4πε0a2Q⋅332.
原点(z=0)では各点からの寄与が打ち消し合って電場はゼロになり、遠方では 1/z2 で減る。そのため途中に最大がある。
例題 2.2 陽子どうしの Coulomb 力と重力の比 ★
オリジナル2つの陽子のあいだに働く Coulomb 力と万有引力の大きさの比を数値で求めよ。数値は次の値を使う。
e=1.602×10−19 C,mp=1.673×10−27 kg,G=6.674×10−11 Nm2/kg2
解答
どちらの力も距離の2乗に反比例するので、比は距離によらない。
FGFC=Gmp2/r2e2/(4πε0r2)=4πε0Gmp2e2.
数値を入れる。分子は
4πε0e2=8.988×109×(1.602×10−19)2=2.307×10−28 Nm2
であり、分母は
Gmp2=6.674×10−11×(1.673×10−27)2=1.868×10−64 Nm2
である。したがって比は約 1.24×1036 になる。原子や分子の構造を決めるのは電気的な力で、重力は無視できる。天体の規模では、物質が全体として電気的に中性で Coulomb 力が打ち消し合うので、重力が支配的になる。
確認テスト
オリジナル
- 2.1-1 式 (2.2) の r と r′ を入れ替えると力がどう変わるかを書き、Coulomb 力が作用・反作用の法則を満たすことを1行で示せ。
- 2.1-2 点 (±a,0,0) に電荷 q を1つずつ置く。y 軸上の点 (0,y,0) での電場を求めよ。また、電場の大きさが最大になる ∣y∣ を求めよ。
- 2.1-3 z 軸に沿って無限に長い直線上に、線電荷密度 λ の電荷が一様に分布している。軸からの距離 s の点の電場を、式 (2.5) の積分を直接計算して求めよ。
- 2.1-4 点 (0,0,d/2) に電荷 q を置く。z 軸上の点 z=−d/2 には逆符号の電荷を置く。z 軸上で z>d/2 の点の電場を求めよ。さらに、双極子モーメントを p=qd と置き、z≫d で次の式が成り立つことを示せ。
Ez≈4πε0z32p
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com